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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第7章 見え始めた敵の輪郭
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第212話 雅樹達と巨大な怪鳥

 碓氷雅樹(うすいまさき)は妖刀小鴉(こがらす)を手に、巨大な怪鳥と対峙している。上京(かみぎょう)学園の上空から飛来した、おかしな見た目の妖異。

 3本の足と、3つの頭を持っている謎の生物。頭部はそれぞれ、向かって右からワシ、ダチョウ、トビの順に並んでいる。

 体と足はダチョウのものだが、校舎の3階よりも全高が高い。通常学校の校舎は、大体13メートルぐらいの高さがある。

 つまり15メートルぐらいはあるという事。胴体の全幅は、全高の半分ぐらい。およそ7メートル程だろう。

 翼を広げれば、横幅が10メートルは軽く超える。もはやロボットアニメや、モンスターパニックの世界でしか見掛けないサイズだ。


「来るで雅樹君!」


「はい!」


 雅樹の隣には、雪女の永野梓美(ながのあずみ)が立っている。2年生の先輩で、ウェーブの掛かった長めの茶髪が似合うギャル。

 普段は可愛らしい梓美だが、この状況では真面目な表情しか出来ない。いつものように、笑っている場合ではない。

 現在雅樹は、梓美と共に前衛をしている。今回は突発的な戦闘の為、ベストな組み合わせになっていない。

 乾英子(いぬいえいこ)は後衛向きの妖異で、鬼なのだが遠距離攻撃を得意としている。近接戦闘も一応出来るが、あまり得意ではない。

 というよりも、わざわざ英子に前衛をやらせるより、後衛をさせた方が戦力になる。得意な距離で戦わせた方がいいというだけ。


 では誰が前衛をやるかという話だが、このメンバーだと雅樹しかいない。梓美もどちらかと言えば、中距離や遠距離の方が向いている。

 後衛寄りの万能型なので、あまり前衛をやらない。滋賀の異界内で戦闘になった時も、雅樹が梓美の背後を守っていた。

 近接戦闘も可能ではあるものの、英子同様に中衛か後衛をさせた方が強い。かと言って雅樹単独で前衛は、あまりにハード過ぎる。

 せめて相手が人間ぐらいの大きさなら、まだ雅樹単独でも何とかなる。だが今回の相手は、あまりにも大き過ぎる。

 今も巨体を活かして、校内を走って突撃を慣行して来た。猛スピードで、雅樹と梓美に向かって来る。梓美が冷気を放出し、真ん中の足を凍らせる。


「今やで!」


「はあああ!」


 凍らされた足が、地面とくっつき突進が止まる。見た目はダチョウの足と言っても、サイズがバカにならない。

 電信柱3本分はありそうな、太い足が凍っている。そこへ目掛けて、雅樹が斬撃を繰り出す。妖刀が鞘走り、凍った足を切り裂く。

 雅樹の剣術と、妖刀の切れ味。2つが合わさり、とんでもないサイズの足が、バッサリと断たれた。凍った足が砕け散る。

 彼が真ん中の足を狙っている間に、梓美が右と左の足も凍らせた。これで怪鳥は完全に足止めされた。そこへ英子が攻撃を仕掛ける。

 蒼く輝く鬼火が、ガトリング砲の如く連続で飛んで行った。怪鳥の胴や頭部で、容赦なく鬼の扱う炎が舞っている。


「まだ耐えるのか!?」


「そらしゃーないで。妖力がだいぶありよるし」


 梓美と英子の見立てでは、梓美と同レベルの妖力を保有している。下手をすれば、越えている可能性もあるぐらいだ。

 梓美クラスになると、数千年は生きた妖異という事になる。年齢が万年単位の古参と比べれば、まだ若い方にはなる。

 とはいえ、簡単に倒せる相手ではない。こちらには梓美と英子が居るから、戦いになっているだけ。雅樹だけなら勝負にならない。

 まず体格差の問題で、雅樹は怪鳥の攻撃を受けられない。体重に差があり過ぎて、ガードでもした日には吹き飛ばされる。

 踏みつけだったら、一撃で潰されてしまう。本来は人間が戦うべき相手ではない。だが今回に限っては、致し方なし。


 幸いだったのは、あまり相手の頭が良くない事か。単純な攻撃ばかりで、妖術の類を一切使う様子がない。

 体格を活かした、物理攻撃しか行わない。その事が、梓美と英子は引っ掛かるポイントだ。長年生きた妖異が、これは有り得ない。

 あまりに低知能が過ぎている。動物みたいな攻撃方法しか、使って来ないというのは、妖異として致命的だと言わざるを得ない。

 まるで無理矢理妖異にされて、急成長させられたかのよう。でなければ、こんな歪な妖異にはならない。存在する筈がないのだ。

 普通は化け猫でも、千年も生きれば高い知能を持つ。妖術も幾つか、使用出来るように普通はなる。だがこの怪鳥はなっていない。


「コイツ、例の人工なんかなぁ? そうでないと、こうはならへんで」


 梓美は冷気で攻撃を続けながら、考察をしている。英子にしても、梓美にしても、妖異としてはまだかなり若い。

 大江(おおえ)イブキや那須草子(なすそうこ)のように、見ただけで人工かジャッジするだけの知識がない。もしかしたら知らないだけ、という疑いが残る。

 かつてはこんな見た目の妖異も、居たかもしれない。ただ珍しいというだけで。経験不足が、どうしても足を引っ張る。

 梓美達は、先程まで居た通常サイズの妖異達が、クローンだという事も最初は知らなかった。生きた年数は、経験や知識と直結する。


「梓美先輩! また真ん中の足が再生してます!」


「OK! もう厄介やなぁ! チマチマ削るしかないやんか!」


 相手の攻撃は大した事がない。というよりも、梓美との相性があまりに悪い。ここに梓美が居ると、知らなかったのだろうか。

 そう思わされるぐらい、相手は完封されつつある。油断していると、高い再生力を活かして、強引に足を動かす事がある。

 砕けても知った事ではないと、無理矢理脱出する。一度それをやられて、落下して来た胴体に、危うく雅樹が潰されかけた。

 すぐに足を再生して、一度距離を取られてしまった。それが先程の突進と繋がっていた。あまりにも強引過ぎる脱出だった。

 

 もう二度と、同じ事はさせまいと、梓美は足の根本から凍らせている。それもあって、足止めは出来ている。

 梓美としては、全身を凍らせてしまいたい。だが先程の事もあるので、雅樹の側を離れるのは不安が残ってしまう。

 結果、地道に削る事しか出来ていない。英子が後方で頑張ってくれているが、どうにも火力不足は否めない。

 せめてもうひと声あれば、もう少しマシになるのに。梓美と英子は歯噛みしつつ、戦い続けるしかない。そう思っていた。


「ああ? 碓氷が居るっていう学校に来てみれば、何だいこの人工野郎は? 相変わらず作った奴は趣味が悪いねぇ」


(みどり)さん!? どうしてここに!?」


 この戦場に、あまりの唐突さながら、冷泉翠(れいせんみどり)が姿を見せた。支配者になれるぐらい、翠は長く生きている。人工と見抜くだけの知識を持つ。

 シャチの祖先から人魚へ至った彼女は、ギザギザの歯が特徴的だ。元がシャチだからか、体格に恵まれている。

 女海賊を思わせる豪快さに、姉御肌な性分を併せ持つ。今日もいつも通り、真っ赤なブラウスと、ジーンズの組み合わせだ。

 肩まである黒い髪には、真っ白なインナーカラーが入っている。シャチらしいカラーリングが、彼女のトレードマークだ。

 翠の登場に雅樹は驚き、梓美は危機感を覚えている。主に雅樹を奪い合うライバルとして。英子の方は、いつの間に侵入して来たのか、驚愕していた。


「あ、貴女、どうやって!? 私に気づかせずにここへ!?」


「あ~、お前は確か、イブキの娘か。相変わらず身内に甘いねぇ。支配圏の作り方が、まだまだ甘いよ若いの」


「そ、そんな筈は……」


 翠の指摘に、英子はそんな馬鹿なと焦る。穴があるというならば、改善せねばならない。だが今は、それよりも大事な事がある。


「それよりも、そのデカいブサイクな鳥、アタシが倒してあげようか? 小娘達がやるより、アタシの方が早いよ?」


「え、良いんですか翠さん!?」


「あ、アカン! 雅樹君それは――」


 梓美が止めようとしたが、少し遅かった。雅樹が是非にと頷いてしまい、翠が動き出す。彼女は、イブキに負けず劣らずパワフルだ。

 シャチの祖先から進化した彼女は、海の王者に相応しい膂力を持っている。例え陸上であろうとも、この程度の相手ならば――。


「んじゃ、さよならだねぇ」


 ジャンプして飛び上がった翠が、シャチの尾であり現在は足でもある脚部で、強烈な一撃を繰り出す。

 シャチの尾はとても強靭だ。アザラシを十メートル以上、空中へ弾き飛ばす威力を持つ。そんな翠の蹴りが、怪鳥の肉体を蹴り抜いた。

 轟音と共に、胸部がゴッソリと削り取られた。翠が着地する頃には、サラサラと灰になって怪鳥は消えて行った。

 翠はお礼を言う雅樹に、一言述べる。いつも通り、タダ働きはするつもりがないと。梓美が雅樹の背後で、頭を抱えていた。

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