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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第7章 見え始めた敵の輪郭
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第209話 宇治での戦闘

 京都の南部、宇治市の異界内で、大江(おおえ)イブキと那須草子(なすそうこ)が戦っている。上空から飛来した、多数の妖異達を相手に。

 どういうわけか、どの妖異も会話が出来ず、一方的に襲い掛かって来る。種族に統一性はなく、バラバラだ。

 しかし何故か、全員がイブキと草子を狙って攻撃している。意思は感じられないのに、目的だけは一致しているようだ。

 怒り狂った猛牛が如く、ただ真っ直ぐ向かって来ていた。大した相手はいないものの、数だけは多い。


「どういう事だ? 操られているのか?」


 イブキは正面から向かって来た、子泣き爺の首を刎ね沈黙させる。残された体が地面に倒れ、灰になって消えていく。

 まるで意思を奪われ、操られているように見える。だが戦闘中の動きは、操られているにしては鋭い。

 より強力な妖異なら、弱い妖異を操る力を有している場合がある。吸血鬼の真祖などが、その筆頭だろう。


「それにしては、良い動きをしているけれど?」


 草子に突撃して行った燃え盛る火車(かしゃ)が、妖刀小鴉(こがらす)によって両断された。良い動きと言いながら、あっさり倒している。

 彼女が言いたいのは、襲って来る妖異が強いという意味ではない。妖異を操るのは、非常に難易度が高いからだ。

 例えば吸血鬼の真祖が、他の妖異を操ったとする。確かに配下として、指示に従わせる事は可能だ。しかし、その動きは緩慢だ。

 人間の子供とどちらがマシか、という程度の動きになってしまう。これは妖異が、精神支配への高い耐性を有しているからだ。

 半妖の人間はこの耐性が低く、簡単に操る事が出来てしまう。だから操られても、機敏な動きが可能となる。


 一方、妖異の場合はそうならない。だから今襲って来ている妖異が、操られている可能性はかなり低い。

 草子は精神支配の可能性に懐疑的だ。しかし、意思の感じられ無さについては、納得のいく説明が出来ない。

 だからイブキは、操られている可能性を考えた。そうでなければ、妖異が意思を失うなんて、通常考えられないのだ。

 意識を失わせたり、気絶させたりする事なら可能だ。では現状はどうかと言えば、元気に動き回っている。

 どうやってもイブキには、今の状態を説明出来ない。襲い来る彼等は、一体どうしてしまったというのか。

 

「こんなの、見た事がない。様々な妖異が、全員同じ状態なんて変だろう?」


「私に聞かないで。中国でだって、こんな事は起きなかったわよ」


 次々と妖異を葬りながら、イブキと草子は思案している。相手が攻撃して来る以上、迎撃するしかない。

 両者とも、無意味に妖異を殺して回る気はない。だがこうなったしまった以上、他に取れる手段がないのだ。

 明確な意思はないのに、殺意だけはしっかり含まれている。まるで最初から、パーソナリティが存在しないかのよう。

 何かを殺す為の、プログラムだけが働くロボットに見える。イブキはそのように感じている。だが相手は、普通の妖異だ。


「本当に謎だらけだ。こいつら、体だけが最近生まれたとでも言うのか?」


 大蛇が地面を拘束で這い、イブキへと背後から向かっていく。幅だけで3メートルはある巨体で、車よりも速く移動している。

 人間が相手なら、轢き殺すだけで十分だろう。だが相手は、歴戦の鬼。死角を狙ったぐらいで、倒せる相手ではない。

 振り向きもせずに、右腕を振るう。巨大な蛇の頭部が、呆気なく地面を転がった。どの妖異も、イブキ達を傷つけられない。

 烏合の衆、という表現が相応しい集団だ。数は揃っているのに、連携を取る事が出来ていない。がむしゃらに突撃するだけ。

 イブキと草子を狙って来るわりに、勝つ気が全く感じられない。最初イブキは、東日本からの攻撃を疑ったというのに。


「ただ自ら殺されに来る。何がしたいんだ?」


「話し掛けても返答はなし。意味が分からないわ」


 イブキが鋭い爪を振るい、腕力で叩き潰し、鬼火で焼き払う。草子が小鴉で、片っ端から斬り捨てていく。

 どんどん妖異は減っていく一方で、イブキと草子には目的がまるで分からない。集団で攻めて来たわりに、何の成果も出ていない。


「――玉藻前、追加が来るぞ」


「もうこれ以上、増えなくていいわ。面倒なだけよ」


 イブキが上空から降下して来る妖異に気づいた。うんざりしている草子は、嫌そうな表情を浮かべる。

 何となくイブキは、追加の妖異に意識を向けた。戦闘を続けながら、支配圏内を確認している。今度は何が来たのかと。

 そこでイブキは、強烈な違和感と、同時に既視感を覚えた。全く見た覚えのない姿をした妖異が、2つ確認出来た。

 1つ目は、下半身が巨大なカブトムシで、背中からムカデの体と頭部が生えている。こんな妖異は、過去に居た事が無い。

 2つ目は双頭のワニで、背中から猛禽のような羽が生えている。これもまた、過去に存在した事がない妖異だ。

 

 明らかに例の作られた妖異だろうと、イブキは当たりをつける。それと同時に、最悪の予想が思い浮かぶ。

 操られているでもなく、意思らしいものが希薄な妖異達。もし彼等が、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 人工の妖異と同様に、何か手を加えられた存在ならば。だとするなら、一応は説明がついてしまう。

 例えばクローンのようにコピーし、複製した妖異だとするなら、今起きている襲撃も理解出来てしまう。

 正規の手段で生まれていない為、魂なんて宿りはしない。ただ特定の目的だけを植え付けて、放ったとするなら。


「……そういう事か。随分と舐めた真似をしてくれるじゃないか」


 イブキが珍しく怒りを乗せて、上空を睨んでいる。恐らくは、妖異を投下しているであろう存在へ向けて。


「何よ? どういう事?」


「この妖異達は、恐らくクローンだ。だから意思がない。だが体は生きているから、本能だけは働く。あとは適当に目的を与えれば、それだけを行う爆弾の完成だ」


「なんですって!?」


 妖異のクローンを作る。そんな事、普通なら考えない。人間を生み出す事と、全く別の行為だ。

 クローンなんて作っても、得られるエネルギーは僅かだ。魂を持たず、感情なんて所有しない。一番大切な部分が欠けている。

 だが素体となった妖異と、同等の妖力は持った状態で生まれる。戦わせる事は、不可能ではない。現にこうして、それらしい集団が居る。

 イブキは自分の予想に、悔しいが納得感を感じている。可能である、という点は確実だ。人間という生命を生み出すより、遥かに簡単なのだから。


「どうやら、相当狂った奴が背後に居るみたいだね」


 イブキが真実に辿り着いた時、追加の妖異が地上に着地した。どちらも山口県の時と、同等の大きさを持っている。

 カブトムシとムカデのキメラは、全長が10メートル近く、ムカデの頭の高さまで7メートル程だ。中々の巨体を持っている。

 双頭のワニは、全長が8メートル程で、高さは4メートルぐらいか。キメラよりは小さいが、ワニが翼で空を飛べるらしい。

 着地で勢いを殺したあと、双頭のワニが羽ばたいて浮かび上がった。酔っ払いの冗談みたいな光景が、繰り広げられている。

 そして同時に、イブキは新たな追加を察知した。しかしその落下先は、この宇治市ではない。もっと京都の北だ。


「玉藻前! その刀をマサキの下へ送れ!」


「はぁ? 急に何を言って――」


「マサキの学校に! 妖異が降下しているんだ!」


 珍しく焦った様子を見せたイブキが、慌てて草子へ事情を説明する。転移の妖術は、まだ未完成で連続使用が出来ない。

 だが小鴉だけなら、碓氷雅樹の下へ送る事が出来る。小鴉本人は渋っていたが、雅樹と仮の契約を結んでいる。

 正式に契約すれば、雅樹がただ望むだけで、小鴉はどこからでも雅樹の手元に転移出来る。しかし今は、まだ仮契約。

 本来の契約者である、草子が望まねば雅樹の下へは移動出来ない。以前の誘拐事件を経て、念の為に行った処置だ。

 起きている事態を理解した草子が、すぐさま小鴉を転移させた。代わりの武器として、鉄扇を懐から取り出す草子。


「早く片付けて、マサキ達の救援に向かうぞ!」


「言われるまでもないわよ!」

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