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第3話「はじまりの装備」



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## ■第3話「はじまりの装備」


森を抜けた先にあったのは、小さな集落だった。


木と土で作られた家々。煙の上がる炉。

そして――風太に向けられる、無数の視線。


「……珍しい」


「人族……?」


「それより、あの服……」


ざわめきが広がる。


風太は苦笑した。

どう見ても“異物”だ。


(そりゃそうか……)


隣を歩く獣耳の少女が、小さく言った。


「気にしないで」


「慣れてるのか?」


「……外の人、たまに来る」


そう言って、彼女は一軒の家の前で止まった。


「ここ。村長」


---


事情を説明するのには、少し時間がかかった。


空から落ちてきたこと。

飛ぶ道具を持っていたこと。

記憶はあるが、身分はないこと。


すべてを話したあと、村長は静かに頷いた。


「……嘘には見えんな」


白髪の老人は、風太をじっと見つめる。


「お主、行くあてはあるか?」


「ない」


即答だった。


「ならば――ナフニ王国へ行け」


「やっぱりそこか」


「冒険者になれば、身分も得られる。食い扶持にも困らん」


理にかなっている。


風太は頷いた。


「どうやって行く?」


「街道を南へ三日。小さな町がある」


そこで村長は、少しだけ笑った。


「ただし、その格好ではな」


風太は自分の服を見る。


明らかにこの世界のものではない。


「……だよな」


---


翌朝。


簡単な食事とともに、風太は村を出た。


少女――リナ(と名乗った)は、村の入口まで見送りに来ていた。


「……気をつけて」


「ああ。助かった」


少しの沈黙。


「また来る」


「……うん」


短い別れだった。


だが、それで十分だった。


---


三日後。


風太は、ナフニ王国の外れにある小さな町へとたどり着いた。


石造りの門。行き交う人々。

荷馬車、商人、そして――


「……ファンタジーだな」


思わず呟く。


剣を下げた男。ローブの女。

明らかに“冒険者”らしき人々。


胸が少しだけ高鳴る。


(ここから、始まる)


まず向かったのは――


「……装備だな」


---


通りの一角に、それはあった。


武器と防具、そして雑貨が並ぶ店。


扉を開けると、鈴が鳴る。


「いらっしゃい」


カウンターの奥から、壮年の男が顔を上げた。


鋭い目だが、どこか柔らかい。


「見ない顔だな。新入りか?」


「そんなところ」


店内を見回す。


剣。革鎧。バッグ。ロープ。水袋。


(テンプレ一式あるな……)


男が口を開く。


「初心者か?」


「ああ」


「なら――これだ」


カウンターに並べられたのは、一式の装備だった。


「初心者セットだ。無難で、死ににくい」


風太は手に取る。


軽い革鎧。短剣。丈夫なブーツ。背嚢。

火打石に水袋まで揃っている。


「……いくらだ?」


「銀貨五枚」


風太は一瞬止まり――


(通貨分からん)


だがすぐに思い出す。


支度金。


金貨100枚。


(……高いのか安いのか分からんが)


とりあえず一枚取り出した。


男の目がわずかに見開かれる。


「……金貨か。ずいぶん持ってるな」


「まあな」


「釣りは出す」


男は手際よく銀貨を返してくる。


風太はそれを受け取りながら言った。


「あと、服も欲しい」


「裏にある。サイズは……まあ、それでいけるだろ」


---


しばらくして。


風太は完全に“この世界の人間”になっていた。


革鎧にマント。腰に短剣。


「……それっぽいな」


思わず呟く。


男が笑った。


「最初はそんなもんだ」


そして、少しだけ真剣な顔になる。


「死ぬなよ」


「努力する」


短いやり取り。


だが、それで十分だった。


---


店を出て、次に向かうのは一つ。


「冒険者ギルド……か」


町の中心に、それはあった。


大きな建物。看板には剣と盾の紋章。


中からは、ざわめきと笑い声。


扉の前で、一度だけ立ち止まる。


(ここから、本当に始まる)


深く息を吸い――


扉を開けた。


---


中は、熱気に満ちていた。


酒。声。金属音。


一斉に視線が集まる。


「……新人か?」


「また来たな」


「死なないといいがな」


好き勝手な声。


風太は気にせず、カウンターへ向かう。


そこには、一人の女性が立っていた。


整った身なり。冷静な目。


「ご用件は?」


「登録したい」


即答。


彼女は頷いた。


「では、こちらへ」


差し出されたのは、一枚の板。


「名前を」


風太は一瞬考え――


そして書いた。


「……風太」


ペンが止まる。


だが、すぐに続ける。


「風太・ヴェイル」


新しい名だった。


新しい自分。


受付の女性は確認し、頷く。


「登録を受理します。これよりあなたは――」


一瞬の間。


「ナフニ王国所属、冒険者です」


その言葉とともに、小さな金属板が手渡された。


ギルドタグ。


それは、この世界での“身分証”だった。


風太はそれを握る。


少しだけ、実感が湧く。


(始まったな)


その時。


背後から声がした。


「おい、新人」


振り返る。


大柄な男が立っていた。


「最初の仕事、決まってるか?」


風太は、わずかに笑った。


「いや、これからだ」


男はニヤリと笑う。


「なら――いい話がある」


物語は、次の段階へ進む。


風を操る冒険者の、最初の依頼へ。



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