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Day Seven ep.3

誰かが……俺の頭を撫でている


ゆっくりと、髪を梳くように


俺は目を閉じたまま、その手を感じていた


前にも、こんな夢を見た


遠い昔に戻って、もう会えない人の傍にいる夢


目を覚ましたくなくて、いつまでも眠っていたかった


でも、今日の夢は前と何かが違う……


「ハロルド」


俺は、その声を知っている


毎朝、俺を呼んでくれた声だった


救ったつもりだったのに、いつの間にか俺を救ってくれていた人


「……エルザ」


頭を撫でる手が、少しだけ止まった


それから、また優しく動き始める


俺はほっとして、その手へ頭を寄せた


エルザがいてくれている


よかった、まだ、ここにいてくれた


「エルザ……」


胸の奥にあった言葉が、自然と溢れてきた


「俺と、いてくれ」


髪に触れていた手がまた止まる


俺は、その手を追いかけたくなった


まだ離れないでほしい


今まで、俺は何をしていたんだろう


自由に生きればいいと


俺のことは忘れてしまえばいいと


それが彼女の幸せだと、自分に言い聞かせた


でも……俺は……


俺が、本当にエルザに言いたかったのは……


「どこにも……行かないでくれ」


少しの間、何も聞こえなかった


俺は返事を待った


すると、頬へ何かが落ちた


温かい、小さな雫だった


俺はゆっくりと目を開けた


窓から、朝の光が差し込んでいる


ベッドの横の椅子に、エルザが座っていた


こちらへ身をかがめ、俺の頭へ手を置いている


彼女は泣いていた


それなのに、嬉しそうに笑っていた


また一粒、涙が落ちて、俺の頬へ当たった


「……エルザ」


彼女は何度も頷いた


なぜ、泣いているんだろう


どうして、こんなに嬉しそうなんだろう


なんだかぼんやりとしていて心地が良い


まだ、夢の続きだったようだ


だったら、このまま目覚めないでほしい


エルザが空いている手で、俺の頬にそっと触れた


「ハロルド」


「うん……」


彼女は一度、息を整えた


それから、俺の目を見て言った


「私は、ハロルドを愛しています」


俺は目を見開いた


「助けてもらったからじゃない。 行くところがないからでもない。 ハロルドが好きだから、傍にいたい」


エルザは俺を見つめたまま、震える声で続けた


「ハロルドに抱きしめてほしい。 一緒にご飯を食べて、一緒に暮らしたい。 お願い……」


エルザは俺の手を取った


両手で包み、胸元へ引き寄せる


「私を……傍に置いてください」


俺は何も言えなかった


昨日、俺はエルザを突き放した


俺を忘れてほしいと伝えた


それなのに、こんなことを言ってもらえるわけがない


俺にとって、都合がよすぎる


でも、彼女の手は温かかった


俺はその手を握り返した


せめて夢の中くらいは


何も隠さずに、話してもいいだろう


「エルザ」


「はい」


「俺も、君を愛している」


彼女の指が、俺の手を強く握った


「気づけば、そうなっていたんだ。 君が目を覚まして、笑ってくれると嬉しかった。 俺のことを心配してくれるのも、一緒に食事をするのも、嬉しかった。 ただ傍にいてくれるだけで、満たされた気分になった」


エルザは泣きながら頷いていた


俺はその顔を見た


「だから、約束だからと縛りつけたくなかった。 助けてもらったから、俺の奥さんになるしかないなんて、そう……思わせたくなかったんだ」


彼女は口を開きかけた


俺は首を横に振った


「でも、それだけじゃない。 俺は、嘘つきなんだよ」


エルザの顔から、少しずつ笑みが消えた


俺は話を続けた


「君を奥さんにすると言った時は、本気のつもりだった。 でも、治療を続けるうちに、自分の本音に気づいたんだ」


俺は握られた自分の手へ目を落とした


「君を治して、自分で暮らしていけるようにできたら、俺が生きてきた時間にも意味があった、無駄じゃなかったって思える。 ようやく、満足できる気がしたんだ」


エルザは俺の手を握ったまま、黙って聞いていた


俺は続けようとして、一瞬だけ言葉に詰まった


「君を助けて、幸せにしたことを言い訳にして、俺は……彼女の後を追おうとしていた」


エルザの指に、力がこもった


彼女の頬を、涙が伝っていた


俺はその頬へ、そっと手を伸ばした


「ごめん、こんなことを聞かせて」


彼女は首を横に振り、俺の手のひらにそっと頬を寄せた


「でも……エルザと過ごしているうちに」


俺は言葉を探した


自分でも、まだうまく説明できなかった


「君が笑うのを、もっと見たいと思った。 明日は、もう少し食べられるようになるかもしれない。 歩けるようになったら、一緒に買い物へ行けるかもしれない。 そんなことを、考えるようになった」


エルザが俺の手を頬に当てたまま、そっと押さえている


「俺は……もっと、生きたいと思ったんだ」


続けようとすると、声が震えた


「エルザと、一緒に」


俺は少し間を置いて、続けた


「でも、俺から好きだとは言えなかった。 言えば君は断れないだろうと思った。 助けた俺に、遠慮するだろうと。 君はずっと縛られてきた。 だから、これからは自由に生きてほしかった。 君を好きになるほど、俺は君から離れないといけないと思った」


エルザが小さく首を横に振った


俺は頬に添えていた手の親指で、彼女の涙を拭った


「君に出ていってほしいなんて、思っていなかった。 でも、あんなことを言った。 嘘を言ってごめんね、エルザ」


彼女はまた、首を横に振った


拭ったばかりの頬を、また涙が伝っている


俺はどこまで、駄目な奴なんだろう


「俺は……君に幸せになって――」


エルザが身を乗り出した


その唇が、俺の唇へ触れる


俺は目を見開いた、彼女の手が、俺の頬を包んでいる


何も言えなくなった


柔らかく、温かい感触が唇に伝わってきた


エルザが、ほんの少しだけ顔を離す


涙に濡れた瞳が、すぐ近くで俺を見つめていた


そして俺にそっと微笑んでくれた


「それなら……ハロルドは、私と幸せになってください」



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