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Day Seven ep.5

店の中が静かになる


エルザは作業机へ歩み寄った


置き手紙の端を押さえていた箱を、そっとどける


「手紙?」


俺が聞くと、彼女は頷いた


「うん、ハロルドに残そうとしたの」


エルザは手紙を手に取った


「読んでもいい?」


少し考えてから、裏返して机へ置く


「読んじゃ……駄目。 後で、メモ紙にでもしようよ」


正直、内容が気になるが、もう読む必要はない


知りたければエルザに聞けばいいんだ


俺が窓へ目を向けると、向かいの池が朝日を受けて、きらきら光っている


あの溜め池は、あんなに美しかっただろうか


「お腹が空いたな」


俺が言うと、エルザがこちらを見た


「昨日、少ししか食べなかったものね」


「今日は食べられそうだよ。 やっぱり無理が祟っただけだったみたいだ。 まだポトフがあるから、一緒に食べよう」


「うん、私が準備するね、ハロルドは座ってて」


彼女はキッチンへ歩き出した


そうは言われたが俺もエルザについていく


彼女は振り返った


「なんでついてくるの? 座っててよ」


「エルザと一緒に支度がしたいんだ」


エルザは少し顔を赤くして、それから頷く


「う……うん」


今の顔……いい、ぐっときた


俺の奥さんは可愛らしい、今後はもっとこんな顔にさせたい


俺が火を起こすと、エルザが皿を棚から出した


「ねえ、ハロルド、卵焼きって好き?」


「もちろん好きだよ」


「私が作ろうか? しょっぱいのと甘いの、どっちが好き?」


「作ってくれるの? 俺はしょっぱい方が好きだな、エルザは?」


「私も今日から、しょっぱいのが好き」


「それって、甘い方が好きってことだろ? 俺に合わせることないのに」


「またそれ? 私はハロルドに合わせたいの、あなた色に染められたいのよ~」


「そういうことを言われてしまうと、また押し倒したくなるからやめてよ」


「ハロルドって、実は結構スケベなの?」


エルザは卵を取り出して二つ割った


「好きな女性に対してなら……男は大抵そうだよ、そこは多少大目に見てほしいな……」


「私に対してだけなら、大目に見てあげる」


「エルザは卵焼きを作るのが得意なの?」


「うん、結構得意なんだから」


割った卵の殻が幾つか器へ落ちて、彼女は慌ててそれを取り出した


得意と言っていたので見ていないふりをしたら、横目でにらまれた


「見てたでしょ?」


「いや、なんのことかな」


「嘘、笑ってる、失敗することだってあるよ」


俺は手で口元を隠した、そんな俺をみてエルザも笑ってくれた


パンを切って、皿へ載せる


彼女が卵を焼いている間に、俺はエルザと近くで食べられるよう、机の角に椅子を二つ並べた


ポトフが入った皿とスプーンを置く


エルザが卵焼きを皿に載せて運んできた


「少し失敗して形が崩れちゃった」


「じゃあ、俺がそっちを食べるよ」


「だめ、崩れたのは私の分」


「なんで?」


「なんでもです」


彼女はそう言って、綺麗に作れた方を俺の前に置いた


二人で食卓に座ってエルザが俺を見た


「お祈りしてもいい?」


「もちろん」


エルザは手を合わせた、俺も同じように手を合わせる


「優しい天使様、今日も美味しいお食事をありがとうございます。 私には、温かいご飯と、大切な人がいます。 もう、たくさんの幸せをいただきました。 だから、どうか今度は、まだ苦しんでいる人達にお与えください」


「いただきます」

「いただきます」


俺とエルザの声が重なった


エルザはスプーンで俺の前に置かれた卵焼きを切り分けてふーふーと息を掛けて冷ました


それから俺の方にスプーンを差し出してきた


「はい、ハロルド、あ~ん」


「え、ええ!?」


エルザはスプーンを差し出したまま、にこにこ笑顔で俺を待っている


「あ~ん」


俺を誘うように、自分も口を開けてみせた


正直気恥ずかしいが、断れる雰囲気ではない


「あ、あーん」


四十五歳のおじさんがなにをやっているんだろう……


エルザは俺の口に卵焼きを入れた


俺はもぐもぐと味わって食べる


長く生きていれば、こんなご褒美もあるんだな、分からないものだ


「美味しいよ、エルザ」


「よかった」


するとエルザは背筋を伸ばして目を閉じて口を開けた


まさかこれは……


俺にもあ〜んとして食べさせろということか?


正直エルザが相手なら結構やってみたいが、まさかこの歳でやることになるとは


だが、エルザは俺の奥さんだ、なにをためらうことがある


俺たちはイチャイチャしたっていいはずだ!


俺は卵焼きを自分のスプーンで切り分けてエルザに差し出した


「あーん」


「あ~ん」


俺はエルザの口に卵焼きを入れた


エルザは味わうようにゆっくりと嚙んでから飲み込んだ


そしてにこりと俺に笑いかけてから言った


「やっぱり、しょっぱいね!」


俺もこらえきれずに笑ってしまった


「ああ、本当はしょっぱかったよ」


彼女が笑った、俺も笑った


人生、捨てたもんじゃない


今までの俺があったから、エルザと結ばれることができたんだ


そして、エルザも俺を受け入れてくれたんだ


でも、これで終わりなんかじゃない


ようやく始まったんだ


エルザと一緒に、やりたいことが沢山ある


彼女とずっとずっと、一緒に暮らしたい


あとはもっと……


長生きしないとな





歳をとっただけの俺に愛が産まれた七日間

FIN



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