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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
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アテナイ兵

 馬車チャリオットの旅も三日目。私とイノはエリクトニオスさんだけでなく、アテナイ兵さん達とも打ち解けていた。


 小隊の隊長であるアトレウスさん。隊員であるペロウスさん、メネラオスさん、オレステスさん。いずれも気の良い人達である。


 アトレウスさんは、私と同じ三十代 (見た目だけなら)。それ以外は二十歳を過ぎた辺りだが、全員が鍛えられた肉体の保持者であった。


 私達は昼食後のお茶を飲みつつ、野外で共に語り合っていた。


「それでは、アトレウスさん達は普段から、エリクトニオスさんと行動を?」


「はい、ケンジ様。我々は実質的部下みたいなもの。……護衛兼雑用係です」


 苦笑を浮かべて答えるアトレウスさんを、私は不思議に思って首を傾げる。すると、一番若いペウロスさんが、あっけらかんとした口調でこう告げる。


「名目上はうちら護衛なんすけど、エリクトニオスさんがメチャ強なんすよ。正直、護衛なんて必要無くねって感じで」


「私は魔法使いですので。並の兵士では相手にならないでしょうね」


 皆の視線が集まる中で、エリクトニオスさんはふっと笑みを零す。どことなく左目のモノクルが輝いて見える。


「とはいえ、私はアテナ様の血の繋がらない息子。そして、今のアテナイの要ですからね。立場上は要人として、護衛も付けざるを得ないのです」


「アテナイの要ですか?」


 どういう意味かと私は尋ねる。すると、アトレウスさんはそっと自らの鎧に手を当てた。


「エリクトニオス様の作る武具が無ければ、アトランティスの兵と戦えないのです。彼等はオリハルコンの武具で身を固めていますので」


「そうそう、オリハルコンはメチャ硬で、鉄の盾なんてスパッと斬っちゃうんすよ。エリクトニオス様の魔法があって、初めてまともに打ち合えるって感じっすね」


 その手の話には詳しく無いが、オリハルコンとは特別な鉱石だったかな? 鉄を斬れるとなると、硬度がかなり違うのだろうね。


「前線の部隊は魔法の武具で身を固め、後方部隊は鋼の武具。正直、アテナイの武装は周辺国とはレベルが違います。それでも、アトランティス兵を相手には、身を固めて防衛に徹するしかありません」


「そうそう、周辺国なんて未だに青銅の武具とかっすよ? うちが潰されたら、他の国じゃあ相手になんないっすね。あっという間に、この辺一帯を支配されるんじゃないっすかね?」


 アトレウスさんとペウロスさんが話を続ける。どうもアトランティスの武具は性能が段違いで、まともに戦えるのがアテナイだけみたいだね。


 それもエリクトニオスさんの武具があり、それでようやくと言った所。防衛は何とかなるけど、攻めに転じるのは難しいと言う事なのだろう。


 流石だなぁと感心し、私はエリクトニオスさんを見つめる。しかし、彼は小さく溜息を吐いてこう告げた。


「武具に関しては、騙し騙し何とかやっています。けれど、問題は兵士です。負傷した兵の数が増えて、近年まで兵力がジワジワと削られておりました」


 エリクトニオスさんの言葉に、アトレウスさん達は顔を顰める。そして、気まずそうに呟くのだった。


「兵士の募集は掛けておりますが、兵士の練度には課題が残ります。アトランティスの兵は武具だけでなく、質も高い者が揃っていますので」


「ま、まあまあ! 最近は少しマシになったんすよ? 女神アテナ様の取り計らいで、ポーションの供給量が増えたみたいなんすよ! 助かる怪我人もかなり増えたっすからね!」


「「…………」」


 私とイノは無言で見つめある。その増えたポーションは、私とイノが毎日少しづつ作ってるやつだろう。


 私達は毎月やって来る商人ブラドーさんへ卸し、それを彼がアテナイで売っているのだ。私達は要求された量を、余裕を持って作っている状況である。


 ただ、今はそれを口にする訳にはいかない。ポーションを作れるのは魔女や魔法使い。今の私達は医者であり、魔法使いと言う情報を隠しているのだから。


「いや~、もっと増えてくれると良いんすけどね~! そうすりゃ包帯なんて巻かずに、すぐに怪我も完治なんすけど!」


 ペウロスさんは軽い口調で不満を漏らす。しかし、それを聞いたエリクトニオスさんがギロリと睨み付けた。


「ポーションの値段を知っての発言ですか? どちらにしろ一つで家一軒が買える代物です。そう易々と、使える訳が無いでしょう」


「そ、そっすね……。あはは、失言でした……」


 ペウロスさんは冷や汗をかいて、身を小さくする。まるで、蛇に睨まれた蛙のごとしだ。


 私が隣のイノに視線を向けると、彼女は無言で俯いていた。そして、難しそうな顔で何かを考え込んでいる。


 もしかしたら、ポーションをもっと作るべきだと考えているのかもしれない。素材や調合の手間を考えても、今の二倍程度に増やす事自体は可能だろうからね。


 けれど、それが得策でない事はイノも理解しているのだろう。便利な道具は人を駄目にすることがある。それに慣れてしまうのも問題になるのだ。


 私やイノにしか作れない物に、アテナイが依存すべきではない。私達がこれから伝える医術の様に、その地の人々に再現可能な技術に頼るべきなのである。


 色々と考えさせられる話ではあったけれど、私達のやるべき事に変わりは無い。アテナイに向かって医療のレベルを上げる。そして、その後は今まで通りにポーションを卸す。


 私は内心でそう考えながらも、それをイノに伝えはしなかった。イノにはイノの考えがある。彼女に問われない限りは、彼女は自分で考えるべきだと思うのだから。

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