91話 早食い
「ボクが、代わりに食べてあげるよ~!!」
「えっ、ゼニィーが…!?」
ゼニィーは、どうするか迷っている私に提案します。
「だから、イブは食べたフリをするだけでいいよ~!!」
「もしかしたら…お婆さんが、この森で行方不明者が多く出ている事件?に関わっている可能性もあるからね。このまま、お婆さんに騙されたフリをして、お婆さんの目的を探ろうよ~!!」
「な、なるほど…」
ゼニィーの考えに、頷く私。
ですが…ゼニィーが私の料理を代わりに食べるといっても、私の席はお婆さんの席の真っ正面にあります。
「でも、流石にさ…」
「お婆さんの目の前で、アンタが食べたらバレるんじゃないの?」
「…いや、アンタなら大丈夫か」
私は、パチ村でのゼニィーの早食いを思い出しながら言う。
「パチ村の時は皆、食事よりもイブとの話しで夢中だったからね。簡単に、ごまかせたけど…今回は、少し工夫しないとバレちゃうかな~!!」
「まぁ、任せてよ~!!」
「…」(私)
ゼニィーは、そう言うと玄関の方に消えていく。
「ガタン―」
「さて、私も食べようかね…」
お婆さんは、椅子に座って食べ始めようとします。
ですが―
「「「ガタアアアアアアアアアアアアアア―ンっ!!」」」
「「「ビクっ!!」」」(お婆さんと私)
突然ー
玄関の方から、雷が落ちたのではないかと思う程の大きな音が響き渡ります。ゼニィーが、何か…やらかしたのでしょうか。
「今のは、一体何の音だろうね…?」
「ちょっと、様子を見てくるね…」
お婆さんは、そう言うと玄関の方に消えていく。
それと同時に-
ゼニィーが、凄い勢いで居間に飛び込んできた!!
「「よっしゃアアアア!!」」
「「お婆さんが、席を外したよ。今の内に食べちゃうよー!!」」
「ゼ、ゼニィー!?」
あっ、なるほど!!
ゼニィーは、お婆さんを席から外させる為に大きな音を出したのですね。ですが…どうやって、あんなに大きな音を出したのでしょうか。
しかし、それをゼニィーに聞く間も無く…
「「オラアアアアアアアアアアアアアアア―!!」」
「「バクバクバクバクバクバクバクバク―!!」」
「す、凄いっ!!」
「凄いわ、ゼニィー!!」
ゼニィーは―
目にも止まらぬ速さで、食事を食べていきます。
本当に凄い勢いで…テーブルの上の食事が減っていきますね。これなら、お婆さんが戻って来る僅かな間でも、余裕で食べ終える事が出来るでしょうか!!
私は、ゼニィーの早食いのスピードに感心していた。
「「バクバクバクバクバクバクバクバク―!!」」
(す、凄い…)
気付けば、テーブルの上の料理は全て無くなっていた。
本当に綺麗サッパリと、全て…
「…」(私)
(((イヤイヤイヤ―!!)))
(((お婆さんの分まで食うなァァァァ―!!)))
「あ~、ゴメン、ゴメン!!」
「勢い余って、つい食べちゃいました…」
我に返って、謝るゼニィー。
ゼニィーは…お婆さんの分の料理を含め、テーブル上の全ての料理を平らげていました。お婆さんの分まで食べて…お婆さんに、どう説明するのよ、ゼニィー!!
「ギシィギシィギシィギシィ―」
「!!」(私)
そうこうしている間に、お婆さんが居間に戻ってくる。
「う~ん、額縁の紐が切れちゃっていたわ…」
「んっ…?」
「「「って、全部食べてるしイイイイ―!!」」」
お婆さんは驚いて、良い感じにツッコミます。
「アララララ…」
「まぁまぁ、私の分まで食べちゃって…」
そして、お婆さんは苦笑いをして言う。
「「す、すいません(汗)」」
「「えっと…これは…その、ゼニィーという精霊が…その全部食べちゃって…」」
どう答えて良いか、困った私は―
間違って、本当の事を言ってしまいます(大きな声で)
言った後に『しまった!!』と思いましたが…
「フフフフ…」
「面白い事を言う子ね」
クスクスと笑うお婆さん。
ど、どうやら…私の言った事を面白い冗談として、捉えてくれたのでしょうか。そして、お婆さんはツボったのか…しばらく、笑っています。
「フフフフ、食いしん坊を精霊のせいにしちゃダメよ」
「それで、私の料理は美味しかったかしら?」
「「はい、全体的に美味しかったです!!」」
「…」(お婆さん)
「ふ~ん、そうかい…」
お婆さんは、今度はキョトンとした顔で言う。
「…」(私)
流石に、感想がザックリ過ぎましたか。
でも、私…何も食べてないですからね。なので、答えようがありません。
いや、そういえば…クリームシチューを一口だけ舐めたのでした。
となれば―
「「特にクリームシチューが美味しかったですねー!!」」
「「とてもクリーミーで濃厚で、野菜の旨味とコクがスープに染み出ていて、更に…(以下省略)」」
私は、唯一食べたクリームシチューの感想を長々と言います。
これでー
きっと、お婆さんは納得してくれるのでしょうか。
感想を言い終えた私は、お婆さんの顔を見ますが…
「そ、そうかい…」
しかし、お婆さんは相変わらずキョトンとした顔で言う。
いや、その顔はー
まるで、私の後ろにお化けがいるのではないかと思う程に、凍りついている様にも見えた。
(あれっ…?)
(私は、何か変な事を言ってしまったのか―)
「イブ、イブ、ほらほら演技しないと~!!」
テーブルの上で、爪楊枝でシーシーしながらゼニィーは言う。
(あっ、そうか…!!)
私が食べるはずだった…
ネムリ茸は、食べたら次第に眠気に襲われるのでした。
「ファアアアア~ア…」
「お婆さん…私…なんか眠くなってきちゃった」
私は大きなアクビをしながら、お婆さんに言う。
「フフフフ、そうだよね」
「今日は、もう寝てしまいなさい」
「…」(私)
お婆さんは安心した顔になり、優しい声で言います。
その全ての歯車が噛み合った様な顔は、私を確信させました。
やはりー
お婆さんは、意図的に毒を入れたのだと。
「おやすみなさい。イブヨちゃん…」
そして、やっぱり…
お婆さんは、私の名前を分かっていませんでした。




