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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
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アスクレーピオスの弟子

 テセウス王との顔合わせを終えた後、私達は次の顔合わせ場所へと向かう。次に顔を合わせるのは、私が医療を伝える医者達である。


 私達はエリクトニオスさんの案内で、街の一角にある白壁の一軒家に踏み込む。そこには二人の人物が待ち構えていた。


「初めまして、ケンジ殿! 俺の名はマカーオーン! 貴方に会えるのを楽しみにしていました!」


「初めまして、ケンジ様。私は妹のパナケイア。兄と同じく、この瞬間を心待ちにしておりました」


 一人は三十過ぎの男性で、金髪碧眼の男らしい顔立ちの人物。彼は私の手を力強く握り、ぶんぶんと激しく振っている。


 そして、もう一人は二十歳程の女性。おっとりとした雰囲気であり、ニコニコと私達の様子を見つめている。


 二人は兄妹にしては雰囲気が真逆に感じる。けれど、二人とも揃って真っ白なローブを身に付けていた。


「ど、どうも、ケンジです。一ヶ月程ですが、どうぞ宜しくお願いします」


「娘のイノです。父同様、宜しくお願いします」


 二人の熱烈な歓迎ぶりに、私はやや気圧される。ただ、何故だかイノは、そんな私を嬉しそうに見つめていた。


 中々手を離して貰えず私が困惑していると、エリクトニオスさんが苦笑を浮かべて私に補足してくれる。


「お二人はこの地で医療を統括する立場におります。マカーオーン殿は重傷者の手術を。パナケイア殿は薬品作りを主に担当しておりますね」


「医療を統括する立場? 随分とお若い様に見えますが……?」


 私も若返ったお陰で、今ではマカーオーンさんと同い年程。けれど、三十歳そこそこの若造では、年配者が大人しく言う事を聞くとは思えない。


 ましてや、パナケイアさんは二十歳程の女性である。そのおっとりとした雰囲気からも、血気盛んな男性には侮られそうに見えるのだが……。


「確かに若いのですが、お二人はアスクレーピオス様の弟子――というか、お子様なのです。医神の子を侮る者は、この地にはおりませんよ」


「――えっ……! アスクレーピオス様のお子さん……?!」


 私は驚いて二人を改めて見つめる。しかし、マカーオーンさんは頬をかき、パナケイアさんは恥ずかしそうに俯いている。


 どこか気まずそうな二人の態度に、どういう事かと私は首を傾げる。すると、二人はこう説明を始めた。


「えっと……。お恥ずかしい話ですが、俺達は八人兄弟であり、その全てが父の弟子なのです。けれど、その父の教えを正しく受け告げた者は誰もいないのです……」


「兄のマカーオーンは外科の技術を。私は薬品作りの技術を引き継ぎました。けれど、その根底の基礎が足りていないのでしょう。私達はあくまでも技術を模倣しているに過ぎません……」


 二人の説明に私は驚く。一番の驚きは八人兄弟と言う多さだが、それは口に出すべき事では無いだろうね……。


 そして、私は一旦それを脇にどけ、本題について考える。基礎も理解せずに、外科の手術や、薬作りなんて出来るのかと疑問に思う。


 そんな私の疑問を察したのだろう。二人は苦笑を浮かべて説明を続けた。


「父の口癖は『何故、こんな簡単な事がわからない?』でした。父は天才であるが故に、凡人の思考が理解出来ないのです。それで俺達八兄弟以外は全て、弟子として脱落して行きました」


「私達は幼少期より、父の仕事を目にしておりました。それ故に、理屈はわからなくとも、父がどうしていたかだけは、今でもハッキリ覚えています。それ故に、模倣だけは出来るのです」


「……なるほど」


 所謂、天才故の弊害と言う奴か。アスクレーピオスは人に教えるのが下手だったのだ。それはお子さん達も苦労しただろうね……。


 私が内心で同情していると、すっとイノが前に出る。そして、キラキラした目で二人に語り出した。


「父は私に基礎を教えてくれました。私の疑問に全て答えてくれ、わからない事は一緒に考えてくれました。だから私は誰よりも基礎があり、その基礎を土台に自分で考える力があります。私の父は、人に物事を教える天才なんです」


「ちょ……! ちょっと、イノ……?!」


 私が天才だなんて、持ち上げるにも程がある……。そんなハードルを上げられては、この先にどれだけ期待されるかわかった物ではない。というか、そのプレッシャーで思わず震えを感じてしまう……。


 しかし、そんなイノの父自慢に対し、お二人は満面の笑みで頷く。そして、あろうことかイノの自慢に同調し始めた。


「ああ、そうだな! あの医学書を見ればわかる! ケンジ殿は父と違うベクトルの天才だ! 今からそんな偉人に教われるんだ! 俺達は本当に幸運だと思うよ!」


「ええ、本当に羨ましいですわ。父にもその才能がほんの僅かでもあれば、私達は苦労せずに済みましたのに。イノちゃんのお父様は、本当に最高のお父様なのね?」


「や、止めてくれるかな! 私は天才では無いからね? 医神と呼ばれる偉人と、肩を並べられる存在じゃ無いからね……?!」


 私は必死に抵抗するが、何故だか皆から温かい向けられてしまう。わかっていると言わんばかりに、皆で頷くの止めて貰えるかな?


 こういう時に頼りになるのは彼だろう。そう思ってエリクトニオスさんへと視線を向けると、彼はふっと口元を緩めてこう口を開く。


「顔合わせも無事に終わって何よりです。アトレウスとペウロスを護衛として残して行きます。何かあれば二人を使って下さい。それでは、私は自身の職務に戻らせて頂きますね」


「――えっ……! 戻っちゃうんですか……?!」


 私の驚きに対し、エリクトニオスさんは申し訳なさそうに頭を下げる。うん、まあ、彼は要職に就く人物だからね。ずっと私達に張り付いている訳にはいかないか……。


 それに、旅で一緒だった二人を残してくれるらしい。お調子者のペウロスさんは兎も角、しっかり者の隊長アトレウスさんは頼りになる。彼が残ってくれるのは心強いかな?


「それでは、失礼致します。皆さまのご武運を心より祈っております」


「えっと、ありがとうございました。道中、とても快適な旅でした!」


 私は感謝の気持ちを込めて頭を下げる。イノも慌てて、私に合わせて頭を下げた。


 そして、私が頭を上げると、エリクトニオスさんと視線が交わる。その顔はとても嬉しそうで、今まで見た中で一番の笑顔であった。

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