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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
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馬車の旅

 一夜が明け、朝食後に宿を発つ。そして、私達はエリクトニオスさんの手配した馬車に乗る事に。


 しかし、その馬車は私のイメージとは違う物だった。馬車と言えば幌馬車か、箱馬車を私はイメージしていた。


 けれど、目の前には優美さとは無縁の、ごつい体格の馬が四頭。そして、引く車は二輪の車輪で、金属で補強した無骨なデザイン。


 エリクトニオスさんが手綱を握り、狭い後部座席に私とイノが座る。心遣いとしてクッションが用意されているが、これは私のイメージする馬車はではない。


「これって、馬車……なのかな?」


 私は隣に座るイノに問う。すると、彼女は小さく頷いてこう答えた。


「はい、お父様。これも馬車です。ただし、戦闘用馬車――戦車チャリオットと呼ばれる代物ですが」


「なる……ほど……?」


 私は前方に視線を向ける。前方にも戦車が一台いて、武装した三名の兵士が搭乗している。彼等は私達の護衛を務める人達らしい。


 そして、後方にも戦車が一台いる。そちらは手綱に握る兵士が一名。後部座席には多くの荷物が積まれていた。


 まさか、古代の戦車に乗る機会があろうとは……。というか、どうしてお迎えが戦車なのだろうか?


 私が呆然としていると、そんな私にエリクトニオスさんが気付く。


「外部から要人を招くのです。厳重に護衛するのは当然の事です。まさか、荷馬車に詰める訳にもいかないでしょう?」


「な、なるほど……」


 私達が魔法使いと公表するなら、これ程の警備は必要無かっただろう。何せ自分達の身は魔法で守れるのだから。


 けれど、私かに私達は医者として招かれている。きっちりと護衛で身を固めるのは当然の事だろう。


 エリクトニオスさんの言葉に納得していると、前の馬車が動き出した。私達の乗る馬車も、それに続いて出発する。それと共に、彼は申し訳なさそうに呟いた。


「……それに現在のアテナイは戦時中なのです。豪華絢爛な馬車を用意するのも難しいのですよ」


「あっ……」


 エリクトニオスさんの言葉に、今度こそ私は納得する。ずっと遠くの出来事として聞いていたが、確かにアテナイはアトランティスと戦争の真っ只中なのだ。


 軍事関係には力を入れても、贅沢にお金を回せる状況ではない。豪華な馬車を用意するくらいなら、戦闘にも使える戦車を生産するはずだ。


 私はそんな事に今更なが気付き、平和ボケしていたなと反省する。それと同時に、馬車が余りにも揺れるので驚かされる。


「随分と揺れるなぁ……」


 道は旅人が歩きやすい様に整備されている。それでも、道路みたいに舗装されている訳じゃ無い。


 戦車の車輪も木製で、ゴムのタイヤが付いている訳では無い。これだけ揺れるのも、当然と言えば当然か。そんな風に考えていると、そっとイノが口を開く。


「――軽くなれ……」


 イノがそう呟くと同時に、私の体が軽くなる。揺れに合わせて体が上下するが、まるで水中みたいにゆっくりとした上下である。


 どうやら、イノお得意の重力軽減を使ってくれたらしい。これならば、馬車の揺れもかなりマシになりそうである。


「ありがとう、イノ。助かるよ」


「お役に立てたなら何よりです」


 私がお礼を言うと、イノはニコリと微笑む。嬉しそうなその笑みに、こちらまで思わず笑顔になる。


 しかし、それを見ていたエリクトニオスさんは、視線をこちらに向けながら感嘆の声を上げる。


「流石はゼウス様の血を御引きの御方です。イノ様であれば、いずれ空も自由に飛べそうですね」


 その言葉に私はドキリとする。エリクトニオスの言葉は半ば正しい。正確に言うならば、既に空を自由に飛べるのであはるが……。


「どうして、そう思われたのでしょうか?」


「どうしても何も、当然では無いですか? ゼウス様は天空を司る神です。その血を引くイノ様も、天空に関する魔法が得意でも不思議ではありません」


 彼の言葉に、私とイノは互いに見つめ合う。そして、そう言えばそうだったと気付く。


 ゼウスの最も強い力が雷である為、それ以外の部分に注目していなかった。しかし、本来のゼウスは天空を司る神なのである。


 イノに雷の適性が高い事は既に把握している。けれど、天空と言う視点では、これまで余り研究を行っていなかった。


 私は帰宅後に改めて研究をするべきだと考える。そして、そう思うのは私だけでは無いらしく、イノはキラキラと瞳を輝かせていた。


 そんな私達に気付いてかどうか、エリクトニオスさんはこう続けた。


「以前にお伝えした通り、私は鍛冶神へパイトスの血を引いています。それ故に、アテナイの中では鍛冶をメインに活動しています。戦争用に魔法の武具は重宝されますのでね」


 そう言えば、手土産に貰った結界用の道具は、彼の手作りだと言っていた。養母は女神アテナだが、鍛冶神へパイトスの血を引く事も聞いていたな。


「エリクトニオスさんは、鍛冶が得意なのですか?」


 私は何となく軽い気持ちでそう尋ねた。すると、彼は微かに俯き、忌々し気にこう吐き捨てた。


「汚らわしい父の血とは言え、今は戦時中ですのでね……。我が女神の為に、使える力は使わねばならないのですよ……」


「「…………」」


 どうやら彼は、父を激しく嫌悪している。出来る事なら、その力を使いたくないと思っているのだろう。


 それはどことなくイノに通じる物があった。それもあって、私とイノはこの話題には、極力触れないでおこうと心に決めた。

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