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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第10章 新たな関係性
331/340

第331話 争いの種

 洋上のタンカーにて男達が密かに取引を行っている。後ろ暗いところしかない脛に傷のある者達が集まっている。

 日本の領海内にて、銃器で武装している集団。どう見てもカタギには見えない船員達。どちらも怪しさしか感じない。

 怪しい者同士ながら、お互いに名乗る事はしなかった。妖術で隠れているタンカーを、何も知らない者が見つけるのは難しい。

 そして事情を知らない者であれば、この海域に留まる理由がない。詳しい確認を取らずとも、合流出来た時点で確定だ。

 名乗らないのは、余計な探りを入れない為である。裏社会では知らない方がいい情報は多い。名前なんて最たるもの。


 何かあった時に、知らないと白を切る理由にもなる。名前を出されて反応してしまえば、知っていると教えるようなもの。

 だが何も知らなければ、問われたところで問題はない。特に妖異が相手だった場合、記憶を覗かれるリスクだってある。

 知らないという状態は、そう言った問題を回避できる。人様に話せない活動をしているからこそ、十分な対策が必要だ。

 彼らは共に飼い主か雇い主がおり、情報を知っているのはトップ達だけ。下っ端である彼らには、最も重要な情報は渡らない。

 荷物を運ぶ者達と、受け取る者達は最低限の情報だけでいい。彼らは全てを承知の上で、この立場を選んでいるのだ。


「アンタらが何の目的で引取るのか知らないが、さっさと持って帰ってくれ。早く帰りたいからな」


 船長の男性が武装集団のリーダーに話し掛ける。運び屋でしかない彼らにとって、取引相手の目的なんてどうでもいい。

 知りたいとも思わないし、踏み込むのはNGである。取引が終わればお互いに知らぬ存ぜぬ。あとはここで別れて終了だ。


「もちろんだとも、すぐに連れて帰るさ」


 ガタイの良い男達が、会話を続けながら船内の通路を進む。広い船倉へ向けて、薄暗い通路を連なって歩く。

 どちらも余計な事情は話さない。無駄な情報をよそで溢さない。徹底してその道のプロとして、行動を続けている。

 ぞろぞろと歩く男達は、武装集団だけで30人は居るようだ。対して船員達の方は、たった3人しか同行していない。

 凄まじい人数差だが、船長の男は気にしていない様子。銃火器に怯む事もなく、堂々を背中を見せて歩いている。

 信用している、という可能性はそう高くない。今日初めて会った武装した相手でも、接し慣れているという事だろうか。


 それとも雇い主を信用しているという事か。もしくは、何か他に理由があるのだろうか。今のところ、自信の根拠は分からない。

 怪しい男達が船倉へ到着し、入り口の電子ロックを外す。室内は真っ暗であり、薄っすらと先が見えるという状態。

 かなり広いらしく、天井の高さが分からない。ただ少なくとも、通路より確実に高いという事だけは見てとれる。

 通路から洩れる光が、僅かだが室内を照らしていた。こんな真っ暗な室内に、一体何を入れているというのだろうか。

 普通なら明かりを点けるように頼む筈だが、武装集団の方は全くその素振りを見せない。代わりにリーダーの男が、部下に命令を下す。


「おい、アレを」


「分かりました」


 部下の男が、背負っていたリュックから何かを取り出す。リーダーの男に手渡されたのは、暗視ゴーグルだったようだ。

 頭部に装着したリーダーの男は、緑色の視界を通して室内を確認する。部屋の真ん中には、巨体を納めた檻があった。

 彼だけでなく、部下達も全員が暗視ゴーグルを装着する。事前にこの状況を聞いていたのか、随分と準備がいい。


「なるほど、確認した」


「じゃあ、取引は成立だな」


 リーダーの男の言葉に、船長の男が反応した。これで仕事は終了となり、荷物を引き渡すだけ。どう持って帰るかなんて、船員達には関係ない。

 どうぞと言わんばかりに、船長の男が室内を手で示す。対する武装集団達は、ゆっくりと持って来た銃火器を構える。


「おいおい、どういうつもりだ? まさかと思うが、持ち逃げしようって腹積もりか? 正気なのか?」


 銃口を向けられた船長は、両手をあげながら苦情を伝える。無理矢理奪ったところで、誰がやったかすぐ分かる。

 足しかつかないやり口に、船長の表情には余裕がある。こんな真似をしたとしても、意味はないだろうと示す。

 だがリーダーの男もまた、全く揺らぐ様子を見せない。自分達の行動に、何ら落ち度はないと表情に出ている。


「俺達は待っていたが、お前達は約束の時間に現れなかった。どこかで事故にでも遭ったのだろう」


 サブマシンガンの銃口を向けながら、リーダーの男は部下達にハンドサインで指示を出す。一斉に銃口が船長達へ向いた。


「なるほど、だったらこういう話はどうだ? 俺達は指定された海域で待ったが、朝になっても相手は来なかった——ってな」


 いつから潜んでいたのか、船倉内には武装した船員達が姿を現す。全員が武装しており、こちらも暗視ゴーグルを被っていた。

 この程度のトラブルぐらい、何度も経験していたのだろう。最初から何かあった時に備えて、待ち構えていたという事だ。

 裏社会に生きる者同士、したたかに行動していた。人数差も埋まり、ほぼ同数での撃ち合いが始まる。船倉内に響き渡る銃声。

 激しい戦闘となり、物陰に隠れながら船長も拳銃で反撃を行う。銃刀法違反なんて、気にしている者はどこにもいない。


「舐められんじゃねぇぞ! 俺達の船から叩き出せ!」


 船乗りたちは勇猛果敢に攻め立てる。反撃が予想外だったのか、武装集団がやや押され気味だ。数名の負傷者が出てしまった。

 ただし武器の性能は彼らの方が勝っており、拳銃が中心の船員達は手数で劣る。互角の戦いが続き、船倉内は騒がしい。

 武装集団の1人が、焦ったのか室内で手榴弾を投げた。慌てて船長達は後ろに下がり、分厚い棚などの裏に姿を隠した。

 商品はこの程度で傷つかないが、危険な行為だった為にリーダーの男が部下を咎める。下手をすれば味方を巻き込んだかもしれない。

 爆発の余波が消え去り、船倉内が一時的に静かになった。そんな中で、誰かの声が全員に届く。思わず彼らは視線を中央に向けた。


「お、おい……檻が……」


 手榴弾のせいか、それとも別の理由か。緑色の世界には、一部破壊された檻が見える。その中には、巨大な異形の姿はない。

 眠らされていた筈の商品が、檻の周辺から消えている。大きな体で、いきなり姿を隠すなんて有り得ない。では——どこにいるのか。


「うわあああああああ!?」


 武装集団の者か、それとも船員達の誰かか。叫び声と共に銃撃の音が響く。しかしそれも数秒で終わり、また別の悲鳴が上がった。


「だ、誰か助けてくれ! 離せこの野郎!」


 暗闇の中で、何かが暴れている。生々しい音が周囲に響き、水気のある物が落ちる音もした。まるで、肉が弾けたような音だ。

 続けてあちこちで悲鳴が上がり始める。船長の男とリーダーの男が落ち着くよう叫ぶが、今となってはもう後の祭りである。

 檻に閉じ込めていた存在が、船内に解き放たれてしまった。逃げ場のない海の上で、血まみれの惨劇が始まってしまう。


「くそっ! 撤退だ!」


 リーダーの男が船倉の入り口へ走り、外へ逃げようとした。しかし、何かに捕まって暗闇へと消えて行った。

 それから1時間ほど経った後、洋上に潜んでいたタンカーが爆発炎上する。その直後に、巨大な影が空へ飛び上がった。

 暗闇のせいでシルエットしか分からない。何か翼を持った巨大な生物、という事しか判断出来ない。影は結界を出て、夜の日本海を飛ぶ。

 向かう先は、日本列島のある方だ。現状の位置としては、島根県と鳥取県の間ぐらいだ。影は空を飛び、陸地を目指して移動する。

 異形の首辺りには、赤い人工的な光を宿していた。何かの機械が、点滅する光を灯している。そのまま謎の影は、島根県の上空を通過した。

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