Day Five ep.3
朝食を食べ終えると、俺は食器を片づけ、適性検査に使う魔道具を取り出した
丸い台座の中央に、透明な石がはめ込まれている
「ここへ手を置いて。 使える魔力があれば、石が光るんだ」
リサちゃんが手を載せ、俺は台座へ魔力を送った
しばらく待っても、石は反応しなかった
念のため、もう一度確かめる
結果は変わらない
「ないってこと?」
「うん、適性は見つからなかった。 魔法の才能がある人は千人に一人って言われてるからね」
リサちゃんは大きく息を吐いた
「そっか~……天使様ってケチだな……それくらいサービスしてよ~」
「リサちゃんは、料理があんなに上手じゃないか」
「料理はもう作ってるもん。 違うことも、できたらよかったのに」
彼女は少し黙ってから、俺を見上げた
「困ったら、助けてくれるんだよね?」
「もちろん」
「なら、いいや」
ようやく笑ったリサちゃんが、今度はエルザへ顔を向けた
「エルザも、やってみなよ。 検査したことある?」
「ないけど……私も?」
「調べるだけなら、すぐ終わるよ」
俺が椅子を寄せると、エルザは少しためらってから石へ手を載せた
やがて中央に、淡い光が浮かぶ
「光った!」
リサちゃんが声を上げた
小さいが、確かな反応だった
「これ、私が?」
「うん、適性があるね。 ただ、魔力の量はあまり多くない。 いろいろな魔法を使うには厳しいと思う」
「そっか……ちょっと期待しちゃった」
「でも、充電ならできるよ。 俺の店でも毎日やっている仕事だ」
俺は棚から小さな魔道灯を取り出した
修理を済ませたものだが、まだ魔力を入れていない
「少し、試してみるかい?」
「私にできるの?」
「最初は俺が手伝うよ。 疲れたら、すぐにやめよう」
エルザが頷き、魔道灯へ手をかざす
俺は彼女の手首へ指を添え、弱い魔力を送った
「手を通る感覚を覚えて。 それを真似して、自分の中から少しずつ送るんだ」
彼女は目を閉じた
「なんか……温かいものがある感じ。 これ……ハロルドの治療の時の……」
「うん、その感じだよ」
俺が指を離しても、淡い光は彼女の手から流れ続けた
量は少ないが、途切れずに入っている
「そこまででいいよ」
俺がつまみを回すと、小さな明かりがついた
「これ……私が入れたので? ハロルドのじゃなくて?」
「俺はやり方を教えただけ。 これは、君の魔力だよ」
「すごいじゃん、エルザ!」
リサちゃんが彼女の肩へ手を置いた
エルザは明かりを見つめたまま、少し笑った
「本当に、できた……」
「こういう小さい魔道具だけでも、充電の仕事はあるよ」
彼女は明かりと俺の顔を見比べた
「これ、ハロルドがいつもしている仕事なんだよね?」
「ああ、そうだよ」
「そっか……私にも、できるんだね。 ハロルドの役に立てるんだ」
彼女は自分の手を見て、嬉しそうに笑った
「これで、お金をもらえるの?」
「うん、魔道具は使えば魔力がなくなるから、充電の仕事は途切れない。 町には小さい魔道具の充電所もあるし、元気になれば充電士として働けるよ」
「私が……?」
「紹介できる店もあるから、元気になったら考えればいい」
「え? そんな……だって……」
そこまで言って、エルザは俯いて何も言わなくなった
俺は内心安心した
病気が治っても、暮らしていく方法がなければ、エルザは俺を頼るしかない
俺の家にいるほかは、選べない
だが、これなら違う
自分の力で働いて、自分で食べていける
誰かの機嫌をうかがわなくても、身体を差し出さなくてもいい
「よかった……安心したよ」
俺は思わず呟いた、するとエルザが顔を上げた
「そんなに……よかった?」
「もちろんだよ。 君が一人でも暮らしていけるんだから」
エルザは俺から目を離さずに見つめている
「私が一人で暮らせると……ハロルドは嬉しいの?」
俺は続けた
「そりゃ嬉しいさ。 急いで働こうとしなくていい、今は身体を戻すことが先だからね」
エルザは小さく頷いた
「うん」
リサちゃんが、そんな俺の顔を見上げていた
「ハロのお店にエルザは住むんだよね? じゃあ、また見に来てもいい? 私もエルザとお話したいから」
「もちろんいいよ」
エルザがリサちゃんを見た
「来てくれるの?」
「来るよ~、エルザが心配だからね~」
リサちゃんはそう言って笑った
俺は検査の道具を片づけた
エルザには、もう少し休んでもらった方がいい
ベッドへ戻ろうかと声を掛けると、今は椅子で休みたいと言った
リサちゃんもそばの椅子へ座った
二人は話を続けている
俺は食器を洗い、昼食の準備をした
リサちゃんがキッチンをのぞき込む
「ハロ、まだあげたスープ残ってる?」
「ああ、あと一食分くらいは残ってるよ」
「じゃあ、それに足して、もっと作っといてあげる。 まだエルザには体力がないもの、困らないようにしておかないと」
「いいのかい?」
「ポトフにするから、これならエルザにも良さそうだし。 一番大きな鍋を出してよ」
俺は家にある一番大きな鍋を出してコンロに置いた
「材料は?」
「野菜ならそこの棚に沢山あるよ、お客さんがよくくれるんだ」
リサちゃんは棚を開けて野菜を取り出した
玉ねぎと、にんじん、じゃがいもに、キャベツ
エルザが立ち上がってキッチンに入ってきた
「リサ、私も手伝ってもいい?」
「いいよ~!」
俺は驚いてエルザを見た
「ちょっとまって! エルザは寝てなきゃ!」
するとリサちゃんが俺の耳をつねってひっぱった
「エルザはもう大丈夫だって! 私が見てるから、ハロは鶏肉を買ってきて。 むね肉かささみね、皮ははいでもらって」
「いや、そんなことよりエルザは――」
「煩いわね束縛男!! エルザの好きにさせなさい!」
「う……」
痛いところを突かれた……エルザには好きに生きて欲しい……
なにか意味合いが違う気もするが……
心配だからってエルザの意思を無視するのは違う
俺は大きくため息をついた
「わかった、エルザは絶対に無理はしないで」
「うん、ありがとう、ハロルド」
俺はコートを着て玄関扉を開けた
一度リサとエルザに目を向けると、二人は楽しそうにおしゃべりをしながら料理をしている
確かに、心配しすぎか……
束縛男か……相変わらずリサちゃんはグサグサ刺してくるな……
家を出て念のためカギを掛けた
そして足早に肉屋へ向かった




