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第6話:週刊連載、という名の無間地獄


 自由都市リベルタの朝。市場に一通の「瓦版」ならぬ、冊子(パンフレット)がバラ撒かれた。

 タイトルは**『週刊パレット』創刊号**。

「な、なんだこれは……。昨日のパン屋の話の続きか?」

「絵が動いているみたいだ! 文字を追わなくても物語が勝手に入ってくるぞ!」

 リベルタの市民たちが未知の娯楽に目を見開いている頃、パレットハウスのアトリエは、前作の魔王決戦をも凌ぐ「修羅場」の真っ只中にあった。

「パブロ! ページが足りぬわい! この『戦うパン職人』の葛藤を描くには、あと五ページ……いや十ページは必要じゃ!」

「却下よ、カツミ。写本ギルドの魔導印刷機はページ数が決まっているわ。あんたの溢れ出す『粋』を、この枠の中に凝縮(デフォルメ)しなさい!」

 パブロ(ピカソ)がペン先で机を叩く。編集長としての彼女の視線は、もはや恐怖の象徴だ。

「 ふ、ふみゅうぅ……っ! 凝縮と言われても、この筆の走り(リズム)が止まらぬのじゃ……っ!」

「止まらせないわよ。はい、栄養補給」

 間髪入れず、レオ(ダ・ヴィンチ)がカツミの口に超高カロリーの魔導チョコを放り込む。

「 んぐっ……!? 」

「咀嚼(そしゃく)しながら描きなさい。顎を動かす振動が、脳への血流を黄金比に整えるわ。……メアリ、仕上げは?」

「……できているわ。カツミが今描いた線に、一秒で『光』を置く。……一滴のインクも無駄にはしない」

 メアリ(フェルメール)の筆が、カツミのペン先を追うように光を刻んでいく。その背後では、ヴィン(ゴッホ)がカツミの腰に自らの魔力を流し込み、物理的なスタミナをブーストしていた。

「カツミさん! 私の情熱を背骨から注入します! さあ、一気に描き上げちゃってくださいっ!!」

「 ぬおおお! 体が熱い、筆が勝手に走るわい!! にゃはは!! 」

 甘やかされ、食べさせられ、魔力を流し込まれる。

 お姉さんたちの過剰なケアが、カツミの職人魂(エンジン)を限界まで回す潤滑油となる。

 「ふみゅうぅ」と鳴らされる隙もなく、カツミは爆発的な速度で原稿を埋めていった。

「――時間よ。回収するわ」

 パブロがカツミの手からペンをひったくるようにして、完成した原稿を奪い取った。

「あ、あぅ……。……終わった……終わったのじゃな……」

 真っ白な灰のようになったカツミが、椅子からずり落ちる。

 そこへ、レオとメアリが阿吽の呼吸で駆け寄った。

「お疲れ様、カツミ。さあ、汚れた指先を消毒して、私の膝の上で『強制シャットダウン』よ」

「……お布団も真珠の香りで満たしておいたわ。……よく頑張ったわね」

 レオの柔らかな太腿に頭を乗せられ、メアリに優しく髪を撫でられる。ヴィンが後ろから毛布代わりに乗っかってくる。

 カツミが「 ふ、ふみゅうぅ……。 」と幸せそうに目を閉じた、その時。

 窓の外から、市場の喧騒が聞こえてきた。

『おい、見たか!? 今週号の最後、あのパン職人が巨龍(ドラゴン)に立ち向かうところで終わってるぞ!』

『嘘だろ、来週まで待てないよ! 続きはどうなるんだ!?』

 その熱狂の声が、眠りにかけていたカツミの耳に届く。

 銀髪の少女の瞳が、パッと見開かれた。

「……にゃはは! 聞いたかえ、おぬしたち。……『来週まで待てない』と言うておるわい。……これこそが、画工冥利に尽きるというものじゃ!」

 カツミはレオの膝から跳ね起き、まだ震える手で再び筆を掴んだ。

「パブロ! 次のネーム(設計図)じゃ! さっさと次の締切を持ってまいれ!!」

「……言われなくても、もう用意してあるわよ。……ようこそ、週刊連載という名の無間地獄へ」

 パブロが不敵に笑い、山のような白紙を机に叩きつける。

 お姉さんたちの過剰な溺愛と、読者たちの熱狂。その狭間で、カツミの第二の人生(連載)は、さらなる加速を始めていく。

(つづく)


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