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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第11章 一般人から見た世界
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第347話 漁村の少年少女

ここから新章です。最初の主役はこの二人です。

 日本において田舎と呼ばれる地域は多い。今でこそ副首都という概念が生まれつつあるものの、それも一部の大都市だけ。

 人口の少ない山村や、漁村はまだまだ多くある。現在でも国内には180もの村があり、都市部の生活とは随分と違っている。

 未だに古いしきたりを守っている場合もあり、現代の価値観と合わない風土も残っている。例えば、この村についてもそうだ。

 新馬(しんば)村と呼ばれるこの村は、東日本の日本海側にある小さな漁村だ。豊漁を願う祭りや儀式などが、今も行われている。

 現代の基準で言えば、そんなものは意味がない。神頼みで何かが変わるというなら、是非とも証拠を見せて欲しい。


 都市部の人間ならば、大勢がそう返すだろう。もしくはストレートに、迷信を信じている愚かな情報弱者と見下すか。

 だが往々にして、現地の人々は古くから続く文化を大切にしている。自分達の代で絶やしてはならないと、必死に継承するのだ。

 それに都市部であっても、お祭りは行われ続けている。東京、愛知、大阪、福岡などの大都市であっても、その流れは変わらない。

 大切な文化の継承として、守り手が後世に残そうと奔走中だ。祭りに訪れる人々は、あくまで単なるイベントと思っているだろう。

 どういう意味のある祭りなのか、正確に把握している観光客は少数派だ。海外からの観光客なんて、もっとライトに楽しんでいる。


 だがこの新馬村では、それらと一線を画す勢いで信仰が続いている。アガツ様という村の神を、信心深く崇めているのだ。

 そもそも村の名前も、昔は神の馬がいる村、神馬村として名付けられた。もちろん神の馬こそ、アガツ様と呼ばれている神だ。

 平成へと元号が変わった際に、新馬村と改められただけ。今もこの村では、神様として馬の像を神社に飾って信仰している。

 村にある建物こそ改築や新築が増えて、現代的な光景が見られる。スマートフォンだって使われているし、インターネットも利用可能だ。

 ただどこか古風な雰囲気が漂い、昭和レトロな建物も残っていた。年季を感じさせる駄菓子屋、ガラスの曇った電話ボックス。


 畑に囲まれたバス停の近くには、木造の簡易待合所が建っている。長年雨風に晒されて、所々に痛んだ部分が見受けられる。

 しかし、利用者はそんな事を気にしない。今も朝日の下で、年若い少女が長椅子に座ってスマートフォンを触っている。

 歳は18ぐらいだろうか。まだ大人というには幼く、子供というには女性的。清楚な雰囲気を纏う、長い黒髪の少女だ。

 肩甲骨ぐらいまである髪は、艶があり手櫛も良く通るだろう。紺色のセーラー服を着ており、学生である事が分かる。

 座っているが恐らくは、160センチぐらいの背丈だろう。おおよそ女性の平均値から遠くない背格好をしている。


奈緒(なお)! おはよう!」


 バス停に向かって、畑の横を走りながら少年が手を振っている。健康そうな爽やかな顔立ちに、十分高い背丈。

 それなりに鍛えているのか、貧弱そうには見えない。畑仕事でも普段から手伝っているのだろう。もしくはスポーツでもやっているか。

 170センチはありそうな少年もまた、少女と同じ色の学生服を着ていた。恐らくは同じ学校に通っているのだろう。

 片田舎の村に、そう幾つも学校があるとは思えない。恐らくは小中高が一環の、小さな学校ではないかと思われる。

 奈緒と呼ばれた少女は、スマートフォンから目を上げて少年を見る。ニコリと笑って手を振り返しながら自分の横を叩いた。


(りょう)ちゃん、おはよう」


「ああ。奈緒はまた、本を読んでいたのか?」


「うん。本当は電子書籍より、紙の本が良いんだけど高いし……」


 書籍の価格高騰を嘆く少女は、佐伯奈緒(さえきなお)という名前だ。18歳の文学少女で、読書を好む博識で優しい高校3年生。

 彼女の隣に座った少年は、甘木亮介(あまぎりょうすけ)という同じく18歳の高校生。2人はこの村で生まれ育った幼馴染の関係だ。

 元々両親の仲が良かったのもあり、昔から一緒に居る事が多かった。学校に通い始めてからも、ずっと一緒に過ごしている。

 平日の朝はこうして、1時間に2本しかないバスに乗って学校へ行く。10年以上続けている日課であり、何も特別な事ではない。

 デートのような甘いものではなく、毎朝のルーティーンに過ぎない。それだけ一緒に居る事が、当たり前だという事。


「もうすぐ冬の祭りだよな。巫女役って誰がやるんだろ? 奈緒はどう思う?」


「うーん……去年卒業した麗奈(れいな)先輩じゃない? 東京に行きたがっていたし」


 ここ新馬村では、毎年冬の祭りで巫女役の女性を選んでいる。選ばれるのはいつも若い女性で、20歳以下である事が多い。

 選定基準を彼女達は知らないが、1つだけ分かっている事がある。それは巫女役をやった女性は、祭りが終わると村を出て行く。

 閉鎖的な村を快く思っておらず、東京などに憧れている者が大半だ。巫女役を最後の村への貢献としているのだろう。

 そう考えている若者が多く、奈緒と亮介も変わらない。例年通りであるなら、ギャルに憧れていた先輩だろうと考えた。


「でもギャル志望が巫女って、ちょっと変じゃないか?」


「え~そうかなぁ? 麗奈先輩綺麗だし」


「いやまあ、そうだけどさ。……奈緒の方が、似合いそうだなって」


 亮介が溢した最後の一言は、奈緒に聞こえないぐらいの小声だった。亮介は奈緒の事を昔から好いているが、告白は出来ていない。

 タイミングを見計らっては、上手く言えずに終わっている。卒業をする時までに、必ず告白すると意気込んでいた。

 しかし、そう考えてから半年以上経つ。もう季節は完全に冬で、そろそろ手袋とマフラーが必要になる時期だ。

 卒業までは半年も残っておらず、チャンスはそう多くない。時期的に狙うならば、クリスマスか年末年始。

 もしくはこの村で行う冬の風物詩、今年1年のお礼をアガツ様へと捧げる感謝祭か。そこを超えれば、もう目立つイベントはない。


 この冬を逃せば、卒業式が目前となる。あまりゆっくりとしていられない。そんな亮介は、内心で思っていた事がある。

 もし奈緒が巫女に選ばれたら、きっと良く衣装が似合うだろうと。そうであったなら、勢いに任せて告白出来るのではないか。

 つい足踏みをしてしまう自分でも、湧き出る想いで押し切れるのでは。などと無い知恵を絞って、色々と考えているのだ。

 しかし、仮に奈緒で無かったとしてもやりようはある。選ばれた巫女を褒める奈緒に対して、でも奈緒の方が綺麗だと伝える。

 ありきたりだし、少々……いやかなり昭和臭が漂う告白だ。今時そのような告白は古臭いが、彼はそう思っていなかった。


「亮ちゃん? 今何か言った?」


「い、いや! なんでもないんだ。そろそろ寒くなって来たなって、ははは」


「そうだねぇ。今年は雪が降るのかなぁ?」


 どうにか誤魔化した亮介は、天気の話題に切り替えた。そういうところがダメなのではないかと、指摘する者はいない。

 ここでしっかりと押せる男子であったなら、もう交際まで至っている。だが残念ながら、彼はここで躊躇ってしまう。

 恥ずかしいという思いと、フラれてしまったらどうしようという悩み。そして、奈緒にとって迷惑でないかという怯え。

 令和の時代は告ハラという言葉がある通り、脈のない相手からの告白はハラスメント扱いだ。男子としては、心理的ハードルが高い。


「もう高校生だし、今更雪では喜べないよ」


「そんな事ないよ。私は小さな雪だるまを作りたいな」


 成長して大人びた奈緒が、可愛らしく微笑んでいる。そんな彼女を見て、亮介は恋心を強く刺激された。

 子供っぽいかもしれないが、2人で雪だるまを作るのもいいだろう。亮介はそんな未来を描きながら、バスが到着する時を待った。

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