64話 んで?
真っ白な空間…
いや、真っ暗な空間…
どちらとも形容しがたいつかみどころのない所で、何処からか俺を呼ぶ声が聞こえる。
「ライデン…」
「ライデン…起きて……」
「ライデン…聞こえる?」
夢…か?
「ライデン…お願い…」
この声…キョウさん…なのか?
「ライデン…良かった…聞こえてた。」
突如頭の中に鳴り響くキョウさんの声に、夢から覚醒する。
目を開き、身体に力を…
ん?なんだ?これ?
自身の身体に意識を集中させても、実態がない不思議な感覚、頭の中は、やけにスッキリしているのに、視界は何も見えない、真っ暗な空間に俺という存在だけが置き去りにされている不思議な感覚だ。
「ライデン…アタシの声が聞こえる?」
キョウさん…聞こえてるぜ。
声にならない声で、聞こえてくるキョウさんへと対話を試みるが、如何せん声が出ない…。
なんだこりゃ、どうなってる?
キョウさん!何処に居るんだ??
「大丈夫、ライデンの声はちゃんとアタシに届いてるよ、それよりも、里の中…ううん、皆に何か変わった様子は無い?」
変わった様子?
特にこれと言った変化は無いな、それにしても久しぶり過ぎだぜキョウさん、この前こっちに来るって言ってたのに、結局来ないし、あれから音沙汰無しだ、皆心配してるぜ?
「…そっ、そうなのね、、、もうそんなに、経っちゃったのか…」
随分経ったっていうか、まだ一昨日の事だ、そんなに皆怒ってないぜ?
「一昨日…そんなにもズレが…」
ん?何言ってるんだ?
それにしても、なんだよこれ?なんか夢の中にいるような変な感じなんだけど…
「ゴメンねライデン…長く話してる時間も無いの、目覚めたら里の出口、、アタシが作った裂け目まで来てもらえるかな…」
ん?あぁ、構わない…けど、目覚めたらって、やっぱり俺まだ寝てんのか?
「とにかく、早く来てね。」
え?ちょっ!
会話の流れをピシャリと締めるようにキョウさんは言い放つ、
次の瞬間俺は自室のベッドの上で、天井に向かって手を伸ばしていた。
まるで、今キョウさんと会話していたのが夢や幻ではないのを証明するように…。
「やっぱり、夢じゃねぇよな。」
何度も自室を見渡すがいつも通りの部屋だ、さっきの不思議な感覚が嘘みたいに頭は冴えている。
隣で寝息を立てているリンを起こさないように、そーっと布団から抜け出し、部屋から、そして、家から出る。
…
「さてと、夢の続きかどうか、確かめに行きますか…」
未だに何処か信じられない気持ちを抱えながら、森へと足を進める。
いつも通りの小川の横を通ると、タカユキが残していった破壊の跡が生々しく目に映る…
薙ぎ倒された大量の大樹…無作為に掘り返された地面、崩れた岩肌、先日ここで起きた事が嘘じゃない事を今でも語っている。
それに…
夜空を見上げれば、月や星よりも輝く光が、里の中心から全体に降り注ぐ光となって全てを閉じ込めるような檻となっている。
忌々しさを感じながらも、キョウさんが言っていた里の出口へと歩みを進める。
一歩一歩そこに近づくに連れ、何だか分からないが、キョウさんがそこに居る感じがした。
希望や期待もあったかもしれないが、確かにこの先に歩いて行けばキョウさんが居る。そんな謎めいた確信を持ちながら森の奥へ進む。
…
大量の大樹が横倒しになった道。
里の皆が、間違ってもこの先に行かせないように、俺が斬り倒した大樹だ、そして、俺達を閉じ込めている光の壁も圧倒的威圧感を放ちながらその奥で聳え立つ。
目の前の大樹を軽い跳躍で飛び越え、壁の裂け目前に着地。
タンッと、着地した音よりも早く、俺の視界に映るのは恩人キョウさんだった…。
「よう、キョウさん…こんな夜更けに呼び出しかい?」
「ふふ、ごめんね、いきなり呼びして、元気そうねライデン…」
「まぁな、んで?どうしたんだ?何やら急ぎだったみたいだけど、、、、」
さっきの会話が夢や幻じゃないなら、キョウさんの声は随分と焦っていたように聞こえた。もちろん普通に会話してる感じではあったが、話してる内容もそうだし、急を要する事態なのは間違いないはず。
「うん、ホント何から言えば良いのかな…。色々あり過ぎてね、その対応と、ちょっとだけ確認かな。」
「確認?」
「うん、アタシが予定していた計画は多分このまま行けば上手く機能すると思う。」
「里を外界から切り離して存続させるってヤツだろ?」
「細かいところを除けば、概ね問題無いわ、けど、最近の遣り取りで少し気になる事があって、それを確かめに来たんだけど、やっぱりって感じかな…。」
キョウさんは自身の足下から両手に至るまで、細かく何かを見ている。その後は動作確認でもするかのように四肢を動かしては納得した顔だ。
「やっぱり、か。」
何かを悟ったように呟くキョウさん。
「なぁ…キョウさ…」
「ねぇ…ライデン…聞いて。」
俺の言葉を遮りながら、キョウさんが俺に問う。
冗談交じりや茶化しではない、その瞳は真剣そのものだ。
「この里に降り注ぐ光の壁、タカユキの使った術は、長寿の皆を滅ぼす事が目的だった…それは知ってるわよね。」
「あぁ、俺も当事者だ。ヤツの会話からして間違いないだろ。」
「アタシは考えてた、タカユキならもっと簡単に、この里を襲撃出来た、勿論アタシが邪魔したのもあるけど、方法は幾らでもあったはず、なのにこんな大掛かりな術…それにアタシ達の最期も見ずに姿を消した…その意味。」
「何言ってんだ?キョウさん…。」
「こんな仕掛けがあったなんて、誤算だったわ。」
「仕掛け…」
確かに、あれだけの力を使えるヤツが、俺達を閉じ込めて、はいサヨナラってのも納得いかない話だ。それは前に俺も感じていた。光の壁に作用する結界の強さに絶対の自信を持っていたからなのかと思っていたけど、まだ何かあったなんて…。
「この里の中…時の流れが違うの…。」
「なんっ…」
「アタシが外で壁の収縮を防ごうと躍起になっていたのが、小一時間前…最後に皆と連絡を取ったのが、ほんの数分前…そしてホンの少し前にここに入り、ライデンと話した。」
「ちょっと!待ってくれ!何を言ってんだキョウさん…俺達は確かに2日前…キョウさんと話を…」
「それが里の外では数分前の話なのよ、、、ここに入ってまず思ったのは、アタシの体内から何か抜けて行く感覚、そして違和感と共に気付いたのは、昼間からいきなり夜になった事実。そして、ライデンがさっき話してた内容を噛み合わせると、自ずと結果は出る。」
「里のこっち側だけ、、、進んでるっ…そんな。」
「ほぼ、間違いないわ、ただ、それがどういう事態を引き起こすのか…」
確かにそうだ、この光の檻の中だけ時間の流れが早くても、俺達は何一つ感じる事無く今日まで過ごしてきた。
それに気付くのは外から内側へ干渉出来る存在だけ…。
じゃぁなんだ?タカユキは俺達を閉じ込めて、時の流れの違う世界へ放り込んだ?なんでそんな事…。
「でも安心した…皆にこれと言った変化が無くて…」
疲労を全身で表すように肩を落とすキョウさん…
ずっと俺達のために頑張ってくれてたんだな…。
「でもよ、キョウさん…それなら今外は俺達が脱出してから大して経って無いって事なのか?」
「そうね、それこそまだ皆を避難させてから一日は疎か、半日も経っていないわ。」
「そ、そりゃ、訳が分からねえな。」
「こんな、実験まがいの事を…」
目の前のキョウさんがボソリと呟くが…
俺にはよく聞き取れなかった。
「よく分からねぇけど、何かしらの理由で外との時間のズレがあるってことだろ?けど、それが何だってんだ?里の崩壊に繋がるのか?」
率直な感想…というか疑問。
確かに外との時間のズレがあるとしたら、それは問題だ。
ただ、俺達の里が徐々に狭まる事と、内部の時間のズレは別問題だ、いずれ狭まり、里の面積が無くなるって方が問題なんだから、そっちを何とかしなきゃと俺は思う。
「そうね、確かに現状放置しておいても問題ないわ、でも、皆は世界から完全に浮いてしまう存在になるの。」
「浮いた、存在。」
「そう、この世界、里の外の世界から見れば時の流れが違うなんて、それはもう同じ世界の事象とは呼べないわ…最初は数分のズレだったのかもしれない、けど、今はもう取り返しの付かない事になってるの。アタシがこの後里の外に出てどれくらいの差があるのか…そしてその事によって問題が…ね。」
「どうにもこうにも素直に受け入れるしかねぇ……って顔だな。キョウさん。それにその問題ってのは…。」
真剣な眼差しのまま俺を見据えるキョウさん。いつも頼りっぱなし、そんな彼女の力になりたいが、今回もまたスケールがデカい…時の流れを俺がどうこう出来るとは思わない。だけど、何か手があるならキョウさんの力になれるなら…
「ねぇ、ライデン…」
漏らすように、キョウさんが口を開く。
「この里はタカユキの術で、その範囲を狭めてる、その事は話したわよね?」
「あぁ…現に俺も見たしな、、、」
「その縮小自体はアタシの術で何とか抑える事が可能だった、、、アタシの力とタカユキの力は殆ど変わらないから、何とかなるはずだったの、、」
はずだった…
その言葉に察してしまう。
この里の崩壊を、、
「今の現状なら外界からの抑制は有効。でも、内部の時の流れによって抑える術に矛盾が発生してる、、このままだと、アタシが外界から縮小を抑える事によって膨大なエナが暴走して、里もろとも吹き飛ばす可能性もあるの。」
「じゃあ、キョウさんは…。」
「謝って済む問題じゃないけど、、、もう縮小を抑える事は出来ない。それは里に残った皆を消し去る結果になるから…。」
謝るだって?馬鹿言ってんじゃねぇよ、どれだけキョウさんに、俺達が、、、
しかし、このままだと、確実に終わりは来る。早いか遅いかの違い…。
皆を連れてこの里を出るべきなのか?
それとも、覚悟を決めてゆっくりと最後を待つのか…。
今里に残ってる奴等は完全に後者だ。
俺達の歴史を共に歩んだ里を捨てずに最期まで覚悟を決めた、そんな奴等の集まり。
だから、答えは決まってる。
例えこのまま里が滅びようとも、皆ここに残る。
「キョウさん、ありがとうな、キョウさんが居なかったらもっと早く俺達は居なくなってた。それに外の世界へ行った奴等が俺達の意志を引き継いでくれるさ…それだけで皆満足だぜ。」
「本当に、役立たずだなアタシは…」
いつもの笑顔の見る影もない程、銷沈してるキョウさん。
「そんな似合わねえ顔すんなよ、それにキョウさんに恨み言言う奴なんて、この里には居ねえよ!もしも居たら俺がぶっ飛ばしてやるさ!だからよ!キョウさん…アンタは恩人なんだ、俺やリン、里の皆の英雄なんだよ!謝るなよ!俺達はキョウさんに感謝しても足りないくらいの恩があるんだ!」
「ライデン…」
「ちびちび縮小していこうが、この檻の中の時間は流れが違うんだろ?もしかしたら完全に里が消えるくらい縮小する前に、俺達の寿命が尽きるかもしれねぇしな!!」
崩壊が決まってるなら受け入れるしかねぇ。時の流れ?知らねぇな、他の皆は気付きもしないさ、現に俺も気付かなかった。それに敢えて言う事も無い。これは皆が覚悟して里に残った結果なのだから…。
終わりはいつか来るし、俺達も不老長寿じゃねぇ。
これ以上キョウさんに頼る事は止めて俺達は今迄通り過ごしていけば良い。
「ありがとう…ライデン。」
「ったく、、聞き飽きたぜ、、」
ポリポリと、顔を掻きながらキョウさんの言葉を受け取る。
「ホント…似てるなぁ…」
キョウさんが何か呟いた気がしたけど、よく聞き取れなかった…。
…
そして、その後もキョウさんと他愛も無い話を交えながら、里の現状と今後についてを話し合った。
1つ。
里からもし出られても、里で過ごした時間と、外の時間の差、その付加が一気に身体にかかること。
2つ。
1度里の外に出ると、キョウさんの使う特別な能力以外では。里に入れないこと。
この2つがキョウさんの懸念材料らしい。
まぁ、この里で一生過ごす事を決めた俺達には、些細な事なんだがな…。
「んで?」
「??」
キョトンとした顔で俺を見つめるキョウさん。
「なんだよ、その顔は、俺も馬鹿じゃねぇんだ、わざわざ俺に説明しに来ただけ、、ってそんな訳ねぇよな?」
「っ……。」
言葉に詰まるキョウさん…その表情からも分かる。
いや、普通に考えても外から連絡出来る手段があるのに、時間のズレを説明しに自身の危険を冒してまで来たんだ、その意図を俺は尋ねる。
口籠もりながも、キョウさんは俺に口を開く。
「あの、ね、、、その、アタシにはね、視えるんだ。」
キョウさんの視えるは、俺も薄々感づいてはいた。
昔から何もかもを見通したような言動もそうだし、度重なる不思議な能力、そしてあのクリスタル、、、
「んで?」
スゥーッと、軽く息を吸い込み、決意に満ちた顔で俺を見つめるキョウさん。
この後の台詞が嘘や誤魔化しじゃないことを分からせてくれるくらい真剣そのものだ。
「ライデンあなたは、この里を出るの。」
「……そか、キョウさんには俺が里の外に居るのが視えたって事なんだな。」
「アタシの視たもの全てが確定的なものじゃないことは、アタシ自身がよく分かってるの、でもね、本当に身勝手なお願いなんだけど、アタシの視た、その未来を信じたい。」
「未来…」
「アタシの、アタシ達の『今まで』が、そこにある。そんな期待さえしてしまう」
俺には想像も出来ないくらい、永い時を過ごしてきたキョウさん。そして『達』って事は仲間達って事だよな…。
「この先の未来…そう、遠い未来、ライデンの身体にもしもの事があれば、アタシの大切な…とても大切な仲間と縁がある、そんな場所…とある屋敷の地下で目覚める、その時から人には見えない存在となるわ。
だけど、ね、ライデンの姿が見える人………
アタシの大切な人。
ずっとずっと変わらない、大切な人。
その人に出会うわ。
そして、その人が現れたら、アタシのこの言葉を伝えてほしいの。」
……
…
そして俺はキョウさんの言葉を受け取る。
正直理解が追い付かない内容だったけど、俺が覚えている限り、その約束は守ると誓う。
不思議な事に、今までキョウさんが言う、お願いってのは、全てにおいて嫌だと感じた事が無い。
これは俺だけじゃなく、リンや里の皆も同じだ。
何やら使命感に駆られるというか、大袈裟だけど存在意義を見つけたような、そんな不思議な感覚だ。
「……分かったぜ、約束だ。キョウさん。」
「ありがとう、ライデン。」
「だから、聞き飽きたんだって、もっと何か無いのかよ。」
「ふふっ、ホントそれしか言ってないね。
でも…ありがとう…ライデン。」
…
……
……
…
その後の記憶はハッキリ覚えてない。
ところどころ抜け落ちたような感覚だ。
気づいた時、俺は里の外にいた。
ボーッと里の周りを見ている俺に、以前先に出ていった里の仲間達が話し掛けてきた、新しい集落への誘いだ。
新しい集落での生活も悪くなかった、偶に他の種族との衝突もあったけど、それなりに安定していた。
ただ、唯一絶対におかしいところがあった。
誰もキョウさんの事を覚えてなかった、、
いや、知らなかったと言う方が正しいかもしれない。
都合よくキョウさんの記憶だけ抜き取られたような現象に俺は苛立ちを感じた。
そんな集落ともウマが合わず、独り転々と国を渡った。
何処かでキョウさんに会えると信じて。
キョウさんがこの世界の何処かに居るのが、何故だか感じられたから、俺は迷わず旅を続けた。
中央大陸の殆どの国を渡りきる頃には『滅剣』のライデン。その二つ名は知れ渡っていた。
だけども本家本元の『滅拳』の使い手、ナガイキョウコの情報は入ってこなかった。
長寿の森にも足を運んだ、俺が昔見た時よりも森は縮小していた、不思議な結界に阻まれて先へは進めなかったが、それでもまだ森は健在だった。
幾年月が過ぎた頃には世界が騒がしくなっていた、今まで小さな戦争は何度も見てきたが、ここ最近のそれは今までとは比較不可能なくらいの規模だ。
中央大陸の様々な国が悪意に満ちていて、多種族を忌み嫌い小競り合いが絶えない、そんな状況だ。
そんな中、東の大陸では、魔人種の王が獣人種や竜人種、亜人種と共闘している噂を聞いた。
多種族同士争うこの戦乱にそんな巫山戯た事をやってのけるなんて常識外れも良いところだ、けど、キョウさんならそんな常識外れも、やってのける。そんな気がして俺は東聖大陸へ渡った。
結果的にキョウさんの情報は何も無かったが、戦争を終わらせるなんて馬鹿みたいな事を言って奮闘している奴等に興味が湧いた俺は、この馬鹿な奴等と共に戦うこととなった。
共に行動していて分かってきたが、どいつもこいつも規格外の化け物だった。
本当にコイツらなら戦争を終わらせられるんじゃないか、そう思わせるくらいの規格外だ。
あらゆる術を網羅している竜人種の女は顔色1つ変えずに国を消し炭にしていた。
数万の兵の中に単身乗り込み、壊滅させる獣人種の男。
見たことも無い不思議な術と、莫大な魔力で障害を薙ぎ払う魔人種の王。
『水迅流』最高峰の位「水聖」は、『剣咲流』最高峰の位「剣聖」との戦いで島国を2つ消し飛ばした。
剣を振るう身としては、剣の頂に最も近い2人の闘いに心が震えた。
冗談みたいな光景だったが、次第に各国がまとまり始め、戦争終結も夢じゃなくなってきた気がした。
俺はいつの間にか東聖大陸連合軍の特別隊として前線で奮闘していた。
同じ隊には色んな猛者が揃っていた。
ガキみてぇな小さな女が見えない剣を振り回し、敵の首を落とす絵面にはドン引きだった。
連合軍の進撃もあり、東聖大陸では国々がまとまり、1つの連合国を創りあげた。
其れが終止符となり、世界中の戦争は徐々に終結を向かえて行く…。
いよいよ戦争も終わる。夢みたいな話だったが、立役者として戦えた事に充実感すらあった。
そんな中、連合国は攻めちゃいけねぇ所を攻めようとした。
長寿人種の集落。
長寿人種は連合国入りだろうが関係無かった、ただ静かに暮らしたかっただけだ、人里離れた所で静かに暮らしていただけだったのに、連合国は簡単に侵略してきた。
今まで共に戦ってきた戦友に剣を向け、俺は集落を守った、そこに様々な葛藤はあったが、最終的にあの人が、キョウさんが残した長寿人種を守りたかった。
顔馴染みの奴等に立ち向かう。
戦争が完全に終わったら…なんて酒を飲み交わした奴等も皆今は俺の敵として立ちはだかってる。
最年少女指揮官が到着する頃まで、俺は侵略を防ぎきった。
だが、あの天才児にはどうやっても勝てるイメージが湧かない。
何せ、相手の技を即座に使えてしまう能力だ、そのくせ判断力も優れてる、まさに化け物の一人だ。
迷い無く俺は最大級の攻撃で殲滅を試みるが、それすら紙一重で届かなかった…というより、攻撃を喰らったはずなのに生きてやがった。
その後やってきた連合軍の数の暴力には勝てず、俺は反乱者として捕らえられた。
処刑場で色々思い出す。
里を出てから随分と経った…
如何せんキョウさんに関する事は分からなかったのが悔やまれるが、あの時キョウさんと交わした約束は今この瞬間も俺の魂に焼き付いてる。
そう思うと、何故だか今から死ぬという事実すら、どうでもよくなった気がした。
俺の身体、魂、その根幹が暖かい何かに包まれるような感覚。
処刑の合図と共に、他の罪人達は阿鼻叫喚の嵐だ。
何故だろう…こんなに気持ちが落ち着くのは…。
自身の生涯を嘆きながら、命乞いをする者達の中、俺は微笑んでいた。
順に下される断罪の刃…。
……約束は守るぜ、キョウさん……
そして俺の肉体は死んだ。




