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Day Five ep.2

小さな物音で、俺は目を覚ました


窓から光が差している、なんだか空気が澄んでいるように感じる


今日は……夢を見なかった


こんなによく眠れたのはいつ以来のことだろうか


身体を起こし、ソファーに座る


すると目の前で、雑巾を手にしたエルザが振り返った


「おはよう、ハロルド。 ごめんなさい、起こしちゃった?」


「おはよう……」


俺はそこで、ようやく気がついた


エルザが立っている


「って! エルザ!?」


慌てて立ち上がると、彼女も驚いたような顔をした


「ど、どうしたの?」


「どうしたじゃないよ。 歩いて大丈夫なのか?」


「うん、今日はすごく調子がいいの。 ほら」


彼女は俺の前でゆっくりとだが歩いた


昨日までのように、膝が崩れることはなかった


俺はほっとした


だが、雑巾を持つ手に目が移る


「それでも、掃除はまだ早いよ。 やっと歩けるようになったばかりじゃないか」


「少しずつやってるから、疲れたらちゃんと休むよ。 それより、ハロルドの方が疲れた顔してる」


「俺は大丈夫だよ、寝たから」


俺は彼女のそばへ行き、顔をよく見た


発疹はまだ残っているが、顔色はよくなっていた


「……分かった。 でも、朝食を食べたら休んでくれる?」


「うん。 それまでは、私だって何か役に立ちたいの」


俺は寝室を出て、足を止めた


廊下も店も綺麗になり、作業机には拾い集めた部品が並んでいる


「こんなに……」


やっと立てるようになった身体で、どれだけ動いたのだろう


今すぐ寝かせたいが、朝食まではいいと約束してしまった


早く食事を用意して、休んでもらおう


俺は急いで鍋を火に掛け、パンを切って卵を焼いた


「エルザ、出来たよ! 今日は机で食べるかい?」


「はーい、今そっちに行くねー」


エルザはゆっくりと寝室から出てきた


その手にはほうきが握られていた


拭き掃除が終わった後も何かやっていたらしい


エルザはほうきを壁に立てかけて椅子へ座ると


少し長く息を吐いた


「ふーー」


「やっぱり、疲れたんじゃないか?」


「少しだけ。 リハビリ中ですから~」


彼女は笑った


「でも、歩けて嬉しいし、凄く楽しい」


俺はその顔を見て笑った


「俺も嬉しいよ。 でも、食べたら休む約束だからね」


エルザは壁に立てかけたほうきをちらりと見た


「……覚えてます」


名残惜しそうな顔に、俺は少し笑ってしまった


それからいつもの天使様への祈りの言葉を言って


二人で手を合わせて食べ始める


エルザは卵を見た


「今日は、目玉焼きもあるんだ」


「少しずつ、ほかのものも食べようと思ってね。 今のエルザなら、きっと食べられるよ」


「うん、美味しそう。 ハロルド、こういうのも作れるんだ」


「一人暮らしが長いからね、卵を焼くくらいはできるさ」


「それも、歳をとってるだけってこと?」


「そういうことだよ」


エルザは嬉しそうに笑ってからフォークで小さく切り、口へ運んだ


「おいしい。 ハロルドは天才シェフだねー」


「よかった、でもそれは言い過ぎだよ」


俺も自分の卵を食べて、向かいに座ったエルザを見る


ベッドのそばで食べる時とは違う


俺が見ていると、すぐにエルザと目が合った


「どうしたの?」


「ここで一緒に食べるのは初めてだと思ってね」


「うん、また、ここで食べたい」


「ああ、ここで食べよう。 ただ……」


俺は机の上に並べられた部品を見る


「もう少し、女性が住みやすい家に変えないとね」


「私はこのままでも住みやすいよ」


そこで俺は思いついた


「そうだ、ベッドをもう一つ買わないと。 しばらくはソファーでもいいけど、いつまでも俺のベッドなんかにエルザを寝かせるわけにもいかない」


エルザは食事の手を止め、俺を見る


「ベッドは……いらない。 あのベッドは大きいし、ハロルドも一緒に寝ればいいんだよ」


「俺がエルザと一緒に寝るわけにはいかないよ」


「え?」


エルザは小さく目を見開いた


その時、店の扉を叩く音がした


俺は立ち上がり、入口へ向かう


扉を開けると、リサちゃんが立っていた


「ハロ~、来たよ~」


「おはよう、リサちゃん」


「検査、してもらっていい?」


「もちろん。 ちょうど朝食を食べていたところだけど、そのあとでよければ」


「お邪魔だった?」


「そんなことはないよ、入って」


俺はリサちゃんを招き入れた


キッチンへ行くと、エルザが立ち上がってリサを見る


リサちゃんも、すぐに彼女へ目を向けた


「こんにちは、リサです。 リサでいいよ」


「エルザです、私もエルザで」


エルザは少し緊張しているようだった


俺は二人の間へ入った


「スープを作ってくれた子だよ」


エルザの顔が明るくなる


「あのスープの? ありがとう、すごくおいしかった」


「よかった~」


リサちゃんは嬉しそうに笑い、エルザのそばへ来た


「今日は起きていられるの?」


「うん、少しなら歩けるようになったの」


「よかったね。 ハロ、ちゃんとエルザの役に立ったんだ」


「ちゃんとって……」


俺が言うと、リサちゃんは笑った


「褒めてるんだからいいじゃん」


エルザも小さく笑う


リサちゃんは俺を見た


「次は、ハロの疲れ果てた顔をなんとかしないとね」


「そ、そうかな……?」


俺は自分のほほを手でなぞって髭の感触を確かめた


エルザが頷いた


「無理しないでって言ってるんだけど、ハロルドは全然、聞いてくれないの。 リサからも言ってよ」


「いや、それはエルザのことじゃないか」


「分かる~、ハロって、そういうとこあるよね。 人には言うくせに自分はやらないの。 そういう時はね、ハッキリ意見を言えばいいのよ。 ハロって女の子に弱いから、押せば譲るわ、譲ってくれるまで頼めばいいのよ」


「そうなの? あ、でもそんな感じした! すぐに悪い子に騙されちゃいそう……」


「実際ハロって前に一回騙されてるから、花を売り歩いてる子がいてさ、全部売らないと帰れないって言われたもんだからハロが全部買ってあげてたのよ。 でもその子には旦那も子供もいてさ、花売りは自分のお小遣い作りだったんだから」


「ちょっと目に浮かぶかも……なんか可哀そう……」


「別に変な下心とかなかったからね! 困ってたから買ってあげただけだから。 リサちゃん! そんな昔の話をエルザにしないでよ」


リサちゃんとエルザは初めて会ったばかりなのに、なにやら馬が合うようだ


俺は自分の席へ戻り、残っていたパンを食べる


二人はその間も話をしていた


リサちゃんは俺の家へよく遊びに来ていたことや、小さい頃にここに預けられたこともあることまで話している


「赤ちゃんの頃からなんだ」


エルザが言うと、リサちゃんは頷いた


「そうだよ~。 だから、私は娘みたいなもの。 ハロには何でも言って甘えていいの。 永遠に私を保護するって約束だってしたんだから」


「そんな約束はしてないけどね」


「え~、したじゃ~ん」


エルザが声を立てて笑った


俺は少し驚いた


俺と二人でいる時より、話しやすいのかもしれない


話せる相手が増えるのは、いいことだ



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