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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
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父娘との出会い(エリクトニオス視点)

 私の名前はエリクトニオス。鍛冶神へパイトスの血を引く者であり、その父より地上に打ち捨てられし者。


 しかし、女神アテナ様の慈悲にひより拾い上げられ、成人するまで育てて頂いた。今はその恩をお返しする為に、我が主の手足となりアテナイを守護する者である。


 幼少期の私は、どうして私は捨てられていたのかと思った。そして、その疑問を育ての母へと問うた事がある。我が養母の答えはこうであった。


『今のお前は、まだ知るべき時では無い。まずは一人で生きられる力を得よ。話はそれからだ』


 突き放すような冷たい言葉。しかし、我が女神の瞳が語っていた。それが慈愛によるものであると。


 我が女神は甘えを許さなかった。しかし、最高の学習環境を私に与えた。私はその教えに懸命に付いて行った。


 その結果、アテナイの中では、どの兵士より強く成った。並の人間や獣であれば、束になっても勝てない程の強さを得た。


 私は再び我が女神へと問うた。あの時の答えを教えて欲しいと。そして、我が女神は語った。如何に神々が傲慢であるかを。


『――そう、この私とて同じだ。強く無ければ、全てを奪われるだけなのだ……』


 我が女神はアテナ様。オリュンポス十二神の一柱にして、この世界では最高クラスの戦神である。


 けれど、その言葉が真実であると私は知っていた。何故なら我が女神は長らく戦争を仕掛けられていた。同じくオリュンポス十二神の一柱。叔父にあたる海神ポセイドンから。


 かつて、アテナイの地をどちらが支配するか、ゼウス様の元に勝負を行った。そして、アテナイの住民はオリーブの木を齎したアテナイ様を支配者として望んだ。


 本来はそれで終わりのはずだった。しかし、傲慢な神ポセイドンは、自らの敗北が認められなかった。その悔しさから、長年に渡って嫌がらせを続けているのである。


 私が捨てられた理由も同じだ。父は美しき我が女神を求めた。アフロディーテと言う妻を持ちながら、肉体関係を迫ったのである。


 それが叶わずに精液を零れ落とし、そこから私が産まれてしまった。父はそんな私を、子として認めたく無かったのだ。だから私を地上に捨て置いた。



 ――何という、身勝手な……!



 私は我が女神から聞かされた真実に憤った。神々の傲慢さに嫌気がさし、それと比例する様に我が女神の慈悲に傾倒した。


 我が女神こそが人々を率いるに相応しい御方。この御方に仕える事こそ、我が人生の喜びである。そう思って私は自らを磨き続けた。


 しかし、私は普通の人間より強かったが、そこまでだった。神の血を引き魔力は豊富にある。けれど、普通の魔法使いが使える魔法が使えなかったのである。



 ――父、へパイトスの血か……。



 神の血を引く半神半人は、親の特性を色濃く引き継ぐ事がある。親が司る特性を色濃く継ぐと、それ以外に能力を発揮しずらくなるのだ。私であれば、それが鍛冶の才能だった訳だ。


 それは私にとって、認めたく事実だった。父を忌まわしく思う私には、耐えがたい才能であった。あんな奴の力など、私は欲していなかったのだ。


 しかし、私は魔法使いでありながら、ポーションすら作る事が出来なかった。ポセイドンの仕掛けた戦争において、英雄に届かない私は余りに半端だったのだ。


 そうして苦悩する私に向かい、我が女神はこう告げた。


『私はお前に何も強要しない。お前は只、己が成すべきだと思う事を成せ』


 我が女神のその言葉で、私の覚悟は決まった。私の人生は我が女神に役立つ為にある。この忌まわしき血を使ってでも、我が女神に勝利を齎すべきなのだ。


 それから私は鍛冶を独学で学んだ。その血と才能により、私はメキメキと腕を上げた。あっという間に魔法の武具を作れる様になり、オリハルコン製の武具にも匹敵する装備をアテナイに齎した。


 これで劣勢だった状況を覆せる。私はそう喜んだが、戦争は装備だけで決まる訳では無い。それを扱う人も重要だった。


 特にポセイドンの治めるアトランティスは広大な土地だ。その人材も豊富であった。我が国の消耗は、彼の国の比では無かったのだ。


 これが嫌がらせの戦争だから、我々は負けていないだけ。それでも、このまま続ければやがて疲弊し、我が国は人と資源を失い続ける……。



 ――そう嘆いていた所に、突然の補給物資が届き始める……。



 それは上質なポーションである。一定の数がまとまって、一定間隔で届けられる始めた。それによって、人材の消耗がかなり抑えられる様になった。


 普通の魔女や魔法使いが、我が国に助力すると思えない。どこから届くのかと疑問に思ったが、我が女神はそれを教えてくれなかった。


 しかし、それから数年後に届いた医学書により、大きく流れが変わり始める。我が女神はついに、その出所を私に教えてくれたのである。


『太陽神アポロンの息子に、アスクレーピオスが居たのを知っているな? その後継者をアポロンは抱えている。此度はその者が、我等に助力してくれる事となった』


 アスクレーピオスと言えば有名な医神である。その後継者であるなら、あのポーションも、あの医学書も納得が行く。


 これで我々はまだ戦える。流れが返られると喜ぶ私に、我が女神は声を潜めてこう告げた。


『……その者が、ゼウスの娘を育てている。その者は雷を操る魔女。今はまだ幼いが、やがて世界を変える娘である』


 私はその説明に息を飲む。我が女神の瞳が告げていた。その娘こそが、我が女神の真に求める者であると。


 我が女神は神々の在り方に疑問を持つ御方。この世界を変えるカギは、その雷を操る魔女だと考えているのだ。


 私は我が女神の指示に従い、最大限の敬意を持って迎える準備を進める。そして、私はアポロン様の聖地へ向かい、その父娘に礼を尽くして挨拶をした。


 そして、私は父のケンジ殿に驚かされる。魔法の腕は未熟かもしれない。しかし、底知れない教養と、魔法使いと思えない善良さを兼ね備えていたのだ。


 その事に私は内心で安堵した。この方であれば上手くやれそうだ。そう油断した直後に、私は自分の思い違いを理解した。



 ――ゾクッ……。



 娘のイノ殿は十歳の少女で、可愛らしい顔をしている。しかし、その黄金の瞳だ。その力を宿した瞳が、私を真っ直ぐに値踏みしていた。


 こいつは敵か味方なのか。決して油断する事無く、この少女は私を計っていたのだ。表面上は笑顔を浮かべ、並の者では気付けぬ様に……。


 この瞬間より、私は彼女を十歳の子と思うのを止めた。彼女は間違いなく、我が女神の求める魔女。今の時点で既に、私より格上だと判断した。


「お初にお目にかかります。アテナイより参りました、エリクトニオスと申します」


 こうして、私はケンジ殿、イノ殿と行動を共にする事となった。


 そして、その後に世界を変えて行く――閃光の魔女の、その始まりを知る事となる……。

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