【クリスマス特別企画】番外編3 魔王フェンネル・キングスター
その日は特に何も無い日だった。
先日の連合国定例会が無事終了し、魔大陸でも議会の重要事項は話した。
プレーリーの死とネオンディアナの解放、悲しみと喜びを共に魔大陸の魔族達は味わった。
それは自身も同じ事。
ネオシグマ帝国への報復、そんな声も上がっていたが、そんな下らない連鎖はここで切るべきなのだ。
そう、どこかで切らねばいつになっても真の平和には届かない。
束の間の安息、小さな平和。
今はそれだけでも充分。
いつか必ず全ての民が笑って過ごせる日が来ると信じて進んで行こう。
真の平和…そんな世界にはほど遠い…。
王としては我等魔族の事だけを考えて行動すべきなのだが、どうにも他の種族を攻め入ってまで繁栄したいとは思わない。
「最も平和的な王」等と皮肉混じりに呼ぶ声も聞こえるが、それも心地良い。
平和こそ魔族の、いや、この世界で生きる種族の常、そして真理と思っているのだから…。
……
…
この無駄に大きな城、薄暗い廊下をヒタヒタと歩く音が聞こえる。
既に城内の者は就寝し静まり返っている。
「ふっ、せっかく小さな平和が訪れたというのに何故争いを好むのかのぅ。」
と足音を感じながら自室で独り言を漏らす。
ゆっくりとベッドから起き上がり、鈍っていた身体を解しながら、足音の主が自らの部屋に到着するのを待つ。
…
ガチャリ…
ドアノブが音を立てて下がると共に、ゆっくりと扉が開かれる。
「久しいの、レイス。生きて居ったとはな…」
見知った顔に驚きもせず、自室に迎え入れる。
以前知人から彼の存在は聞いていた、聖人殺害の罪で処刑された男。
その男の持つ継承権が此度のいざこざの引き金かと、勝手に自身の中で予想していたが、あながち間違いでは無かった。
「お久しぶりです魔王様、貴方の正当継承権、ようやく私に巡って来るとは思いませんでしたよ。」
「ふん、やはり狙いはそれか…」
「次期魔王の座渡してもらいますよ…」
男はユラリと両手を広げて魔力を高める。
「己の野望の為に何人の同胞を手に掛けたのだ。」
「ははは!何をおかしな事を!同族には手出し出来ない様に貴方が血の更新をしたではありませんか!私は何もしていませんよ?」
そう、男の言うとおり。
魔王の行使できる能力、魔族の特性上身内での争いが出来ぬように、血の更新をした。
なのに何人もの魔族が殺され消え行く。
恐らくは本人自ら手を下さず他の者に…
「貴様自身が手を下してないと言うだけのこと、関与していた事は明白、今更そんな惚けた事を言いたい訳でもあるまい。」
「おや?お気付きでしたか?まぁ良いですよ、後は貴方さえ死ねば継承権はネオンディアナ姫に、そして姫はまだ魔王の資格に達していない…」
確かに現魔王の継承権持ちが殆どシグマ帝国で消されたのは事実。
そして娘のネオンディアナにはまだ魔族特有の魔力を制御出来ない…せめて血族が生きていれば魔力も分散出来たはずだが、今は兄のプレーリーもこの世に居ない。
暴走する魔力を、優秀な眷属数人で何とか抑え込むことも可能だが、ネオンディアナの眷属は数人は疎か、まだ1人も居ないであろう。
例え眷属が居ても、膨大なる魔力によってネオンディアナと共に押し潰されるのが関の山…か。
「余がそれをさせると思うか?」
「貴方に決定権はありませんよ、、、」
ニヤリと笑う男の背後から3人の人影が現れる。
3人共ネオシグマ帝国の鎧に身を包み、言い得ぬ殺気を放ってる。
ただの雑魚ならば問題なく片付ける事も可能だったが、目の前の3人は手強いと本能で感じてしまう。
「ようやく魔王殺しか…計画から随分と長かったな。」
「ふふふ私が現魔王の前にして剣を抜く日が来るとは思いませんでした。」
「下らん。レイスよ、四聖将全員は必要無かったのではないか?」
「ははは!グレンさん、私は魔王様への手出だしが出来ぬのですよ、なので四聖将と言うよりは3人で挑んで頂きたい。」
噂に聞くシグマ帝国四聖将か…
しかも全員集合とは何とも手厚い歓迎だな。
「さて、魔王様。お話も長くなってきましたので、最後に一度だけお伺い致しましょう。貴方の継承権、私に譲っていただけませんか?」
「ふん、断る。
ぞろぞろと連れて来ておいて、その台詞、渡そうが渡すまいが、どちらにせよ余を生かしておく気は無いのであろう?」
「おやおや残念ですねぇ…私はこう見えて寛大なのですよ、大人しく渡してくれれば何もせず帰ったというのに…。」
既に戦闘態勢の4人を見つつ、城内での戦闘は他の者達に被害が出る可能性があると考える。
なるべく広く人の居ない所へ転移して、そこで迎え討つのが良策か…。
「戯言を…ここでは色々と面倒だ…付いて来いレイス。」
瞬時に城内から荒野へと転移術を展開する。
…
目の前は何も無い広大な荒れ地。
月と星の灯りが綺麗な夜だ…
いずれこの場所にも街を建て、皆の者が健やかに暮らせる事を考えた事もあったな…。
さて、奴等が来るまでに多少なり仕掛けをしておくか…
まさかシグマから海を渡って歩いて来た訳ではあるまい、奴も転移術を使えるはず、魔族特有の索敵能力を使えばこの場も直ぐに割れるが、4人同時の転移故に時間が掛かるのは知っている。
ならば先に出来る事はしておこうか。
「ネオンディアナよ…お前にはこの連鎖を渡す訳にはいかん!何としてでもここで食い止めるぞ!」
出来る限りの魔力を使えるように、徐々に解放し身体に馴染ませて行く…。
自身の魔力を解放し他人にぶつける事など、世界大戦以来…か…。
この先代から受け継がれた魔族の長、特有の記憶と知識と能力を彼奴に渡すには危険過ぎる。
この世界をも変える程の力…正しき方向へ使わねば…。
負けられない戦い…か…
ふふふ創造主様の気持ちが少し分かった気がするな。
愛する者の為に自らを死地へ追い遣り、自身の記憶と能力を我等に継承した創造主様。
長いこと生きてきて、様々な種族を見てきたが、やはり魔族だけであろうな…このように創造主様の記憶や考えを継承出来るのは…。
「ふぅー。」
さて、そろそろ奴等もここに来る頃であろうか…
…
「お待たせ致しましたかな?魔王様。」
何も無い空間から4人が姿を現す。
ここから相手まで距離があるのは、此方には好都合。
丁度良く足元に仕掛けた魔力の射程内に現れてくれた。
「ふっ、やはり大人しく帰る事は無かったか…。」
「御冗談を、、それにしても死に場所を開拓地に選ぶとは…。」
「貴様等を返り討ちにし、その亡骸の上豊かな街を築こうと思ってな…他の者達も寄り付かないこの場所は丁度良い。」
ゆっくりと気付かれないように、魔力を地表に這わせる…。
武器持ちの2人を足止めしつつ、残りの2人を叩く予定だが実力者相手にどこまでやれるか…。
先ずは小手調べといこう…
「ぬん!」
地表に張り巡らせた魔力にエナを走らせ、4人の外周に重力術を放つ。
「なっ!?いきっ…なり…こんなっ!大技とは!」
上手く不意を突けたのもあってか、4人は術の内部で動けなくなる。
並の者なら忽ち地面に平伏すのだが、流石は精鋭、未だに立って堪えている。
だが追撃は緩めない。
「その状態で躱せるかな?」
と風球を数発4人に向け放つ。
距離を稼ぐ程威力の増す風球は4人に到達する頃には人体をも引き裂く程に大きくなるだろう。
「なんか…飛んで来て…る…ぜ?」
「くっ!魔族同士は…攻撃を受け…ないんじゃ無かったはずでは?」
「アクア…さん…全部っていうわけじゃ…無いんですよ…しかし…こ…れは…少しマズいですね…グレンさん?行けますか?」
「…無論。」
と重力術の中をゆっくりと歩きながらこちらに向かってくる男…
「ほぅ、動ける…とは。」
術は確かに4人に効いている…
動けるあの男の身体能力が異常なのか…。
風球が重力術へ到達する前に男は術の外に出た、と思った次の瞬間、放った風球が男の剣閃によって空へと飛ばされる。
「…術ごと吹き飛ばすとはな…。水聖以外にもそんな芸当が出来るとは驚きだ。」
口を開きながらも男に向け風球を放つ。
が、いとも簡単に空へと飛ばされる。
「下らん、このまま同じ事の繰り返しで、どうにかなるとでも思っているのか?」
「なるほど、やはり一筋縄では行かんか…しかし分からんな、亜人種人族以外を認めぬシグマ帝国が何故魔族と手を組んでいるのか…。」
「……貴様には関係の無い事…。」
ふむ…このグレンとかいう者の反応を見る限り何やら裏がありそうな雰囲気だな。
さて、このままだと重力術もいずれ突破されるであろう…その前にこの男を何とかせねば…か。
右手に魔力を込めながら、目の前のグレンに向け、ゆっくりと歩みを進めながら距離を縮めて行く。
「ほう…?真っ向勝負とは潔いな魔王よ。」
「ふっ、真っ向勝負とは違うな、、、ただ…主には退場して頂くとしよう。」
「なに?」
足をトンっと鳴らし、地表に残った魔力を空気中に浮かび上がらせる。
音も無く浮かび上がった魔力は霧のように空気中に散らばって行く…
完全に空気中へ消えて行く前に、左手で宙に散らばった魔力をコントロールしながら、目の前のグレンに纏わり付かせるように操る。
その間、右手には違う種類の魔力を練る。
「な!?これは!?」
「ようやく気付いたか?魔王を相手にするには少し経験が足りなかったな小僧。」
左手で操る魔力により、グレンの動きを封じ込める。
当の本人は必死で抜け出そうと藻掻いているが、この術は魔族にしか回避出来ない…現在この場所に居る魔族レイスも、今は重力術によって身動きが取れぬ状態なのもあって都合が良かった。
「魔撃破!」
右手に溜めた魔力を相手の体内へ流し込むように放つ、魔力耐性の無い人族は、体内のエナが枯欠状態となり、身体のエナが魔力によって蒸発し、その場でエナ切れ状態する技。
これも、先代よりの記憶から使えるもの…
「ごぁはっ!!!…な…何を…っく……身体が言うことをきかん…」
「しばらくは動けぬ、そこで大人しくしておれ。」
自身の状況に理解が追い付かないグレンを余所に、重力術を展開している場所へとゆっくり向かう。
「おい、グレンやられたんじゃねぇのか?」
「油断…いえ、違いますわね、あれが魔王…。」
「さて、この…ままでは私達もマズいですけど…アクアさんは…行けそうですか?」
「ごめんなさい……少し動けそ…う…にもないわね…。」
重力術はまだ機能しているのだが、平然と話せる3人…。
ここで更なる魔力を練る時間も勿体ない、早急に決着を付けさせてもらうか…
ドーム状の重力術が展開されている地面に、術を張る…
「なっ!?」
「これ…は!?」
「まさか…。」
上から押し潰す力に、下から持ち上げる力を均等に放つことにより、その不思議な現象は完成する。
術内部の3人は身動きの取れぬまま宙へ浮かぶ、巨体な球体の中無防備な身体をさらけ出す状態に更なる追撃態勢を取る。
「魔王を舐めてたな…おい。」
「私にも通用する術だけで、ここまで出来るとは…」
「此方の実力を出させる前に決める腹ですわね。」
宙に浮かんでいる状態で身動きが取れない、そんな中でも3人には余裕が見える…。
何やら切り札でもあったのか?
いや、それを使わせる前に片付けるのが先決か…。
大気中のエナを伝い、遥か上空に魔力を干渉させる。
生憎この開拓地は雨のよく降る場所…今夜は晴天だが、何処か上空にアレが有るはず…。
意識を重力術と上空と同時に集中させながら、自身の持てる術と技で策略を組み立てる。
「見つけた…。」
干渉した魔力が雷雲を連れて来る。
雷針は宙に浮かぶ女剣士…
幾ら丈夫とは言え、生身の肉体で雷の直撃は堪えるであろうな…
魔力での攻撃が無効化されているレイスが居るので攻撃手段は限られるが…纏めて潰すにはコレが最善手!
「少し痺れてもらおう。」
パンッ!!!
と手を合わせ、重力術を解除。
一瞬にして3人はそのまま宙に放り出される。
受け身や反撃、様々な行動があると思うが、彼等の行動を起こす前に魔大陸の雷が女剣士含める3人を貫く。
「堕ちろ雷よ…」
ズゴォォォォォォォォッッッ!!!!
パリッ……パリパリ
激しい爆音と共に地表の形が変わる程の一撃、雷の落ちたであろう箇所には骨身を灼かれた3人が横たわる…。
「ふむ、こんなところか…。」
プスプスと燻された様な煙を上げながら、動かない3人を確認し、青ざめた顔のグレンに近寄る。
……
「さて、気分はどうかな?」
エナ切れの為、その場から動けないグレンの前に立ち言い放つ。
このグレン…エナ切れ状態だというのに、未だ意識を保っている…
並のモノなら気を失ってもおかしくないはずだが、やはり相当の手練、先に片付けておいて良かったと心底思わせるのぅ…。
「ば、化け物め……」
「だから余を相手にするには、経験不足じゃと言ったろう?」
「……正直我等では話にならない強さだ…しかしここで私が死んだとしても、必ず貴様を滅ぼす者が現れる!覚悟しておけ!」
「ふぅ……貴様はなにか勘違いをしているようだが、こう見えて余は殺生しない主義でな…昔英傑の者にもよく言われたものだ。」
「……?何を言っている?」
「つまり…」
身動きの取れないグレンを担ぎ上げ、3人の横たわる所へ放り投げる。
「ぐはっ!貴様!何を!」
「今回は見逃してやると言っているのだ…だが次は無いぞ……その時だけは余の主義をも反故する覚悟じゃ、分かったな?」
そう言いながら4人相手に転移術を展開させる、ネオシグマ帝国まで送れれば良いのだが、あの地に直接転移させるには時間が掛かるな……
此奴等が4人揃ってても良からぬ事にしかならぬしな…どれ、少し痛い目を見てもらおうか…
横たわる4人に、別々の転移術を展開させる。
女剣士は北で頭を冷やしてもらおうか…
術士は西の海に飛ばそう…
レイスは中央で少し反省してくれると良いのじゃが、まぁ期待はしないでおこうか…
そしてこの男…此奴は…
「この屈辱、忘れ…ぬ…」
最後まで言葉を聞く事無く、音もなく目の前から消える4人…
「ふぅ…」
思わず漏れる溜息に今の戦闘の過酷さを改めて感じる。
まともに遣り合ってたら、五体満足ではいられなかったな…
上手く策が嵌まったから良かったものを、得体の知れぬ術士…不気味な剣を持つ剣士…超人的な身体を持つ戦士…そして魔族の中でも優秀だった男レイス…
個々の力を見せる前に片付けられて良かったが、4人の実力が揃うと中々厳しいものだろうな…三英傑の1人でなんとかなる…といったところか……。
まったくもって厄介な奴等がネオシグマ帝国に居たものだ。
しかしあれ等を統括出来るとは、帝国の長…いったいどれほどの人物か…。
しかし、ふふふ…
久しぶりに身体を動かしてしまったせいか、忘れていた感情が溢れてきたわ。
勝利…
うむ、たまには悪くないな。
夜中の開拓地…
何も無い広い荒れ地で魔王は悠然と月の光を浴びていた…




