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第27話:小さな演出家(ディレクター)、あるいは看板娘の逆襲


 自由都市リベルタの市場に激震が走った。巨大資本を背景にした王都の高級菓子チェーン『ロイヤル・シュガー』が、ルーシーのパン屋の真向かいに支店をオープンしたのである。

「……あぅ。……カツミさん、皆さん。……うちのパン、やっぱりあんなキラキラしたお菓子には勝てないみたいです……」

 パレットハウスに駆け込んできたルーシーの目は潤み、看板娘の輝きは失われていた。パブロ(ピカソ)が冷徹に市場調査の羊皮紙を弾く。

「……演算終了。客足の減少率、七十五パーセント。このままでは三週間以内にルーシーの店は更地になるわ。……さて、どうする? カツミ」

 レオ(ダ・ヴィンチ)たちが「よし、私が店の構造を魔導要塞に……」「……私が相手の店を影で覆い尽くして……」と物騒な解決策を練り始めるなか、カツミ(北斎)が椅子の上に立ち上がった。

「 にゃはは! おぬしたち、力技は粋ではないわい! ……ルーシー、案ずるな。わしがこの街の連中の『目』と『腹』を、もう一度おぬしのパンに釘付けにしてやるわい!!」

 カツミの「ディレクター・モード」が発動した。彼女は四人のお姉さんたちを厨房と店頭に並ばせ、ビシバシと指図を飛ばし始めた。

「レオ! おぬしは店の外装を直せ! 黄金比などどうでもよい、子供が思わず『中を覗きたくなる』ような、いびつで温かい設計にするのじゃ!」

「……子供の視線誘導ね。……ええ、計算外だけど、あなたの直感に従うわ。……私の演算、すべてあなたの『粋』に捧げるわね」

「メアリ! おぬしはパンの陳列じゃ! 一つ一つのパンが、まるで朝露を浴びた宝物のように見える『魔法のライティング』を施せ!!」

「……わかったわ。……パンに『物語ハイライト』を置くのね。……カツミ。……あなたの瞳に映る時と同じくらい、美しく輝かせてあげる」

「ヴィン! おぬしは店の前で叫べ! ただし、ただの呼び込みではない。このパンを捏ねたルーシーの情熱を、その身を持って体現するのじゃ!!」

「はいっ! カツミ監督! 私の魂を込めて、このパンの熱さを街中に伝播させますぅぅ!!」

 いつもはカツミを甘やかす側のお姉さんたちが、カツミの「監督ディレクター」としての圧倒的なカリスマ性に圧され、これまでにないほど完璧な連係プレーを見せ始めた。

 そしてカツミ自身は、店の巨大な壁面に「新作漫画」のライブペイントを始めた。

 描いたのは、高級菓子に飽きた龍が、ルーシーの素朴な麦のパンを一口食べて、涙を流して昇天する姿。

「――見たかえ! これぞ、リベルタの土と火が産んだ『真の宝石』じゃわい!!」

 カツミの咆哮とともに、レオの設計、メアリの光、ヴィンの熱気が重なり、パン屋は街中で一番「粋」で「熱い」場所に塗り替わった。

 高級店に流れていた客たちが、一人、また一人と足を止め、吸い込まれるように店へと戻ってくる。

「おい、この壁画の龍、俺たちが昨日食べたパンと同じ形をしてるぞ!」

「見て、このパン、光ってる……! なんだか、食べるのがもったいないくらいだ!」

 大行列。ルーシーのパン屋は、ロイヤル・シュガーを圧倒する「物語の力」で完全復活を遂げたのである。

「……ふぅ。……これでおぬしも、安泰じゃな」

 夕暮れ。疲れ果ててルーシーの店のベンチで「 ふみゅう…… 」と倒れ込んだカツミに、お姉さんたちが一斉に駆け寄った。

「カツミ。……今日のあなたは、本当にかっこよかったわ。……私の演算を超えた、最高の指揮官マエストロね」

 レオが、いつにも増して熱い眼差しで、カツミの小さな手を包み込む。

「……そうね。……指揮するあなたの横顔、どんな名画よりも美しかったわ。……さあ、ご褒美。……今夜は私の特製オイルで、あなたの指先を一線ずつ慈しんであげる……」

「カツミさぁぁぁん!! 惚れ直しました! 指揮官のカツミさんも、一生離したくありませんんんっ!!」

「 ふ、ふみゅうぅ……っ!! おぬしたち、さっきまでの殊勝な態度はどこへ行ったのじゃ!! わしは監督じゃぞ、敬え、離せ、にゃはははは!!」

 パブロが、パン屋の売上の数パーセントを「パレットハウスの広告料」として契約し直しながら、満足げに微笑む。

 受け身な少女から、最強の指揮官へ。

 カツミの成長は、お姉さんたちの「愛」をさらに燃え上がらせ、リベルタの街をいっそう混沌とした「粋」へと導いていく。

(つづく)


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