――五年後
アポロン様の初訪問から五年が経った。その間にいくつか大きな変化がある。
一番の変化は、私達の間に子供が生まれた事だ。生まれたのは娘で、名前はエレクトラ。今では娘も三歳になる。
なお、エレクトラは今の所、普通の子として育っている。イノみたいな知性は宿していないが、代わりにノンビリとした子として成長を続けている。
エレクトラが魔力持ちかは不明だけど、その確認は追々になるだろう。ゼウスの血を引いていないエレクトラは、焦って成長させる必要が無いだろうからね。
一応、正式な結婚式も改めて行い、今ではセメレの呪いも解けている。屋敷から出る事も出来るけど、私達は引き籠ったままだけど。外に出る必要性を、今の所は感じないからね。
こんな感じで、私とセメレは娘達を愛し、イノも妹を可愛がってくれている。私達は親子四人と、いつもの仲間達と穏やかな日常を続けられている訳だ。
そして、変化の二つ目は外との繋がりだ。何と私達の住む屋敷に、行商人がやって来る様になったのである。
アポロン様が手を回してくれたらしく、商人のブラドーがやって来た。どうも、商業の神でもあるヘルメス様から、この地を訪れる様にお告げがあったらしい。
なお、ヘルメス様もオリュンポス十二神の一人。ゼウスの息子であり、アポロン様の弟という関係だ。それもあって、こっそり協力してくれたそうだ。
お陰様で必要な品が色々と手に入るようになった。エレクトラの服や育児用品も助かったが、何よりも調味料が手に入るのが大きい。
更には鶏まで手に入った。飼育した鶏は神への贄として使われる事が多く、食肉としては一般的ではないらしい。けれど、卵が毎日の様に手に入るのは凄く助かっている。
ちなみに、対価は私の作るポーションである。治癒のポーションはどこもでも需要が高く、得に今はアテナイで高値で取引されているらしい。
需要が高まっている理由は、アテナイとアトランティスの戦争。いや、戦争というよりは、海神ポセイドンから女神アテナへの嫌がらせか……。
アトランティスから定期的な攻撃を受け、兵士の怪我が絶えないそうだ。それが一番の理由で、治癒のポーションは値段が高騰しているのだとか。
余り関わりたくは無いけど、アポロン様のお導きだしね。こちらも対価の要求には、素直に応じる事にしている。
最後に、一番大きな変化と言えはイノの成長だ。私が教えた知識をどこまでも高め、十歳にして既に一人前の魔女へと育った。
アスクが言うには、今なら魔女メディアとも渡り合えるそうだ。実際に魔法のブーツで空を飛ぶし、身体強化でアステリオスとも組み手が出来てしまう。
魔法の腕も格段に上がり、雷魔法は特に強力な物となった。飛んでる鳥を狙い堕とせるし、巨大な大木でも消し炭に出来る。それを見たリリィが震え上がった程である。
更には、医術もそれに匹敵する腕前である。人体の構造を完璧に把握し、怪我も病気も簡単に治してしまう。膨大な魔力を併せ持つので、腕一本位は簡単に生やせるだろう。
今では私が教える事なんて殆ど無い。イノは気になった事を自分で研究し、勝手に成長してしまう。
時々、意見を求められる事もあるけど、それはブレイクスルーが必要な時だけ。この世界とは違う視点が欲しい時だけ、私がほんの少しだけ手伝う程度である。
まあ、そういう訳で、私達は穏やかな日常を過ごしている。この外界とは隔絶された、アポロン様の庇護下にある土地で。
イノに過酷な運命が待つなんて信じられない。それ程に穏やかな日々が続いている。それでも私達は、未来への不安を忘れる事は無かったが。
そして、イノが十歳の誕生日を迎えた後、運命は徐々に動き始める……。




