第2話「墜ちる風」
## ■第2話「墜ちる風」
風は、確かに吹いていた。
大蔵風太――いや、“風になる者”は、目の前に現れたライトプレーンを見上げていた。
白い機体。簡素な骨組み。だが、そのすべてが理解できる。
構造も、操作も、風の乗り方さえも。
「……いける」
確信だった。
足をかけ、機体に乗り込む。
手に馴染む操縦桿。視界の先には、どこまでも広がる異世界の空。
「行こう」
エンジンはない。
代わりに――魔力が流れ込む。
機体が震え、浮き上がる。
草が揺れ、土が舞う。
「……っ!」
次の瞬間。
ふわりと、体が地面から離れた。
「浮いた……!」
思わず声が漏れる。
重力から解き放たれる感覚。
あの時と同じ――いや、それ以上だった。
「上がるぞ……!」
操縦桿を引く。
機体が応える。
ぐん、と高度が上がる。
森が小さくなっていく。
世界が広がる。
「はは……ははは!」
笑いが止まらない。
「飛べる……俺、飛んでる……!」
風が頬を叩く。
空気の流れが手に取るように分かる。
(読める……風が見える)
それは天気図で鍛えた感覚が、そのまま現実になったようだった。
気流。上昇風。乱気流。
すべてが“理解できる”。
「これなら――」
さらに高度を上げようとした、その時だった。
――ギィィン
「……?」
異音。
機体がわずかに揺れる。
「なんだ……?」
次の瞬間、頭の中に警告が走る。
――魔力循環 不安定
――出力過剰
「……は?」
理解が追いつく前に、機体が大きく傾いた。
「うわっ!?」
急激な横転。
風の流れが乱れる。
「ちょ、待て待て待て!!」
操縦桿を必死に引く。
だが、反応が遅い。
機体が悲鳴を上げる。
――バキッ
「まずい……!」
片翼にひびが入る。
(制御できない……!)
頭は理解している。
だが、体が追いつかない。
魔力の出力が強すぎる。
機体が耐えられない。
「くそ……っ!」
高度が落ちる。
森が迫る。
木々が、牙のように見える。
「落ちる……!」
その瞬間。
風太は、反射的に魔力を操作した。
「流せ……逃がせ……!」
魔力の流れを分散させる。
だが――遅い。
機体は完全にバランスを失った。
「うおおおおおお!!」
激突。
枝を折り、葉を散らしながら、機体は森へと突っ込んだ。
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静寂。
風の音だけが残る。
「……っ……」
風太は、ゆっくりと目を開けた。
「生きて……る……?」
体は痛むが、動く。
強化された肉体が衝撃を吸収したらしい。
「……はは」
乾いた笑いが漏れる。
「初飛行で墜落とか……最悪だな」
体を起こす。
周囲には、壊れた機体の残骸。
翼は折れ、骨組みは歪んでいる。
「……やりすぎた」
原因は明白だった。
出力過多。
制御不足。
「頭で分かってても……実際は別物か」
その時だった。
ガサッ――
「……!」
風太の動きが止まる。
気配。
誰かいる。
ゆっくりと振り返る。
木々の間から現れたのは――
「……人?」
少女だった。
獣の耳を持つ、小柄な少女。
手には槍。
警戒した目で、こちらを睨んでいる。
「……誰」
低い声。
だが、はっきりとした言葉。
風太は一瞬迷い――そして答えた。
「……通りすがりの、墜落者」
沈黙。
少女は壊れた機体を見て、目を見開いた。
「それ……何」
「……飛ぶやつ」
さらに沈黙。
やがて少女は、ぽつりと呟いた。
「……空から、落ちてきたの?」
風太は苦笑した。
「まあ、そうなるな」
少女はしばらく考え――
そして槍を少し下げた。
「……ついてきて」
「は?」
「ここ、危ない。魔獣くる」
その一言で、空気が変わった。
遠くから、低い唸り声が聞こえる。
「……マジか」
風太は立ち上がる。
壊れた機体を一瞥し――
「あとで回収だな」
そう呟いて、少女の後を追った。
森の奥へ。
それが、異世界での最初の“出会い”だった。
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