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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
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城塞都市アテナイ

 石作りの巨大な壁に覆われた都市。それが城塞都市アテナイである。その壁には要所要所に見張り台があり、そこに立つ兵士が周囲の警戒を行っていた。


 私達は戦車に乗って大きな門を潜り抜ける。門に立つ兵士達は、エリクトニオスさんを見ると一礼する。要職についてるだけあり、彼が居れば顔パスで中に入れるみたいだね。


 私は馬車の上から街並みを確認する。そして、真っ白な街並みに魅了され、私は思わず呟いた。


「綺麗な街並みだな……。あの白い壁は何が素材なんだろう?」


 私の声に反応し、エリクトニオスが御者台で顔だけ振り向く。そして、口元を緩めてこう返してくれた。


「家の素材は煉瓦となります。白漆喰を塗る事で壁が光を吸収せず、室内を涼しく保つ事が出来るのです」


「なるほど。生活の知恵と言う奴ですね」


 私の言葉にエリクトニオスさんが頷く。恐らくは地中海の陽ざしが強いからなのだろうね。また一つ賢くなったと思っていると、隣でイノも興味深そうに耳を傾けていた。


 好奇心旺盛な娘の姿に、私の心がほんわかとなる。しかし、街並みを眺めていると、ふと気付く事があった。


 それは街並みが綺麗であること。戦争中との事であるが、見える範囲で壊れた家等は見当たらない。


 その反面、チラホラと怪我人の姿が視界に映る。人によっては手や足が欠損している男性が、物陰に座り込んでいたりもする。


 その光景を見て、医者を必要とする理由が少しわかって来た気がする。


「そうか、煉瓦作りだから家が燃えたりはしないのか……。ただ、医療が発達していないから、怪我人はしっかり治療されていない……」


「ええ、その通りです。この戦争は城門付近での小競り合いが続いています。そして、敵は弓や槍を主武器とし、その刃には毒が用いられているのです」


 エリクトニオスさんの硬質な声に息を飲む。ポセイドンの仕掛けた戦争は、嫌がらせが目的らしいのだ。


 だから、本格的に都市を落とす事を目的とせず、そこに住まう人々を苦しめようとしている。その手段として、毒が用いられているのだろう。


 そして、未熟な医療体制ではその毒を処置し切れていない。時には兵士の手足を切り落とす事で、命を救う選択を迫られるのだろう……。


 この戦争の実情を目にし、私は内心で苦々しく感じる。しかし、それはリクトニオスさんの方が、私の何倍もそう感じているみたいだった。


「戦争で毒を用いる等、卑怯者のする事です。しかし、アトランティスの兵は戦争をしているつもりすらない。ポセイドンと言う後ろ盾を持つ彼等は、自らが圧倒的強者で、我々を羽虫の如く考えているのです」


「……この国はアテナ様の庇護下にありますよね? それでも、そう思われているのですか?」


 海神ポセイドンが強大な神であろうと、戦女神のアテナ様もオリュンポス十二神の一柱である。それを侮る事なんて有り得るのだろうか?


 そんな私の疑問に対して、エリクトニオスさん肩を震わせてこう零す。


「ポセイドンの息子にトリトンが居ます。彼が指揮する軍は練度が高く、我々とは質が異なります。更には単眼の巨人キュクロプスも、アトランティスの軍に加わっているのです。悔しい話ですが、軍事力では比較になりません……」


 エリクトニオスさんの言葉に、私は驚きで固まってしまう。長年の戦争をしていると聞いたので、戦力にそこまでの差があるとは思っていなかった。


 しかし、現実は圧倒的な戦力差があり、戦争と呼べる状況では無いのだ。ただ一方的に、弱い者いじめをされているに等しい状況である。


 かと言って、アテナイ側ではそれを認める訳にもいかないだろう。一方的にいじめられていると言えば、兵士はそのモチベーションを大きく落とす事になる。


 だからこそ、アテナイ側では国を守る為の戦争と口にする。実態がそうでなかっとしても、そう言わざるを得ないのだ……。


 私は何も言葉が思い浮かばず項垂れてしまう。すると、エリクトニオスさんは私に視線を向け、皮肉気に苦笑を浮かべた。


「ただ、周辺国は我が国が亡びる事を恐れています。それ故に、各国は資金や物資の支援を惜しみません。それをまだ戦えると考えるべきか、戦わされていると言うべきかは、言葉が難しい所ですがね……」


 私は再び街並みに視線を向ける。そして、チラホラと見える怪我人の姿に、歯噛みする思いだった。


 周辺国からすれば、アトランティスに勝ち目はない。自国が戦場となって、同じ状況になる事は避けなければならない。


 その為には、アテナイには生き残って貰わねばならない。その地に住まう兵士達が、どれだけ傷付き、苦しもうとも、戦い続けて貰わねばならないのだ。


「それが、この戦争と言う訳ですか……」


「ええ、これが我々の戦争なのです……」


 エリクトニオスさんの疲れた声が胸に刺さる。それでも戦い続ける彼に、私が掛けれる言葉は無かった。


 私はこの地に医療を伝えにやって来た。しかし、それは思っていた以上に重い責務であった。焼け石に水にならない為にも、私に何が出来るのかをもっと考えなければならないな……。


 気付けばイノが不安げに私を見つめていた。私は安心させる様に笑みを浮かべ、彼女の頭を優しく撫でた。


 父として、師として、彼女に何を示すべきなのか。私はそれを真剣に考え始めるのであった。

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