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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第7章 見え始めた敵の輪郭
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第203話 ある夫婦の1日

 東京の都内、高級住宅街のタワーマンションで、とある夫婦が生活している。表札には遠藤(えんどう)と、表示されている。

 夫は所謂主夫をやっている。旧姓は山下(やました)、奥さんの姓へと変更している。名前は圭介(けいすけ)、27歳の優しそうな男性だ。

 身長は177センチと背は高い方である。体重は63キロと、瘦せ型ではなく太ってもいない。ごく普通の体格をしている。

 短い黒い髪と瞳の色は同じで、どこからどう見ても日本人だ。アジア人らしい顔立ちで、ハーフという事はないだろう。

 穏やかな表情を浮かべながら、夕食を調理している。家事は全て、彼の担当である。毎日3食、彼が作っている。


 結婚前から、ずっとそうだった。彼の配偶者、奥さんの名前は春香(はるか)だ。雇われだが、大企業の女社長である。

 4年前の30歳で就任し、それ以来会社の業績は上り調子だ。元々キャリアウーマンで、バリバリと働いていた。

 34歳となった今も、会社で辣腕を振るっている。子供は作っておらず、2人の間で子を成す予定はない。

 春香はかつて圭介の上司で、社内恋愛で交際を開始。同棲を経て、結婚まで至った。順調にステップを踏んでいる。

 だが忙しい春香は、あまり家に居ない。平日は帰りが遅く、土日ぐらいしか2人でゆっくり過ごす時間は無かった。


 今夜も春香の帰りは遅く、圭介が料理を作り始めたのも21時を過ぎてからだ。それぐらいで丁度良いのだ。

 春香は大体、22時前でないと帰宅しない。連絡は来ていないが、今日もそうだろうと圭介は見ている。

 のんびりと複数のおかずを作り、味噌汁もちゃんと出汁から取っている。圭介は料理が昔から得意だった。

 母子家庭で母親が殆ど家におらず、仕事を掛け持ちしていた。だから圭介は、料理の練習を始めた。

 結果手先が器用になり、大変な母親の代わりに毎日食事を作っていた。その経験が、同棲以降役に立っている。


「ただいま」


 黒髪ショートの女性が、2人で暮らすには広いリビングへ、堂々と入って来る。身長は160センチぐらいだろう。

 圭介と比べれば結構身長差があるものの、纏うオーラが強く小さく見えない。キリッとした表情をしている。

 クールなカッコイイ女性、というイメージを具現化したような姿だ。スタイルも結構良さそうに見える。

 特別巨乳という程でもないが、十分な膨らみを持っている。そのわりに手足はスラっとしていた。


「おかえりなさい」


「先に着替えて来るわ」


「うん、待ってる」


 少し高圧的な言い方だったが、圭介は気にしていない様子だ。上司と部下だったから、元からこうなのだろうか。

 同棲もしていたのだから、慣れているのだろう。嫌そうな表情を、全く見せていない。年上が好きな男性なのだろう。

 そのようなタイプは、支配されるような関係を好む場合がある。全員がそうではないが、一部そのタイプが含まれている。

 女性にリードされたいと考える男性は、昔から一定数居た。男性に男らしさを求めるのが、ハラスメントだと言われる昨今。

 そういうタイプには、生き易い世の中だろう。女性が優位の家庭も、昔に比べれば増えている。圭介のように、奥さんの姓を名乗る夫婦もだ。


「待たせたわね。食べましょう」


 部屋着に着替えて来た春香が、リビングに置かれたテーブルへ座る。高級家具メーカーで買った、フランス製のアンティークだ。

 落ち着いた茶色の木と革が、クラシックな雰囲気を演出している。殆どがウォールナット材で、金属の使用は僅かだ。

 テーブルの天板には、チェス盤のような模様が全体へ広がっている。その上に、圭介の料理が並んでいた。

 頂きますも言わずに、春香は食べ始める。圭介も言わないので、2人の間では普通なのだろう。現在は言わない人も増えている。

 別段不思議な事ではないのだが、些か冷たいように感じる。だが気にせず、2人は食事を続けている。


「困ったものだわ。猿渡(さるわたり)を覚えている? あのハゲオヤジ」


「あ~専務の」


「また余計なミスをしてくれたわ。クビにしたいけど、日本の会社は難しいのよね」


 春香は気に入らない部下の愚痴を、延々と圭介へ話している。旦那に愚痴を聞いて貰う、それ自体は珍しくない。

 ただずっと春香は、誰かの愚痴を話してばかりだ。果たしてこれで圭介は、幸せを感じているのだろうか。

 彼の表情は、ずっと穏やかなままだ。ニコニコと笑っており、どうやらこれで良いらしい。

 女性はただ話を聞いて欲しいだけ、それだけで話すという人も居る。解決策など求めておらず、共感して欲しいだけ。

 だから圭介は、こうして相槌を打ち、たまに返答を返すだけなのか。そのまま食事は終わり、2人はワインを飲み始める。


「最近何だか体調も優れないし、最悪だわ」


「大丈夫? 病院に行く?」


「別にいいわよ、疲れているだけよ」


 心配する圭介の助言を否定し、春香はワインを新しく注ぐ。暫くそうしていた2人は、浴室へと入っていく。

 シャワーを浴びたらそのまま、寝室へと向かっていく。ここからは夫婦の時間だ。程よく熟れた春香を、圭介が抱く。

 特に珍しくもない、普通の夫婦の営みが続く。特殊な性癖も感じさせない、ごくノーマルな行為だった。

 都内のタワマンで暮らせるだけの財力があり、美しい元女上司と結婚する。2人の時間は少なめだが、愛し合う事は出来て居る。

 春香のようなタイプが、苦手な男性は結構多いだろう。しかし圭介のような生活を、羨ましいと考える男性も多い。


 異性の好みなんて、人それぞれだ。最近では若い人ほど、男女平等の思想を持っている。このような生活を、受け入れられる若者は多いだろう。

 男性が家庭の大黒柱としてあるべきだ、という昭和の思想は、どんどん失われつつある。今や共働きが当然の社会だ。

 圭介を勝ち組だと、判断する人の方が、大半を占める可能性すらある。女の癖に生意気だ、なんて思うのは、中年以上の男性だ。

 今の10代が圭介を見れば、羨ましいと思うかもしれない。未成年の将来なりたい職業に、投資家が入る時代なのだから。


 そもそも春香は、かなり美人な方である。大人の魅力が溢れる30代半ば。今時40代でも、美しい女性は大勢いる。

 女性達の美の追求は、年々進化を続けて終わりが見えない。女性が若々しいまま、歳を重ねていく時代へ突入している。

 美魔女という言葉が生まれてから、もう10年以上経っている。言葉自体の初出は、20年近く前の話なのだから。

 肉体のメンテナンスに余念がない春香は、30代だが肌年齢は20代を維持している。その裸体は、言うまでもなく完璧だ。

 少なくとも人間のレベルで言えば、かなりの上位に入るだろう。そんな相手を抱けると思えば、もうそれだけで勝ちだろう。


「今日はまた、積極的だね春香」


「……ストレスのせいよ」


 幸せそうな夫婦生活。男として、全てを手に入れている圭介。だが後背位で春香を抱く彼の目には、怪しい光が宿っている。

 穏やかそうな彼だが、裏の顔を持っている。そしてそれは、春香も同じだった。春香は別の男性と、不貞行為を行っている。

 会社の圭介より若い、男性社員を食っていた。圭介はその事実を、知っているのだ。怪しいと思って、探偵を雇った。

 春香の不貞は、2年前から続いている。それを知った圭介は、暗い感情を抱くようになった。日々溜まっていく、余計なノイズ。

 夫婦生活の中で、モヤモヤした気持ちを抱え続けている。だから彼は、春香を殺す事にした。日々の食事に、僅かな毒を混ぜている。


「愛しているよ、春香」


「ふふ、私もよ」


 言葉通り、彼は春香を愛している。だが自分だけのモノにならないのは、どうしても許す事が出来ない。認められない。

 だったらもう、殺してしまうしかない。そうすれば、他の男とは繋がれない。自分だけの春香を、守る事が出来る。

 一見幸せそうに見える家庭に隠された、どす黒い悪夢。春香の不調の正体は、疲れではなく毒。少しずつ、春香は蝕まれていく。

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