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Day Seven ep.4

俺は胸の奥が、いっぱいになった


なんて、いい夢なんだろう


もうずっと……眠っていたい


「ハロルド……大好き……」


エルザが、もう一度顔を近づけて唇を重ねた


俺は彼女の背中へ手を回した


どうせ夢なら、もっと素直になってもいいだろう


唇を重ねたまま、ゆっくりと身体を起こした


エルザの腕が俺の首へ回る


俺が彼女を抱き寄せると、椅子が小さく音を立てた


エルザは俺に身を預けてくれた


背中へ回した手に力を込めると、エルザをそっとベッドへ倒した


「きゃ……」


エルザが小さく声を上げた


俺がエルザに覆いかぶさると、彼女は頬を赤くして


嬉しそうに俺を見上げて笑っている


俺の首に回していた腕が、背中へ滑り下りた


「エルザ、いい?」


エルザは頬を赤くしたまま、小さく頷いた


俺は彼女へ顔を近づける


ゴツン!


「いった!」


頭のてっぺんに鋭い痛みが走った


俺は慌てて顔を上げ、振り返ると、目の前に見覚えのある表紙の本があった


その本を握ったリサちゃんが、ベッドの横に立っていた


俺へ向ける眼差しには、ありありと軽蔑が浮かんでいる


「ハロ!」


「リサ……ちゃん?」


「朝から何する気よ!?」


リサちゃんは本の角で、自分の手のひらをとんとんと叩いた


「私がいるんだから、そういうのはやめなさい」


俺は何度か瞬きをした


それから、自分の下にいるエルザへ目を向ける


エルザは顔を真っ赤にして、両手で顔を覆っていた


その指の隙間から、そっと俺を覗き見ている


「これって……夢なんじゃ……?」


俺が呟くと、リサちゃんは眉を寄せた


俺はもう一度、頭へ手を当てる、確かに痛かった


エルザは顔を隠していた手を下ろし、俺の腕へそっと触れた


「これは、夢なんかじゃないよ」


俺は彼女を見た


「……最初から?」


「うん」


「じゃあ、俺がさっき言ったことは……」


エルザが頷いた、目元には、まだ涙が残っていた


「ちゃんと聞いたよ。 私はハロルドの傍にいる、どこにも行かない」


俺は固まった、夢の中で、言ったつもりだった


「まさか……全部声に出していたのか」


エルザは俺の腕を撫でた


「だから、私もちゃんと言えた。 私も、ハロルドと一緒にいたい」


俺は彼女の顔を見つめた


夢じゃなかったと分かった途端、顔が熱くなった


何を話したのか、全部覚えている


隠しておきたかったことまで、情けない本音も、全部


でも、エルザは俺の腕へ触れたまま、笑っている


リサちゃんが、わざとらしく咳払いした


俺は慌てて身を起こした


エルザへ手を貸して、二人でベッドの端へ座り直す


「ご、ごめん。 エルザ、大丈夫だった?」


「うん」


彼女は少し俯いた


「私は、嬉しかったよ」


年甲斐もなくドキっとして言葉に詰まった


リサちゃんが俺を横目で見ながら、本を下ろした


「鼻の下って本当に伸びるんだ…… 続きは、私が帰ってからにしてくれる?」


「い、いや、その……」


「てか、二人とも病み上がりなんだから、そういうことしない方がよくない?」


「はい……おっしゃるとおりです……」


ぐうの音も出ない


エルザは俺を見てにこりと笑った


俺はそんな彼女を見て、喜んで受け入れてくれそうだと思った


少し胸がふわつくように騒ぐ……つくづく俺は駄目な奴だ


リサちゃんは本を近くの棚へ置いた


表紙がこちらを向いていたので、俺はそっと裏返した


それを見てエルザがくすりと笑う


俺は、その顔を改めて眺めた


現実なんだ、エルザは今、ここで笑っている


俺が話したことを、全部聞いて


傍にいてくれると言ってくれた


俺はエルザの手を取った


「エルザ、さっきの言葉は、全部本当だよ、俺の本音だ」


彼女の笑みが、少しだけ静かなものになった


「君を愛している。 君と一緒に、生きていきたい」


声にすると、胸の奥が震えた


でも、今度は夢なんかじゃない


エルザにはっきりと俺の気持ちを伝えたかった


「忘れてほしいなんて言って、ごめん。 君の気持ちを聞かずに、俺が決めようとした」


エルザは黙って頷いた


「もう一度、俺から申し込ませてほしい」


俺は彼女を見つめた


「エルザ……俺の奥さんになってください」


彼女の目が、また潤んだ、口元が緩み、何度も頷く


「はい。 私は、ハロルドの奥さんになります」


俺は彼女を抱き寄せた、今度は、ゆっくりと


細い背中へ腕を回すと、エルザも俺へ身を寄せてくれた


俺はその温もりを、確かめるように抱きしめた


「長生きしてね」


エルザが俺の胸元で、小さく言った


俺は彼女を抱く腕に、少しだけ力を込めた


「私、ハロルドとしたいことが、いっぱいあるから」


胸の奥が熱くなった、俺は何度も頷いた


「ああ、俺もエルザとしたいことが山ほどある」


少し離れたところで、リサちゃんの拍手が鳴った


「おめでとう~」


俺はエルザを抱いたまま、リサちゃんを見た


リサちゃんは嬉しそうに笑っていた


「ようやく話がまとまったわね。 朝から走った甲斐があったわ~」


ようやく落ち着いてきた俺は、改めてリサちゃんを見た


「……走ってきたの? というか、なんでリサちゃんがうちにいるの?」


リサちゃんは、すっと目を逸らした


「それより、ちゃんと感謝してよね」


エルザが嬉しそうに答えた


「リサのおかげだもの、感謝してる!」


俺はエルザから少し身体を離したが


彼女の手は、握ったままにした


「ありがとう、リサちゃん」


よくわからないけど、リサちゃんのおかげらしいから俺もお礼を言った


リサちゃんは少し照れたように笑う


「うん、私も肩の荷がおりたよ~」


エルザも彼女を見た


「私を戻してくれて、ありがとう」


「戻って話したのは、エルザでしょ。 私がしたことは早起きして文句を言っただけ」


リサちゃんはそう言って、俺を指さした


「ハロはもっと、エルザの話を聞きなさいよ」


「分かってるよ」


「分かってないから私がここに来たのよ。 人生ってのは楽しむためにあるの! ……だってさ」


「だってさ?」


俺はきょとんとしてリサちゃんを見る


リサちゃんはエルザを指さしてウインクをした


「だってさ!」


エルザはリサに嬉しそうに笑い返した


「うん! そうする!」


リサちゃんは満足そうに頷いてから、寝室の扉へ向かった


「それじゃ、私は帰るね」


俺たちも立ち上がり、彼女と一緒に寝室を出た


窓の外は、もうすっかり明るかった


リサちゃんが入口のそばに置いた灰色の服へ目を向ける


「それにしてもさ、ハロ」


「なに?」


「エルザは、これを着て出ていこうとしてたのよ」


「え!? 出て行こうとした!?」


俺は服を見た、泥の固まった、あの灰色の服だった


「外、寒いから……ないよりはいいと思って」


エルザが小さく言うと、リサちゃんが俺を横目で睨んだ


「ハロ、細かいことをエルザに問い詰めたりしないように。 全部、ハロの甲斐性がないせいよ!」


なにか俺が寝ている間にとんでもないことがあった気がしたが、問いただせる雰囲気でもなかった


「わ、わかったよ」


「あと、外用のまともな服を買ってあげなさい!」


俺はエルザを見た


確かに、エルザはもう外だって出歩けそうだ、そろそろ必要なはずだ


「エルザ、外を歩けそうなら、一緒に服を買いに行こう。 普段着も、お出かけ用も、替えがいるから何着か買わないと。 靴も必要だし、これから寒くなるからコートも……服を入れる棚も必要だね、そうだ、大きな鏡もいるだろ? 化粧品とかも欲しいよね。 気に入ったものは全部買おう、遠慮しなくていいからね」


俺の勢いにエルザは少し困ったように笑った


「そ、そんなにたくさんはいらないよ。 少しずつでいいから」


俺はエルザの表情をうかがった


これは遠慮してるのか? それとも本当にそんなにいらないのか?


そんなことを考えていると、リサちゃんが呆れた顔で俺を見た


「ハロ! やめなさい! エルザはそういうことされて喜ぶタイプなわけないでしょ。 てか、とんでもなく貢ぎそうねあなた、エルザが保護してくれてよかったわ」


どうやら、本当にそんなにはいらないらしい


「じゃあ、何が必要か、一緒に考えてくれる?」


「うん、少しずつでいいからね。 気持ちは嬉しいよ、ハロルド」


そうだ、こうして聞けばいいんだ


「これからは、ちゃんと話そう、お互いが考えてることは気楽に言い合えるようになっていきたいな」


俺が言うと、エルザは頷いた


「私もそれがいい」


リサちゃんが、扉の取っ手へ手を掛けた


俺はリサちゃんを振り返る


「朝ご飯、食べていかない?」


「私は帰って食べる。 お父さんを一人にしてきたし、私がいないことに気付いたら大騒ぎするかも」


「そ、そうか、ブルーノにもよろしく」


「はーい」


彼女は扉を開けた


朝の冷たい風が入ってくる


「ハロ、今日はちゃんと休むのよ。 エルザも、働きすぎないこと、今度お店に遊びに来なよ、ちょっと痩せすぎだから、太らせてあげる」


「うん、絶対に行くね、でも太ったらハロルドに嫌われちゃうかも」


俺はすぐに首を横に振った


「そんなことでエルザを嫌いになるわけないだろ」


リサちゃんが、からかうような声で口を挟んだ


「多少太った方が、むしろ喜ぶんじゃないの? ねえハロ?」


否定はできないが、返事をしたら負けだと思って俺は黙っておいた


そんな俺の顔を見て、リサちゃんはにやりと笑った


余計なお世話だ……


「それじゃ、ごゆっくり~」


彼女は手を振って、外へ出ていった



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