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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第7章 見え始めた敵の輪郭
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第237話 梓美の居る学園生活

 碓氷雅樹(うすいまさき)の活躍により、長野県から永野梓美(ながのあずみ)と母親の(いずみ)を連れ出す事に成功した。

 現在は母娘揃って、京都府で暮らし始めている。栃木県でも良かったのだが、念には念を入れて東日本から距離を取った。

 あれから黒澤会(くろさわかい)からの干渉はなく、警戒は続けるが以前ほどの緊張感はない。周囲の支配者達との連携も強化された。

 大江(おおえ)イブキと妖異対策課京都支部からの情報提供で、西日本の防空網が強化された。もう同じ手は通じないだろう。

 回収されたステルス輸送機の解析は進み、使用された技術が全て明らかになるのも時間の問題だ。


 一反木綿(いったんもめん)烏天狗(からすてんぐ)など、空の妖異達による警戒も行われている。京都を中心に、厳重な監視体制が整備された。

 また那須草子(なすそうこ)を通じて、仲の良い東の支配者達へ情報提供も行われた。そちらでも同様の措置が取られ始めている。

 そちらはあくまで、栃木県と周辺の支配圏のみだ。他の地域を草子は信用出来ないと、判断したからである。

 黒澤会(くろさわかい)との繋がりはない、と確証が得られるまでは他地域への疑いは消えない。冷静な目で見ていくしかない。

 ただし、彼らの研究を支持する妖異がそう多いとは思えない。関わりがあったとしても、僅かな支配圏に限られるだろう。

 

 イブキと草子の判断で、一旦は様子見を続ける事に決まる。京都支部のサーバーも回復し、再び調査が開始された。

 ある程度の情報を纏めて、近日中に草子が東坂香澄(とうさかかすみ)達を伴い東京へ向かう予定が決定。東京支部への査察が行われる。

 余計な遠回りをさせられたものの、京都にも平穏が戻り元通りの生活が続いている。雅樹の学園生活もこれまで通り。

 あれから雅樹は、実家の用事で学校を休んでいた事になっている。親戚など居ないが、適当にイブキが理由を作った。

 娘の乾英子(いぬいえいこ)が学園長をやっているのだ。理由付けなんてどうとでもなる。復帰した雅樹は、いつものように学生をやっている。


「なあ碓氷、本当に梓美先輩の友達を紹介して貰えるのか!?」


 お昼休みに入るなり、友人の相葉涼太(あいばりょうた)が雅樹に詰め寄る。金髪にピアス、軽いノリとヤンチャそうな顔立ち。

 雅樹より若干低いがほぼ変わらない体格。スポーツも大体適応可能と、典型的な陽キャ気質を備えている。

 そのわりに所属する部活は美術部と、一風変わった面を持つ少年である。活発で人気の美少女を幼馴染に持つ。

 しかし幼馴染とはただの腐れ縁で、現在も彼女は募集中だ。とは言え、モテない少年ではないのだ。

 主に文系の女子生徒から好かれているが、如何せんこの調子なので、告白する勇気を持て無い女子ばかりである。


「ああ、むしろ向こうが相葉と宮本を連れて来て欲しいって」


「へぇ、だから俺もなのか」


 最近よく一緒にいるサッカー部期待の新人、1年生のエース、宮本一真(みやもとかずま)もすぐ近くに居る。こちらは真面目なスポーツマンだ。

 黒髪をウルフカットにしており、クールな雰囲気と良く似合っている。雅樹達より少し背が高く、180センチに届きかけている。

 細マッチョタイプで、雅樹と体型が似ている。クールだが物静かという意味ではなく、人付き合いは上手い。

 雅樹から見れば、典型的なモテるシティボーイ。実際かなりモテる方で、一真を狙っている女子生徒は多数居る。

 今も女子生徒達からの熱い視線が注がれている。3人はそれぞれタイプの異なる男子だが、顔立ちの整っている点は共通する。


「あんまり梓美先輩達を待たせたら悪い。早く行こう」


「おう! 楽しみだな!」


「ま、たまには良いか」


 新1年生の中で、注目度の高い3人が昼食を手に教室を出た。廊下を歩く1年生の女子達が、3人へ視線を向けている。

 体育会系の女子達が、すれ違いざまに声を掛けていく。雅樹はそれほどだが、涼太と一真は顔が広い。

 その関係で、最近は雅樹も知人が増えつつある。女子生徒だけでなく、男子達とも軽く話しながら2年生の校舎へ。

 昼休み中なのもあり、2年生の校舎内は多くの生徒達が歩いている。注目株が3人揃っていたので、当然視線を集める。

 雅樹達を見ようと、窓やドアから顔を出す女子生徒達。一真や涼太の先輩が、気さくに声を掛けていく。


 彼らが向かう先は、校舎の最上階、屋上だ。本来なら多くの学校が、屋上への立ち入りを禁止している。

 しかしここ上京(かみぎょう)学園は、妖異である英子が学園長を務めている。同じく妖異である梓美が、好きに出来て当然だ。

 そもそも梓美は、レールから外れてしまった少女達の面倒を見ている。ある種のカウンセリングの場と言っていい。

 生徒の為に使っているのだから、教育機関として悪い使い方ではない。今日はその場へ、雅樹達が呼ばれた。

 梓美の帰還と共に、イブキが生徒達の記憶を戻している。一度蓋をしただけの記憶なので、戻す負担は僅かだ。


「梓美先輩、連れて来ましたよ」


 雅樹達が屋上へ出ると、2年生の女子達が数名集まっていた。雅樹達を見るなり、黄色い声が上がった。

 その中心に居るのは、もちろん梓美である。少し着崩した制服に、派手なメイクと茶色く染めた髪。

 ウェーブのかけられた胸元まである長い髪は、ポニーテールにして纏められていた。イブキを真似たのだろうか。

 真っ直ぐストレートなイブキのポニーテールとは、また違った印象を与えてくれている。梓美は笑顔で雅樹達を迎えた。


「ごめんなぁ、呼びつけて。ウチの友達がな、3人を紹介して欲しいって言うてな」

 

「大丈夫ですよ、これぐらい」


 雅樹が代表して返答する。梓美と一番接点が多く、仲が良いのは雅樹だ。そのやり取りはとても自然だ。

 知り合って数ヶ月が経ち、梓美と雅樹の距離はかなり縮まった。雅樹にとって、学校で一番仲が良いのは梓美だろう。

 やはり彼にとって、学校に梓美が居る光景は当たり前。こうでなくては、どうにも落ち着かない。

 だからこそ、雅樹は命懸けだろうと梓美を助けに行った。もう外せない大切な日常となっているから。

 雅樹は日常を守る為なら、誰が困っていようと全力で手を伸ばす。それでこそ、碓氷雅樹という少年だ。


「さ、皆で食べながら交流会といこか」


「宮本君! こっちで話そ!」


「相葉君もおいで~」


 屋上に持ち込んだのであろう、敷かれたレジャーシートに女子達が座る。全員が梓美のような派手な女子だ。

 ギャル系のメイクに派手なネイル、同じく着崩した制服。かなり短く改造した制服のスカート。

 可愛い先輩達に囲まれて、涼太はとても幸せそうにしている。一真は慣れているのか、上手く対応している。

 そして梓美は、当然のように雅樹の隣に座った。心なしか、以前よりも距離が近く感じた雅樹。

 事実、梓美は雅樹の間近で座っている。命懸けで助けてくれた、愛する少年。梓美の好感度は以前よりも高い。


「梓美先輩?」


「どうかしたん? 雅樹君?」


「いえ、何か前と雰囲気? 空気かな? 少し違うような気がして」


 雅樹が感じた僅かな違和感、それは単純に距離だけではない。梓美の持つ空気感が、少し前と違うのだ。

 前よりも心の壁が薄くなったような、精神的距離感が変わったように思えた。そんな雅樹の勘は当たっている。

 京都に帰って来てから、梓美は色々と考えた。イブキと再会し、言葉を交わした。お礼だって伝えた。

 一条愛宕(いちじょうあたご)も待っていたので、改めて向き合った。その上で、再び梓美は雅樹と共に歩む道を歩き出した。

 気に入った、好意がある、愛している。様々な表現があるだろう。でもそれだけではなくなった。


「ホンマにありがとうな。またこうして帰って来られた」


「いえ、まあその、間に合って良かったです」


 自然な微笑みから、妙に色香を放っている梓美。あまりに魅力的で、雅樹は言葉に詰まってしまう。

 イブキや草子に負けないぐらい、大人の魅力を梓美は発している。今日の梓美は、何だか違うと雅樹は感じた。


「やっぱりウチは、雅樹君が好きや。こんな気持ち、初めてやわ」


「……せ、先輩……近いですって……」


 濃密な雪女の魅力が、雅樹の感情を揺さぶる。冷たい指先が、雅樹の箸を握る手をなぞる。


「ちょっ!? 梓美!?」


「私達の事、忘れてないよね!?」


 妖艶な雰囲気を見せる梓美を、友人達が制止する。雅樹は周囲に人が居て良かったと心底安堵した。

 ただ少し、勿体ないような気もした。いつも以上に魅力的な梓美が、とても美しく見えたから。

次回から新章です!

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