第11話:白紙の宣告、あるいは美の独裁者
『週刊パレット』の快進撃は、リベルタの街にある「古い秩序」を呼び覚ましてしまった。
アトリエの扉を乱暴に叩いたのは、白銀の法衣に身を包んだ男たち。この街のあらゆる表現を管理し、秩序にそぐわないものを排除する機関――**「芸術検閲塔」**の執行官たちだった。
「葛飾カツミ、およびパレットハウスの面々。……貴公らの描く『漫画』なる代物は、公序良俗を乱す低俗な娯楽であると断定された。次号より、すべての原稿は我が方の事前検閲を受けること」
執行官が差し出した書状。そこには、前回の「戦うパン職人」の物語さえも『暴力と扇動の助長』として不合格の印が押されていた。
「……私の演算によれば、あなたの脳内の美学は三百年以上遅れているわ。……カツミの線を汚い指で触るなら、その指の関節を黄金比に折り畳んであげましょうか?」
レオ(ダ・ヴィンチ)が銀色の指先から、バチバチと青い火花を散らす。眼鏡の奥の瞳は、これまでにない冷徹な「殺意」を宿していた。
「……光を遮るつもり? ……不純な動機で他人の魂を汚す者は、永遠の闇に閉じ込めるのが私の流儀よ」
メアリ(フェルメール)が真珠の髪留めを光らせると、アトリエ内の影が生き物のように蠢き、執行官たちの足元を絡め取る。
「あぅ……カツミさんが一生懸命描いた物語を『低俗』だなんて……! 私の情熱で、その冷たい心ごと灰にしてあげます!!」
ヴィン(ゴッホ)の背後に、巨大な向日葵の炎が渦巻く。最強の冒険者パーティーとしての力が、今にも「権威」という名のノイズをなぎ倒そうとした――その時。
「待て待て、おぬしたち。……粋ではないわい」
カツミが、いつになく真剣な表情で三人の前に立った。彼女は執行官が持ってきた「不合格」の原稿を手に取ると、紅い瞳を細めて笑った。
「……にゃはは。……なるほど、おぬしらの言う『正しさ』には、風が吹いておらぬな」
「なんだと……?」
「わしの漫画を消したければ消すが良い。……じゃがな、おぬしらが何を禁じようと、わしの描いた物語を読んで拳を握った市民の『熱』までは消せぬぞえ」
カツミは原稿を執行官の胸元に突き返した。
「パブロよ! 契約を見直せ! 検閲を通すための絵など、一線も描くつもりはないわい! わしはわしの描きたいもんを、リベルタの壁という壁にぶちまけてやるまでじゃ!!」
その言葉を聞いたパブロ(ピカソ)が、不敵に口角を上げた。
「……いいわね、その反骨心。……ギルドとの契約を破棄して、地下出版(ゲリラ連載)に切り替えるわ。家賃の心配? ……私がなんとかするから、あんたたちは最高の『禁書』を仕上げなさい」
執行官たちが去った後、張り詰めた空気が一気に解ける。
カツミが「 ……あぅ、格好良く言いすぎたぞえ 」と膝を突くと、お姉さんたちが一斉に飛びついた。
「よく言ったわ、カツミ! これこそ私のマエストロよ! ……さあ、これからの逃亡生活(!?)に備えて、私の特製栄養ペーストを補給しなさい!」
「……怖かったわね、カツミ。……震えるその手、私の光で温めてあげる」
「カツミさぁぁぁん! 世界を敵に回しても、私だけはあなたの筆の味方ですぅぅ!!」
「 ふ、ふみゅうぅ……っ!! おぬしたち、感動の余韻を台無しにするでないわい!! 離せ、わしは地下通路にでも潜って続きを描くのじゃ!!」
お姉さんたちに揉みくちゃにされながらも、カツミの瞳には確かな闘志が宿っていた。
権威による検閲。それは、最強の五人にとって、魔王との戦いよりも「粋」で「厄介」な、新しい時代の戦の始まりだった。
(つづく)




