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ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
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初めての町

 森を抜けるのに半日。森から更に半日歩いて町に到着した。途中で休憩を挟んだとは言え、丸一日を歩き続けた。魔法で身体強化が出来て本当に良かった……。


 そして、イノもエリクトニオスも当然の如く魔法を使う。二人は私以上に魔法が上手いので、平気な顔で歩き続けるのだ。年長者としては情けない姿を見せられない。


 そんな訳で、私も表面上は平気な顔を続けていた。正直、もう少し体を鍛えておけば良かったと内心では後悔していた……。


 ちなみに、商人のブラドーは途中でリタイアした。ペースに合わせられないし、自分には『幸運の鈴』がある。


 元々、行商の為に別経路で移動する予定だったので、先に行って欲しいと言われてしまった。そういう訳もあって、彼とは道中で別れる事となった。


 そんな感じで、それ以外にトラブルもなく町に到着した私達だったが、エリクトニオスは淡々とした口調でこう告げた。


「もう日が暮れます。今日は一泊して、明日に馬車で出発しましょう」


 そう告げると、エリクトニオスはサクサクと歩き続ける。普段から無表情で、淡々とした所のある彼だが、それでも気遣いが出来ない訳では無い。


 実際、私達の荷物は彼が全て背負っている。そして、無理が無い範囲で休憩も挟んでくれていた。何と言うか、仕事が出来る男と言う印象である。


 私はイノと一緒に、彼の後を付いて歩く。それと同時に、改めて街の様子を確認する。木造建築の家々が立ち並び、どこか牧歌的な光景である。


「町と言うか、村って感じかな……?」


「いえ、お父様。ここは普通の町だと思います」


 私の呟きにイノが反応する。彼女は私を見上げながら、にこりと微笑んだ。


「これ以上となると、城壁を持つ都市になります。そして、村には畑と民家しか無く、基本的にお店は存在しませんので」


「ふむ、なるほど……」


 何となく町と言えば舗装された道があり、区画整備された街並みをイメージしていた。しかし、実際はそこまで手入れが行き届くのは都市だけなのだろう。


 それこそ王城の膝元である城下町。或いは、領主の住まう都市のみ。普通の町と言うのは交易があるだけで、農村に毛が生えた程度のものなのだ。


 その辺りの知識は、屋敷に引き籠っていた私には無いものである。元の世界との違いに、こういう所では驚かされるね。


 それと同時に、イノの見識にも驚かされる。イノも放浪の旅を続けていたが、それは彼女が五歳までのこと。その時の記憶が、しっかり残っている事には驚かされる。


「ケンジ様、イノ様。宿に到着しました。食堂で夕食を食べられましたら、部屋でゆっくりお休みください」


 エリクトニオスはそう告げると、そそくさと受付へと向かう。そして、巨大なリュックを背負ったまま、宿の店主と手続きを始める。


 そんな彼と入れ替わる様に、宿の女将さんがやって来た。人当たりの良さそうな笑みで、その中年女性は私に問い掛けてる。


「お客様、事前にお話は伺っております。すぐに食事もご用意出来ますが、どうなさいますか?」


 どうやら、私達の屋敷に来る前に、エリクトニオスさんは宿を抑えていたのだろう。馬車を止めていると言っていたし、その辺りもしっかり手配済みと言う訳である。


 部屋でゆっくりしても良いが、歩き通しで私は既に空腹を感じていた。まだ日が沈む前ではあるけど、私はイノへと問い掛けた。


「どうかな、イノ。もう食事にするかい?」


「はい、お父様。日が沈む前に済ませてしまいましょう」


 イノの言葉に私はおやっと思う。そして、改めて宿を見て気付く。照明等がこの宿には見当たらないのだ。


 屋敷では当たり前に、夜は明かりを灯していた。しかし、それは魔法が使えるから。屋敷に専用の魔道具が備え付けらえていたからなのだ。


 魔法が当たり前で無い普通の人々は、蠟燭等で明かりを灯す必要がある。そして、それはコストが掛かるので、皆が当たり前に使える訳では無いのだと気付く。


「それでは、食事の準備をお願い出来ますか?」


「かしこまりました。すぐご用意しますでの、テーブルでお待ちください」


 女将さんは頭を下げ、それから私達を食堂へと案内する。木製の年季の入ったテーブルに向かい、女将が離れたのを確認した後、私はイノに対して問い掛けた。


「……イノから見て、この宿はどんな感じかな?」


「手入れの行き届いた良い宿です。その、屋敷の生活に慣れた今では、普通の宿に泊まるのは少々……」


 イノは言い難そうに答える。どうやら、この宿はかなり上質な部類らしい。私から見ると大き目で、質素なペンションにしか見えないのだけどね。


 そして、私が五年間過ごした屋敷は、本当に恵まれた環境なのだと実感した。この世界に招かれた場所が、あの屋敷で本当に良かったと思う。


 私は本当にこの世界の事を何も知らないのだなと思う。その事に苦笑を浮かべながら、イノに対してそっと耳打ちした。


「色々と教えてね? 私は知らない事が多いからさ……」


「はい、勿論です! お父様のお役に立てるならば!」


 私の頼みにイノは目を輝かせる。私に頼って貰える事が、彼女にとっては嬉しいらしかった。


 屋敷ではセメレやアスクにフォローされ、この世界の常識を教わっていた。しかし、この旅では娘のイノに教わる必要があるらしい。


 赤ちゃんとまでは行かないが、それでもまだまだ手が掛かる。私の成長はそんな物だと、内心で諦め気味に息を吐いた。

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