67話 英傑と衛者と勇者と愚者
さてさてと、旅の途中で希少価値のある植物を無断採取した俺達一行に、正義の刃を向ける『剣咲流』の剣士達。
圧倒的数の多い『剣咲流』の包囲、そこから1人、また1人と、俺達に剣を向けるのだが、クラリス、オヤジ、スネ夫が見事に撃退している。
いやー、完全にこっちが悪いのにな。
思いっきり開き直ってる感じが納得出来ないが、一応身の危険って事もあってクラリス達の暴挙には眼を瞑ろう。
うん。
そんな事を思いながら周りを見ていると、「所詮『闘女王』の称号など、名ばかりの飾り者!我等『剣咲流』の敵では無いわ!」とか、言ってた1人の剣士が、あっさりクラリスに返り討ちにあったところだ。
「おい、クラリス…もう少し穏便にだな。」
「何を言っている、此方の意見を無視して襲いかかってきたのだぞ?それを耐えていたのだ、これ以上穏便にとは、また無茶を言うな!」
そう言いながら、相手の剣を地面へ叩きつけ、そのまま足でへし折る怪物クラリス…
「お前、なんか生き生きしてるんだけど、気のせいか?」
「はっ!な、何を言う、べ、別にコイツ等が気に食わないとか、そういうのではないぞ?これは、そ、そう!正当防衛なのだ!」
おお、珍しくクラリスが言い訳してるよ。
これは自身の非が有るのを分かってて返り討ちにしてるんだな。
あ、また1人吹っ飛んだ…。
「っとぉー!危ねぇなっ!おい!」
と言いながら、どデカいハンマーを振り回すオヤジ。
アイツも乗り気じゃなかったのに、随分と派手に暴れてるな…。
ハンマーを剣の腹で受けた奴なんて、そのまま身体ごと飛ばされてるじゃねぇかよ。
最初見た人数も、今じゃ半分くらい返り討ちにあっている。
先頭に立って指揮していたガストも、表情が優れないようだ。
それもそうだよね、たった3人に『剣咲流』剣士が瞬く間にやられてるんだもん。
俺だって驚きだよ。怖いよ。
「ったく、キリがねぇな。」
とか言いながらもアッサリ攻撃を躱しつつ、しっかり反撃もするスネ夫。
一太刀目を躱され、次の反撃に出ようにも、関節部分を狙うようにスネ夫の剣筋が刻まれる。
「馬鹿な…そんな…。」
青い顔をしながら、プルプルと震えているガスト。
『剣頂』だかなんだか知らねぇけど、完全に采配ミスだろ、こっちの戦力は俺が思っていた以上に圧倒的だ。
なにより恐ろしいのが、戦闘に適してる人間がこっち側に、まだ4人もいて、クラリス、オヤジ、スネ夫の3人状態でコレなんだよな…。
なんか、弱い物イジメしてるみたいで心が痛い。
というか、ここらの犯罪者を取り締まる警備ってコレで大丈夫なのか?ハッキリ言うと弱すぎじゃないか、、、こっちの戦力が強すぎ?なのか?よく分からん。
「さて、ガストとやら、我々はこれ以上争う気は無いが、まだやるというのなら対抗させてもらうが、、どうするのだ?」
圧倒的有利な立場から、そう言い放つクラリス。
対するガストは、現状を信じられないといった表情で見ている。
「な、なぁ、クラリスや、とりあえずコッチの謝罪も込めて、金は払ってやろうぜ?無断でソードフラワー採取したのは事実なんだしさ。それにこの後コイツ等の街にも行くんだろ?」
「む、私は最初からそう言っているのだが、話す間もなく襲いかかって来るもので、つい。な。」
ヒソヒソとクラリスへ話し掛けるが、一向に反省の色無し…。
まぁ言ってる事は間違ってないんだが、それでもねぇ…。
「貴様等!我等『剣咲流』を敵に回して唯で済むとは思ってまいなっ!!」
ガストさん、それは完全にやられ役の台詞だ。
「何度も言っているが、此方の非は認める。そして、その事について交渉をしようというのに襲いかかって来たのは其方の方だ。勝手に敵に回っておいて何を言うか。」
「ぐぬぬ、我等の正義を力でねじ伏せるとは正に悪の所業…こうなったら此方も奥の手を出すしかあるまい。」
「おいクラリス…あんまり挑発すんなよ?会話成立してないし、何かしようとしてるし。」
ガストは何やら隊の後ろに合図しながらも、先ほどまで抜いていた剣を鞘に納める。そしてもう1本腰に差していた剣を抜く、、
真っ白な刀身は夜の暗さでもハッキリ分かるくらいに輝いて見える、そんな綺麗な剣を片手でしっかりと構えるガスト。
「ガスト殿!其れを使うのですか!?」
「待って下さい!そこまでしなくとも我々が!」
「ま、魔剣…」
「第一隊!離れろ!巻き添えを食らうぞ!」
ザワザワと剣士達が口を開く。
魔剣?なんかアクアが使ってたのよりも白くて綺麗だな。
「剣咲流『剣頂ガスト』参る!」
そう言い放つと、ユラリと前に倒れ込むガスト、、その瞬間クラリスの目の前に剣を振り降ろす姿が現れる。
ガキンッ!
と、振り下ろされた剣を難なく受け止めるクラリス。
「ちっ」
と苦い顔をしながら直ぐさま横薙ぎの一閃を放つ。
「ふむ…」
至近距離からの横薙ぎは受け止める訳でもなく、バックステップで大きく回避するクラリス…
だが、その動きを読んでいたのか、クラリスに合わせ同じように接近するガスト。
そんな動きに、クラリスは身体を傾け、上手く相手の間合いから抜けるように回避しつつ自身の剣を防御にまわす。
そんなクラリスへと絶え間なく剣閃を放ち続けるガスト。
生身の剣では耐えきれないのか、ガストの一閃を受け止める度にクラリスの剣から鈍い音が聞こえる。
「これも受けきるとは…さすが元副長…しかし、これからが本番!」
と言いながら怒濤の剣戟を放つガスト、袈裟懸けから横薙ぎ、唐竹割りから返し刃、愚直な振り下ろしの中にも一際エナの宿る一撃を織り交ぜた剣術のようだ。
エナが視ることの出来る俺だから簡単に分かるけど、視えないクラリスは難なく受け、時に躱す。まるでここぞの一撃だけは受けること無いような動きに、俺もガストも驚きを隠せない。
いや、マジで何で分かるんだアレ、、、、しかも分かっていても躱せる速さじゃないし、つくづく化け物染みて怖いよクラリスさん。
「くぅっ!!!ちょこまかとっ!!!」
分かりやすく激昂するガストに対して、冷ややかな視線でいなしていくクラリス。
まるで稽古付けをしているようにも見えるから不思議だ。
「ガスト殿が、手も足も出ない…なんて。」
「アレが元連合軍副長の実力なのか…」
「剣頂ガストが…信じられん。」
周りの剣士にも2人の実力差は明白のようだ、俺も正直驚きだよ。
そんな傍観者丸出しの俺。その近くにオヤジとスネ夫がやって来る、どうやら2人とも剣咲流の相手は終わったようだ。
「いやー流石っていうか、何というか。」
「あぁ…相手側もかなりの使い手なのにな、クラリス様相手だと可哀想に見えてくるぜ。」
「やっぱ2人から見ても圧倒的なのか…。」
「まぁな、、ガキは知らねぇかもだがクラリス様は剣士相手に負けねぇんだ。」
「アイツ受けた技全部覚えるんだろ?化け物染みてるよな。」
そりゃ長いこと副長なんてやってたんだ、剣咲流の技はほとんど覚えてるんだろうな…
すると、今頑張ってるガストさんの剣術なんてものは、クラリスからしてみりゃ一度見た技だもんな…そりゃあ相手にならんわ。
「どうした?もう終わりか?これ以上無いのなら、1度剣を納めて話し合いにしないか?」
「戯れ言を…まだ此方の剣は全て見せておらん…」
クラリスの言葉に従うことなく、スッ…と剣を構え直すガスト。
真っ白に輝く剣を自身の前に突き出し、身を低く構える。
「徹底抗戦…か…仕方ないな。」
その構えを見たクラリスも、身体の力を抜きながら自然体で相手を見据える。
「随分と躱すのが上手いようだが、、この技は躱せまい!!行くぞ!!」
大声を上げながら、持ち前の剣を高く掲げ振り下ろすガスト。
しかし『剣咲流』の剣士の方々は何か言いながらじゃないと攻撃出来ないのは何でだろう?もう何かの呪いだろ。
「む?」
クラリスはガストの振り下ろされた一閃を躱そうとするが、咄嗟に剣で受ける、、
ズズンッ!という地響きと共にクラリスの足下が陥没する。
そんな重たい剣を受け止めた当の本人は涼しい顔しているが、技を放ったガストがニヤリと笑う。
剣を受け止めているクラリスへと、ガストの魔剣から溢れるエナは徐々に光を強める、ゆっくりとクラリスを押し潰すように…
「無駄だ!我が魔剣の力!このまま大地のシミとなれ!!」
そう言いながら更に光を放つ魔剣。
クラリスの足下もクレーターのように範囲を広げながら陥没していく。
が、未だ涼しい顔でしっかり受け止めているクラリス、、
あれ?おかしいな…アイツ呪いのせいでエナ使えないはずなのに、なんで平気なの?基本スペックヤバすぎじゃね?
「ふむ、このままでは剣が保たぬな…さて、どうしたものか…。」
片手でガストの魔剣を受け止めながら、空いてる片方の手は顎に当てながら考え込むクラリス。
そんなクラリスの余裕綽々の態度に、ガストも驚きと怒りが混じった声を上げる。
「ふっ…!ふざけるなぁぁっっ!!!コレならどうだぁっっ!!!!」
直後、爆発的に広がるエナの光…
バキンッ…とクラリスの剣から鈍い音が響く。
端から見ても分かるくらいにクラリスの剣にヒビが見える。
「どうだ!!これこそ我が魔剣の能力っ!」
圧倒的に追い詰めたと見えるガストの顔も、目の前のクラリスを見れば一目瞭然の結果。
当の本人はまだ涼しい顔してるけど、あのままだと剣もクラリスも、まずくないか??
地鳴りと共にクラリスの足下のクレーターも広がり、ガストの魔剣の力がどんどん強くなっているのが丸わかりだ。
パキンッ……
と金属が折れる音と共にガストの剣がクラリスへ叩きつけられる
。ズズゥンと鈍い音が辺りに響き渡り、その威力を遠目に見ていた人間が誰しも肌で感じていた。
「はぁっ!はぁっ!
……しまった、つい力を開放し過ぎたようだ、、、しかし、我が魔剣の力をここまで使わせるとは…さすが称号持ちというわけか…。」
砂埃を前に立ち竦むガストが、己の勝利を確信したかのように口走る。
そして、自らの作り出したクレーターに背を向けながら、仲間の元へと凱旋するガスト、その勇士を傷付きながらも称えるように見守る『剣咲流』の皆さん。
「お見事でした!ガスト殿!」
「流石『頂』!素晴らしい技を見せてもらった。」
「所詮は御飾りの副長、真の実力者相手に手も足も出なかったな。」
「うむ、実際『剣頂』の剣を躱すことだけで精一杯だったと見えた。」
揃いも揃って勝手な事を口走ってる奴等がいるが、直接クラリスにやられた奴等はまだ不安そうな顔してるな…うん、正解。
朦々と上がる砂埃を背に歩くガスト。
そんなガストを迎える剣士の皆さん。
そして、砂埃からユラリと動く1つの影…
「ガッ!ガスト殿っ!」
「ん?どうした?いったい何を………」
青い顔をしながら、ガストの後ろを指さす1人の剣士。
そんな指さす方へ振り返るガストの表情は、みるみるうちに驚愕へと変わっていく。
自ら技を放った場所から、自身の足取りを確かめるようにゆっくり近づくクラリス様。
パンパンと砂を払いながら一歩、また一歩と、その距離を縮める。
「ばっ…か…なっ。」
「ふむ、随分と重たい剣だったな。重力系統の能力か…」
「あ…あっ、あれをっ!どうやって!?」
ガストの言うことに激しく同意だ。
マジでどうやって受けたんだよ、それこそ俺の眼にはクラリスがエナを使った様子なんて視えなかったしな…
「どうやって?とはまた不思議な事を…確かに初見では難しかったかもしれないが、何度も同じように放ってきた技だ、対処する方法を考える時間は充分にあった。」
「そんな、生身の人間が、止められるはず…」
「では、話をしようか?」
驚きなのか、恐怖なのか、ワナワナと震えるガストに、相変わらずブレないクラリスが交渉を進めようとするが、、
「ふっ!ざけるなぁぁぁっ!!!!」
と勢いよく、無防備なクラリスへとエナの光を纏った剣を振り下ろす。
クラリスの右肩へと振り下ろされた剣が、ドスンと鈍い音を立てながら新しいクレーターを作り出す。
が……
「満足したか?」
普段通りの涼しい顔で、ガストの剣を素手で止めているクラリス…。
絵面的にとんでもない状況なんだが、クラリスがチート過ぎてガストが可哀想にも見えてくる不思議。
「かっ…片手で……我が魔剣を…そんなバカな…」
「さて、このままで話をするのも些か気が引ける…そろそろ剣を納めてはくれないだろうか?」
「貴様…化け物か…」
「化け物とは、酷い言い草だな。何度も言うが此方には交戦の意志は無い、大人しく話し合いをだな…」
そう言いながらガストの魔剣を投げ捨てるように手放すクラリス。ガストもクラリスから素早く離れ、まだ警戒の眼差しでこちら側を見据える。
「……チッ……仕方ない。」
少し何か考えながら剣士に合図を送り、自らの剣を納めるガスト。その姿を見た他の剣士も、戸惑いながら次々と剣を納める。
…
「では、先ほどの話に戻ろうか、、まず私達一行は旅の途中だ、偶然にも其方の管轄下であるソードフラワーを無断採取してしまった事は詫びよう。」
「ふん、お前達が唯の族では無いということは分かった。」
散々武力で制圧しようとしてたのに、それが通じないと分かってから、ようやく話になったな。
さてさて、後は遺恨を残さず上手いこと交渉してくれよー。
「私の監督不行き届きもあるが、知らなかったとはいえ迷惑を掛けた事は謝罪しよう。勿論採取してしまったソードフラワーの対価は支払おう。其方が他にも何かあれば出来るだけ交渉には応じるつもりだ。」
「……。此度の一件は一度本部に持ち帰り精査しよう。本来ならば、このまま連行するところだが、クラリス元副長は護衛任務中という事、、道中『剣咲流』本部へ立ち寄ってもらい、そこで折り合いをつける。それで良いか…」
「寛大な処置感謝する。」
「ふん!だが、それはこの先も自由にして良いと言うことではない、ここは我等『剣咲流』の管轄下!そこをしっかり肝に銘じながら行動されよ!」
「ふふっ、あぁ問題ない。」
どうやら上手く纏まったんかな?
俺としても、揉め事は簡便だしな、平和に行こうぜ。平和が1番。
「して、先ほども言っていたが、魔物寄せとは?」
クラリスの発言に、俺達の方を一斉に向く剣士の皆さん。
統率が取れ過ぎて怖いよ。
「滅多な事では街道に近寄らないビッグウルフの群れを、ここへ向かう道中に見つけた。勿論我等が仕留めたがな。」
「ほぅ、ビッグウルフの群れか…なかなか厄介な魔物だな。」
「そうだ。奴等、知能は低いが、村や街に入れば見境無く生き物を襲う、定期的におびき寄せ仕留めなければならん。」
「そのビッグウルフと、私達一行に何の関係が?」
ビッ!
っと焚き火の方を指さしながらガストが口を開く。
「熱したソードフラワーの匂い、アレが魔物寄せだ!!!」
「ぇ?」
ぇぇえ??マジで?犯人俺じゃん!
「こんな街道のど真ん中で!たまたま我等が巡回していたから良いものを、普通ならここら一帯は魔物の群れに囲まれていたぞ!」
「む、そ、それは、すまなかった、、その私達もソードフラワーにそんな効果があるとは知らずにだな、、」
「まぁ、貴様達が魔物を使って何か企むようなら…ーーー」
…
クドクドと長いお説教を受けるクラリス…
なかなか珍しい光景だな。うん。
いやいや、完全に俺のせいで叱られてるし、無断採取だけでも居心地悪かったのに、魔物寄せまでだもんな…。
これは後々こっちに八つ当たりが返ってくるパターンですね。
わかります。
しかし、揚げ油の臭いに魔物が集まってくるなんて…
案外グルメな魔物じゃねぇか、と、感心するのもおかしいけどな。
その後も小言をクラリスへと溢しながら、剣咲流の皆さんは去って行った。
去り際に何やら俺達の方を睨んでいたが、まぁ気にする事は無いだろう。
むしろ気にするのは、この後…の…
…
「という事があってだな…。」
「なるほど、それでクラリスが先ほどから執拗にユウを追いかけているのか…。」
とルビィの影に隠れながらクラリスをやり過ごす俺。
「ぐぬぬ、ルビィ様…。そこを離れて下さい、ユウには然るべき罰を与えねばなりません。」
「いや、確かに魔物寄せは俺のせいだけどさ、、皆知らなかったんだから勘弁してくれよ、お前だって旨そうに食ってただろ?」
「私が気に食わないのは先ほどからルビィ様を盾にしている貴様の態度だっ!」
「別の問題にすり替わってるじゃねぇかよ!」
ふふっと笑いながら、俺とクラリスに挟まれるルビィ。
「まぁ、お互いそれくらいにして、そろそろ休もうではないか、、話によると、道中の魔物は駆除されたみたいだしな。今夜は比較的安全だろう。」
「俺は魔物よりも、クラリスが怖いよ。」
「安心しろ、恐怖など感じる前に塵に変えてやる、さぁ、さっさとこっちへ来るのだ。」
「自殺志願の気はねぇよ!クラリスこそさっさとどっか行けよ!」
「なぁに、ユウがルビィ様から離れるのであれば私は大人しく引き下がるぞ?」
絶対嘘だ。目がヤバい、こんな時は守護神カレンちゃんを召喚するしかねぇ。
「おーいカレンちゃーん、ちょっと助けてくれよー。」
「ーーー」
「あれ?」
返事が無い、コレイカニ?
「ユウ、カレンなら既に腹を抱えながら馬車で寝ているぞ?」
「えぇ!?何してんのアイツ!?」
「そして私もそろそろ眠いのだが、ユウはまだクラリスと遊んでいるのか?」
「いや、どう見ても遊んでるって表現おかしくないか?結構命の危機だぞ?」
と、そんなくだらないやりとりを経て夜は更けて行く…。




