デーモン
朝、フィフナは気だるい感覚を持ちながら目覚めた。理由は解りきってる。昨日のありえない訓練のせいだと。
わかってる。あんな技能を持ってるんだ、ユキトが自身より強いってことは覚悟していた。しかしだ……
強化した脚力を軽々と受け止められる。
失敗するといつの間にか宙を舞ってる。
まるでこちらの体力を分かってるかのごとく的確に次の行動を催促してくる。
はっきり言ってボロボロだ。しかし怪我は一切ない。このだるさも筋肉痛や時間が経てば消えるようなものなのだ。
「……」
そして今気づいた問題。それはユキトはおらず、フィフナを見つめる龍。
フィフナの記憶の限り、特訓中もユキトの頭から離れようとしなかった金色の鱗を持つ龍が座れるくらいの岩からフィフナを観察していた。
そしてもぞもぞと何かを取り出すとフィフナになげ、やる事はやったというようにまるくなる。
それは丸められた羊皮紙であり、手紙だった。
『フィフナへ
これを見ているということは俺はまだ帰ってきていないのだろう。
なぜ俺がいないかというと……手っ取り早く言うと問題が発生した。
一応くぅは残していくから注意はしといてくれ。
終わり次第もどる。
ユキト』
ひどく適当すぎる手紙にフィフナはより一層気疲れを感じた。
何より龍、この種族はフィフナの知る限り数種類しか確認されていない。と言うより四種類しか確認されていない。
土龍と呼ばれる飛ばず、大地を駆ける龍。
ワイバーンと呼ばれる前足が退化により失われた飛龍。
水の中で生活する水龍と呼ばれる龍。
そして……【真龍】
この世界に置いて管理者とも言われる超越種。
【人間】 【獣人】 【精霊】 【エルフ】 【亜人種】 【魔族】 【魔物】 【龍】
この世の生物のトップとも言える力を持ち、そしてすべての種族の敵……デーモンの抑止力。
デーモンとは生物達の負の感情の集結体とも言われ、その存在意義は唯々絶望と破壊を生み出すだけ。
絶望は糧であり、破壊は快楽である。デーモンにとってそれが当たり前なのだ。
真龍はそれに対して負の感情を収集し、中和する力を持っている。しかしその真龍も【正】であるかといえばそうではない。
負の感情の中和。これは完璧ではなく、真龍の中に蓄積されそれと共に消えるのが真龍の寿命とも言える。
だが時として計算の誤りというべきか……負の感情を溜めすぎた真龍は理性を失い、暴走する。その真龍は【堕真龍】と呼ばれ、デーモンと同じく破壊しか生み出せない存在へと堕ちてしまう。
そしてフィフナの視線の先の龍、くぅは土龍と違い翼が有る。飛龍と違い前足が存在する。水龍とも違う。
「(え?よく昨日見てなかったけどこうして見るとおかしくない?
で、でも考えが正しいとは思えないし……)」
フィフナはどんどうこんがらがって行く考えに悩みながらも、何やら引っかかりを感じていた。
「……やめよう」
これ以上考えても無駄だ。総結論づけたフィフナは水浴びをして落ち着こうと用意をし始めた。
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その頃ユキトは離れた山にいた。ただその場所は生物の姿はなく、木々……いや草木の、生命の気配もない。
「まさかここまでとは……騎士団め、手でも抜いたか?」
いや、ありえんか。と結論づけながらユキトは足元に転がっていた赤ん坊の頭部並みの大きさの濃い紫の結晶を拾う。
魔晶、デーモンの核でありこれは母体のものだ。
母体は魔晶の欠片から眷属を生み出し、眷属は力を蓄え母体になる。そうやって個体数を増やすのだ。
そしてデーモンが活動する空間は木々は枯れ、生き物や大地は死に絶え【腐界】に変わってしまう。
「……銀がいれば楽なのにな……ギルドを見つけたら連絡しとくか」
今は別行動をしてるツレのことを考えユキトはため息をつく。
腐界を回復させるためには【祈り】による地脈を繋げる作業が必要となる。ギルドにはその祈りを行える聖職者が存在し、ユキトのツレは聖職者ではないが地脈を繋げるすべを持っている。
「……やべ……」
そこでユキトは銀についてあることを思い出し、袋から結晶を取り出す。
魔文晶と言われるそれは魔晶を研磨し、術式を埋め込むことにより出来る文を送る道具だ。そしてそれはユキトの魔力に反応し、空間に文字を浮かべる。
『イマフォトマリアナンセイノマチニイル。チャントイイワケハキクカラハヤクキナサイ』
ユキトは冷や汗を流す。別行動といったが実際はというとユキトが勝手に動いており……迷子になっているのだ。
そして銀からは説教確定の文。
「さ、さぁ戻るか」
まるで自分に言い聞かせるように、置いてきたフィフナの元に戻るのだった。




