76話 疼く右手
「待ってましたよ、カマンヴェールさん!!」
「来るのが遅いから、心配しちゃいましたよ、全く…」
村に着くと、私達を待っていたのでしょうか。
初老っぽい男性が出迎えてくれました。辺りは…もうすっかりと陽が暮れて真っ暗になっています。
「ごめんなさいね…」
「途中、少しトラブルがあってね」
「まぁ、でも特に大丈夫だったわよ♪」
「それで…はい、これが頼まれていた魔法薬ね!!」
カマンヴェールさんは、荷台から段ボールに入った魔法薬を…初老っぽい男性に手渡します。
「いつも、届けてくれて本当に助かってますよ!!」
「そうだ…」
「今日は、もう遅いのでこの村に泊まっていったらどうですか?」
「あら、それは助かるわ!!」
「…というか、元々泊まるつもりだったけどね♪」
「ハハハハ、やっぱり、そう思ってましたよ」
「と言いますか…トラブルって、一体何があったのですか!?」
「スライムよ、スライム」
「道にウジャウジャいたから、荷馬車が立ち往生しちゃったのよ!!」
「ほう、スライムですか…」
「最近、この辺では『スライムエッグ』が良く発生してますからね。それは、運が悪かったですね」
「本当にそれよね~」
「でも、私…今日の占いは1位だったのに…」
~以下省略~
―その後もカマンヴェールさんと、初老っぽい男性はペチャクチャと話していた。私は、何も言わずに2人の会話を眺めていますと。
「そういえば…」
「そちらのお嬢さんは、誰なのですか!?」
私の事を見ながら、初老っぽい男性は言う。
「あ~…彼女はイブちゃんで、私の親戚なのよ!!」
((えっ、親戚―!?))
「ほうほう…」
「カマンヴェールさんに、こんな可愛らしい親戚がいましたとはビックリですね」
「フフフフ、そうでしょう」
「そうそう、それでなんだけど…イブちゃん今、依頼を探している所でさぁ。村で何か依頼したい事とか、困っている事とかは無いかしら!?」
「えっ、イブさんが依頼を受けるんですか…?」
「…」(私)
初老っぽい男性は、驚いている。
まぁ、当然の反応なのでしょうか。
「まぁ、驚くのは無理がないわね~」
「でも、なんと…こんな頼りない見た目に反して、中々強いのよ彼女♪」
「イブちゃんは、騎士志望でね!!」
「今は色々な場所で依頼を受けながら、修行をしているのよ♪」
((えっ、騎士志望―!?))
「ほう、それは凄いですね」
初老っぽい男性は、感心して言う。
「そして、カコシの危険区域を平然と歩く度胸も兼ね備えているわ♪」
カマンヴェールさんは、私の肩をポンっと叩いて言う。
「ハハハ、それは頼もしいですね!!」
「それじゃあ、是非お願いしてみようか…」
初老っぽい男性は、クスっと笑いながら言います。カマンヴェールさんの言った事をジョークとして、捉えたのでしょうか。
まぁ、分かりませんけど。
「では、イブさん」
「宜しくお願いしますね」
「は、はい…」
「こちらこそ、宜しくお願いします!!」
私は、新人バイトみたいな感じで言う。
「それじゃあ…」
「詳しい話は、中でゆっくりとしながらでも―」
◯
「ワァオオオオオオオオオオオ~ン!!」
外からは犬の遠吠えが、うっすらと聞こえる。
どこかの家のワンちゃんが、吠えているのでしょうかね?
私は、窓ガラス越しから外の闇夜を見つめながら、そう思います。
「ふ~ん…」
辺りは-
もう、すっかりと夜になってしまいました。
ポツポツと立ち並んで見える素朴な家の灯りが、闇夜をボンヤリと照らしています。
(久しぶりに見る、人々の暮らしの灯りですねぇ)
それは、私をどこか温かい気持ちにさせます。
私は温かいお茶を啜りながら、染々とそれを感じていた。
そして…
「ハァ…」
今日の疲れを表すかの様に、深々とため息をはく。
(今日は、沢山のスライムを倒しましたからね!!)
「ズズズズ…」(お茶を飲む音)
「ペチャクチャ…」 「ペチャクチャ…」
「ペチャクチャ…」 「ペチャクチャ…」
「…」(私)
それで…そんな私は、今どこにいるかと言いますと、とある小さな村の集会所にいました。集会所の中の大きなテーブルの席には、その村の住人が何人か座っている。そして…
私も、そこに同席していた。
「ズズズズ…」(お茶を飲む音)
―ここは、パーチカ村という小さな村です。
カマンヴェールさんが魔法薬を届けに来た村の名前になります。
因みに…その名前の由来ですが、パーシャの近くにある村だから、略して『パーチカ村』となったみたいですね。
「…」(私)
なんか、適当な決め方ですね。『カコシ』といい、この世界の人達は略して名前をつける事が通例となっているのでしょうか。まぁ…私も、ゴケンジャーとか安直な感じで決めたので、人の事はあんまり言えませんけどね。
「ペチャクチャ…」
「ペチャクチャ…」
カマンヴェールさんは、相変わらず村人達とペチャクチャと話している。
私は何も言わずに、その会話を眺めていますと。
「貴方には…明日、私達と一緒にスライムを討伐して貰いたい!!」
「「えっ、スライムですかっ!!」」
初老っぽいオジさんが、私に言う。
このオジさんは…私達が村に到着した時に出迎えくれた人であり、この村の村長でもあるモッチさんという人です。モッチ村長は、話しを続ける。
「そうです、スライムです」
「数日前から、この村とその周辺にはスライムが多く出現してまして…どうも、近くの森でスライムエッグが発生したみたいなんですよ。なので、私達村人達と一緒に、出現したスライムを討伐して貰いたいのです」
「ふ~ん、スライムエッグですか…」
「スライムエッグって、何でしたっけ…!?」
「は、はい…!?」(モッチ村長)
私は、スライムエッグの事を殆んど覚えていなかった。
○
モッチ村長曰く―
スライムエッグとは、スライムを召喚させる魔法陣の事を言うらしい。
別名『スライムの卵』とも言われており、不定期でランダムに各地に出現しては、沢山のスライムを召喚させているそうです。
召喚されるスライムの数は…魔法陣の大きさによって決まるそうですが、一度に大体数百体くらいは、召喚されるそうですね。その中には、たまに巨大スライムも混じっているとか。具体的には、300体に1体の割合…つまり、300分の1の完全確率で巨大スライムも召喚されるみたいです。
(300分の1か…)
(ミドルタイプを打って、当たりを引く感じですね)
村の名前も相まって、無性に右手が恋しくなる私。
「…」(私)
このスライムエッグですが…
別に誰かが発動させている訳でも無くて、自然現象とされています。
ある高名なスライム学者が言うには…
この世界のスライムの総数は決まっているそうで、その数よりスライムが少なくなると、スライムエッグにより、補充が行われるとの事らしい。異常気象などで、スライムの数が急激に減った年とかは、スライムエッグが良く発生するそうですね。
「それで、ウジャウジャいるスライムもそうなんですが…」
「森の中には、巨大スライムもいるみたいなんですよ」
「今日の昼頃、娘のカリーナが森に食材を探しに行った時に目撃したらしいのです」
モッチ村長は、ため息をついて言う。
そして、モッチ村長の後ろにいた20代くらいの若い女性でしょうか。
清楚な格好をした、おしとやかそうなその人はコクリと頷く。
その顔は、どこか怯えていた。
…彼女がカリーナさんで、この村では『ミス・パーチカ』とか『パーチカのマドンナ』とか呼ばれているみたいですね。
「まぁ、ですので…」
「明日はスライム討伐と一緒に、森の中に出現した巨大スライムの討伐もしようと思っていましてね。巨大スライムは、村の手練れで討伐に行こうと思っています」
モッチ村長は、今度は澄ました顔で言う。
そして、モッチ村長の後ろにいた5人の逞しい男性でしょうか。彼らの顔は、自信に満ち溢れていた。彼らも…ここの村人であり、村の護衛もしている頼れる存在らしい。
そんな、彼らは『パーチカの四天王』と呼ばれているとか。
「…」(私)
その『四天王』最強と言われるのが、横1列に並んだ『四天王』の真ん中に堂々と構えるニックさんです。彼は、モッチ村長の息子だとか。
「それで、イブさんはどっちをやりたいですか?」
「…」(私)
モッチ村長は、私に選択を迫る。
『村とその周辺でのスライム討伐』か『森の中での巨大スライム討伐』か、どちらかを選べるみたいですね。それじゃあ…
「ス、スライム討伐にします…」
「ほう…」
モッチ村長は、少し首を傾げる。
モッチ村長的には、私が『巨大スライム討伐』を選ぶと思っていたのでしょうか。
「確かに…巨大スライム討伐の際には、手練れが皆、村からいなくなっちゃうからね。村のスライム討伐を兼ねて、村の護衛をするという事ね、イブちゃん♪」
カマンヴェールさんが、私のモジモジを通訳する。
「「おお、なるほど…」」(村人達)
カマンヴェールさんの言葉で、集会所の空気が一転します。
「はい、そんな感じです…」
私は、カマンヴェールさんの作った流れに、もう身を任せる事に。
「それじゃあ、イブさん」
「村の事は、貴方に任せましたよ」
モッチ村長は、言います。
「は、はい!!」
「このパチ村の事は、お任せて下さい。私がいれば、もう心配ないですよ!!」
私は、ウッカリ更に略して言ってしまう。
「「パーチカ村ですよっ!!」」(モッチ村長と村人達)
皆は、ツッコミます。
まぁ、私的には…
こっちの方が、シックリとくるんですけどね!!




