98話 つまらない薬
「メキメキメキ…」
「メキメキメキメキ…」
「メキメキメキメキメキ…」
「「「「「「「バリイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ~ン!!」」」」」」」
「パラパラ…」 「パラパラ…」
「パラパラ…」
「パラパラ…」 「パラパラ…」
【あっ、しまった…】
お婆さんは、唖然として声を漏らす。
私が入るはずでした…五右衛門風呂が粉々に割れたのです。
中に入っていた若返りの薬と共に、破片が周囲に弾け飛びます。
「アラアラ…お婆さん、どうしたんですか!?」
「焦って、手元が狂ちゃったのかしら…!?」
「鍋が、粉々になってしまいましたね」
【…!!】
私は、クスクス笑いながら言う。
私がお願いをする前に…お婆さんは、自分から若返りの薬を捨ててくれたみたいですね。そんな、お婆さんは…しばらく時間が止まった様に固まっていましたが。
【よくも、よくも、私の大事な鍋を…】
【昔から愛用していた、大事な大事な我が子の様な鍋を…】
【【許さん―】】 【【許さん―】】
【【許さん―】】 【【許さん―】】
【【許さん―】】 【【許さん―】】
【【許さん―】】 【【許さん―】】
【【許さん―】】
【【【貴様だけは、絶対に許さんぞオオオオ!!】】】
【【【我が若返りの薬の秘技、見せてやるよオオオオ!!】】】
「「!!」」(私)
今日、一番の禍々しい顔になるお婆さん!!
お婆さんは、両手を広げると―
辺りに飛び散っていた魔法薬が、お婆さんの所に集まっていきます。そして、お婆さんを包み込むと…お婆さんの曲がった腰はみるみる内に真っ直ぐになり、シワクチャの顔はシワが無くなっていき、ミイラの様な手は血色とハリが戻り、萎れた真っ白な髪の毛は若々しい黒いツヤツヤの髪の毛に変わっていきます。
つまり、若返っていました-!!
見た目は…
20代くらいの活気ある若い女性でしょうか。
容姿端麗で、何か…とても運動神経が良さそうな感じがする健康的な美人ですね。お婆さんの若い頃は、こんなに綺麗な人だったんですね。こんな時代もあったんですね。それは、若返りたくもなりますね!!
私も―
地球にいた頃に、こんな女性とお茶を飲みに行きたかった!!
まぁ、誘う勇気は無かったけどね。
いやいや、そもそも出会う機会が無かったよね。
「…」(私)
いやいやいや!!
それよりも、この人はもしかして―
((((キャロットさんじゃん!!))))
若返ったお婆さんを見て、私は思い出します。
でも、何で…こんな所に!!
【【念力がダメなら…直接、切り刻んでやるよ】】
【【若い頃の私はな、剣の腕も秀でていてな。貴様なんて、一瞬で切り刻んで…そうだ!!】】
【【キノコ畑の肥料にしてやるよオオオオ!!】】
キャロットさんは、壁に掛けられていた歪な形の剣を取ります。
「キャロットさん、私よ私!!」
「イブよ、イブ!!」
「キャ~、久しぶりねー!!」
私は跳び跳ねるウサギみたいに、キャロットさんに言う。
【イブ…誰だ、貴様!?】
【私には、知り合いなんていないぞ!!】
(え、あれっ…!?)
も、もしかして…
どうやらキャロットさんは、私の事を盛大に忘れているらしい。これはパーシャの地下の異空間で、ルイアと出会った時と同じ状況でしょうか。
ルイアも最初は、私の事を忘れていましたから。
「記憶喪失は、典型的な呪具の代償だね~!!」
「呪いに関わっている人はね…その代償として、記憶や精神にも異常が出ている事がよくあるからね。例えば…大切な記憶を失ったり、人らしい感情を失ったり、性格自体も変わってしまう事もあるよ~!!」
ゼニィーは、解説します。
「や、やっぱりなのね…」
キャロットさんには、私の事を思い出して欲しいですけど。
どうしましょうか。そうだ…ルイアが思い出した時の様に、サラマンダーの炎に呑み込まれてみましょうか。いや、あれはルイアにしか通用しない荒技なのか。
(う~ん…)
元々…具体的なビションも持たず、勢いとバリアだけに任せていた私。更に、お婆さんがかつての仲間のキャロットさんだったという事態になり、私はアタフタします。
もう、ダメ元でやってみるか―!!
「「ゼニィー!!」」
「「今すぐ、サラマンダーをここに連れて来なさい!!」」
「「ええ、何で―!?」」
―今だ!!―
「「ガキイイイイイイ―ン!!」」
突然―
私の頭の中から、また声が聞こえる。
そして同時に、何かの金属を引っ掻く音が、実験室の中に響きます。
(この音は―!?)
【【ギャアアアアアアアアアアアア―!!】】
【【熱い―】】 【【熱い―】】
【【熱い―】】
【【熱い―】】 【【熱い―】】
【【【指が熱いぞオオオオ―!!】】】
【【【何だ、これはアアアア―!!】】】
【【【貴様、何の魔法を使ったんだアアアア―!?】】】
―キャロットさんは、急に悶え始める。
指が熱いと言っていますが、どうゆう事でしょうか。
キャロットさんの手を見ますと、その指にはまっていた指輪が少し光を放っていました。どうやら、その指輪が熱くなっている様で、キャロットさんは指輪を取ると投げ捨ててしまう。
(コロコロコロコロ…)
その指輪は―
私の足元に転がってきます。
この指輪は…元々、真っ黒な指輪のはずでしたが。
黒いメッキが少し剥がれて、そこから光が漏れ出していました。
まるで、何かに引っ掻かれた様な傷が付いている。
私は、指輪を手に取ると…
その黒いメッキは、面白い様にパリパリと取る事が出来ます。
そして…その黒いメッキの中からは、黄金色のとても綺麗な指輪が出てきました。
(う~ん、この指輪は…!?)
その指輪には、2人の名前が刻まれている。
キャロットさんの名前と、もう1人の名前が…それは、とても懐かしい名前です。昔、キャロットさんから聞いた…キャロットさんが付き合っていた人の名前だった様な。
(では、この指輪はもしかして…)
「これは、光彩の指輪という魔法具だね~!!」
「光彩の指輪!?」
「黒いメッキは、血を固めて作ったものかな~!!」
ゼニィーは、指輪から剥がれ落ちた黒いメッキを見て言う。
「この魔法具はね―」
ゼニィー曰く―
光彩の指輪とは、光の魔法 “温光” が使える魔法具との事です。
温光の効果は、ザックリと言いますと…リラックス効果がある光を放ち、心身をリフレッシュしたり、感情的な心を正常に戻したりする事が出来る魔法らしい。例えば…喧嘩している人に、この魔法を使えば、お互いが我に返り、仲直りがしやすくなるとか。
そして―
更に、裏の効果として…弱い闇の魔法ならば、その効果や代償を打ち消す事も出来るらしいです。光の魔法は全て、何かしらの形で闇の魔法に対抗する力が備わっているみたいでして、それは『裏の効果』と言われているとか。
「へぇ~凄いわね!!」
「じゃあ、もしかしたらキャロットさんにも使えるんじゃないの!?」
「多分、使えるね~!!」
「ふ~ん、でも流石ね、ゼニィー」
「キャロットさんが嵌めていた指輪が、光の魔法具である事を見抜いて、攻撃してメッキを剥がすなんて…」
「そうでしょ~…」
「いやいや、これはボクがやった事じゃなくて…」
「!?」(私)
「それより!!」
「あとなんだけど、この魔法具だけの特別な効果があってね…」
【【おい、貴様アアアア!!】】
【【さっきから、何1人でブツブツ話してるんだアアアア!!】】
「…」(私)
キャロットさんは、ゼニィーの解説を遮ります。
そういえば私は、キャロットさんの目の前で平然とゼニィーと話していましたね。そして、キャロットさんは…私がゼニィーと話している声が普通に聞こえるみたいですが。
あっ、そうか!!
若くなったキャロットさんは、耳が遠いのも解消されたみたいですね。
(あ~、恥ずかしい、恥ずかしい!!)
「フフフフ…」
私は、キャロットさんに微笑みながら、振り返ります。
【!!】
「それはね、キャロットさん…」
「私は、今ね…」
「貴方が、とても、とても会いたがっていた―」
―精霊と話しをしているんですよ―
【【【せ、精霊だと!!】】】
【【【貴様、何を言って…はっ!!】】】
【【【そ、そ、そ、その指輪はアアアア!!】】】
キャロットさんは―
宙に浮いている指輪に釘付けになっている。
まぁ、キャロットさん目線ではそう見えるでしょうか。実際はゼニィーが指輪を持って…今、まさに指輪の魔法を発動する所でした!!
「!!」(私)
あっ、そうだ。私は、キャロットさんが思い出しやすい様にポーチからパーシャ騎士団の剣を取り出して、片手に携えます。これで準備完了、それでは―
「「精霊の魔力をナメるなよ!!」」
「「それじゃあ、宜しくゼニィー!!」」
「じゃあ、発動するから…」
「しっかりと顔をこっちに向けてね。目を瞑らない様にね~!!」
「それじゃあ、いきま~す!!」
「3、2、1―」
「「「「「バアアアアアアアアアアアアア―ン!!」」」」」
【【【【【!!】】】】】
「キラ―」 「キラ―」 「キラ―」
「キラ―」 「キラ―」
「キラ―」 「キラ―」 「キラ―」
「キラ―」 「キラ―」 「キラ―」
「キラ―」 「キラ―」 「キラ―」
―実験室は、強い光に包まれる。
そして、実験室をキラキラと金色に煌めかせます。
片手にパーシャの紋章が輝く剣を持った私は…スポットライトの様な強い光を浴びながら、格好良さそうなポーズをとります。
(このポーズ、決まってるかな…)
色々とポーズを変えてみる私。
「あっ、イブ先輩…」
私がポーズに迷っていると…
光の中から、懐かしい声が聞こえました。
何があったのか事情は分からないですけど、貴方も…やっと悪夢から目が覚めた様ですね。
そして-
私も強い光を浴びたせいでしょうか。
私はタイムマシンに乗って、タイムスリップした気分になっていました。まるで…140年前の日々に戻ったのかと錯覚してしまいます。
そして、それと同時に凄く些細な事を思い出しました。
そんな私は―
光輝く実験室の中で
ポカーンと力無く座っているキャロットさんに
手を差しのべて言う。
「キラ―」 「キラ―」 「キラ―」
「キラ―」 「キラ―」
「キラ―」 「キラ―」 「キラ―」
「キラ―」 「キラ―」
「こんな、つまらない薬よりさ…」
「ルイアの勇気を出す薬は、もう完成したのかしら!?」
「そ、そうでしたね…」
キャロットさんは、ポカーンとしながら言う。
はい、そうなんです…私は、あの飲み会の帰りにルイアには秘密で、勇気を出す薬をキャロットさんにお願いしていました。一応、念の為にね!!
あそこから止まっていた私達の時間は、再び動き始めます。
「…」(私)
いや、そう錯覚をしただけです。
「すいません、イブ先輩…」
「別の薬を作る事に、少し夢中になってまして…」
「まだ、完成してません」
キャロットさんは、申し訳なさそうに微笑んで言う。
キャロットさんは、私に話しを合わせてくれて言っているのでしょうか。
それとも、本気で言っているのでしょうか。
果たして、どっちなのでしょうか―




