表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第10章 新たな関係性
336/337

第336話 適当すぎる支配者

 碓氷雅樹(うすいまさき)が修学旅行を楽しんでいる間、大江(おおえ)イブキは雷獣(らいじゅう)イツカの下へ向かっていた。支配者同士という立場があるので当然だ。

 どれだけイツカが適当な妖異だと言っても、支配者として尊重はせねばならない。雅樹を連れて来ているという点もある。

 以前に紹介をしているが、覚えているか怪しいところ。イツカのような妖異は、人間の顔を覚えておくのは困難だ。

 数ヶ月も経っていれば、十分忘れている可能性がある。人間に対する興味が低い妖異ほど、そうなる確率はどうしても上がる。

 人間はあくまで喰らう為の存在でしかない。その認識が変わっていない妖異は、残念ながらまだまだ多いのが現状だ。


 半妖である人間が妖異化を始めて、まだ二千年程しか経っていない。地位が向上するだけの実績が全く足りていないのだ。

 長野県の幽霊である巴御前(ともえごぜん)が、表立って成功例と呼べる数少ない事例である。それだって、人間の地位を向上させるには遠い。

 ようやく永野梓美(ながのあずみ)のように、人間と妖異のハーフが活躍を始めたところ。彼女にしても、生まれながらの妖異である。

 どれだけ梓美がこれから評価されても、人間の評価には直結しづらい。人間の価値に気づいている妖異は未だに僅かだ。

 その僅かな妖異であるイブキは、いつも通りグレーのSUVで山中を走っている。道なき道を進み、適当な場所で停車させる。


「イツカ、気づいているんだろう?」

 

 太陽が真上で輝く山中にて、降車したイブキが一声かける。山の少し開けた広場で、彼女が待っていると雷鳴が轟く。

 目を背けたくなるほどの強烈な閃光が一瞬で収まる。するといつの間にか、奇妙な体を持つ蜘蛛のような生物がイブキの前に居た。

 全長は1メートル程と、人間よりは小柄である。しかし蜘蛛にしては異様に大きく、全身に本来蜘蛛が持たない鱗を持っている。

 真っ黒な体に、8つの純白の目を持つ彼こそ雷獣イツカ。広島県の支配者であり、問題児として西日本では有名な妖異だ。

 パリパリと紫電を纏う姿は、立派に異形の化物をしている。だが残念な事に、口を開けば異様な雰囲気も霧散してしまう。


「なんだよイブキ~、また僕にお説教? 最近は何もしていないじゃないか」


「……お前は何もしなさ過ぎなんだけどね。まあいいや、今日の用事は別にある」


 支配者としての仕事をほぼ放棄し、好き勝手しているだけのイツカ。普通ならば下の者が反発するものだが、広島に限っては問題ない。

 イツカの配下が嫌な者は、とっくの昔にこの地を去っている。周辺の土地に行った方が、まともな支配が敷かれている。

 では全員が出て行ったかと言えば、そんな事はなかった。支配者なんて面倒だからやりたくない。でも支配圏には属したい。

 かと言って、イブキのようにまともな支配者だと息苦しい。適当に生きて適当に美味い思いがしたい。そんな妖異は少なくない。

 怠惰な妖異にとって、イツカの配下はあまりに都合がいい。だから今もこうして、支配圏として成立している——からこその問題もあった。


「少し前にも伝えたが、広島の海にはヨーロッパの妖異は来ていないか? 返答がないままだけど」


「え~? あ~。う~ん……そんな話、したっけ?」


「あっはっは……どうやら私を怒らせたいらしいね?」


 イブキの腕がイツカの体を掴み、ギリギリと締め上げる。真面目な話だというのに、イツカはまるでお話にならない。

 悲鳴を上げて抗議するイツカだが、簡単に許すイブキではなかった。しばらくの折檻が続き、イツカが多少はしおらしくなる。


「結局僕が損をするんじゃないか。酷いよイブキ」


 長い足を器用に動かしながら、剛腕で掴まれた胴体を撫でるイツカ。渋々ながらも、イツカはイブキの話に耳を傾ける。


「最近、ヨーロッパの方がきな臭くてね。妖異対策課にも調べさせているし、愛宕(あたご)にも動いて貰っている」


「愛宕? ああ、一条愛宕(いちじょうあたご)。イブキの配下の鬼だっけ。それで、ヨーロッパがどうしたの?」


 イブキは少し前に起きた移民問題を説明する。もっとも、この説明は二度目である。覚えていないイツカをイブキは睨む。

 しかし、これ以上の折檻をしているほど暇でもない。また忘れたら足の1本ぐらいは引き千切るぞ、という威圧を放ちながら話す。

 現在、妖異対策課の京都支部を通じて、イブキはヨーロッパを調べさせている。妙な動きをしている集団が居ると思われる為だ。

 騒動の中心に居るのはセイレーンのマリーという女性。冷泉翠(れいせんみどり)と同じく人魚の一種であり、特徴は歌で海の男達を誘惑する点だ。

 腕が鳥の翼になっているという、外見的な違いも持ち合わせている。彼女が何をしているのか、まだハッキリとは分かっていない。


「何やら新しい集団を作ったらしい。規模はまだ、大した事はなさそうだけどね」


「ふーん、そうなんだ。でも、海の連中がどうしようが関係なくない?」


 適当な管理しかしていないイツカらしい感想だ。まさかそこまで説明が必要なのかと、イブキは頭を抱えたくなる。


「お前ねぇ……そうはいかないだろう。大昔と今は違う。人間は海を大勢で移動するし、貿易だってしている。無関係ではいられない話だぞ」


 人間を生み出したばかりの頃なら、海の妖異と連携する必要性は薄かった。適当に人間を配分しておけば、争いになる事ない。

 積極的に関わるような理由もなかった。しかし人間が海へ進出を始め、徐々にそうは言っていられなくなって行った。

 小舟で数名が出ていく時代はとっくに終わり、今では一隻で数百名という規模で海へ出ていく。好き放題攻撃されては陸の妖異も困ってしまう。

 そうならないように、本来なら協議を重ねているものだ。しかしイツカは、適当に丸投げしているので分かっていない。

 イブキはもちろん、周囲からも言われている筈だが興味がないのだろう。本当に困った奴だとイブキはため息をついた。


「だってさ~あんな爆弾を落としてもこうなるんだよ? どうでも良いじゃん、人間が千や万と死んだところで」


「はぁ……そう言いたくなる気持ちは分かるがなイツカ、これはそんな単純な問題じゃないんだ」


「えぇ~そういう事じゃないの~?」


 確かにイツカの主張だって、全てが間違っているとは言えない。どれだけ大規模な戦争を繰り返しても、人間は未だ滅ばない。

 減るどころか、世界の人口は年々増加して行っている。イツカの言うように、どうでも良いと考えるのは仕方がない。

 だがそれも、長い目で見れば話は変わる。ヨーロッパの移民が広島の海に住み着けば、将来的にどうなるか分からない。

 海の妖異同士で争いが激化し、人間の生活に影響が出始めれば。徐々に別の都道府県へと、移住して行く流れが出来てしまう。

 住みにくい土地だと日本全体が思われば、人間は日本という国から居なくなる。情報の拡散が早い現代で、そうなっては困るのだ。


「SNSとかってやつ~? 僕それ、良く分かんないんだけど」


「分からなくても構わない。とにかく、海には注意をしていてくれ。お前だけの問題じゃないんだ。分かったな?」


「面倒くさ——わ、分かったよぉ! イブキは強いんだから、もっと優しくしてよね!」


 未だに非協力的な姿勢を見せるイツカだったが、イブキの笑っていない笑顔を見て態度を改める。もう怒られたくはなかった。

 イブキはイツカが監視をサボらないよう、定期的に報告をさせる約束をした。破れば当然、イブキのお仕置きが待っている。

 流石に今回は不味いと思ったイツカは、大人しく従う事にした。彼は非常に不服そうだったが、イブキには逆らえない。

 困った面倒事を代わりに解決して貰ってもいるので、頭が上がらないというのもある。そんな状態だったから、彼は見逃してしまった。

 広島県内で好き勝手に動いている人造の妖異と、一瞬だけ妖異の力を放った年若い人間の少女に。この日、イブキへ報告される事はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ