#20 残された者の灯火
数日後。
ソフィ、タリア、デイジー、クロエの四人は、再びエウテルペ研究所を訪れていた。
「……相変わらず、ひどいね」
クロエが、崩れかけた建物を見上げながら呟いた。
ここは、かつて王の鳥が魔法研究の拠点として使用していたエウテルペ研究所。
五年前の戦争で大きな被害を受けたうえ、その後も長い間放置されていたため、建物の傷みはかなり進んでいた。
「ほんまは、もっと早く直したかってんけどな」
ソフィが建物を見回しながら言った。
「でも、こんなん私一人じゃどうしようもないし」
「だから私を連れてきたんでしょ」
クロエは背負っていた大きな鞄を床へ下ろした。中を開くと、工具や魔石、大小さまざまな部品が次々と出てくる。
デイジーが思わず覗き込んだ。
「……それ、全部使うんですか?」
「多分。ミラの賞金で、足りなかった部品も買えたしね」
クロエは腕まくりをした。
「で、どこから直す?」
ソフィは研究所の奥を指差した。
「……ほな、頼むで」
*
最初に復旧へ取り掛かったのは、地下の研究区画だった。以前、ソフィが一人で調査した場所でもある。
地上の資料の多くは失われていたが、限られた王の鳥の人間しか存在を知らなかった地下書庫には、今も大量の機密資料が残されていた。
「これ、魔力回路が焼けてるね」
クロエは古い装置の蓋を開け、中を覗き込んだ。
「直せる?」
「回路だけなら。ただ、五年前どころかもっと前の規格だから、同じ部品はもうないよ」
ソフィが少し考える。
「作れる?」
クロエが顔を上げた。
「誰に聞いてるの?」
にやりと笑う。
「さすがクロエ」
「もっと褒めて」
「かわいい」
「そっちじゃない」
二人がそんなやり取りをしている横では、タリアが古い本を一冊ずつ丁寧に確認していた。デイジーは床一面に散らばっていた資料を集め、年代や研究分野ごとに分類している。
「ソフィさん、これは?」
「魔族の肉体構造」
「こっちは?」
「魔力核の研究」
「これは?」
デイジーが一冊の黒い表紙の本を持ち上げると、ソフィの表情が変わった。
「……それは触らんといて」
「え?」
「王の鳥の中でも閲覧禁止になってたやつ」
デイジーは本とソフィを交互に見た。
「……置いておきますね」
「うん。あとで私が確認するわ」
「怖いですね、この研究所」
「昔はもっと怖かったで」
ソフィは少しだけ懐かしそうに笑った。
「子どもの頃な、絶対入ったらあかんって言われてた部屋に、レオナとクロエが勝手に入って、めっちゃ怒られたんよ」
遠くからクロエが声を飛ばす。
「ソフィもいたでしょ!」
「私は止めに行っただけや」
「嘘!」
「覚えてへん」
「一番楽しそうだったのに! 都合いいなぁ」
タリアが本から顔を上げた。
「私も行きたかったです」
ソフィが笑った。
「タリアまで連れてきたら、シスターにめっちゃ怒られるやん」
「……確かに」
小さな笑い声が地下室に響いた。五年間、人の気配を失っていた研究所に、また声が戻り始めていた。
*
数時間後。
「……動かすよ」
クロエが装置の前で言った。
「ほんま?」
「とりあえず、焼けた回路は交換した。あとは魔力がちゃんと流れるかどうか」
クロエは修理した装置へ魔石を差し込んだ。
カチッ。
「……」
装置は動かなかった。
クロエは眉を寄せ、側面の蓋をもう一度開けた。中の配線を確かめ、接触の悪い部分を調整する。
「これで……どうだ!」
バンッ!
最後に装置の横を一度叩いた。
ブゥゥゥン――。
低い駆動音とともに、青白い光が室内へ広がった。
「ついた!」
ソフィが声を上げる。
「ほらね」
クロエが得意げに笑った。
「機械はだいたいこれで直る」
「最後の一発、いるん?」
「仕上げだよ、仕上げ」
装置の中央には、古い魔法文字が次々と浮かび上がっていた。それを見た瞬間、ソフィは身を乗り出した。
「これで、地下書庫の記録をもっと深く探せる」
四人は、その日から本格的な研究を始めた。
*
一日、二日と時間が過ぎ、研究所には夜遅くまで明かりが灯り続けた。
クロエは壊れた設備を一つずつ直し、デイジーは膨大な記録を整理する。タリアは神聖魔法や蘇生術に関する記述を照らし合わせ、ソフィは魔族化に関係する資料を片っ端から読み続けていた。
「……違う」
一冊閉じては、次を開く。
「これも違う……」
机の上には大量の本と紙が積み重なり、脇にはすっかり冷めた茶が置かれていた。
「ソフィ」
タリアが声をかけた。
「少し寝た方がいいです」
「あとちょっと」
「昨日もそう言ってました」
「もうちょっとだけ」
デイジーも資料から顔を上げた。
「ソフィさん、三時間でもいいので寝てください」
「大丈夫やって」
「大丈夫じゃ――」
「見つけたいねん」
ソフィは資料から目を離さなかった。
「レオナ、ずっと待ってるから」
デイジーは言いかけた言葉を飲み込んだ。タリアはソフィの手元にある空のカップを取り、温かい茶を淹れ直した。
*
数日後。
「……待って」
ソフィの手が止まった。
「タリア、これ見て」
地下書庫のさらに奥に保存されていた、魔族研究の古い記録だった。
タリアが隣へ座り、二人で内容を読み進める。やがて、タリアの表情が険しくなった。
「これ……」
デイジーとクロエも異変に気づき、二人のもとへ集まった。
そこには、魔族化の呪術と、その解除に必要な条件が記されていた。
「魔族化した人間を一度死亡させ、魔族としての生命活動を停止させる。その後、蘇生魔法によって人間として蘇らせる……」
タリアが読み上げる。
「それ事は前に調べた方法と同じじゃん」
クロエが言った。
「うん。でも、その先があるねん」
ソフィは記録の続きを指差した。
「魔族化の呪術には、魔族の命が使われてる。人間の命を魔族の命へ作り替えるために、別の魔族の命を代償にするんやって」
「……命を?」
デイジーが聞き返した。
「そう。レオナちゃんにかけられた呪術も、魔族一人分の命を使ったものやったはずや」
ソフィはさらにページをめくった。
「問題は、ここからやねん」
タリアが続きを読んだ。
「魔族化を解除し、人間として生命を取り戻すためには……失われた生命と同等の代償を必要とする」
クロエが眉を寄せる。
「それって、どういうこと?」
「普通の死者蘇生とは違うってことや」
ソフィは説明した。
「人間としての命を取り戻すには、魔族化の呪術に使われた命と同じだけの代償が必要になる。魔力をたくさん使えば済む話やないみたい」
「じゃあ、その代償って……」
クロエが言いかけたところで、タリアが静かに口を開いた。
「術者の命です」
誰もすぐには答えなかった。
「この方法でレオナを蘇生させた場合、私が命を落とすことになります」
クロエがゆっくり顔を上げる。
「……一回殺して、蘇らせたら終わりじゃないの?」
「そう思ってた」
ソフィは頷いた。
「でも、違ったんや」
クロエは記録を覗き込み、何度も同じ箇所を読み返した。
「じゃあ、ダメじゃん」
誰も答えない。
「そんなの、レオナを助けてもタリアが死んだら意味ないじゃん」
「そうやな」
「意味ないよ」
クロエは首を振った。
「一人連れて帰るために、一人置いてくるなんて、そんなの助けたことにならない」
タリアはしばらく記録を見つめていた。
「……私は、レオナを助けたいです」
ソフィが顔を上げる。
「でも、私が死んだら、みんなを悲しませてしまいますよね」
タリアは本を閉じず、もう一度記述に目を落とした。
「どちらかを選ぶとは、まだ思いたくありません」
「うん」
ソフィが頷いた。
「だから、まだ決めへん」
「……」
しばらく全員が考え込んだ。
そのとき、デイジーが顔を上げた。
「……シスター」
「え?」
「シスターをタリアが蘇生したときのことです」
三人がデイジーを見る。
「あのとき、私、ずっと治癒魔法をかけ続けてました」
「……」
「もう助からないかもしれないと思ってたんです。心臓もほとんど動いていなくて。でも、何もしないよりはと思って、ずっと治癒魔法をかけてたんです」
タリアが頷いた。
「覚えています。デイジーが治癒を続けてくれたから、シスターの身体が蘇生を受け入れられる状態に保たれていたのかもしれません」
ソフィが記録を見直した。
「……それや」
「何かわかりました?」
クロエが聞く。
「いや、まだ何も分からへん。でも、デイジーの治癒魔法を一緒に使ったら、蘇生の負担を減らせる可能性はあるんちゃうかな」
「私の治癒魔法で?」
「うん。死んだ人を蘇らせることはできへんけど、身体が傷んでいくのを抑えられたら、タリアが蘇生に使う力を減らせるかもしれへん」
タリアも考え込んだ。
「蘇生しやすい状態を保つことは、できるかもしれません」
「そうやろ?」
「でも……身体を保てたとしても、命の代償がなくなるとは限りません」
ソフィは頷いた。
「そこやねん。この方法を試して、タリアが死んだら意味ない」
ソフィは記録を机へ置いた。
「もっと確実な方法が必要や」
「そうですね」
デイジーも頷いた。
「治癒魔法の方は私が詳しく調べます。どこまで身体を保てるのか、過去の記録も探してみます」
「お願い」
ソフィは再び資料へ視線を落とした。
「……まだや」
ソフィが呟いた。
「これで終わりやない。抜け道でも、例外でも、何でもいいから全部調べる」
ソフィは資料を閉じなかった。
「絶対、別の方法を探す」
*
エウテルペ研究所の夜。
クロエもデイジーもタリアも、すでに眠っていた。それでも、ソフィだけは机の前に座っていた。
魔族化。生命の代償。死者蘇生。何度同じ文字を読んだのか、もう分からない。
ソフィはこめかみを押さえた。目が痛い。頭も重い。それでも眠る気にはなれなかった。
机の端には、古い王の鳥の紋章が置かれている。
ランプの明かりに照らされたその紋章を眺めているうちに、ふと昔の声が蘇った。
――ソフィ。
――お前は、賢者には向いてへん。
ソフィの指が止まった。
*
それは、戦争が始まる半年ほど前。まだ王都に、これまでと変わらない日常が残っていた頃だった。
「……え?」
ソフィは父親の前に立っていた。
王の鳥を率いる男。国王の側近。王国でも最高峰の賢者の一人。ソフィの父親だった。
「今、なんて言ったん?」
父は机から顔を上げなかった。
「聞こえんかったか。お前には賢者の資格がないと言うた」
ソフィはしばらく何も言えなかった。
「なんで?」
返事はない。
「私、試験も全部通ってるやん」
父は黙っている。
「魔法理論も、薬学も、魔物学も。修行だって休んだことないし、先生からも問題ないって言われてる」
「能力の話やない」
父がようやく口を開いた。ソフィの表情が険しくなる。
「じゃあ何なん?」
父はゆっくり顔を上げた。その目は、ソフィにはひどく冷たく見えた。
「お前の素行や」
「……は?」
「酒場に入り浸り、夜遅くまで遊び歩き、男との噂も絶えへん」
ソフィの顔が一気に険しくなる。
「ちょっと待って」
「事実やろ」
「酒場行ってるんは事実やけど、男の話はほとんど嘘や!」
「関係ない」
「関係あるやろ!」
思わず声が大きくなる。
「勝手に言われてるだけやで! 私が振った男が腹立てて適当なこと言ってるだけやん!」
「それも含めて、賢者には相応しくない」
ソフィは父を見つめた。
「……何それ」
父は答えない。
「噂される方が悪いってこと?」
沈黙。
「私、何したん?」
声が少しずつ震え始める。
「ちゃんと勉強した。ちゃんと修行した。仕事も言われたこと全部やった」
「……」
「遊んだらあかんの? お酒飲んだら賢者になれへんの? 誰かに好かれて、振ったら、それで資格なくなるん?」
父は視線を逸らした。
「もう決めたことや」
ソフィの声が止まる。
「……何を?」
「今日限りで、王の鳥から外す」
「……」
「家からも出ていけ」
ソフィは動けなかった。
「……え?」
「聞こえたやろ」
「いや、待って」
乾いた笑いが漏れる。
「それ、王の鳥を辞めろって話?」
「そうや」
「なんで家まで?」
返事はない。
「パパ……私、娘やで?」
父の手は机の下で強く握られていた。
「王の鳥じゃなくなったら、娘でもなくなるん?」
「出ていけ」
返ってきたのは、その一言だけだった。
「今後、王の鳥を名乗ることも、私の娘を名乗ることも許さん」
ソフィは何秒も父を見つめた。いつか冗談だと言うのではないか。理由を説明してくれるのではないか。そんな期待が、どこかに残っていた。
けれど、何もなかった。
「……そっか」
ソフィは小さく笑った。
「わかった」
「……」
「そんなに、私が恥ずかしかったんやな」
父は何も言わない。
「ごめんなぁ」
その言葉を口にしたのが、自分だったことを。ソフィはその後もずっと覚えていた。
*
荷物は、それほど多くなかった。
服。魔導書。いくつかの薬。お気に入りの髪飾り。そして、酒場の店主から誕生日にもらった小さなグラス。それだけを鞄に詰めた。
家を出るとき、一度だけ振り返った。父は来なかった。
「……ほんまに」
玄関の前で呟く。
「追い出されたんや」
泣くつもりなどなかった。それなのに歩き始めた途端、涙が止まらなくなった。
「……なんやねん」
何度も袖で拭う。
「賢者に向いてへんって、何やねん」
悔しかった。悲しかった。何より、自分が信じていた人に、自分そのものを否定されたことが痛かった。
その夜、ソフィはいつもの酒場へ行った。
店主は何も聞かなかった。ただ「今日は奢り」とだけ言って、酒と温かい料理を出した。
しばらく黙って飲んでいたソフィが、ぽつりと口を開く。
「なぁ、私、そんなにろくでもない?」
店主が一瞬ソフィを見る。
「急にどうした」
「いいから」
店主は少し考えた。
「まあ、酒は飲むな」
「うん」
「男は振るな」
「うん」
「口は軽いな」
「誰がや」
「あと、よく笑う」
「……」
「困ってる奴見ると、ほっとけない」
ソフィが少し俯く。
「それで、妙に頭がいい」
「……賢者向いてると思う?」
「知らん」
「なんやねん」
店主はグラスを拭きながら続けた。
「でも、俺が呪われたときに助けてくれたのはお前だったな」
ソフィは何も言わない。
「それでいいんじゃないか」
ソフィはしばらく黙ったあと、少しだけ泣いた。
*
その後、戦争が始まった。
王の鳥は解散し、研究施設は襲撃され、仲間たちは次々と殺された。
そして、父も戻らなかった。
真実を知ったのは、さらにその後だった。
父と長年親交のあった老人が、ソフィを訪ねてきた。王の鳥に所属していた人物ではないが、父が戦争前から何を恐れ、何をしようとしていたのかを知る、数少ない人物だった。
「……追い出された?」
老人は、ソフィの言葉を聞いて驚いた顔をした。
「君は、そう聞かされていたのか」
「……どういう意味?」
「君のお父上は、最期まで君のことを心配していたよ」
ソフィは笑った。
「それはないわ。私、追い出されたもん」
「それが目的だったんだ」
「……え?」
老人はゆっくりと話し始めた。
王の鳥が魔族から狙われていることを、ソフィの父が戦争前から察していたこと。王の鳥そのものを解散させようとしていたこと。そして、王の鳥を率いる自分自身が、最も狙われる存在になると理解していたこと。
「君のお父上から、もし自分に何かあったら、君の様子を見に行ってほしいと頼まれていたんだ」
「……」
「君が彼の娘だと知られたままでは、君まで狙われる。だから先に縁を切った」
ソフィは老人を見つめた。
「……何それ」
「王の鳥から外し、家から追い出し、自分との関係を完全に断ったように見せたんだ」
「……」
「あの方は、君だけでも生き残らせたかったんだよ」
「……嘘や」
「ソフィ」
「嘘や!」
ソフィは首を振った。息がうまくできない。
「だって、パパ、私に賢者の資格ないって言った」
「……」
「娘を名乗るなって」
「……」
「出ていけって」
声が崩れる。
「私、謝ったんやで」
老人は何も言わなかった。
「ごめんなって。私が謝ったんやで……」
ソフィはその場にしゃがみ込んだ。
「なんで言ってくれへんかったん……」
答えは分かった。言えば意味がない。ソフィ自身が、本当に捨てられたと思わなければならなかった。
周囲にも。魔族にも。父との関係が完全に切れたように見えなければ、ソフィを守れなかった。
「……アホやん」
ソフィは泣きながら笑った。
「ほんまに、アホや……」
父はソフィを賢者として認めていなかったわけではない。娘として捨てたわけでもない。
その逆だった。娘だったから追い出した。
生きてほしかったから、嫌われることを選んだ。
*
ソフィは研究所の机の前で、ゆっくり顔を上げた。
いつの間にか、手が止まっていた。机の上には、魔族化解除の資料が広げられている。
レオナを人間に戻す。そのためには、タリアの命を代償にしなければならないという。
ソフィはしばらく資料を見つめた。
「……嫌や」
誰もいない研究室で、小さく呟く。
父はソフィを生かすために、自分との関係を切った。そして、その後自分自身も命を落とした。結果として、ソフィは生き残った。
それが正しかったのか。間違っていたのか。今でも分からない。
ただ、一つだけ分かることがあった。
「残された方は、ずっと覚えてんねんで……」
あの日、玄関を出たときのこと。父を憎んだ夜。本当の理由を知ったあの日。全部、残っている。
「レオナちゃん助けて、タリア死なせて」
ソフィは首を振った。
「それでよかったなんて、言われへん」
レオナは五年前、一人でみんなを守った。父も、一人でソフィを逃がした。
そして今、レオナを救うために、また誰か一人の命を差し出さなければならないという。
「……あかん」
ソフィは椅子に座り直し、魔族化解除の研究記録を机に置いた。
「絶対、他にある」
レオナか、タリアか。どちらか一人を選ばなくていい方法。
ソフィは一瞬だけ、王の鳥の紋章へ目を向けた。
「パパ」
小さく笑う。
「私、賢者向いてへんらしいから」
ペンを取る。
「言うこと聞かへんで」
新しい紙を一枚取り出す。
「二人とも助ける」
その一文を、最初に書いた。
「その方法、絶対見つけたるから」
静まり返ったエウテルペ研究所に、また紙を走る音が響き始めた。
*
翌朝。
「……あれ?」
今度はタリアの手が止まった。少し離れた机にいたソフィが顔を上げる。
「どうしたん?」
「これ……」
タリアは一冊の古い術式書を見つめていた。
「魔族化解除とは違うみたいです」
「違う?」
ソフィが隣へ寄る。デイジーも後ろから覗き込んだ。
「何が書いてあるんですか?」
タリアは指先で文字を追った。
「魂変質魔法……」
さらに読み進める。
「魂、人格、記憶……魔族化によって変質した魂の構造に直接干渉して、魂そのものを元の形に組み直す……」
デイジーが聞く。
「魂を?」
「はい」
「それって、記憶とか人格も戻せるってことですか?」
「その可能性はあります。でも……」
タリアは次のページを開いた。
「身体そのものには作用しないみたいです」
ソフィも記録を確認した。
「ほんまや。肉体の魔族化は解除されへん」
「はい」
ソフィは少し考えたあと、首を振った。
「でも、それやったら今探してるものとは違うな。レオナちゃんを人間に戻す方法やない」
「……そうですね」
タリアも頷いた。ソフィは自分の資料へ戻り、デイジーも別の記録を探しに行った。
タリアも本を閉じようとした。しかし、その手が止まった。
もう一度、術式を見つめる。
肉体は戻せない。
けれど、魂と人格には働きかけられる。
タリアはしばらくその記述を読み返した。
「……んー」
ソフィが振り返る。
「タリア?」
「あ」
タリアは顔を上げた。
「なんでもないです」
そう答えると、本を閉じた。
けれど、その本だけは元の棚へ戻さず、自分の机の横へそっと置いた。
毎日お疲れ様です。大切な時間を使って読んでくださり、大変嬉しく思います!
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本作はすでに最終回まで完成してます。昼12時、夜22時の1日3回投稿してますのでよかったらブックマーク登録もお願いします!




