管理局を連れて潜る
管理局の深層調査部から、二名が来た。
村瀬経由で真凛が取り付けた直接対話の場。管理局側の条件は「局員の同行による再調査を行い、そのデータで一時停止を見直す」。真凛の提案が通った形だ。
深層調査部の主任研究員・安藤。三十代後半。短髪。スーツではなく探索用のフィールドウェアを着ている。もう一人は記録担当の若い女性。名前は言われたが、忘れた。
C-087の管理室で顔合わせをした。安藤が装備を確認している。ヘルメット、耐熱グローブ、携帯型魔力測定器。管理局の支給品で、園田が見たら気になるだろうなと思った。
案の定、園田が安藤の測定器を見て「型番が古いですね」と言った。安藤が苦笑した。
「予算が通らなくてね。二世代前だ」
「うちの測定器を併用しますか。データの突き合わせにもなります」
「ありがたい」
園田が自分の測定器を貸した。安藤がそれを見て、目を丸くした。
「これ、市販品じゃないだろう」
「改造してあります。深層用のチューニングです」
「……すごいな」
園田が首を傾げた。褒められるのに慣れていない。
安藤が園田の測定器を手に取って、裏蓋を見た。
「接点の配線、全部手作業か」
「はい。市販の基板だとノイズが多くて、深層では使い物にならないんです」
「……うちの局員にも見習わせたい」
園田がまた首を傾げた。二回目。
*
五人でダンジョンに入った。俺が先頭。園田が二番目。真凛が三番目。安藤と記録担当が後方。
五階層までは問題なかった。安藤が壁面や空気のデータを逐一記録している。記録担当の女性がカメラで撮影し続けている。
六階層。結晶の間。青白い光が全員の顔を照らした。
安藤が足を止めた。
「この結晶、文献で見たことはあるが、実物は初めてだ」
「六階層から結晶の質が変わります。触ると温かいです」
「触っていいのか」
「大丈夫です」
安藤が結晶に手を伸ばした。触れた瞬間、小さく息を吸った。
「温かい。生きているみたいだ」
「そうなんですよ」
園田が横から補足した。結晶の温度変化のデータ、発光パターンの周期性。園田が整理した資料を安藤に見せると、安藤の目が変わった。職業的な目。研究者の目。
九階層を通過した。竜がいた空間。黒い甲殻の破片がまだ床に散らばっている。安藤が破片を一つ拾い上げて、光に透かした。
「これが竜種の甲殻か」
「はい。篠塚さんがソロで倒した個体の残骸です」
安藤が俺を見た。何か言いかけて、やめた。甲殻の破片をビニール袋に入れて、ポケットにしまった。
十階層。十一階層。
安藤が十一階層の台座を見て、しばらく動かなかった。
「この紋様は——古代文明の遺構だ。間違いない」
「園田が同じ見解を出しています」
「崩落リスクのデータを見直す必要がある。これは崩落じゃない。活性化だ」
安藤が真凛を見た。
「久我さん、管理局への報告書は私から出します。崩落リスクの評価を修正する勧告を添えて。十一階層以深の探索再開を支持する見解で書きます」
真凛が頷いた。表情は変えなかった。だが、肩の力がわずかに抜けた。
「ありがとうございます」
「礼を言うのはこちらだ。こんな場所を見せてもらって——」
安藤の声が少しだけ柔らかくなった。研究者としての興奮が滲んでいる。
*
地上に出た。夕暮れ。空が赤と紫のグラデーション。
安藤が帰り際に言った。
「篠塚さん。管理局は敵じゃない。ただ、局内にも色々な考えの人間がいる。スフィアの影響力が入り込んでいる部分もある」
「分かっています」
「再開の勧告は通すつもりだ。ただ、黒沢常務が次の手を打つまでの時間は、そう長くない」
「了解です」
安藤と記録担当が車で去った。
三人が残った。C-087の入口前。路地裏の薄暗い中に立っている。
「飯、食うか」
「食いましょう」
吉田食堂。引き戸を開けた。出汁の匂い。今日はカレーだ。じいさんが作るカレーは、ルーが濃くて、じゃがいもが大きい。牛肉がごろっとしていて、噛むと旨味が溢れる。福神漬けが甘い。白飯にカレーをかけて、一口食べた。辛味が口に広がって、汗が出る。
園田がカレーの上に福神漬けを山盛りにしていた。
「園田、それじゃ福神漬けが主食みたいじゃないか」
「甘いのが好きなんです」
真凛が園田の皿を見て、一瞬だけ眉を寄せた。何か言いかけて、やめた。
管理局の中に味方ができた。安藤の勧告が通れば、超深層の探索が再開できる。
ただ、安藤の最後の言葉が引っかかっている。
黒沢常務の次の手。




