Day Four ep.3
家へ戻り、鍵を開けて中に入った
コートを脱いで、様子を確認しようと寝室を覗くと
エルザはベッドに座っていた
「お帰り、ハロルド」
そう言ったエルザの目線は下を向いたままだった
「ただいま」
俺は少し不思議に思ってエルザの目線の先を見る
一瞬で身の毛がよだった
「エ、エルザ!? それは!」
エルザが膝の上に載せた本をぺらりとめくる
「ハロルドって、おっぱいが大きい子が好きなの?」
エルザが読んでいる本、それは俺がベッドの下に隠しておいた大人の本だった
俺は慌ててエルザに歩み寄って本を取り上げようとした
だがエルザはひょいっと本を持ち上げて俺の手をかわす
「ちょちょちょ、それは返してよ!」
「やだ」
「なんで!? エルザには興味ないだろ?」
「あるよ、ハロルドの好みを知りたいもん」
エルザはぱたんと本を閉じた
「全部で五冊、どれもおっぱいが大きい子ばっかり」
「五冊……?」
俺は嫌な予感がした
よく見ると寝室にある椅子に置いたはずの水差しとコップは床に置かれ
かわりに俺の大人の本四冊が綺麗に重ねて置かれていた
エルザは俺が折り目を付けておいたページを開いて俺に見せてきた
「ほら、この子とか、私に似てるかもって」
エルザは自分の胸に手を置いた
「私もおっぱいは結構大きいよ。 だから……良かったなって」
「よくない!?」
「あ、そうだよね……病気の斑点が凄いし……でも跡が消えたら私だって……」
「違う! 本の話だよ。 返しなさい!」
「もう全部見たから、いいよ」
そう言うと、エルザは手に持っていた本も椅子の上の本に載せた
本同士がピッタリと重なるように綺麗に整えてから、俺をみてにこりと笑った
そんなエルザを見ていると、大人の本が母親に見つかった時のような気分になった
綺麗に重ねられた本は、なぜか片づけにくく感じた
エルザは俺の手元を見る
「なにを買ってきたの?」
「ああ、またスープを貰ってきた。 エルザは栄養を取らないといけないだろ。 さっそくお昼を食べよう」
俺は貰ったスープを器に分け、パンも用意する
寝室へ持っていくと、エルザが少し身体をずらした
俺の座る場所を空けてくれたらしい
諸事情により、部屋に一つしかない椅子は満席だった
彼女にスープとパンを渡して俺もベッドに座る
エルザの祈りの言葉を聞いて二人でいただきますと言った
俺はスープを一口食べる、根野菜が柔らかく煮えていた
野菜の味と、肉のうまみが汁に出ている
俺は思わず息を吐いた
「うまいな……」
これは栄養がある気がした
エルザも頷いた
「うん、おいしい」
「俺が作るのとは、大違いだ」
「私が作っても、このスープと比べられたら同じかも。 このスープはどこで買ってきたの?」
「友達から貰ったんだよ。 リサちゃんって言ってね、昔から仲がいいんだ」
「女の人?」
「え、まあ、そうだよ」
エルザはまじまじとスープを見つめた
「これは……勝てないかも……。 そうだよね、ハロルドにだってそういう子とかいるよね、お金だってあるみたいだし、そういうことしたい時だって、あったはずだし、私と出会う前の話なんだし……一人くらいいても……」
「エルザ? なにか誤解してないかい?」
エルザは悲しそうな顔で俺を見た
「他にもいるの?」
「リサちゃんは友達の娘で、まだ十二歳だからね」
「え!? ハロルドって幼い子が好きなの!? だって、この本は違ったじゃない!」
エルザは椅子に綺麗に重ねた本を指差した
「ち、ちがうよ! 赤ちゃんの頃から知ってる子で、親戚の子みたいなもんさ」
「ほんと!? よかった……」
俺は笑った、本当のエルザは表情が豊かな子なのかもしれない
少しずつ元気になっていくのが嬉しかった
二人で食事を続け、食べ終わるとエルザは満足そうに息を吐いた
「なんだか元気が出てきた、動けそうな気がする。 掃除くらいならできるかも」
「駄目だよ」
俺が答えると、彼女は少し口を尖らせた
「ちょっとだけ」
「そのちょっとで、昨日もふらついたじゃないか。 今は、休むのが仕事だよ」
「……分かった」
エルザは口を尖らせたまま横になって、毛布へ手を伸ばして頭からかぶった
「そんなに甘やかされたら……駄目になっちゃうよ……」
「今は駄目になってもいいだろ、掃除は元気になってからお願いするよ」
俺は食器を片づけてから寝室に戻ってきた
すると横になったはずのエルザが身を起こして窓の外を見ていた
起きていても辛くなさそうだ、会話をしていても表情に余裕があった
かなり回復してきている
それなら……
俺の視線に気づいてエルザが俺を見た
「ハロルド、どうしたの?」
「身体の調子がいいようなら、お風呂に入るかい?」
「お風呂?」
エルザは驚いたように目を開いた
「浴場までは歩けないよ。 それに、こんな身体じゃ入れてもらえない」
「そうじゃない。 うちの中で入るんだよ」
「ハロルドの家にはお風呂があるの?」
「小さいけどね。 身体を拭くだけより、気持ちがいいと思うよ」
エルザは少し迷ってから首を横に振る
「やっぱり、いい」
「入りたくない?」
「入りたいけど…… お湯をいっぱい用意しないといけないでしょ? ハロルドだって疲れてるのに」
「それなら大丈夫だよ」
俺はエルザの背中と膝の下へ腕を差し入れ、そっと抱き上げた
エルザは少し驚いた顔をしてから、俺の肩につかまる
そのまま浴室へ運び、服を着たままの彼女を椅子に座らせた
目の前には、空の浴槽がある
俺は袖をまくって、その中へ手を入れた
「見ていて」
呪文を唱えると、俺の手から水が流れ始めた
エルザは目を丸くして、流れ出る水を見つめた
「すごい……」
俺は水をためながら、彼女を見る
「君の身体を拭く湯も、こうして作っていたんだよ」
「こんなに出せるんだね」
「普通の魔導士が同じ魔法を使うと、この家ごと吹き飛ぶんだけどね。 俺が使うと、井戸の代わりだよ」
「それじゃ、私が飲んでるお水も魔法で出した水だったの?」
「いや、あれは井戸の水さ。 俺から出た水はほんのりとだけど苦いんだよね。 別に飲んでも大丈夫なんだけど、なんとなく嫌だろ?」
「私はハロルドから出た水、飲んでみたい」
「……なんとなく、エルザに飲ませるのは忍びない気がする」
「なにそれ?」
「男心ってやつだよ」
「……なにそれ?」
浴槽に水がたまると、次は火の魔法を使う
手をつけたまま、少しずつ温めると、やがて湯気が上がり始める
俺は手を動かして温度を確かめ、魔法を止めた
「できあがり」
エルザは湯船を見ていた
「魔法って、便利なんだね」
「こういう時はね」
俺はタオルと石鹸を手に取った
前に買っておいたシャンプーもある
「まだ、エルザ一人で入るのは心配だから、俺が洗うのを手伝ってもいいかな? 嫌なら、湯につかるだけでもいいよ」
エルザは俺を見た
「ハロルドなら嫌じゃない。 洗ってくれたら嬉しい」
「分かった」
俺は浴室を暖め、着替えを手の届くところへ用意した
エルザが服を脱ぐのを手伝う
身体の前にはタオルを掛け、椅子へ座り直させた
足元から、ゆっくりと湯を掛ける
「温かい……」
エルザは長く息を吐いた
「気持ちいい」
「つらくなったら、すぐに言ってね」
「うん」
俺はエルザの背中にも湯を掛けた
それから彼女の後ろに腰を下ろす
「頭を洗おう、少し後ろへ倒れて」
エルザは俺の手を借り、ゆっくりと頭を後ろへ傾けた
俺の膝に、エルザの後頭部を載せる
片手で頭を支えながら、髪へ少しずつ湯を掛ける
「ハロルドの服、濡れちゃうよ」
「いいんだよ。 そろそろ洗濯するつもりだったから」
「それ、理由になると思う?」
「なるとも。 それとも、裸のおじさんの足に乗りたいか?」
エルザが小さく笑った
「乗りたいよ」
俺も少し笑ってシャンプーを手に取る
泡立てて髪に付けてから指の腹で頭皮を優しく揉むように洗った
エルザは目を閉じた
「気持ちいい……」
「痛くない?」
「うん、ハロルドの手が凄く気持ちいい」
俺は絡まった髪を少しずつほぐす
「これも魔法なの?」
「これは違うよ。 軍で、けが人や病人の世話をしていた時に、毎日のようにやっていたから、慣れているだけさ」
「そうなんだ……」
エルザは目を閉じたまま答えた
俺は髪の泡を湯で流し、頭を支えながら彼女の身体をゆっくり起こした
髪の水気をタオルで軽く押さえる
それから別のタオルに石鹸を泡立て、肩から背中へとそっと洗っていった
エルザは力を抜き、俺に身を任せてくれていた
「身体の前側は、自分で洗える?」
「うん、洗えるよ」
タオルを渡し、洗い終わるのを待って湯で流す
それから身体を支え、湯船へ入るのを手伝った
「ふう……」
肩まで湯につかったエルザは、目を閉じて長く息を吐いた




