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リストラされたので底辺ダンジョンでひっそり配信してたら、なぜか世界中にバレた  作者: 凪乃


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ぎりぎり飲み切れる

 夜、班拠点を出て、吉田食堂までの十五歩。


 甲府の山の冷えた空気を一晩浴びた身体に、杉並の夜気はずいぶん軽かった。離れていた身体が、ここに戻った、と勝手に答え合わせをする。


 引き戸を開けると、お通しの匂いが立ち上がっていた。じいさんがカウンターの中で、焼き茄子に醤油を回しかけていた。


「来たか」


 カウンターに真凛が隣、園田が反対隣に座っていて、そばには信玄餅がある。お土産を渡していたのだろう。


 お通しが出てきた。焼き茄子と冷や奴。茄子が黒く焦げていて、皮を剥いた中身が緑っぽい。冷や奴は、薬味に生姜と葱と鰹節。


「お疲れ様でしたー」


 園田がビールのジョッキを掲げた。三人で軽くジョッキを合わせた。


 ビールを一口飲んだ。冷たい。喉を通る。


 じいさんが奥から〆鯖を持ってきた。皿に並んでいる。透き通った身に、薄く塩。


「遥一、〆鯖が新しいの入った。今日のは脂、いいぞ」


「いいね」


 箸で一切れ、口に入れた。酸味が利いている。鯖の脂が乗っている。


「篠塚さん、先月の収支と、あと早速霧島さんから振り込みありました」


「早いな」


 真凛がタブレットの画面を見せてきた。振込明細。金額が並んでいる。


 が、さらに気になったのは先月の収支。


「俺たちこんなにもらえてた?」


「管理局からの月の委託費と配信収入のおかげですね。収支の合計が先月比で四千パーセント増加しています」


 飯代しか出せないと言い続けてきたのが、ちゃんと回るようになったんだな。


 回りすぎじゃないか?


「先月視聴者増えているって言っていたじゃないですかー。篠塚さんの視聴者数って配信業界じゃトップクラスなんですからそのくらいにはなりますよ」


 あまり配信のことは詳しく知らなかったがそういうものなのか。


「そんなら、うちにもぱーっと使ってくんないかね」


 じいさんがけらけらと笑いながら、鶏の唐揚げを揚げ始める。油の音。匂いが店中に広がる。


 園田が箸でお通しの茄子をつつきながら、こちらを見た。


「篠塚さん、岩蜥蜴の甲皮、見ましたよ。状態いいですね」


「使えるか」


「使えますね。インナーに入れて、軽量化しつつ防御強化、いけます。剣の鞘も組み直し提案、出します」


「頼む」


 園田がまたジョッキを傾けた。一口飲んで、ふっと息を吐いた。


 唐揚げが揚がった。じいさんが大皿に山盛りで出してきた。一個摘んで口に入れた。衣が薄い。中の鶏が柔らかい。塩と胡椒だけの味付け。


 きんぴらも来た。ごぼうと人参。胡麻油の香り。


 真凛がきんぴらを口に入れる。


 園田が唐揚げを摘みながら、ふっと笑った。


「篠塚さん、本当に変わんないですね」


「そうか?」


「えぇ、なんかいっつも冷静というか余裕あるっていうか」


「まぁ、俺は飯が食えてたらなんでもいいよ」


 じいさんが奥から、湯呑みに水を注いでくれた。


「飲み過ぎるな」


「はいよ」


 じいさんが鼻を鳴らした。


     *


 締めに、うどんを頼んだ。


 じいさんがうどんを茹でて、温かい出汁をかけて出してくれた。葱と七味。


 うどんを啜った。出汁が薄味。腹に染みる。


 真凛のスマホが鳴った。SMS。


「霧島さんからです。『来週、残りの案件のことでご相談がありまして、近日中にお伺いしてもよいですか』」


「『残りの案件』、か」


「はい」


 園田が湯呑みを置いて、こちらを見た。


「次、どこですか」


「伊豆稲取だったかな」


「ま、留守の間は俺がしっかり見てますから安心して、行ってきてください!」


「おう、ありがとな」


 出汁を最後まで飲みきれた。結構ぎりぎりだったが。


 店を出ると、夜気が少しひんやりしていた。じいさんの店の出汁の匂いが、まだ鼻の奥に残っている。

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