62話 優者の選択
突如長寿の森を襲い、俺達の里を滅ぼそうとした男『タカユキ』
その男の手によって、里は外の世界から外される事となってしまう。
俺の恩人キョウさんの話によると、残された時間は半日から1日、その間に里は外界から離されてしまうらしい…
俺と幼馴染みのリンは、このまま里に残る決意を胸に、キョウさんの元へと歩き始めたのだった。
…
鬱蒼と広がる森をリンと歩く。
「…なぁ、リン。」
「ん?」
「本当に良かったのか?お前は昔から里の外に出掛けるの好きだったじゃねぇか。」
「まぁ、この先ずーっと里に居るか、里の外に居るかって、言われたら究極の2択よね…
でもさ、自分を含めてさ、人って独りじゃ生きていけないと思うの。だから私は里に残るよ。」
独りじゃ生きていけない…か。
確かにな…
どんなに強くても、完璧なヤツなんていない。
俺も外に出ている時は何度も味わった孤独感。
「そうか、これから先この里に閉じ込められるって考えるのも怖いけどな。それなりに楽しい事もあるか。」
「そうよ?悲観的になっても仕方ないじゃない。それにライデンなんて外に友達も居ないんでしょうし、里に残る方が寂しくないわよ。」
「ちょ!俺だって…友達の1人や2人くらい!
…いや、確かに居ねぇな」
「でしょー? ふふふ。」
ちっ、なんか全部お見通しって感じだな。
少しキョウさんに似てきやがったぜ。
リンと下らない雑談を交わしながら、森の広場へと辿り着く。
広場の中央には、クリスタルの前で膝を付き瞑想しているキョウさんの姿が見える。
…
「キョウさん…邪魔するぜ。」
俺の一言に閉じていた眼を開くキョウさん…
「あれ?ライデン?とリン。」
「よう、まだ他の皆は来ていないみたいだな。」
「キョウコ様、お休みのところ失礼します。」
目の前のクリスタルを地面に置いたまま立ち上がるキョウさん。
「もう、そんな時間か…ちょっと夢中になり過ぎちゃったかな。」
「いや皆来てないところを見ると、俺とリンが早く来ちまっただけだろ、悪いな何か途中だったみたいだけど…」
「ううん、大丈夫よ。ここの準備は終わったから、後は里からの脱出経路なんだけど、そこが少し不安かな…って、ちょっと考え事してたの。」
「少なくとも俺とリンは里に残るぜ、何か手伝える事あるなら言ってくれ。」
「そうね…どれくらいの人達が里から離れるかにも寄るけど、、、アタシ1人じゃ少し厳しいかもだし、後で一緒に来てもらおうかな。」
ニコリと微笑みながら、膝の土をパンパンと払うキョウさん。
先刻の話からすると、この里が外界から切り離され完全な別世界になるって事だけど…。
「なぁ、キョウさん、さっきのアイツ…タカユキは俺達を滅ぼす為にあの術を放ったんだよな?」
「そう…よ…。」
「キョウさんが今から何をするかは分からないけど、それはアイツの放った術を突破出来るのか?」
「…。」
俺の抱えていた不安。
あの男が躍起になりながらも、ここで奮闘していた事を考えると、簡単な問題じゃないはずだ…
少なくともヤツは目的が達成したと思ったから姿を消した。
今放たれてる術に絶対の自信があるからこそ、姿を消した。
それをくぐり抜ける、そんな事が可能なのか…。
「正直に教えてくれキョウさん。皆が不安にならないように上手く話してくれたけど、対峙した俺なら分かる。あの男が放った術…外界から切り離されて終わり。それだけじゃないんじゃないのか?」
「ライデン…?」
キョウさんに詰め寄る俺の裾をギュッと握るリン。
そんな俺を見つめながらキョウさんが口を開く。
「さすがだなぁ…ライデンには敵わないや…」
「当たり…か。」
「皆の不安感は取り除いてあげたかったから、多少誤魔化したとこはあったかな。確かにタカユキの術はさ、この後ゆっくりと光が真ん中に寄ってくるの。まるで里を潰すようにね。」
「時間が経つにつれ、範囲が狭まるって事か?」
「正解、まだ光の柱の間に空間があるけど、アレが無くなったら終わりよ…全てが光に包まれる、そして消滅…それこそ世界からね。」
だからさっき時間が無いって言ってたのか…
「それでキョウさんはどうするんだ?消滅までここで大人しくしてるって訳でもないんだろ?」
「タカユキの放った術は止められない…だからアタシは違う方法で皆を救う。」
「それが、里を外界から切り離す、か…。」
「これだけの広い範囲だし、もしかしたら上手く行かないかもしれない…けど出来る事はやるつもりよ。」
そう言いながら地面に置いたままのクリスタルを手に取り、ゆっくりと広場を見渡すキョウさん…
その表情から不安などは無く、自信に満ち溢れている。
そんな姿に俺とリンの一抹の不安は消え去るのだった。
「んじゃ、俺も準備しますかね、、、キョウさん、何か手伝える事あるなら言ってくれよな、ただジッと待つのは性に合わないんだ。」
「あ、私も!何でも言って下さい!」
そんな俺達をニッコリ微笑みながら眺めるキョウさん…
いつもの様にジッと眼を見つめながら何かを探っているような…そんな不思議な感覚だ。
やがてキョウさんは何かを察したようにボソリと呟く…
「ふふふ、やっぱり変えられるよね。」
「ん?今なんて?」
「何でもないわ、こっちの話。ねぇリン、ちょっとこっち来て…話したい事があるの。」
「え?あ、はい。」
そう言って、リンと広場の端まで遠ざかる。
…
何やら2人でコソコソ話してる…
あのキョウさんだ、こんな時に世間話してる訳でも無いと思うし、俺には内緒の話なのか?
少し気になるな…。
それにしても、この光の柱みたいなのが里を…
ふと顔を上げながら、空に光り輝く光の柱を眺める…
ザッと数えても20から30の光の柱…等間隔に里をグルリと囲んでいる。
「不気味な光景だな。」
もしあの光の一部を消滅させられるなら…
そう、俺やキョウさんの『滅剣』なら…
いや、それがもし可能なら、ヤツは俺達を生かしておかないはず…か。
上手く外に出られても外で待ち構えていたりとかな…。
あんな規格外の力を持つ人間が存在するなんて…な。
よく五体満足で生きてたもんだぜ。
キョウさんも半端無かったけど、あの男はまた異質だった…何て言うか、狂気めいたモノが内側から滲み出るような…そんな感覚だった。
曲げられない信念…か。
あの男が言っていた言葉。
まるで俺達の方が悪いみたいな言い方だったけど、キョウさんは何か知ってるのか?俺達長寿人種がこの先の世界を生きていてはいけない理由を。
この先の世界…。
長い寿命の俺達にとって、かなり曖昧になってた部分でもある…
まさか、寿命よりも先に襲撃にて滅ぶなんてな…。
里の皆はどうするのか…
さっきのキョウさんの態度から見て、かなりの確率でここに残っても生き長らえる確率はそんなに高くないって感じだし、やっぱり全部知ったら外に出たい人達も何人かは出てくるだろうな。
外の世界、あの光の柱の向こう側の世界…
幾つもの国や地方を見て回ったが、俺にはこの里が1番落ち着く。
…さて、リンとキョウさんは…
まだ話し込んでるな、、、
まぁ特に気にする事でも無いが、随分と長いな。
遠目にキョウさんと会話しているリンに目を向ける…
真剣な顔立ちでキョウさんの話を聞いているみたいだ。
ウンウンと頷き、時にはオーバーリアクションにて行動を示すリン。何かに付けても分かり易い。
いったい何を話してるのか…
……
「おまたせ、ライデン。」
そう言いながらリンを連れてくるキョウさん。
チラチラッと俺の方を見ながらキョウさんの後から顔を覗かせるリン……
ん?なんだ?いつもと少し様子が違うな…キョウさんに何か吹き込まれたのか?
「んで?全員が集まるまでここで待機か?」
「ううん、、先にライデンとリンには経路の確保をお願いしようと思うわ。」
「分かった、、キョウさんは此処から離れても大丈夫なのか?」
「一応、マノズには伝えておいたから一先ず皆が集まるまでは大丈夫よ。」
マノズか…里の長的役割の男。
信頼もあって仕切りも上手い、彼が残るのなら広場は安心だろう。上手く纏めてくれるはずだ。
「そっか、それなら安心だな、んじゃさっさと行こうぜ?」
「そうね、モタモタしてる時間も惜しいわ…付いてきて。」
真剣な顔付きで空を見ながら歩き出すキョウさん…
あの光が本格的に動き出す前に対策を…か…
俺に出来る事なら何でもする。皆を…里を…なんとかしたい。
そんな事を考えながら、キョウさんの後を付いて行く。
「なぁリン…さっき二人で何話してたんだ?」
「えっ!?べっ、別に何でもないわよ…ただ、この先の…その、色々…よ。」
「この先の?色々…?」
「そ、そうよ!色々よ!」
「ふふ、ライデン、リンが話したい時になったら話してくれるわよ。」
「なんだよ、それ。よく分かんねえなぁ。」
「分からなくていいの!もう、キョウコ様!私は完全に信じた訳じゃないですからね!」
「あれ?そうなの?てっきりリンは…」
「わーーー!!!ちょっと!!!待って下さい!!!」
ワイワイと騒がしいな、ホントに何なんだよ…
「ね、ねぇライデン。」
「ん?なんだ?この話まだ続いてんのか?」
「違うわよ、その、アレよ!ライデンは無茶しないでよね。」
「はぁ?」
「私からはそれだけ!分かった!?無茶しないの!!」
「お、おぅ。分かった…?けど、何の話かよく分かって無いんだが…とりあえず無茶はしないようにする、これで良いのか?」
何やら様子のおかしいリン…ホントにキョウさんと何話してたんだか…
そそくさと、俺に一言告げてキョウさんと前を歩く。
先の事を…か。
俺だって考えなかった訳じゃねぇけど、、、な。
……
さて、広場からサクサク歩いているけど、里の外れまではこの道で問題無さそうだな。
幅もそこそこ広いし、何より道がしっかりしてる。
何もない獣道よりは全然マシなはずだ、、
けど、問題は…アレ…か。
森の大樹を避け、歩きなれた道の先に見えるのは光輝く壁…
遙か上空から降り注ぐように里を囲んでる光の筋の一端が、俺達の目の前を、巨大な壁となって立ち塞がる。
ぐるりと辺りを見渡しても、等間隔で同じように光の筋は里を囲っているようだ。
「コレが…」
「俺もさっきは此処まで近づいて見た訳じゃないからな、改めて見るとホントに凄えなコレ。」
マジマジと目の前の光を見る俺とリン…
あの男の放った術…
キョウさんが言うには、この里を徐々に潰して行く、恐ろしい術…か。
「コレだけの広範囲を潰せるなんて心底恐ろしいヤツだな。思想もそうだけど、それをやってしまう行動力も規格外だ。」
「タカユキの考えは分からない…けど、アタシはこんなやり方許せない。なんとしても防いでみせる。」
「んで?キョウさん、退路って言っても具体的にはどうするんだ?この壁を壊す訳でもないよな?そもそもこの壁にはどんな意味があるんだ?」
壁に近づきながら、そっと指先を伸ばす…
「ライデン!!!ダメッ!!!!」
「ぇ…?」
キョウさんが叫んだ時には、俺の指が壁に触れ…
否…
触れようとしていた部分が消滅していた。
「なっ!?ぁっ?」
あまりにも突然の事に、驚きの声を上げる、痛みすら感じる余裕すら無い一瞬の出来事だった。
壁に触れたと思った瞬間、何の前触れも無く消滅する指先…
伸ばした指は、爪の生え際からそっくり消失している。
斬られた訳でも、千切られた訳でも無い、ただ失われてる。
ドクンと、脈打つように指先から大量の血液が溢れ出す…共に訪れる痛み。
「ぐっ、ぉぉ…」
「見せて!!」
即座にキョウさんが治癒の術を掛けながら、俺を介抱する。
「すまねぇ、キョウさん、今のは、いったい何だったんだ…俺は壁に触れたのか?」
「アタシも詳しくは分からない…けど、アタシ達を閉じ込めるくらいの術…。何かしらの仕掛けはあると思っていたけど…まさかこんな…」
「なるほどね…っ痛、これなら外には出られそうに無いな。」
徐々に塞がる指先の傷、壁から距離を取りながら、今一度壁を見上げる。
空からの脱出も不可能、、か…。
壁と壁の隙間ならなんとかなるかと思ったが、触れる前に消滅させられちまうなら、あの間を通り抜けるのも難しいか…
「ライデン、大丈夫??」
「あぁ、少し先走っちまった、、、おかげで壁の特性ってか効果っぽいのは分かったけどな。まさかの代償だぜ。」
「ホントに気を付けてよ!!下手したら危なかったじゃない!」
「わ、悪い、今回ばかりは俺の不注意だ。リンもその壁には近づくなよ…。」
俺の言葉を聞きながら一歩後退るリン…
その横でキョウさんが何やら真剣な眼差しで壁を睨んでいる。
「ライデン、1つ教えて。」
「ん?なんだよ改まって、らしくねえなキョウさん。」
「今その壁に触れた…のかは分からないけど、指先が消える瞬間、何か変わった感覚は無かった?」
「変わった?感覚?」
キョウさんにしては珍しい、ぼんやりとした言い回しだな…何か思うところでもあるなら、そのまま聞いてくれれば良いのに、、、
「うーん、そうだな……正直突然の事過ぎて、感覚とか感じる前に持って行かれた感じだったぜ?」
「……そう。」
「なんだよ、引っ掛かるな、何かあるのか?」
「ただの思い過ごしだと思う…から、今はまだアタシの口からはハッキリとした事は言えない。」
「ん、まぁそれなら良いけどよ、、、でもコレじゃ里からの脱出なんて無理じゃねぇのかよ…。」
壁に触れる事すら出来ず近づけば、消失してしまう危険な囲い…正直コレを突破するのは絶望的だ。しかもこの壁の範囲が徐々に狭まってくるなんて…洒落にならねぇ。
「そうね、、状況的にはかなり厳しいかな…。」
キョウさんの弱気な発言に俺もリンも表情が曇る…。
「キョウコ様…その、、」
「大丈夫!
厳しいだけで無理じゃないわ。不可能なんてこの世界には無いのよ?」
そう言いながら一歩前に踏み出し、壁へと手を伸ばす。
「ちょっ!キョウさん!!危ねえ!!!」
思わず呼び止めるように叫ぶが、キョウさんは気にせず壁に自らの片手を差し込む。
!!!??
ポウッと光がキョウさんの片手を包むように輝く。
キョウさんが触れた壁からはバチバチっと雷光にも似た光の筋が辺りに散るが、そんな事すら気にせずキョウさんの片手は、手首から腕へと、ゆっくり壁に差し込まれる。
「なっ!どうなっ…て!」
一瞬で俺の指先を消失してしまう危険な壁にあそこまで腕を突っ込むなんて。
「っ…!」
険しい顔をしながらも、自らの腕を壁へと接触させ続けるキョウさん。
無謀にも似たその行為だが、キョウさんなら何とかしてくれるという勝手な信頼、押し付けがましい期待、そんな想いが俺の中に少しあったからなのか…キョウさんがどうにかなるなんて想像も出来ない。むしろこの状況を打破してくれるなんて思えてしまう。
「もう…少し…だけ…」
そう呟きながらも、壁への干渉を続けるキョウさん。
眩い閃光が辺りに飛び散る…
俺とリンの近くにも届く光の筋…キョウさんの腕を拒むようにバチバチと音を立てながら、俺達の視界を明るく照らす。
そして…
バシュン!!!!
っと、何かを引き裂く音と共にキョウさんの腕は光を完全に拒絶する。
す、凄え…
この人は俺の想像を簡単に超えてくる…
昔からそうだけど、本当に不思議な人だ。
「ふぅー。」
そう一息ついたキョウさん…
額にうっすら汗を浮かべながらも、目の前の光の壁に自らの腕を貫通させる。
未だに細かい光の粒子がパチパチと飛び散っているが、キョウさんの腕が貫いた部分から裂け目が作られる。
「よし!行くよ!」
裂け目にもう片方の腕をねじ込み、引き裂くように両手を広げる…
ビリビリッっと音を鳴らしながら、外の景色を大きく視せる。裂け目を広げるキョウさんの姿に驚きを隠せない…
「す、凄い、、」
「あぁ、信じられねぇ…。」
「これで、外界への経路は確保ね!」
ニコリと笑いながら俺達の元へと戻ってくるキョウさん…だが…
光の壁に突き刺した両腕は、黒く焦げ付いたようにボロボロだ。
「キョウさん…その腕…」
「へへっ、ちょっと無理しちゃった!でも不可能じゃなかったでしょ?」
「キョウコ様!早く治癒を!」
駆け足でキョウさんに治癒の術を掛けるリン…
見るからにグズグズに焦げている腕に触れるのも躊躇われるが、優しく手を添えながら、ゆっくりと術を展開させる。
「えっ!?そんな、治癒が…」
「リン…ありがとう、もう大丈夫よ。」
「全然大丈夫じゃないです!どうして!」
困惑の表情で治癒を続けるリン…
端から見ている俺には何が起きてるのかサッパリだが、キョウさんの腕が一向に回復しない。
「リン…言ったでしょ?少し無茶したって…ライデンの指先を見て思ったけど、普通の結界とは訳が違ったわ。」
「無茶なんてものじゃないですよっ!!!この腕!このままじゃ!!」
必死に治癒を続けるリン…
だが、キョウさんは首を横に振りながらリンの手をそっと除ける。
「リン…もう充分よ。これしきの事で…アタシもまだまだね。」
一切の辛さを感じさせない表情で俺とリンを見るキョウさん…
あんなにボロボロの状態で痛くない訳がねぇ…
むしろもう使い物にならないくらい酷い有様なのに。
「なのに!何でそんな顔出来るんだよ!キョウさんがそこまでやらなくても!皆を説得して里に残る事だって!」
「ふふふっ、優しいなぁ、ライデン。でもね、これはアタシがやらなきゃいけない事だったの。この先の為にね。」
「また…それかよ、この先、この先…って…キョウさんアンタは俺の、いや、俺だけじゃない、この里皆の恩人なんだよ、先の事も大事だけどよ、今この時のキョウさんが無茶してどうにかなっちまったら…俺は…」
「もー!いつまでそうやって暗い顔してるの!!
コレはアタシの問題!ライデンやリン…それに里の皆が気に病む必要なんてないの!分かった!」
今にも朽ち果てそうな腕を腰に当てながら、空元気を見せるキョウさん…
本当に敵わねぇよ。
俺達を助ける為だけに、ずっと無茶ばかりして、、、
「キョウさん…ホントに…」
「まだ言うかなー?」
「いや、その、悪ぃ…」
「よし!」
ニッコリと微笑むキョウさん、そんな顔されちゃ何も言えねぇよ。
「さてと、コレで外に出られるから、先に出る子達だけでも呼んできてくれるかな?そろそろ広場に集まって来てるはずだし…」
「あ、それなら私が行きます!」
「あ?リン、お前一人で行くのか?」
「私一人の方が早いでしょ?ライデンは途中でどっか居なくなるかもだし…」
ちっ、今朝の事を根に持ってるな、まぁ、確かにリンの速さは群を抜いてるからな…俺と一緒よりも一人のが早いか…。
「んじゃ、俺はここでキョウさんと待ってるから、脱出組の連中は任せたわ。」
「リン、ゴメンね小間使いみたいな真似させて。」
「全然大丈夫ですよ!すぐに皆を連れて来るので少し休んでいて下さい!
ライデン、キョウコ様を頼んだわよ。」
「言われなくてもキョウさんに、これ以上無茶させねぇよ。」
その俺の言葉を聞き、ふふっと笑いながら姿を消すように走り去るリン…
相変わらずの瞬足で、すぐに姿は見えなくなる。
…
「それにしてもよ、キョウさん…本当に大丈夫なのか?その腕…」
「うーん、どうだろ?ここまで損傷したのは初めてだし、何とも言えないかな…。」
「初めて…ね、そりゃまた驚きだ。」
「なによ、人のことオバケみたいな言い方して!」
「オバケが何なのか分からねぇけど、長いこと生きてて、色んな術も使える、それだけで充分非凡だぜ。」
「あー、今の言い方には1つ勘違いがあるかなー。」
「ん?何か変な事言ったか?」
「アタシ、術って一切使えないんだ。」
「へ?」
術が使えない?どういう事だ?今までだって、いや、さっきの闘いもそうだし、今結界を破ったのもキョウさんの術じゃ無いなら…
「アタシはこのクリスタルの能力を使ってるだけ、皆が普通に使えるような術は全く使えないの…」
「クリスタル…そんな、ちっこい石がね、、、」
「まぁ、後はこの『魔眼』くらいかなー?」
そう言いながら自身の眼を指さすキョウさん。
「魔眼…?」
「へへっ、本当は呼び名なんて何でも良かったんだけどね、ある人が、そう言始めてから、なんか定着しちゃった。」
「その、ある人ってのは、キョウさんにとって大事な人なのか?」
「ぇえ!?何よ、いきなり!
ん、まぁ、その、大事だよ。うん。」
「おぉ?なんだよ、キョウさん、珍しい反応してるじゃねぇか、さては男だな!」
「もう!なんでそんなに嬉しそうなのよっ!!」
「いやー、俺達長寿人種の大恩人のキョウさんが惚れた男かぁー!ソイツは気になるところだなーってさ。んで、その男は今何してるんだ?ん?」
顔を赤らめながらモジモジと、普段見せない表情のキョウさん…
だが俺の一言にその表情を変えて行く。
「今は…ちょっと遠いところ…かな…。」
いつもの声色よりも元気が無い。
珍しく、明らかに沈んでるのが丸わかりのキョウさん…
「あ、悪ぃ、なんかズカズカ踏む込み過ぎた…」
「ううん!気にしないで、アタシこそ…ホント…ゴメンね。」
「その、キョウさんは逢いに行かないのか?」
「そう、、、ね、でも、行方不明…みたいな感じ…だから、アタシも逢いたいけど、正直結構難しいかな。」
「何処かに手掛かりとか無いのかよ?」
「立ち寄る可能性が高い場所は、幾つかあるけど、、、」
「待ち伏せするのも骨が折れる話だな。」
キョウさんに、ここまで想われるなんてな。
それにしても、とんでもない流浪人だな、ったく。
「もしも、この結界を何とか出来たら、その時はアタシから逢いに行くつもり…」
「そうか、逢えると良いな。」
「ふふっ、ありがとライデン…」
何か想い更けるように、遠くを見つめるキョウさんの眼は不思議な輝きを放っていたように見えた…
「ったく、しょうがねぇな!俺もその男探すの手伝ってやるぜ?ってか、里が無事ならの話だけどな!!」
「え!?本当!?もし、全部上手く行くなら、ライデンにもお願いしちゃおうかな!」
「おう!いいぜ?キョウさんの頼みだ!なんでも言ってくれよ!」
「じゃぁ、もしも…ね、もしもアタシが上手く結界を取り払って、そして、皆がまた集まって生活出来る環境が外の世界に出来たらさ、、、その時は伝言を頼まれて欲しいの。」
キョウさんにしては弱気だな。
やっぱりこの結界をどうにかするのは難しいって事か…。
でも、キョウさんは完全に諦めて無いってのが、伝わるぜ。
その想いを受け止める為にも俺はキョウさんのお願いってヤツを引き受けなきゃだな!
「伝言?いいぜ?何でも言ってくれ!」
「じゃぁ、ちょっとだけ目を閉じて…」
「ん?なんだよ、、、」
「ほんの少しだけ、おまじない。」
そう言われ、大人しく目を閉じる。
何がなんだか分からないが、キョウさんのお願いだ、大人しく言うこと聞いておこう。
…
フワッと身体が何かに包まれたような感覚…
キョウさんはいったい俺に何を?
「よし!コレでオッケー。」
「キョウさん?今いったい何を?」
「んふふ、おまじないだよ、今後ライデンに、もしもの事があっても今まで通りになれる、おまじない。」
「は?何を?」
「深く考えなくて良いよ、、ライデンにその気が無ければ何も起こらないから。」
「その気?って、てか、キョウさんの言ってる意味が良く分からない、、、ってか何したんだよ。」
「だーかーらー、おまじない、、信じるも、信じないも、ライデンの自由!分かった!?」
ったく、何言ってるか分からねぇ…
俺が理解出来ないのか、それともキョウさんがムチャクチャ言ってるのか、サッパリだが、俺に何かしらの術でも仕込んだんだろうと、勝手に予想しておくか…。
にしても、ホント緊張感が無いっていうか、マイペースっていうか、キョウさんと話してると不思議な気分になってくるぜ…。
目の前には光の壁。
そして、その壁に奔る一筋の裂け目。
リンが呼びに行った皆も、そろそろ此方へと向かって来るだろう。
何人が残り、何人が外に出るのか…
俺には分からない…けど、もし里の外に出る奴等が居るなら、全力でキョウさんのサポートをしなきゃだな。
そんな事を考えながら、チラッとキョウさんを見ると目が合う。
ニッコリ笑うキョウさん。
不安なんて微塵も感じさせないその表情に、ついつい俺も油断気味なのは内緒だな。
そんな俺とキョウさんの遣り取りを知らないリンが、皆を連れて戻ってきたのは、この後すぐの事だった。




