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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第7章 見え始めた敵の輪郭
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第202話 情報の精査

 大江(おおえ)イブキと碓氷雅樹(うすいまさき)が、探偵事務所で資料を広げている。一斉摘発で得た、情報の精査を行っているのだ。

 那須草子(なすそうこ)は気になる事があるらしく、栃木に一旦戻って江奈(えな)やメノウと行動している。そちらでも何か、分かるかもしれない。

 妖異対策課の京都支部では、西日本の室長が全支部から集まっている。知らぬ間に関東へ送られていた、被害者を確認しているのだ。

 そちらでは東坂香澄(とうさかかすみ)が中心となって、急ピッチで複数の情報を洗っている。非常に忙しい日々が続いている。

 雅樹とイブキは、人身売買全体を俯瞰する形で、動きを見ている。そこから本拠地を探ろうという狙いがある。


「20年も前から、こんな事をしていたなんて……」


 応接机の上に、印刷された大量の資料が置かれている。A4用紙に印刷されたカラフルな資料が、妖異対策課と書かれた封筒からはみ出ていた。

 違法な人身売買の記録を見て、雅樹は衝撃を受けている。まさか人間が、こんなにも残酷だったとは、思っていなかった。

 雅樹は妖異対策課の纏めたデータを眺めながら、詳細を確認している。最も古い人身売買は、2006年から始まっていた。

 行方不明事件の被害者や、前科のある人間、身寄りのない老人。外国人も中には含まれており、被害の人数は1万人を超えていた。

 相当な人数が取引されているが、売られた先は東京だけではない。東日本の全域で、取引が行われていた。


「よくもまあこんなに。随分と上手くやっていたようだね」


 他の支配圏からの旅行者や、何らかの理由で訪れた者。支配者に気づかれ難い方法を用いて、巧みに人を集めていた。

 特に関東圏は、仕事を求めて向かう者が多い。東京へのアクセスが良いからと、周辺に住む人間は大勢居る。

 格安の家賃などを餌にする等、人を寄せ集める方法は幾らでもあった。新興宗教なども、良い隠れ蓑になっていた。

 信者化させて身内や友人と縁を切らせて、居なくなっても分からない人物へ変える。そうすれば、後は好き放題だ。

 信じ切っている人間を騙して、人工の妖異へ与える餌として調達する。随分と邪悪な方法が、使われていた事が判明している。


 単純に良い人を演じて、騙すというやり方もあった。上京して来た右も左も分からない者に、親切な人を装って罠にかける。

 市民団体という名目で、人を集めたパターンもある。その件で、先日国会議員が逮捕された。とても大きな問題となっている。

 政治家本人は否定しているが、その団体と関わった者から、多くの行方不明者が出ている。連日報道されて、世論は過熱している。

 ただその件については、単に利用されていただけではないか。少なくともイブキはそう見ている。そこまでの邪悪さを感じなかった。

 その内、長壁姫(おさかべひめ)に記憶を見られるだろう。捕まったのは、兵庫県の選挙区から出た議員だった。そちらはもう急ぐ必要がない。


「とりあえず間違いないのは、まだ人工の妖異は作られている。そう見てもいいだろう」


「やっぱり、そうなんですね?」


「ああ、間違いない。2019年、7年前を境に、取引量が一気に跳ね上がり、今も続いていた。続けていないなら、こうはならないだろう」


 各都道府県、支配圏には十分な人数の人間が暮らしている。あの手この手を使い、人間を集める必要なんて本来ない。

 何か、表だってはいけない理由でもない限り。東日本全域で取引が行われているのは、目くらましだろうとイブキは考えている。

 人身売買の目的が、妖異から多額の金を得る為だった。どこかが摘発されても、それで言い逃れが出来るように。

 トカゲの尻尾きり、という意味もあるかもしれない。いずれにせよ、東日本のどこかに本拠地があるのは確実だ。


「やっぱり、東京でしょうか?」


 雅樹は取引量が一番多い東京に、本拠地があるのだろうかと考える。他の都道府県と比べて、取引が一桁多い。


「……かどうかは、まだ断言出来ないね。経由地、という可能性もあり得るからね。人間で言えば、日本の中枢は東京だ。でも食料生産の拠点は、色んな場所にあるだろう?」


「あ、そっか。静岡の研究所みたいな場所が、東京にあるとは限らないのか……」


 指令所のような場所は、東京かもしれない。現状最も怪しいのが、妖異対策課の東京支部だ。しかし踏み込むには、証拠が足りない。

 あくまで妖異対策課に忍び込んでいた、スパイが見つかったというだけ。これで東京支部に突入は、やや理由が弱い。

 東京支部そのものは、喰いモノにされていただけ、という線がまだ残っている。大半の職員は、何も知らない可能性がある。

 イブキから見て、トップである室長は限りなく黒に近いグレーだ。一条愛宕(いちじょうあたご)の持ち帰った記憶では、スパイとの個人的な接点が見つかった。

 千葉に本拠地があったスパイ組織は、真っ先に京都支部が突撃し、全ての証拠を押収している。後は香澄が纏めるのを待つだけ。


「今東京を攻めるべきかは、正直微妙だね。協力している妖異が、誰だか分かっていない。現状玉藻前達を除く、他の東の支配者は全員が容疑者だ」


 真っ先に疑うべき妖異、それは支配者クラスの妖異だ。大掛かりな事をする実力と、権力を合わせ持っている。

 研究所を支配圏内に、建築するのは簡単だろう。トップが知っていて見逃すのだ、明るみに出る事はない。

 次点で疑うべきは、上位に位置する妖異達。支配者を言いくるめて、お目こぼしを貰っている。簡単ではないが、不可能ではない。

 人工の妖異にどれだけメリットがあるか、説得さえ出来れば乗る可能性はある。確かな利益が出ると、判断出来れば。

 今でこそ落ち着いているが、本来妖異は殺し合っていた。自分の種族と違う妖異には、徹底して冷徹な妖異は多い。


 実際に草子は、身内以外に容赦がない。だから永野梓美(ながのあずみ)や、愛宕には冷たい。乾英子(いぬいえいこ)冷泉翠(れいせんみどり)に対してもそうだ。

 草子ほどではないが、イブキも身内以外には厳しい面がある。程度の差はあれど、妖異とは元来そういう存在だ。

 そんな妖異を人間が作るという行為を、思い上がりと思わせなければ、説明の仕方次第では、受け入れる妖異は居るだろう。

 イブキや草子達、そして西日本の妖異の多くは、許容していない。だが東日本の妖異は、何とも言えない者が多い。

 西の妖異は、旧来の妖異としての在り方を重視する。言うなれば保守派だ。対して東は、全くの逆を行っている。


「東の妖異達は、人間で言うならリベラル派だね。革新的な新しいやり方を、好む傾向にある。私には理解出来ないけどね。今更新しいもクソもないだろうに。長い時を生きているのだから」


「結構妖異と人間って、似ていますよね。今更ですけど」

 

 生物として、人間と妖異は決定的に違う生き物だ。妖異は地球に生まれた生命で、人間は造られた存在だ。

 しかし元となった妖異の性質を、色濃く受けている。イブキ達には理解出来ない、人間の不思議な習性は多い。

 だがこう言ったところで、共通点を見出す事が出来る。造られた生命でも、半分は妖異だというだけある。

 妖異と人間の間に、子供が作れるのもそうだ。似ているようで違い、遠いようで近い。何とも言えない距離感だ。


「話を戻そうか。一旦東京と決め打ちして、攻めるのは良い。また玉藻前にやらせれば、荒波はそこまで立たない。君も行ってくれれば、見て来た記憶を見せて貰える」


「この前と同じって事ですよね」


 数日前に行われた一斉摘発で、同行していた雅樹は、イブキに記憶を見せた。頼まれたからではなく、自発的にそうした。

 イブキの役に立ちたい、人間の間違った行いを正したい。その一心で、全力で協力しようと思ったからだ。


「ただし、本命へ辿りつけるかは怪しい。確かな証拠が何もないからね。摘発より前に、東京から出ている可能性だってある」


 イブキと草子に知られた時点で、拠点を移している可能性は考慮せねばならない。情報の精査が終わった段階で、どこまで分かるか。

 その如何で、次に打つ手が決まる。大した収穫が無ければ、一旦は妖異対策課の東京支部を、仕方なく攻めるしかない。

 まだ当たるべき情報は大量にある。イブキは正直、決定的な証拠は出ないと思っている。だが、今は得た情報を調べるしか出来ない。

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