66話 ルールとマナー
あれよあれよと旅の計画と準備を進めていき、何の問題もなく出発となった。
カリキの街の大きな門をくぐり抜け、だだっ広い街道へ向かう。
【ヨンヨン街道】
東聖大陸を一直線に横断しているひたすら真っ直ぐな道。
逸話では、かの聖人が大陸を割るほどの剣戟を放ったとか、恐ろしい術を使ったとか色々あるが、道幅は疎らで、1番狭いところは、馬車がすれ違うのも一苦労する。逆に広いところは、それこそフリーマーケットでも開かれるくらいに広い。
道中にはそれなりの林や集落もあるが、基本的に道の終わりは見えない、本当に真っ直ぐ延びてるように見える。この世界の人々がここまで精巧な道を造れるものなのかと思ったが、それこそ術とかクリスタルとかあるから、もしかしたら造れるのかもしれない。俺としては語り継がれるくらいの逸話の方が好きだけどな。
「じゃぁ、見ててね。」
そう言いながら馬車の外に手を向けエナを巡らせる少女。
淡く白い光と、うっすら青い光が交差するように集まっていく。
「おっ、その調子だ、両方とも視えるぞ。」
「むむ…むぅぅ。ここから…」
白と青の光が交差する手のひらへと、更にもう一筋の光がゆっくりと追い付く…
「ッッ…くっぁ…もぅだめ!!」
手のひらへと集まっていたエナはそのまま霧散してしまう。
「惜しい、もう少しだったぞネオン。」
「なんか感覚的には掴めそうなんだけどなー、2つから3つは難しいよユウ。」
グーパーと手を開閉させながら、首を傾げるネオン。
純白の髪の毛に日の光が反射して神々しいオーラを纏ってる、魔王の娘、俺のカワイイ嫁。
「驚いたわ、実際に出来るものなのね…。」
「ネオンディアナは昔から器用だったからな、、まぁ俺には何も見えないけど…。」
すぐ近くにいたマナとライナスも目を見開きながら口を開く。
「マナの言ってたネオクリスタルの原理をネオンに説明してみたら、なんとなくーからの実践練習って感じだな。まだ4つ同時発動は無理そうだけど3つまでならイケそうだぞ?」
「視た感じ、そうみたいね。流石魔王継承権第一位ね、、」
「ふふんーどう?ライナス?驚いた?ユウと秘密の特訓してたんだよ。」
ドヤ顔をライナスへと向けるネオン。
自慢できる幼なじみが近くに居るのは良いよね、でもネオンはやらんぞ、俺の嫁だ。
「違う術を連続で発動するのは何度も見たことあるけど、同時に違う術を発動ってのは凄いな、どうなってんだ?」
自身の手を見ながらエナを集めるライナス。青いエナが手のひら全体に集まる。
「うーん、料理してる時と同じかも、煮込みながら材料斬ったりとか、味見しながら火力調節とか、そんな感じかなー?」
「悪ぃ、マジで分からねえ。」
ネオンや、その例えは俺も分からんぞ。
そして壊滅的な料理オンチのルビィやカレンには絶対に伝わらないヤツだ。
「でも今視た感じだと、3つ混合発動までもう少しだな。エナ事態は3つ出てたし。」
「ホント!?じゃぁもう少し頑張ろうかなー。」
パァッと眼を見開きながら嬉しそうな顔を俺に向けるネオン。
あぁーカワイイ。なんだこの生き物は、俺を萌え死させる気か?本業はアサシンじゃないだろうか?だとしたら完璧な仕事人だ、俺は死ぬ。
「てかネオンディアナは、そんなにバンバン術発動してエナ切れしないのか?」
「まだまだ大丈夫だよ、なんかね魔力とエナを上手いこと合わせて使ってると全然疲れないの。」
「それな、本当魔人族ってのはズリィよな。」
「海人族だって水の中で苦しくないのズルイよ。」
「ははっ、違ぇねぇな。」
微笑ましい2人の会話を聴きつつ馬車に揺られる…
遙か東へ一直線に延びる街道。
何台もの馬車や、徒歩の商人ぽい人々とすれ違うが、今のところ何の危険も無く順調に進んでいる。
馬車は3台。
先頭がルビィ、クラリス、カレン
まぁ言うまでもなくルビィ大好き2人がルビィの近くにと言う事で、仕方なく譲った。
次が俺、ネオン、マナ、ライナス
本当はルビィとネオンの3人で新婚旅行気分を味わいたかったのだが、まぁそこは我慢しようではないか。
最後尾にオヤジとスネ夫
食料関係や旅の荷物は全て詰め込んだ1番大きい馬車だ。
荷物番故に最も危険なんだが、あの2人の人相が悪すぎて襲う気にもならんだろう。
話に聞くところ、この【ヨンヨン街道】では盗賊の被害が多発しているみたいだけど、今のところ何の兆しもない。
とか考えてるとアレなんだろ?分かってる、フラグってやつだ、この世界の盗賊は空気読めるからな。そろそろ出番ですよ。
「あら?アレは何かしら?」
と、マナが外を見ながら呟く。
もう盗賊か?早すぎだろ。
「わぁ、綺麗…」
「ん?どれどれ?あれは花畑…か…。」
ネオンとライナスも外を見ながら口を開く。
どうやらフライング盗賊ではなかったみたいだな。
「俺にも見せてくれよー。」
と言いながらネオンの背中から被さるように外を見る。
俺の目に映るのは、遠くに広がる黄色の絨毯。
更にその奥に広がる赤い絨毯。
道の色と草の色、更に空の色と相俟って、さながら虹のようにも見える景色に言葉を失う。
「うっひょぉぉぉ!!オッサンこれ凄ぇな!!マジかよ!!」
「うははぁ!やったなファル!ツイてるぜ!!!」
そんな感動的な景色に、奇声を発しながら突っ込んでいく男が2人。荷物番のオヤジとスネ夫だ。
てか馬車放置かよ、、、どうせクリスタルで何とかなんだろうけど。
「おーい、絵面的に問題あるからとりあえず止まれよ2人とも。」
「あー?アホかボンズ、こんなお宝放置出来ねえってよ!」
「おう、こんなに咲いてるのは滅多に見られねえからな、ガキも手伝え!」
え?なに言ってるんだ?アイツ等。
訳の分からない事を発しながら、そのまま花畑へダイブしていく2人を尻目に先頭車へ助けを求める事にする。
「おーい、クラリス、アレは放っておいて良いのか?」
俺の言葉に馬車を止め、ルビィとクラリス、カレンが中から降りてくる。
3人共軽く身体を伸ばしながら花畑を見つめる。
「ほう、ソードフラワーか…。」
「ソードフラワー??」
「あぁ、金色の横に咲く朱色の花。栽培が困難故に高値で取り引きされている、時期的な事もあると思うがここまで大量のソードフラワーを見るのは私も初めてだな。
どれ、私もルビィ様への献上品として摘んでくるか…。」
さらっと説明しながら、足早に花畑へ向かうクラリス。
栽培が困難なのに大量に咲いてるのは確かにレア現象だな、ソードフラワーって名前から何かしらの素材っぽいけど。
「ルビィとカレンは行かないのか?」
「私はまだ必要無いな。」
「カレンは使わなーい。」
ルビィは自前のロングソードを目にしながら…
カレンは片手をブンブンと振りながら…
うん、なんとなくだけど分かったぞ。
ん?まてよ?
そうなると、今夜の料理では念願のアレが出来るかもしれないな。
「よし、俺も行ってくる!あ、ルビィ、悪いんだけど、綺麗な布と大きめの鍋を用意しといてくれないか?」
「布と鍋?分かった用意しておこう。」
…
思った通り、椿に似た花だった。
『椿油』と言えば日本刀に塗られる油で有名だ。それに美容にも食用にも向いてる万能な油だ。
種子を搾って採れるのがそうなんだが、ここまで咲き誇ってる状態から油が採れるのか?
なんて思っていたけど、クラリスが目の前で花弁を1枚もいで、剣に塗っていた。オヤジとスネ夫も同じように花弁1枚を剣に塗っていた。
俺も花を触ってみたが、見事にジューシーな花だ。見た目は何の変哲もない花なのに、少し指先で摘まむだけで油っぽい液体…いや、油が滲み出るくらいのものだ。
コレなら可能だ、揚げ物がっ!!!
そうと分かれば無我夢中で花を採取、ルビィのところへ大量に持ち帰り、それを布に包み鍋へと搾る。
ポタポタどころではなく、ダバーっと鍋へと液体が溜まる、それをもう一度布で濾して透き通るまで繰り返すと、立派な食用油の完成だ。
…
そして、その夜。
「そんなに大量に鍋に溜めて何をするのだ?ソードフラワーの果汁は空気に触れるとすぐに傷んでしまうぞ?」
「いいんだよルビィ、これは武器メンテナンスに使うために搾ったんじゃないからな。そんな事より火点けてくれないか?」
「あぁ、ちょっとまってろ。」
サッと俺のあげたZIPPOを取り出し火を点けるルビィ様。
使い慣れてきたのか、手つきも様になってるのを見ると少し嬉しくなる。
「大事にしてくれてるみたいだな、それ。」
「あぁ、私の宝物だ。」
ふふっと、小さく笑いながら炎を広げていくルビィ。
後ろの方でライナスが指さしながら何かギャーギャー言ってるが放置だ、後でネオンに説明させよう。
もう炎の術のくだりは面倒だ。
ある程度の大きさの竈を造り、その上に油の入った鍋を置く。
油が熱するまで俺は仕込みだ。
カレンに美味しい鶏肉料理は食べたくないか?と交渉し、新鮮な鳥を捕ってもらった。
そんな俺の言葉に「おっけー」なんて言いながら、空に向かって剣を投げる、上空を飛んでる鳥に見事命中、一丁上がり。
シュンッ、ボトボト、の流れで、ものの数秒で首を刎ねられた鳥たちが落下、こんなに食い切れるか心配だが、ルビィとカレンが居るし足りないかもしれないな。しかしながらしっかり首を落とすあたり『首斬りカレン』は健在のようだ。
とまぁ新鮮な肉も手に入り、俺は塩や香辛料でよく揉み、寝かせておいた肉に小麦粉をまぶして油の前で待機なう。
パンもあるし本当はカツとか作りたかったんだが、生卵なんて長旅にはあっても腐るのがオチだし持ってきていない、流石に鳥の巣まで行って獲ってこいとも言えないしな…
唐揚げもどきで充分よ。
「おっ、そろそろイケるかな?」
小麦粉を油に落としながら温度をみる。
火力調節がかなり面倒いけど、そこはアウトドアだし勘弁してもらおう。
ジュワッといい音を立てながら油に投入されていく唐揚げもどき。
何とも言えない香ばしい匂いに、皆集まってくる。
「これはまたいい匂いだな。」
クンクンと鼻を鳴らしながら目の前の揚げ物を真剣に見つめるルビィ。
「だろ?封印の地じゃ、こんなに油を使うこと無かったからな…」
「コレが前にユウが話してた『カツ』っていう料理?」
「カツとはちょっと違うけど、味は保障する。大量の油で揚げるっていうところは変わらないから、また今度一緒に作ろう。これでまたネオンのレシピに1ページが刻まれたな。」
「なるほど、勉強になるよ。」
ネオンとルビィには1度食べさせたかった揚げ物だ。
どうにもこの世界は食文化がイマイチ弱いからな、自身で再現するしかねぇ!食は心も身体も造るのだ!
「しっかしボンズよ、そんな大量の油に肉放り込むなんて、油っぽくて胸やけしそうだぜ、、、」
「ん?そう思うだろ?意外とそうでもないんだぜ?高温でカリッとなるくらいなら油っぽさなんて微々たるもんよ、まぁ低温でじっくりコトコト煮込む料理もあったような気がするけど、そこは俺のスキル不足で作れねえな。」
コンフィとか何かだっけ?フレンチでそんな料理があったような…まぁ俺には無理そうだからやらんが。
「あぁ…揚げ物の匂い、懐かしいわね、もう比喩じゃなく涎が止まらないかも。」
「マナにとっても懐かしいのか?俺、どうしても食いたくてケアルランド探したけど、揚げ物だけ無いから狂いそうだったぞ?」
「油自体が希少みたいね、それこそ民衆が揚げ物を気軽に出来る程普及していないもの、揚げ物っていう調理方法すら思いつかないんじゃないかしら?私も色々見て回ったけど揚げ物を出してる料理屋は知らないわね。」
やはり油は貴重なのか…
フライパンにも動物の脂使ってたしな。
まぁソードフラワーが高値で取り引きされているって事だし。
いやでもまてよ?動物性脂肪なら干し肉にする前に脂身だけ加工すれば…いや、それよりもサラダ油か?ソードフラワー程じゃなくても何か近い品種の…
「ねーユウちゃん、まだー?」
おっといけねぇ、考え込んで肉を焦がしては意味が無いな。
サンキューカレンちゃん。
「よし!完成だ!」
ササッと唐揚げもどきを油から上げ、しっかり油を切る。
ジュウジュウと衣から溢れる肉汁が目と耳と鼻を1度に刺激する。マナじゃないけど、これは涎が止まらない。
適当な野菜で作ったサラダと、薄味の塩スープとパン、そして唐揚げもどき、今夜は贅沢な夕飯だぜ。
あー、白米とマヨネーズが有れば優勝だったな。
…
マガミオリジナル唐揚げもどきは大好評だった。
ルビィとネオンは口をハフハフさせながら、次の1個へ手を伸ばしていた。
スネ夫とオヤジは最初は警戒していたが一口囓るだけで見事に籠絡された、取り憑かれたように次の1個へ手を伸ばしていた。
マナは「んー!この感じ!」と御満悦なようだ、醤油があれば…とかブツブツ言っていたが、そこは俺も同感である。
クラリスはパンにサラダと、唐揚げもどきをサンドしながら食べていた、高等テクニックだ。
カレンは相変わらずアホみたいに素早く、そして大量に食っていた、途中からクラリスのマネをしながら作って食っていたサンドイッチがお気に召したようだ。
ライナスはしばらくフーフーと冷ましながら頑張っていたが、2、3個しか口に出来なかったみたいだ、他の奴等の食うスピードが早過ぎるからな。
俺も久しぶりの揚げ物に大満足だった。
というかあんなに大量に作ったのに、やはり無くなるとは、恐るべしルビィ&カレン。
「ぷはー!食った食った!」
「ご馳走さまでした、とても美味しかったわ、でもやっぱり日本食に近くなるとお米が食べたいわね。」
食後、少し離れた位置で寝転んでいると、いつの間にかやってきたマナが隣に座る。
「なー、本当それなー、稲作とかもっと頑張れよな。どうせなら丼物とか頑張りたいんだけど、それよりも和食ならやっぱり醤油だよなー。」
「醤油…か、いっそ大豆から頑張れば?」
「造り方分かるなら、やる価値はあるな。」
「本当にやりそうで怖いわ。」
「ははっ、諸々片付いたらだな、それよりも元の世界に帰れるのが1番の近道だろ?」
和食なら現地で食えば良いだけだぜ。
ルビィとネオンに食わせてやりてぇなー。
「元の世界…か…」
なんの合図もなく2人で空を見上げる。
雲の無い夜空には満点の星空…
「ねぇユウ。」
「ん?」
「私まだ貴方に言ってない事とか、隠してるって訳じゃないけど、そういう事もある…んだけど…」
「あぁ、知ってる。」
「えっ?」
今までのマナの言動や、封印の地へ向かってからの事とか考えたら、俺の知らない何かを試そうとか、色々あるんだろう。
「マナが俺に、それを言わない理由は分からないけど、マナが言いたくないとか、言えないとか、そういうのがあるんだろ?じゃぁ無理矢理聞いても仕方ないし、必要ならマナから話してくれるだろ?んじゃ今はまだ話す時じゃ無いだけで、その内教えてくれる。って勝手に思ってたけど、違うのか?」
「ふふっ、相変わらず語彙力無いわね…でも、有り難う。」
「一言余計だったぞ、、どういたしましてだ。」
そのまま寝転びながら、空を見上げる。
マナは隣で座ったままだ。
満点の星空の下、嫁を差し置いて他の女とプラネタリウムごっことは良い身分だな、おい。
まぁ、みんな食い過ぎで(1人を除くが)動けないし今は良いか、別にマナとはそういうの無いしな。
「あら?」
と、疑問符を投げるマナが気になり身を起こしながら辺りを見渡す。
「ん?あれ…は?人…か?」
「何かしら?かなりの人影が見えるけど…」
街道の進行方向から大量の人影が見える。
御丁寧に『光の清石』を使用したランタンのような物を1人1つずつ持っているので一人一人が見やすいのだが、やけに人数が多いな。
「まぁ、暗殺者の疑いは無いな。あんなに馬鹿正直に前から歩いてくるなんて有り得ないからな。」
「それもそうね。でも、こんな夜中に大名行列なんて珍しいわね。」
確かにな。あんなに大人数で何処に行くんだ?よく見ると商人って訳でもなさそうだし。というか、先頭を歩いてくる数人だけでも人相悪いな。
「とりあえず皆のところ戻るか。」
「そうね、何事も無ければ良いんだけど。」
そう言ってマナと皆のところへ歩いて戻る。
…
「おーい、なんか向こうからいっぱい人が来てるぞー。」
「人だと?ーーーーーッ!?」
反応してくれたのはクラリスだ。
カレンとルビィは腹を抱えながら馬車の近くで、仰向けで寝転んでる。
うん。2人とも幸せそうな顔をしてやがる。食い過ぎだ。
「ザンザス!フアルコ!来い!」
と、マッタリ雰囲気をぶち壊すように怒声を上げるクラリス。
「「はっ!!!」」
それに素早く反応する2人。
いやはや、兵士の鑑ですな。
というか、なした?
「おい、クラリス?どうした?」
「黙っていろ、そしてルビィ様とネオンディアナ様の元へ急げ。」
「え?あぁ、敵…なのか…?」
「いや、まだ分からん、が…奴等の中に素人が居ない…全員が手練れだ、警戒しろ。」
「お、おう。分かった。」
その言葉を聞いて直ぐさまルビィの元へと走る。
クラリスの心配を余所に、のんびりと寛ぎ続けているルビィとカレン。
ネオンは何かあったのかと察したようで、馬車から降りてきて俺の近くへ向かっている。
「どうしたの?ユウ、何かクラリスが大声出していたけど…」
「ん…向こうからいっぱい人が来たんだけど、一応その警戒みたいだ、まぁ心配しなくて良いさ、でも近くに居てくれると安心出来るから、皆で固まってよう。」
「うん、分かった。」
ネオンの頭にポンと手を乗せながら、寝転んでるルビィとカレンの隣へ座る。
「ユウちゃん、何かあったのー?」
「とりあえず起きろよ、ルビィもだぞ?食ってすぐ寝たら牛になるんだぞ!」
「えーむりー。」
「私も今日は食べ過ぎた…状況説明を頼む。」
くっそ、この2人はダメだ。
まぁ、クラリス、オヤジ、スネ夫が対応するだろうし大丈夫だろ、ライナスも馬車から出てこないところを見ると大した事にはならなさそうだし…
しかし緊張感ゼロだな、カレンは前にロレースに襲われた時もこんなんだったし、まぁ今更だな。
「なんか向こうから手練れの連中が来てるんだが、今はクラリス、オヤジ、スネ夫が対応してくれている、一応警戒しろって事で、皆でここに居る、ここまでオケー?」
「クラリスが居るのだ問題あるまい。」
「クラちゃんにお任せだねー。」
「お前等のそれはクラリスへの信頼なのか、丸投げなのか分かんねぇよ。」
ともあれ一応向こうも気にしてみるか、、、
「ま、いいや、とりあえず俺も向こう見てくるから、ネオンとマナはそこの2人頼むわ。」
「ええ、分かったわ。」
「うん、ユウも気を付けてね。」
「おう、何かあったら呼ぶわ。」
牛寝している2人を任せて、クラリス、オヤジ、スネ夫の居る方へ足を運ぶ。
3人は道の側道に立ちながら相手方が通り過ぎるのを待ち構えているようだ。
おいおい、そんな出で立ちだと向こうに警戒されるわ、まるで待ち伏せじゃねぇかよ。
「ユウか、、ルビィ様達はどうした?」
「なんかクラリスに丸投げしてるから、一応こっちを見に来たわ。」
「ふふふ、その信頼を裏切りはしません。安心して下さいルビィ様…」
なにやらニヤニヤしながらブツクサ言ってるけど放置しよう、絡むと面倒だ。
そうこうしている間に行軍の先頭が片手を上げ、俺達の前で足を止める。
「貴様等か、ここで無断採取と魔物寄せを行っていたのは!」
といきなり口を開いたのは、先頭を歩いていた男だ。
ゴリゴリの筋肉を隠すことも無く、素肌にベルトを巻いたような、いかにも冒険者っぽい見た目で此方を威嚇するような鋭い視線。
ってか無断採取って…まさかソードフラワーか?
魔物寄せは知らねえ。完全に人違いだな。
「済まない、私はイグザ連合国軍元副長クラリス、無断採取というのはソードフラワーの事か?」
「なっ!? ク…クラリスだと!?」
ザワザワと混乱にも似た声が聞こえる。
「失礼、吾輩は『剣頂』ガスト。後ろの者達は我が門下生、ここら一帯の警備を担当致しております。
それにしても我々管轄の土地で無断採取を行っていた犯罪者がまさか、元副長様とは…。」
腰の剣に手をかけながらニヤニヤと笑みを浮かべるガスト。
『剣咲流』の管轄って、んじゃ俺達モロに犯罪者じゃん!。めっちゃめちゃ採取してたじゃん!
あ、オヤジとスネ夫が地面見てる、後ろめたい奴が起こす行動だ。ってか俺もガストさんの顔見られねえ、なんでクラリスあんなに堂々としてんだよ。
「そうか…ここら一帯が、お前達の管轄下とは知らなかった、それ故に迷惑を掛けたようだ、許せ。採取してしまった分の埋め合わせはさせて貰おう、今回は此方の手違いだ詫びを認めよう。」
「いやいや、そんな言い訳で逃れられるなら吾輩達がここまで来た意味がありませんよ?元副長様?
まぁ、今となっては野良の兵士ですよね?謝罪するにしても、もう少し誠意を見せてもらわないと、此方としても納得出来ませんよ。」
何だかイラッとするなコイツ。
まぁでもこっちが悪いからな、そこは我慢だべさ。それが大人だべさ。
「私の言動で気分を害されたのであれば、申し訳ない。だが、これ以上何を要求する?」
「ふん、随分と素直ですね?そうですね、先ずはソードフラワー採取で上がる利益配当分の支払い、そしてこの後、我が街での簡単な審議を受けていただきたい。勿論身柄の拘束はさせてもらいます。」
「「は?」」
突然の発言に思わず俺とクラリスの声が被る。
拘束?何言ってんだ?てか、クラリス相手に随分と強気だな…
どっかの特隊のアホもそうだったが、相手との力量差ってのを分からない奴ばかりなのか?
「いや、ソードフラワーを無断で採取する危険な方々を野放しにしては此方としても治安が守られないのですよ、なので御協力願えますか?」
「断る…と言えば?」
「力ずくで…としか言えませんね。」
ヤレヤレと言った感じで肩を竦めるガスト。
全くもって、こっちがヤレヤレ状態だ、ここで交戦になっても圧倒的にこっちが過剰戦力なのは素人の俺でも分かる。
だけでも奴等は過信のあまり強気に出ている…此方に非が有るのは明確だし、どうにも力でねじ伏せるのも違う気がするし、、、うーん。どうすんのかね、クラリスさんは。
「ふむ、こちら側としては護衛任務や今後の予定もある。
私の一存で拘束を許可することも難しい。かと言って其方の溜飲も下がるまい、、さて困ったな。」
「ふん、何か勘違いをしていませんか?貴女達は今圧倒的包囲を受けているのですよ?それともまさかこの人数をどうにか出来るとでも?」
なかなか精度の高いブーメランを投げるなコイツ。
圧倒的包囲ってなんだよ、クラリス的にはどうにか出来ると思ってるんだよ、それなのに穏便に済まそうとしてるのに、なんで挑発的な流れに持って行くかね。。。
さて、それはともかく、どっちにしろ【アイ湖】には立ち寄る予定だったし、コイツ等に付いていっても問題ないんじゃないか?まぁ拘束されて尋問の流れになるなら御免だが…。
「ガストとか言ったか?生憎貴様等如きが我々を強引に拘束しようとしても無駄だ。」
「…っ…ほぅ。我々『剣咲流』の剣士を相手にそこまで言えますか…ハッタリにしては大した物言いです…けどね。」
スンッ…
と音もなく剣を抜き構える剣士達。
剣の素人と言っても過言じゃない俺が見ても、なかなか洗練された動きに見える。
「仕方ないですが、少し痛い目にあってもらいますよ。」
片手を上げながら後方の剣士達に合図をするガスト。
その合図を受け、ジリジリと此方に歩み寄る剣士達。
小さくため息を吐きながら自身の剣に手を掛けるクラリス。
あーもー仕方ねーって感じのオヤジとスネ夫。
我関せずのルビィ、カレン、その横にネオンとマナ。
ったく、旅先そうそうのトラブルかよ。
でもまぁ、勝手にここらのルール違反した挙げ句に返り討ちするとか、野蛮の極みだな。
ともかく俺も多少の心構えで挑みますかね。
第一目的地【アイ湖】到着前にトラブルに巻き込まれる俺達。
本当にツイてないな。




