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その美女は人間じゃない  作者: ナカジマ
第7章 見え始めた敵の輪郭
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第201話 思わぬ反撃

章設定を忘れていました。7章は、「見え始めた敵の輪郭」です。

 大江(おおえ)イブキが主導した関東圏の一斉摘発は、大きな問題となった。黒澤会(くろさわかい)の構成組織に激震が走る。

 行われたのは、強制捜査という名の実質的なカチコミだ。上層部へは、直接的な被害はない。

 だがしかし、多くの手足を失う事となった。活動を支えている下部組織が、半分以上狙われてしまった。

 特に足のつかない人身売買が、8割ほど崩壊してしまった。まさかの事態に、構成組織達は頭を抱えている。

 東京のとあるビルの会議室にて、各組織のトップが集まっている。その空気は、最悪と言っていいだろう。


「どうするつもりだ! これまで積み上げたものが全て失われたぞ!」


「困っているのはお前だけじゃない! 一体どこの馬鹿が、ここまでの情報を漏らした!」


「これ程の被害は、前代未聞だぞ!」


 いつぞやの時と同じ光景が、繰り広げられている。いやむしろ、あの時以上の剣幕で彼等は話している。

 会議とは名ばかりの、糾弾合戦が行われていた。黒澤会は、結成して200年以上の歴史を持つ大組織だ。

 茨木童子の復活を目的として、秘密裏に活動が続けられて来た。特にここ数十年は、人間の発展により計画は大きく動いた。

 人間の手で妖異を作り出す事に成功し、加速度的に組織の活動は勢いがついた。それが僅かな期間で、崩れ始めた。

 夏には酒吞童子と玉藻前に、人工の妖異を知られてしまった。古参の大物を相手に、認知されてしまったのは痛い。


 そのまま立て続けに、重要な研究データを紛失。結局最後の行方は、関西で止まったままである。

 一時は東京の妖異対策課を、関西へ送るプランも考えられた。しかし、実行に移される事は無かった。

 大江イブキと那須草子(なすそうこ)が、東京の妖異対策課を怪しんでいる。そんな噂が、流れて来た為だ。事実であれば、リスクが高い。

 黒澤会が抱えているのは、東京の妖異対策課のみ。東日本にある他の都道府県は、掌握出て来ていない。

 別の支部に依頼する案も出たが、後から東京支部の依頼だと発覚する可能性がある。やはりその場合も、リスクを抱える。


「見ろ! 大きな後ろ盾を1つ失った!」


 1人の中年男性が、大型テレビで流れているニュース番組を指差す。1人の政治家が、公職選挙法違反で逮捕されている。

 60代の大物野党議員であり、黒澤会のバックアップをしていた。その女性は、色々と便宜を図ってくれていた。

 公職選挙法違反とは名目であり、本当の目的は彼女の記憶を覗く事だ。組織の要となる情報は、彼女に教えていない。

 本人は市民団体の援助を、ただしているつもりだった。しかし、ここに居る何人かが、彼女と直接会っている。

 イブキや草子に、顔を覚えられてしまう可能性は十分考えられる。彼女の逮捕は、大きな意味を持っていた。


「かなり活動がやり難くなるぞ! どうするんだ!」


「いちいち大声を出すな! 我々だってそれぐらい分かっている!」


「ならどうする!? 何か良い案は無いのか!」


 どうするか答えろと言われても、誰も手を挙げる事はない。今までは思い通りにやれていた。しかしこれからは違う。

 政府に反対する市民団体を装い、孤独な人間達を集めていた。居なくなっても、発覚する可能性が低い者達を。

 だがそれも、これからは厳しくなるだろう。旗頭が居なくなってしまった。じゃあ代わりにと、誰がやるというのか。

 捕まった女性議員のカリスマ性で、どうにか成り立っていた団体だ。その本人がこれでは、続けるのは難しい。

 実験に使う人間の入手が、難しくなってしまった。特定の地域で異様に人間が減ると、周囲の妖異達が怪しむ。


 抗争の準備でもしているのかと、疑われても文句は言えない。下手な軋轢を生まない為に、全国各地から引っ張って来た。

 その手段が今や、殆どを失ってしまった。残った2割だけでは、研究のペースが大きく後退してしまう。

 一定の理解を示してくれている支配者も居るが、全面的に協力してくれてはいない。面白そうという、興味を持たれただけだ。

 人間を融通してくれと言って、応じてくれるかは微妙なライン。かなりの報酬を用意せねば、先ず首を縦に振らないだろう。

 ただで食料を譲ってくれと言われて、はいどうぞなんて人間でも言わない。欲に正直な妖異なら、もっと嫌がるだろう。


「そもそも、責任を取るべき組織はどこなんだ?」


「確かにそうだ。我々全員が、対策を考える事ではないだろう」


「大失態を犯した組織が、全ての責任を取るべきだな」


 結局いつも通り、責任の所在が問題となった。そう珍しい光景ではない。日本社会では、よくあるやり取りでしかない。

 誰が責任を取るのか、擦り付け合う。責任なんて、誰も取りたくないものだ。大きな組織であればある程に。

 大組織に属する事は、多くのメリットがある。ただ同時に、こういった際に大きなデメリットが返ってくる。

 問題が起きて揉めた時、ケツ持ちを誰がするのかが求められる。そしてその多くは、誰も拾いたくない火種だ。

 触れれば大炎上は間違いなく、全身が消し炭になる可能性を秘めている。近づこうとする者は先ずいない。


「ん? どうした妖異対策課? 随分と静かじゃないか?」


「いや……別にそんな事は……」


「やけに歯切れが悪いな? ハッキリ話さんか」


 東京支部で室長をしている男性が、視線を泳がせながら小声で話す。やや後退気味の頭髪が、びっしょりと濡れている。

 エアコンの効いた室内で、しきりにハンカチで顔を拭いている。中肉中背の、どこにでも居そうな中年だ。恐らく50代ぐらいだろう。

 優しそうな見た目をしており、妖異対策課のトップには見えない。しかし彼はエリートであり、単に現場向きではないだけだ。

 最前線に立つタイプではないというだけ。運営自体は問題なく行えている。しかし、京都支部と比べると微妙だ。

 成績では毎年、京都支部に負けて2位。東坂香澄(とうさかかすみ)が室長に就任してから、ずっとこの状況が続いている。そういう意味でも、京都は敵だ。


「いや……だからその……」


「何だね? 勿体ぶるような話かね?」


「5日前から……1人の隊員が行方不明で」

 

 その一言が飛び出るなり、会議室の空気がガラリと変わった。もしかして、という雰囲気が充満していく。

 妖異対策課に出入りしている者であれば、それなりの情報を所持している。もし捕まったとするなら、こうなるのも理解出来る。


「まさか、お前らなのか!?」


「ま、待って欲しい! 行方不明なのは、外部の組織から出向している者だ! 直属の部下じゃない!」


「そういう問題ではないだろう! どうして今日まで黙っていた!」


 あちこちから厳しい指摘が飛んで行く。管理不行き届きだとか、情報共有が遅すぎる等の意見が出る。

 5日もあれば、イブキが動くには十分過ぎる時間だ。相手は大物で、西日本の代表でもある。鶴の一声で、西の妖異対策課が動く。

 東京を除く周囲全ての都道府県が、一斉に摘発されている。まるで包囲して、ジワジワと苦しめるかのように。

 

 次は東京だぞと、宣言されているかのよう。一度引き上げたのは、証拠固めの為だろうと思われている。

 彼等の認識はそこまで間違っていないが、実際には東京の情報が、あまり得られていなかったから一度退いた。

 東京の情報については、厳重な情報統制が行われている。まだ上層部には、手は伸びて来ない。少なくとも現段階では。


「以前研究データの輸送で、ミスをしたあの組織だ! 妖異対策課の失態ではない!」


「無関係と言い張る気か? それは無理があるだろう!」


「責任の一端は、君らにもあるだろう!」


 妖異対策課の彼は、あくまで妖異対策課の人間だ。個人として、黒澤会へ参加しているだけ。スパイとして潜伏しているのは別の組織だ。

 スパイ組織から誘いを受けて、今の立ち位置を得ている。協力関係にはあったが、組織としては別の所属だ。

 無関係というには厳しく、かと言って全責任があるかと言えば微妙だ。ただ彼としては、無関係だと主張したいところ。

 今この場には、上位の組織しか呼ばれていなかった。しかし緊急で、スパイ組織を呼びつける事が決まる。

 イブキからの思わぬ反撃は、致命傷では無かったが、それなりの打撃を与えていた。会議は更に紛糾していく。

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