別件 銀狐
ある一室。ひとりの女性が椅子に座り、台を指先でトントントンと不機嫌そうに叩いていた。その女性、銀の前には魔文晶があり、文を送ってから長い時間ただじっと見ていた。
「……」
東洋にある倭国の服、動きやすいように改造された和服に包まれながらもわかる豊満とも言えるスタイル。太ももあたりまで伸びる銀髪はまとめられ、その紅い瞳は唯々イラたしげに魔文晶を見ていた。
絶世の美女、そう言っても過言ではない容姿。しかし人というには違和感を訴える見た目。それは人間ならば持ち得ない九本の揺れる銀の尻尾と頭部にピンと張った獣耳。
シルバーフォックス。彼女は獣人ではなく魔獣、その中でも霊獣と言われる上位種族なのだ。
高い知能、一線を駕す戦闘能力。まだ若いながらも彼女もそれを受け継ぐ霊獣であり、現に軽く叩いている台は穴が空き始めている。
「……遅い」
そんな彼女のいらだちの理由。それは今ここにはいない幼馴染と言える青年、ユキトだった。
幼い時から、いや生まれてすぐからの付き合いであるユキトがふらりと動くことは銀にとって想定内ではあった。しかしだからと言って動揺や苛立ちを感じないかといえばそれは違う。
「せっかく二人旅だったのに……!!」
生まれた時から、修行をしてる時もユキトの両親があの災厄において王都を堕真龍から守って命を落とした時も。堕真龍に襲われた時もそれをユキトが解決し、ハンターとなってからも銀はユキトと共にいる。
しかし二人きりではなかった。堕真龍の災厄以降は、いやハンターとなってからは余計なのがついてから二人きりではなくなっていた。
「指名依頼でやっとあのエルフ達から離れられたのに……なんでこういう時にアイツは悪癖を発動させるのよ!!!」
銀は苛立ちを吐き出すように台を思い切り叩くとその力により亀裂が走る。
やってしまった。
そんな考えが浮かびながらもすぐに苛立ちで塗り替えられてしまう。
災厄があってから、いやハンターになってからほぼ常時一緒にいることになってしまった二人のエルフ。
災厄で村と両親を失ったユキトを引き取ってくれたエルフの王族とも言えるハイエルフの娘。そしてその付き人と言えるダークエルフの娘。
嫌っているかといえばそれは違う。しかしそれとこれとは別問題であり、銀にとっては二人での(一匹違うのがいるが)旅であり、少し浮かれていたらこの有様なのだ。
「変化、解けちゃってたな……」
ポツリとつぶやくと九本の尻尾が消え失え、一本にまとまる。
もう多分来ないかな。そう結論づけ、ベットに倒れ込もうとすると魔文晶が点滅した。銀はすぐに魔力を注ぎ込み、文字を浮かばせる。
『スマナイ、クワシイジョウキョウハアトデ。トリアエズフカイガアッタノデカタズケル』
一体この一文にどれだけ時間をかけるのやら。銀はそう考えて苦笑する。
「どうせユキトのことだから忘れてたんでしょうね」
そうだ。いつもそうやって……
また点滅する魔文晶にやっぱりと思い、
『ウメアワセハアトデゴウリュウシテカラデタノム』
「こうやって帰ってくるのよね」
銀は困ったように指で魔文晶を軽く付き、自分より年上でありながら子供のような幼馴染を思い浮かべる。
「しかたない、私もそれを知った上で付いてきたんだし」
自身もいつものように納得し、
机についてどう弁償するか悩むことにした。
銀
20歳
霊獣 シルバーフォックス




