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第24話:不器用な助手たち、あるいは愛の重圧(プレッシャー)


 巻頭カラーの熱狂が冷めやらぬうちに、パブロ(ピカソ)が非情な通告を叩きつけた。

「……カツミ。読者アンケートはぶっちぎりの一位よ。ギルドから『増ページ』の要請が来たわ。来週から一挙二話掲載、全四十ページよ」

「 はわわわわ!! 四十ページ!? パブロよ、わしを殺す気かえ! 画狂のわしでも、流石に腕が三本に増えねば間に合わぬわい!!」

 カツミ(北斎)が泡を吹いて倒れそうになったその時、背後から三つの「巨大な影」が静かに、しかし力強く立ち上がった。

「……演算終了。カツミ、一人で抱え込むのは非効率だわ。……私たちが、あなたの『助手』になってあげる」

 レオ(ダ・ヴィンチ)が、銀色の指先で精密なカラスペンを回転させる。その瞳は、カツミの負担を減らすという「愛」の名の下に、完璧なサポート体制を構築しようとしていた。

「……そうね。……あなたの線、少し疲れが見えるわ。……カツミ。……私が、背景の『ベタ塗り』と『トーン貼り』を引き受ける。……影の処理なら、誰にも負けないわ」

 メアリ(フェルメール)が、真珠の髪留めを優しく光らせる。だが、その背負った「助手としての覚悟」が、既にプロの領域を遥かに超えていた。

「あぅぅ! 私だって負けません! カツミさんの原稿に、誰よりも熱いパッションを叩き込んでみせます! エフェクトと集中線は私にお任せくださいっ!!」

 ヴィン(ゴッホ)が、気合の入った筆致でインク瓶を揺らす。

「 ふ、ふみゅうぅ……っ!! おぬしたち、助手になってくれるというのかえ……? それは心強いが、なんだか……胸騒ぎがするのう……」

 数時間後。アトリエ「パレットハウス」は、地獄のような「高密度芸術空間」と化していた。

「レオ! なうんじゃ、この背景は! 街灯一つに黄金比を詰め込みすぎて、キャラが背景に負けておるわい! 描き込みを減らせと言っておろうに!」

「いいえ。この消失点こそが、あなたのキャラを最も美しく引き立てる数学的解法よ。一線も削れないわ」

「メアリ! ベタ(黒塗り)の部分に、光の粒子を描き込むでない! 印刷に出ぬと言っておるじゃろうが!!」

「……いいえ。……たとえ読者に見えなくとも、そこに『光』がなければ私の魂が許さない。……カツミ。……動かないで。……あなたの睫毛の影を、今、原稿に同期させているから……」

「ヴィン! 集中線が熱すぎて、紙が焦げておるぞえ! ページ全体が渦を巻いておるではないか!!」

「これが私の、カツミさんへの愛の震えですぅぅ!! 止まりません、止まれないんです!!」

 助手という名の「主役級の才能」が四方八方から暴れ回り、カツミの原稿は一コマ一コマが国宝級の重厚さを放ち始めていた。

「 はわわわわ!! 誰か……誰か助けてくれぇぇ!! このままでは漫画ではなく、ただの『宗教画の集合体』になってしまうわぁ!!」

 カツミが「 ふみゅうぅ……っ!! 」と叫び、ペンを放り出してソファに倒れ込んだ。

「……そこまでね。……あんたたち、助手の意味を辞書で引き直しなさい」

 パブロが冷徹に原稿を没収し、カツミの頭を優しく、しかし確実にレオの膝の上へと誘導した。

「……うぅ。……パブロよ。……わし、普通の助手が……『普通』に背景を描いてくれる助手が欲しいぞえ……」

「……ごめんなさい、カツミ。……あなたの負担を減らすつもりが、私のエゴが光を求めてしまったわ」

 メアリが、シュンと項垂れてカツミの指先を温める。レオが銀色の指先で、カツミの利き腕の筋肉を「黄金比マッサージ」で解きほぐし、ヴィンが涙目でカツミの足を温める。

「 ふ、ふみゅうぅ……。 ……まあ、おぬしたちの気合いは受け取ったわい。……にゃはは。……よし、この『濃すぎる背景』に負けぬくらい、わしもキャラの表情を粋に描き直してやるぞえ!!」

 お姉さんたちの「重すぎるバフ」を一度身体で受け止め、それを逆境のエネルギーに変える。

 カツミは再び筆を握ると、レオたちの超絶技巧を「踏み台」にするかのような、圧倒的な生命力のキャラを紙の上に叩きつけた。

「――上がったのじゃぁぁ!! 四十ページ、パレットハウス総力戦の一話じゃわい!!」

 最後の一線を書き込み、カツミは「 ふみゅう……。 」と幸せそうに白目を剥いた。

「お疲れ様、カツミ。……増ページ分の報酬で、レオが最高級の甘味を取り寄せてあるわ。……それを食べたら、私の腕の中で『強制再起動』よ」

「……次は、私の番。……あなたの銀髪を、夜の静寂よりも美しく整えてあげる……」

「カツミさぁぁぁん!! 抱きしめさせてくださいぃぃっ!!」

 パブロが、出来上がった原稿の「あまりの密度」に、印刷代が跳ね上がることを計算して額を押さえる。

 最強の助手(お姉さん)たちと、その上を行く画狂。

 『週刊パレット』の特大号は、リベルタの街にこれまでにない「視覚的暴力(美)」を撒き散らすことになる。

(つづく)


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