Day Seven ep.2
私は彼女を見た
リサも、腕を広げたまま私を見ている
「あの……」
「お散歩って服じゃないわよね、それ」
私は灰色の服の前を握った
「ハロルドの熱が、下がったから」
「それはよかった」
「だから……そろそろ、出ていこうと思って」
リサは黙っていた
私は言葉を足した
「働ける場所があるって、教えてもらったし、これ以上、お世話になるわけにはいかないから」
「ハロには話した?」
私は首を横に振った
「まだ寝てるから。 それにきっとハロルドは心配するだろうし、これ以上は迷惑かけたくないの。 手紙を書いて置いてあるから」
リサは私の背後の扉へ目を向けた
それから、また私へ顔を戻す
「じゃあ、今から起こして話してきなさい」
「でも、熱は下がったけど、まだ寝てないと」
「起きてエルザがいなくなってる方が身体に悪いわよ!」
私は返事ができなかった
リサは一度腕を下ろし、肩を回す
それから、もう一度両腕を広げた
ずっと上げているのは疲れたらしい
「とにかく、黙っていなくなるのは禁止!」
「そこ、通してくれないの?」
「通れるわよ」
「え?」
リサは広げていた両腕を下げて、横へ一歩ずれた
通り道ができた、私はそこへ目を向ける
「最後に決めるのはエルザよ、あなたの好きなようにしなさい。 でも、エルザは本当にそれでいいの?」
私はリサを見た
「本当に出ていきたいなら、止めないよ。 でも、ここにいたいって思ってるなら、ちゃんと、ハロに言ってきなさいよ」
私は俯いた
「私……言ったよ……。 最初の約束は忘れてほしいって言われて、ハロルドにどう思われるか怖かったけど、上着をぬいで、私のこと欲しくないのって、なんでもするって……」
それが……私ができた、精一杯の告白だった
「でも…… そんなこと、私にはして欲しくないって、俺のことは忘れろって言われた。 それに、ハロルドには好きな人がいるの。 だからもう、迷惑はかけたくない」
リサは私を見ていた
「エルザは、ハロのことが好きなんでしょ!?」
喉の奥が、詰まった
私は灰色の服を握り締めた
「……うん」
「それをはっきりと、ハロに伝えた?」
私は首を横に振った
「私みたいなものでも、欲しがってもらえたら良かったんだけど」
リサは小さくため息をついて私を見つめた
「エルザは、物じゃないでしょ」
そう言われて、ずっと押さえていた気持ちが胸をついた
リサにこんなことを言っては駄目だと分かっている
それでも……
「だって……」
止められない
「だって! 好きなんて言えないよ! 私は私を許せない、そんな図々しいことを言う資格なんか私にはないのよ!」
私は俯いて、唇を噛んだ
それでも、言葉は止まらなかった
「ハロルドから言ってくれたら私だって……でも、私からそんなことは言えない! リサなんかに分かるわけない! 私が私を許せないもの! 綺麗なあなたに、私の気持ちなんか分かりっこないよ!」
「私は子供なんだから、分かるわけないじゃん! 自分を許せないの? だったら私が許してあげる! 私がエルザを許すわ! だから、私の導きに耳を貸しなさい!!」
リサの声は、はっきりしていた
「エルザは助けてもらったから、ハロルドの奥さんになりたいの?」
私はまた、首を横に振った
「そうじゃない……」
「じゃあ、それを言ってきなさい。 バカにははっきり言わないと分かんないのよ。 ハロが言わなくても分かってくれるなんて無理だから!」
なんだか、リサが言う事は滅茶苦茶だ……
だからかな……少しだけ笑いそうになった
リサに困らされるハロルドが笑う顔を思い出したから
私は背後の扉へ目を向けた
「それでも、駄目だったら?」
リサは少し黙った
それから、私の袖をそっとつかんだ
「私の胸で泣かせてあげる! 仕事が決まるまでママの家に住まわせてあげる! 一緒に連れて帰って朝ごはん作ってあげるわ!」
リサは嬉しそうに笑って、自分の鼻の下を指でこすった
「でも、エルザはハロとご飯を食べたいんでしょ?」
私は頷いた
頷くと、我慢していたものがこぼれそうになった
「うん……」
「だったら、もうひと勝負よ! ハロに好きな人がいようが、真っ向からぶつかってきなさい!」
リサは私の両肩へ手を置いた
くるりと、家の方へ向きを変えられる
「女は度胸! はい、戻る! それでハロを起こす! ぜーーーんぶ、ハロに言いたいことを言う! それでいいのよ!」
私は閉じた扉を見つめた、机の上に残した手紙を思い出す
ありがとうも、大丈夫も、そこには書いた
でも、一番言いたかったことは書けなかった
「……分かった。 リサって……不思議な子だね……」
「自分でもそう思うし、それが私の悩みよ。 次はエルザが私の相談にのってよ~」
私はリサを振り返った
「もう一度だけ、頑張ってみるよ……」
リサは、ようやく大きく息を吐いた
「うん、それでよし!」
私は扉の取っ手を握り、そっと開けた
家の中へ戻ると、リサも後から入ってきた
灰色の服を脱いで畳もうとしたけれど、指がうまく動かなかった
リサがそれを受け取ってくれた
「ありがとう」
「どういたしまして」
私は顔を上げ、店の中をゆっくりと見回した
さっきまで、もう二度と入れないと思っていた場所
ほんの少しだけ外に出ただけなのに、もう懐かしく感じる
全身で感じる空気が暖かい……それにハロルドの匂いがする
でも……リサには言えなかった
私はリサを言い訳にして
もう少しだけハロルドの傍にいてもいいと自分を納得させただけ
私はやっぱり……言えない……




