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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第10章 新たな関係性
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第329話 広島へ向かうバスの中で

 京都府を出た数台の観光バスが、高速道路を走行している。修学旅行の予定では、岡山県を通過していくルートが選ばれている。

 大型のバスに乗った経験がない碓氷雅樹(うすいまさき)は、密かに楽しみにしていた。超のつく田舎暮らしだったので、仕方のない事だ。

 中学時代までは若藻(わかも)村から出ず、高校から始めて外の世界を知った。新しい経験があると、どうしてもワクワクしてしまう。

 彼がまともに乗った事のある車は、父親の自家用車と大江(おおえ)イブキのSUVぐらいだ。数回だけの経験も含めるなら、妖異対策課の車両も含まれるか。

 京都での生活についても、学校は探偵事務所から近くバスには乗らない。ましてや観光バスは、紛れもなく初めての経験である。


「おい碓氷! ポーカーしようぜ!」


 雅樹のクラスメイトで、同じ班でもある相葉涼太(あいばりょうた)が声を掛ける。彼らの周辺には、同じ班の男子生徒が集まっている。

 その中にはいつも通り、サッカー部所属の爽やかな男子、宮本一真(みやもとかずま)も含まれている。雅樹の周辺には華があった。

 女子生徒からの好感度が高い男子の集まりとなっている。そして同じ班の女子達もまた、美少女の集まりである。

 

「うん、いいよ」


 クラスの中心となる生徒達が集まって、楽しそうに過ごしている。雅樹はスマートフォンを出し、ゲームアプリを起動した。

 ネットワーク対戦が可能なアプリ上でポーカーが始まる。雅樹達学生の間で、最近流行っている人気のアプリだった。

 楽しそうに雅樹が笑っているのは、何もアプリが面白いからではない。望んでいた高校生活を送れているからこその喜び。

 ただしそれは、若藻村での生活に不服があるわけではない。かつての生活も、雅樹にとっては十分楽しい時間だった。

 確かに那須草子(なすそうこ)が縛っていた部分はある。人によっては束縛と感じ、閉鎖的に見えてしまうかもしれない。本人の性格によるだろう。


 だが雅樹としては、迷惑だと思っていない。全てを知った時、彼は草子の意思を理解した。自分は草子によって、守られていたのだと。

 村から出るまで知らなかった、妖異という存在。自分の価値が、妖異にとってどう映るのか。被害に遭って初めて知れた事。

 囲うという目的があったとは言え、草子達の存在はとても大きかった。結局今だって、京都まで着いて来てくれた。

 本当なら西日本は草子にとって、猛烈なアウェーであるというのに。一時的なすれ違いはあったものの、雅樹は感謝している。

 初恋の女性という点を抜きにしても、15年間も外敵を遠ざけてくれたのは事実だ。現在は本格的に鍛えてくれてもいる。だからこそ今がある。


「っしゃあ! やるぜ! ビリが一番多かったヤツは罰ゲームな!」


 大して勝率が高いわけでもない涼太が、何故か強気に宣言を行った。やはり修学旅行で浮かれているのだろうか。

 

「おい相葉、そんな宣言してをして大丈夫か?」


「大丈夫だって! 勝てばいいんだよ!」


 墓穴を掘りに行った涼太を、雅樹が心配するも涼太は聞かない。またひと騒動にならないかと、雅樹は気になってしまう。

 いつものノリが学校内では許されても、修学旅行先ではどうか分からない。あまり羽目を外しそうなら、接待を考慮に入れる雅樹。

 涼太が負け過ぎないよう、バレない程度に手心を加えるつもりだ。鍛錬の成果が出ているのか、雅樹は勘の良さが向上している。

 こうしたゲームにおいても、その感覚は活かされている。ボロ勝ちする程ではないものの、安定して勝率を維持出来る。

 単なるお遊びであっても、雅樹は自らを鍛える事に役立てているのだ。その実直さは、生まれ持ったものか師の影響か。


「さあスタートだ!」


 涼太達との日常を送りながら、雅樹は彼らに感謝をしている。重い事情を抱えた異色の転校生を、受け入れてくれた友人達。

 イブキや草子達だけでなく、彼らの影響はとても無視出来ない。もしも涼太達が居なかったら、今ほど学校が楽しめていただろうか。

 そう考えるだけで、ありがたみを実感出来る。元々人付き合いは苦手でないものの、抱えていた事情が事情である。

 自分が彼らの立場だったら、同じように振る舞えたかどうか。難しい精神的壁を、容易に飛び越えてくれた涼太達。

 だから鍛錬を頑張る理由の中に、友人達を守りたいという意味もある。今や居て当然となった人々を悲劇から引き離す。


「おわっ!? まじかよお前ら!?」


「ははは! やっぱり相葉はちょろいな」


「最初から運に恵まれねぇな!」


 この光景を、雅樹はとても大切に思っている。守る為の力は、少しずつ身について来た。それでもまだ、十分とは言えない。

 例えば今、支配者級の妖異に襲われてしまったら。雅樹は死なないにしても、犠牲をゼロにするのは非常に困難だ。

 学園長の乾英子(いぬいえいこ)が居るとは言え、彼女もまた成長の途中だ。永野梓美(ながのあずみ)よりも生きた時間は短く、経験がまだ足りていない。

 だからこそ、イブキが密かに同行しているのだ。もし万が一、何かがあった時に備えて。今回は、特別な準備も行われている。

 草子が準備した数珠を、雅樹は左手に着けている。シンプルな紫色の既製品に見えるが、草子自身が作った代物だ。


「あれ? 碓氷、そんなの着けてた?」


 目ざとく数珠に気づいた一真が、雅樹に向かって訊ねる。見た目は普通であり、雅樹の回答も事前に準備されている。


「あ~うん、こういうの好きなんだ」


「なるほど、碓氷はちょっと古風なとこあるもんな」


 古武術を習っている点など、雅樹はある程度友人達へ明かしている。あまり隠しごとが多いと、不審に思われてしまうからだ。

 単純に余計な嘘をつきたくない、という思いも含まれている。その結果なのか、雅樹は伝統的なモノを好むと思われている。

 実際趣味が少し偏っている面は否めない。若藻村は昭和レトロな習慣が残る為、村人達全員がそう言った傾向を持っている。


「へぇ~綺麗だね碓氷君。ちょっと見せてよ」


「いいよ」


 雅樹の数珠に気づいた井本深雪(いもとみゆき)を始め、女子生徒の視線が集まる。昔からこの手のアイテムは、学生に流行る傾向を持つ。

 特に女子の場合は、パワーストーンなどにハマりがちだ。その手の商品と思い込んだ女子達が、口々に話を始めた。

 雅樹は相槌を打っているが、もちろん開運のお守りなどではない。この数珠は一時的に、雅樹を妖刀小鴉(こがらす)と本契約状態にするもの。

 まだ本契約をするレベルに達していないと、小鴉が認めない故の対策だ。数珠は草子と雅樹をリンクさせる効果を持っている。

 草子のように、雅樹が望めば小鴉をいつでも呼び出せる。草子と雅樹を同一の存在として扱う、という抜け道を作り出すモノ。


「これどこで買ったの?」


「ネット通販で売ってたよ。最後の1個だから、もう品切れっぽいけど」


「え~残念」


 深雪達にも返答しつつ、雅樹はポーカーをプレイする。どこまでも平和な時間が、バスの車内に流れている。

 小鴉を呼び寄せるような事態は、何も起こっていない。それでも雅樹は、頭の片隅で警戒を続けている。何となく、嫌な予感がする。

 理由としては非常に曖昧だが、自分の直感がどうしても気になる。何も起きずに終わり、取り越し苦労で終わればそれでいい。

 雅樹はそう考えており、予感についてもイブキに相談済みだ。彼女は今頃バスの遥か後方を、いつも通り運転しているだろう。

 英子も居るのだから大丈夫、とは思いつつも油断はしない。楽しい時間も満喫しつつ、助手という立場を忘れない。


「ほら碓氷! 脳筋女と話しているからだぞ!」


「え、相葉に負けた?」


 深雪達女子と話していたから、ポーカーへの意識が逸れていた。そう演出しながらも、雅樹は上手く涼太へ華を持たせた。

 せっかくの好意を、涼太は失言で台無しにしてしまった。誰が脳筋だと深雪が起こり、頭をはたかれる涼太。

 周囲が笑い、雅樹もつられて笑顔を見せる。どうかこのまま、平和に終わって欲しいと心から願いながら。

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