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Day Five ep.1

私が目を覚ますと、部屋はまだ静かだった


あんなに苦しかった胸が、今は苦しくない


あんなに重かった身体が、今は軽くなった


窓の外は明るくなり始めている


ベッドの上で、ゆっくりと身体を起こした


昨日までとは全然違う


袖をめくって腕を見ると、斑点はまだある


でも、最初にここへ来た時より薄くなった


私は腕の斑点に指先でそっと触れた


本当に、治るのかもしれない


ソファーを見ると、ハロルドが横になって毛布を掛けて眠っていた


片方の手が床へ落ちている


昨夜も、私が眠ったあとまで治療してくれていたんだろう


私はベッドの端へ身体をずらした


両足を下ろすと、床が冷たかった


少し待ってから、ベッドの縁へ手をついて、ゆっくりと立ち上がった


「あ……」


思わず声が出て、私は口を押さえた


ハロルドは動かない


もう一度、自分の足を見る


立てていた、昨日みたいに、膝から崩れたりしない


私はベッドに手をついたまま、少し足を動かした


一歩、歩けた、またもう一歩


急がなければ、大丈夫そうだった


嬉しくなって、私はハロルドの方を見る


教えてあげたい、でも、ゆっくりと眠っていてほしかった


私はそっとハロルドに近づいて顔を覗き込んだ


床へ落ちていた手をソファーの上へ戻して、毛布を掛け直した


すると、ハロルドは小さく息を吐いた


起こしてしまったかと思ったが、目は閉じたままだった


私は少しの間、ハロルドの寝顔を見ていた


男の人は……大嫌いなはずだった


それなのに、ハロルドの顔を見ていると、胸が暖かくなって落ち着かない


ハロルドだって男の人なのに


私はこの人のそばにいたい


名前を呼んでくれるだけで嬉しかった


笑いかけてくれると、暖かいものが広がって、もっと笑ってほしくなった


ハロルドは、私が好きになった人と結婚すればいいと言ってくれた


それなら、ハロルドがいい


でも、ハロルドは……私じゃない方が、いいのかもしれない


最初は奥さんにしてくれると言ってくれたのに、昨日は、結婚しなくていいと言われた


当然のことだと思う


私は何もできないし、身体中に赤茶色の斑点があって痩せ細ってる


ハロルドが魅力を感じてくれるわけがなかった


でも、身体が綺麗になれば、ハロルドが喜んでくれるかもしれない


ハロルドの持っていた本には、私に似た子の写真もあった


掃除や洗濯をして、料理も覚えて、身の回りのお世話ができたら


奥さんは無理かもしれないけど、いらないとまでは思わないかも


ハロルドは昔のことが原因で、奥さんが見つからないみたいだ


奥さんが見つかるまでは、きっと私でも傍に置いてくれる


いないよりはいいはずだもの、ちゃんと役に立てば大丈夫


それに、あんなにたくさんのことをしてもらった


私だって、ハロルドのために何かしたい


疲れて眠っているこの人に、少しでも楽をしてほしかった


起きた時に喜んでくれたら、私も嬉しい


私は足音を立てないように、そっと寝室を出た


初めて、自分の足でこの家を歩く


廊下に立て掛けてあったほうきを手に取り、寝室から離れたところを掃き始めた


店へ行くと、私が最初に寝かされていた作業机があった


その下には、小さな部品や道具が散らばっている


ハロルドは、片づける暇もなかったんだろう


何に使うものか分からないので、なくさないように拾って机の上へ並べた


少し息が上がって、椅子に座る


やっぱり、まだ元気になったわけじゃない


それでも、休めばまた動けた


キッチンでは乾いた食器を棚へ戻した


一人で暮らしていたわりには、お皿もコップもたくさんあった


洗面所でバケツと雑巾を見つけ、棚の埃も拭いていく


何度か休みながら、家は少しずつ綺麗になっていった


その間も、ハロルドは起きてこなかった


私は廊下へ戻り、まだ入っていない部屋の前で止まった


扉が少し開いている、中には本棚が見えた


「ここも……」


私は小さく呟き、扉を押した


書斎のような部屋だった、本がたくさん並んでいる


机の上にも積んであった


見たことのない小物や、古い鞄も置いてある


ほかの部屋より、静かな気がした


私は入口のそばへバケツを置き、机に近づいた


その端に、服が畳んで置いてあった


黒色の服だった、右の胸のところが大きく焼け落ちている


焦げた布の端は、形が崩れていた


血の跡らしいものも残っている、私は、その服を見つめる


ハロルドの右胸にあった傷跡と同じ場所


あの傷を負った時に着ていたものだろうか


服の横には、拳銃があった


そのそばに、手紙と写真が置いてある


私は写真を手に取った


軍服を着た、若いハロルドが写っている


隣には、同じように軍服を着た女の人がいた


ハロルドは彼女の肩へ腕を回し、笑っていた


女の人も笑いながら、彼へ身体を寄せている


こんな顔も……するんだ


昨日も、笑ってくれた


私を見て、安心したような顔をすることもある


でも、この写真の顔とは違った


隣の女の人へ、私は目を向ける


とても綺麗な人だった


二人は、とても仲がよさそうだった


机の上へ視線を戻す


手紙がある、何が書いてあるんだろう


私は手を伸ばしかけたが、途中で止めた


ハロルドは、私にこの部屋のことを話していない


写真の人のことも、聞いたことがない


私なんかが、勝手に読んではいけないと思った


この写真も……私なんかが勝手に見ちゃ駄目だったかもしれない


私はそっと写真を元の場所へ戻した


この部屋は、掃除しないでおこう


それからバケツを持って廊下へ戻り、部屋の扉を閉めた


胸の中に、何かが残っていた


あの女の人は、今どこにいるんだろう


どうしてハロルドと一緒にいないんだろう


聞いてみたい


でも、聞いていいのか分からなかった


古い写真だった……


机の上に置いてあって埃もかぶっていなかった


ハロルドは今もあの写真を、よく見ているのだろう


ハロルドの……本当に大切な人の写真


私なんかが……踏み込んじゃだめだと思った


私は椅子に座って少し休んでから、寝室へ戻った


ハロルドはまだ眠っている


私は少しだけ窓を開けて、出来るだけ音を立てないように拭き掃除を始めた






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