表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ジジイ、異世界で魔女の師になる  作者: 秀文
第2部:アテナイ戦争
PR
104/110

守る理由(イノ視点)

 今日もお父様との朝食後、病院で授業が行われます。人体の基礎についての学びは好評で、お父様の登場で病院内は明るい雰囲気となります。


 何かを学ぶと言うのは楽しい事です。けれど、彼等がお父様の話を楽しみにするのは、それだけが理由ではありません。


 お父様は相手に会わせて、優しくかみ砕いて説明を行う。学の無い兵士でもわかる様に、絵で示したり、例えを使ったりと、誰にでもわかる様にと配慮する。


 それはお父様の初弟子が私だった事もあるのでしょう。五歳の子供でもわかる様にと、常に考え続けてくれたお父様。その五年間の学びにより、お父様自身の教える力も上がっているのです。


 そして、お父様が用意した内容を話し終わり、後半は質疑応答の時間へと移ります。マカーオーンさんにパナケイアさん。看護師さんに患者さん達と、誰もが手を上げて質問を行う。


 この質問は昼食の時間まで、止まる事は無いでしょう。私はお父様に一言断り、病院の出口へと足を向けます。


「おや、イノ殿? どこへ行かれるのですか?」


 私の姿を確認したアストレウスさんが、私に問い掛けて来ました。私がお父様と離れる気かと思い、若干の焦りを滲ませています。


 護衛対象は二人で、護衛の兵士は一人。彼としてはどうすべきか、悩ましい状況と言った所でしょうね。


「安心して下さい。私は何処にも行きません。アストレウスさんに聞きたい事があっただけです」


「私に聞きたい事ですか? それはどの様な内容でしょうか?」


 私の言葉にアストレウスさんは安堵の表情を見せる。そして、ニコリと微笑んで私を見つめる。


 彼は私が魔女だと知らない。だから、私を只の子供であり、お父様の娘としてしか見ていない。


 けれど、それで侮った態度は一度も取らなかった。大切な護衛対象として気遣い続けてくれた。そんな彼だからこそ、私は彼に聞きたい事があった。


「どうして、ペウロスさんの面倒を見続けるのですか? 本当の家族と言う訳ではありませんよね?」


 私の問いにアストレウスさんは目を丸くする。私からそんな質問が飛び出すとは思っていなかったのだろう。けれど、彼は苦笑を浮かべてこう答えた。


「血の繋がりはありませんが、一応は彼も私の家族ですからね。まあ、そういう物としか言いようがありません」


 お父様との会話は聞こえていた。彼がペウロスさんを育てた事は知っている。彼がペウロスさんを家族だと思っている事もだ。


「けれど、ペウロスさんは感謝をしていません。彼はもう成人した大人です。そんな彼の面倒を、アストレウスさんが見続ける必要があるのでしょうか?」


「うーん、確かにイノ殿の通りなんですけどね。けれど、彼が子供の時から、ずっと面倒を見続けて来たんです。今更見捨てる事も出来ないのですよ」


 彼は苦笑を浮かべる。けれど、それは彼の面倒を苦に思っての事では無い。誰に何を言われても、それでも彼は止められないと、彼自身がわかっているのでしょう。


「ずっと面倒を見続けるのですか? 例え彼が感謝しなくても? その献身が報われないとしても?」


「親とはそういうモノではありませんか? まあ、私は本当の親ではないのですけどね」


 明るく朗らかに笑うアストレウスさん。彼のその言葉を聞いて、やはり彼はお父様と似ていると思った。


 目の前で困っている人に、手を差し伸べてしまう善人。打算や下心で行動するのではなく、ただ助けたくて行動してしまうお人好し。


 それだけに、私はペウロスさんの存在を苦々しく思う。もしお父様の養女が私で無くても、きっとお父様は彼の様に笑っただろうから。


「……私にはわからないのです。どうして、その様に生きられるのでしょう? 自らの幸福の為では無く、利他の精神で生きられるのでしょうか?」


 私は家族の為なら何でも出来る。お父様やお母様。屋敷の仲間達の為なら、命を賭けて戦う事だって出来る。


 だからこそ、同時に思うのだ。どうしてお父様も、アストレウスさんも、関係ない他者を迎え入れる事が出来るのかと。


 一度家族として迎え入れれば、決して見捨てる事が出来なくなる。それ程に重大な決断を、どうして行う事が出来たのだろうか?


 しかし、アストレウスさんは一瞬だけキョトンとし、すぐに笑顔でこう答えてくれた。


「それは私の両親が、私をそう育ててくれたからです。困っている人がいれば、助けてあげられる人になりなさいと」


 私はお父様から直接言われた事は無い。私が生きたい様に生きられる様にと、努力するお背中を目にするだけです。


 けれど、お父様と出会うまでの五年間。旅の間で別の背中も見て来ました。誰も信じず、周囲を警戒し続ける、お母様のそのお背中も……。


 しかし、俯く私に何を思ったのか、アストレウスさんはポンと私の肩に手を置く。そして、優しい笑みで私に告げた。


「イノ殿が大人になればわかります。きっとイノ殿は、ケンジ殿と同じ生き方をしますよ。父に恥じない生き方を、自らの誇りとして生きる事でしょう」


「――っ……」


 アストレウスさんのその言葉は、私の胸にストンと落ちた。きっと、彼の予言が実現すると、私はそうした確信があった。


 お父様に守れた五年間、奇跡の様な幸せな時間を過ごした。本来ではあり得ない程の愛情を、義理の娘である私に注ぎ続けてくれたのだ。


 私はきっと、そんなお父様に恥じる生き方は出来ない。お父様が誇りに思える、そんな生き方をする事になるのだろう。


 私はその確信を与えてくれた、アストレウスさんへと感謝の気持ちを抱く。そして、彼に対して頭を下げた。


「ありがとう御座います。とても参考になりました」


「ははは、そういって貰えたなら何よりです。アイツもイノ殿みたいに素直なら、私の苦労も少なくて済むのですがね」


 彼は言葉とは裏腹に、晴れやかな表情だった。きっと、ペウロスさんがどんな態度であっても、彼の接し方が変わる事は無いのだろう。


 それだけに私は残念に思う。ペウロスさんは、アストレウスさんに出会うのが遅すぎた。決してペウロスさんは、彼の様に善良に生きる事は無いだろうから……。


「それでは戻ります。残りの期間も宜しくお願いします」


「はい、お任せ下さい。何があっても私が守りますので」


 私はアストレウスに背を向け、お父様の元へと戻る。お父様への質疑応答は盛り上がり、まだまだ終わる気配は無かった。


 私はお父様の隣にならび、その光景を目に焼き付ける。私の誇りであるお父様が、どれ程素晴らしい人物かを覚えておく為に。



 ――そう、私の決意は固まった……。



 私はお父様の誇りに思える生き方をしよう。決して道を誤る事が無い様にしよう。


 その為にも、私はこの右腕を差し出そう。私が望む未来を手にする為に……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ