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第46話:大公の審判、あるいは巨匠たちの沈黙


 王都の中心にそびえる「真理の塔」。その最上階にある謁見の間は、窓一つない閉鎖空間でありながら、逃げ場のないほど冷徹な魔導の光に満たされていた。

 カツミ(北斎)の前に座すのは、この国の秩序そのものである大公。そしてその脇を固めるのは、かつてリベルタで敗走した検閲塔の重鎮たちだった。

「……葛飾カツミ。貴殿がリベルタで広めた『漫画』なる代物。それは民の理性を溶かし、秩序を乱す毒に他ならない」

 大公の声には感情がなく、ただ絶対的な「正解」だけが響く。

 カツミが「 ふ、ふみゅうぅ……っ!! 」と小さく声を漏らした瞬間、レオ(ダ・ヴィンチ)が反射的に前に出ようとした。……だが。

「……っ。……演算、不能……」

 レオの銀色の指先が、微かに震えて止まった。

 大公の放つ圧倒的な「王の結界」の前では、彼女の黄金比も数式も、紙屑のように無効化されていた。彼女は、自分がカツミに提供できる「論理」が、この場では一文字も通用しないことを悟り、唇を噛んで俯いた。

「……影さえも、許されないのね。……ここは、光が強すぎる……」

 メアリ(フェルメール)もまた、膝をついていた。

 この部屋に満ちる魔導光は、彼女の操る繊細な階調をすべて焼き払い、ただの白と黒の「断罪」へと塗り替えてしまう。カツミの瞳を保護することさえ叶わない己の無力さに、彼女は真珠の髪留めを握り締め、絶望に目を閉じた。

「あぅぅ……! 身体が……動かない……っ!!」

 ヴィン(ゴッホ)の情熱さえも、冷たい権威の重圧に押し潰されていた。

 彼がどれほど魂を燃やそうとしても、大公の放つ「冷気」が瞬時にそれを凍りつかせる。カツミを抱きしめることすら許されない、絶対的な距離。

 パブロ(ピカソ)でさえ、いつもの不敵な笑みを消し、最悪の事態(解体)を想定した無機質な表情で沈黙を守っている。

 パレットハウスの「盾」が、完全に消失した。

 お姉さんたちの溺愛メンテナンスも、誇り高き助言も届かない。カツミは、リベルタに来て以来初めて、たった一人で世界と向き合わされていた。

「これより『御前執筆』を命ずる。……我を満足させる『真理』を描け。……できぬならば、貴殿と、背後に控える者たちの芸術はすべてこの場で剥奪し、一生涯、筆を持つことを禁ずる」

 検閲官が広げたのは、真っ白な、しかし呪いのように重い王家の羊皮紙。

 カツミは、震える手で愛筆を握った。

 背後からは、お姉さんたちの悲痛なまでの沈黙が伝わってくる。彼女たちの「何もできない」という絶望が、アトリエ全体を冷たく支配していた。

「……にゃ、にゃはは……。……なんだ、おぬしたち。……そんな顔をするなえ……」

 カツミの声は、小さく掠れていた。

 王都の権威、お姉さんたちの沈黙、そして「芸術の死」という宣告。

 かつてないほどに追い詰められた画狂。

 だが、その絶望の底で、カツミの指先だけは、まだインクの重みを求めていた。


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