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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第四章 異世界 ~聖地~
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59話 勇者と襲者…

 





 ある日、里の仕事をすっぽかして小川でのんびりと過ごしていると、久しぶりに再会した恩人。

 ナガイキョウコ

 その恩人と話している最中現れた謎の男

 タカユキ


 2人には何かしら因縁が有るらしく、不穏な空気が流れる森の中。


 長寿の森が震える程の衝撃に俺はその場に立っているのが不可能な状態へ、、、












 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※











 ビリビリと身体全体が震えるような衝撃の中、目の前の男とキョウさんは向かい合ったままだ。


 くそっ!この衝撃は何だってんだ!?

 術の類じゃない…よな…





「ライデン…そこで大人しくしててね。」




 ボソリと呟きながら、男の方へ歩みを進めるキョウさん…。

 バタバタッと激しい音をたてながら衣服が風に煽られているのを見るとキョウさんにも衝撃は届いているはずだ。




「キョウさん…大丈夫かよっ!」




 俺の言葉に片手を振りながら合図をする、未だに何故この里に、こんな事態が訪れているのか分からないけど、今は成り行きを見守る他無さそうだな…





「落ち着いてタカユキ…話を聞いて…。」



 ゆっくりと男の方へ歩きながら、諭すように言葉を投げ掛けるキョウさん。

 そんな彼女に対して男は逆上したままのようにも見える。




「落ち着けだって?それこそ僕の台詞さ!何で分からない!何で気付かない!何で敵対する!」

「別に敵対の意志は無いよ、だけどタカユキの考えとアタシの考えは違う…勿論視えてる世界も…。」

「視えてる世界…か…本当に厄介だね、、、その眼は…」



 そう言いながら、男はキョウさん目掛けて手を広げる…


 その瞬間目に映る空間が歪んだように見え、その歪みは物凄い速さでキョウさんへと、ぶつかる…








 バァッッンッッ!!!!








 と空気の弾ける音と共に辺りの木々や地表が凄まじい勢いで弾ける…

 まるで仕掛けでもしてあったかの様に、元の姿は見る影も無く形を変える。




 しかし

 その変化も、キョウさんから前まで…。

 キョウさんを境に世界が変わったかの様に衝撃は食い止められている。

 後ろに居る俺に届くのは、キョウさんまで続く破壊の余韻のみ…。


 誰が見ても分かる、あの男が何かしらの術を放ち、それをキョウさんが止めている事を…






「まったく、僕がわざわざ長寿の森へと足を運んだのに、そんな風に邪魔をされちゃ困ったもんだよ…」

「タカユキが大人しく退いてくれるなら、アタシは邪魔なんてしない。でもまだ続けるならアタシはタカユキを傷付ける事になるよ。」

「はははっ!さすがナガイキョウコ!言うことは『あの人』そっくりだね!ますます退くわけには行かないね!」



 そう言いながら男は宙に浮かぶ…


 揶揄的な表現では無く、本当に地から足が離れゆっくりと浮上して行く姿に我が眼を疑う。



「なっ!浮いた!?空人、竜人、違う…いったいどうやって…」



 それこそ俺の頭の中では理解出来ない現象が目の前で繰り広げられる。


 何が、俺も一緒に…だ、ちくしょうっ、あの男の能力も、それと渡り合えるキョウさんも、俺なんかが付け入る隙すら無い…完全に別世界の出来事だ。







 次元が違う…



 まさにそんな言葉が頭の中を過ぎる。





「さて、遊んでばかりいても時間の無駄だね、僕はこう見えて効率的なんだ…」

「アタシとこうやって戦ってる時点で非効率的だよ、決着なんて付かないんだから、今日はもう退いてくれないかな?」

「確かに…ね、僕達の間では一生決着なんて付かないんだろうね、、まぁ過去に例外はあったけど…」




 キョウさんを見下ろしながら男が放ったその一言…


 その瞬間俺の周り…いや、森全体とも思えるくらい辺りの空気が張り詰める様な感覚に陥る。


 ゾクゾクっと意味も無く背中から寒気が走る嫌な感覚だ。


 そう…例えて言うなれば、彼女の感情がそのまま世界に干渉していると錯覚するくらいだ。


 背中越しでも分かる…

 今キョウさんは怒りに満ちている事が…。





「タカユキ…それ以上は言わない方が良い…アタシだって怒る時は怒るんだよ…。」


 ゾゾゾっと、全身の毛が逆立つ様な負の感情が辺りを包み込む…

 これがキョウさんの怒り…なのか…


 初めて感じるキョウさんの負の感情は、里全体に広がっていたのだろう。

 先程まで辺りを彷徨いていた動物や鳥の姿はどこにも見当たらず、激しい衝撃の中でキョウさんの周りだけが静寂に包まれるという矛盾している光景。


 正直頭がパンクしそうな状況に、俺はただ蹲って傍観する…



「怒る時は…か…。怖いね、本当に危険だよ…それが長寿人種に受け継がれている事も危険以外の何ものでも無い…。」

「長寿人種は関係ないよ…コレはアタシの怒りなんだから…」

「各種族それぞれ特化している処は在るけれども、長寿人種は別格に危険だよ、例えば多種族より力が強いってだけの獣人種が可愛く見えてくるね…」

「関係ないって言ってるでしょ…」



 坦々と話す男に、いつもより低く真剣な声で返すキョウさん…

 声色1つで怒っているのが丸わかりだ。

 そして、本当に怒っているキョウさんに俺が恐怖心を抱いてしまった…初めて見るキョウさんの変貌だが恩人とも言える彼女に恐怖してしまう自分が嫌になる…。





「危険だって気付いているから、自らが管理者として治めてるんだろう?」

「いい加減にしてよタカユキ…この子達には何の罪も無い…何でもかんでもナシにすれば良いってもんじゃない!」







 そんなキョウさんの言葉を受けた男は急に黙り込み…言葉を探す…そして…



「じゃぁ…元の世界の事は、、、帰ったら…どうするんだよ…。」


「ッ…!!」


 先程まで余裕ある言動とは違い、自らの感情を押し出したような呟きに、キョウさんは思わず黙り込んでしまった。


 なんだ?何の話なんだ?

 俺には男の言葉の意味は一切分からないけど、何て言ってたんだ?元の?帰ったら?




「皆だって気付いていたはずだよ、、、だから、この世界をこうしてしまった責任を…」




「違うっ!!!!」





 突如男の発言を遮るかのようにキョウさんが叫ぶ…

 初めて見聞きするキョウさんに少し驚きを隠せない。




「違わないね、僕達がこの世界に居る意味をもう一度考えてみたら明確じゃないか…」

「そんなのは、答えの出ない水掛け論!例えタカユキがそう思っていてもアタシがそれを否定する!だからタカユキも、こんな事やめて、もう一度皆で良い解決策を話し合って決めようよ!」


「それは無理だよ…本当に、本当に残念だよ…分かってくれると思っていたんだけどね、、、」

「タカユキ…お願い…。関係ない人達を巻き込まないで、必ず全て上手く行く方法があるよ、もう少し頑張ろう?アタシも協力するしさ。」



「…。」



 そう言うキョウさんをジッと見下ろしながらまたもや黙り込んでしまう男…。

 訳の分からない話だったけど、キョウさんの説得が通じたのか?





「ずいぶん昔…の事だと思うけど…」

「何の話…?」


「いや、同じ事を言ってた人を思い出してね…。」

「そう…なんだ…。」


「関係ない人達を…か…じゃぁ君は元の世界の家族や友達が危険に晒されるって分かっているのかな?それとも分からないから、そんな事を言うのかな?」

「あ、、アタシは、、、目の前の命を無為にする事なんて望んでいない…それだけよ。」

「それって結局堂々巡りなんじゃないかな?どこかでケジメを付けないと世界は変わらない…それに僕達には責任もある、そうやってこれからもずーっと暮らして行くのかい?」



「堂々巡り?違うよタカユキ…。

 アタシはあの時の事を後悔しているよ…。

 皆もっと話し合うべきだった…。

 全部誤解だったのに誰も信じて無かった…。

 そしてアタシも皆を止められなかった…。

 アタシが今ここに居る理由は目の前の命を守る事、そして、果たせなかった約束を今度こそ果たすの。何度も失敗したから、ううん、また失敗するかもしれない、けど、アタシは最後の一人になっても挑み続ける。誰も悲しまなくて良い結末に辿り着けるまで、アタシは諦めない!」




 熱く語りながらキョウさんの身体がぼんやりと光に包まれる…柔らかい光だ。

 端から見れば、どこにでも居る亜人の女…

 だけど今目の前に立っているキョウさんは、大地と繋がっているかの様にしっかりと根を張り、その小さな身体からは想像も出来ない程溢れ出る包容感…

 キョウさんの背中を見ているだけで、どんな事が起きても大丈夫というような安心感に包まれる。




「そうやってネオクリスタルを展開させてまで僕を説得したいみたいだけど…。僕も遊びに来た訳じゃ無いんだ、そろそろ無駄話をやめよう…これ以上は時間の無駄だよ、、、まぁそんな無駄になる時間も僕達には関係無くなりつつあるけどね…。」



 キョウさんを見下ろしながら、ゆっくりと片手を此方へ向け何かをしようとする男…

 何故だか分からないが、あの手からは嫌な感覚がする…




「どうしても退いてくれないのね…タカユキ…。」

「くどいなぁ…何度も言ってるだろ?僕の方こそお願いだよ、今すぐ退いてくれないかな?それとも、そこの純血種を一人消して見せようか?」






 物騒な事を言い放つ男を見上げながら、ふーっと、ゆっくりと深い深呼吸をするキョウさん…





 そして次の瞬間、目の前のキョウさんの姿が消える…。










 ボグゥッッ!






「ッッッッッッ!?」


 突如、響く鈍い音と共に、声にならない声で、空中の男が自らの腹部を押さえながら身体をくの字に曲げる…



 何事かと男を見るも、空中には男一人が悶えている。




「な、なにが!?キョウさんはどこに…。」




 キョロキョロと姿を消したキョウさんを探すも、目の前の景色には男が一人宙に浮かんでいるだけ…。




「がは、はぁっ、はぁっ、話し合いで解決出来ない事が分かった途端いきなり攻撃してくるなんて、ね。まったく…随分野蛮だね…。」


 ペッと血混じりの唾を吐きながら、見当違いの方向を見る男…


 そしてその視線の先には微かにキョウさんの姿が見えるが、瞬時に消えて居なくなる。



「消えた!?いや、キョウさんは消えたんじゃねぇ…ただ高速移動しているのか?それこそ俺には視認出来ないくらい…。」





 シュンッ!

 と、大気が震える音が辺りに響く…

 その都度男に対してキョウさんが何かしらのアクションを起こしているのだが、やはり俺からはその姿を視認する事が出来ない…



「…ッ!さすがっ!だね、決着が付かないってのも、あながちハッタリじゃ無さそうだよ…」


 バシュッ!っと激しい音を響かせながら、キョウさんの攻撃を丁寧に受け止め始める男…





「タカユキ相手に様子見している余裕は無いの、早急に退いてもらう…」


 姿は見えないがキョウさんの声が辺りに響く…





「やれやれ…っ、どうやら一筋縄では行かないみたいだし、僕もそろそろ終わらせに行くよ…」


 と言い放つ男も、キョウさんと同じように身体がぼんやりと光に包まれる…

 そして、ゆっくりと左右に両手を拡げた次の瞬間…







 ボウンッッ…!!!





 まるで空気をくり抜くような音が聞こえた刹那、俺の目の前の大木の根元が、えぐられる様に消えていた。


 大木の根元が消えるということは、勿論その大木は自重を支えきれず、その幹を地面に向かいながら倒れ始める…




「おっ!!ま、まっじかよっっっ!!」




 ギギギ…バキバキ…

 と鈍い音を鳴らしながら、樹齢幾年月を重ねた大木が倒れ始める…


 男が拡げた手の、もう片方でも同じように大木の中腹にポッカリと穴が空いている…



「ふう…なかなか素早いね、僕のこの術でも捉えきれないなんて、、、」


 術と呼ぶには規格外の現状…


 身体能力向上処では済まされない動きをするキョウさんも…

 一瞬にして、辺りの空間をえぐり取るような男も…



 こんな化け物染みた戦いが、目の前で行われている…






「あまり里に被害を出さないで欲しいんだけど…」




 突如男の目の前に現れるキョウさん…



「ッ!本当に素早ッ……」



 その姿が見えた瞬間



 ドンッッ!




 と何かがぶつかる音が響く…

 宙に浮かんでいた男は言葉を最後まで発する事無く、物凄い速さで後方に向かって飛んで行く。




 いったい、なにが?

 理解し難い目の前の現状…

 多少混乱状態だが、目の前から男が居なくなった事により徐々に冷静さも取り戻し始める。




「この一瞬で…とんでもないものを見ていた気分だ…」


「ライデン!油断しないで…すぐに来るよ。」







 そう、油断…






 俺が一瞬の安堵感を出した時、男が飛ばされた方向の空が光に包まれる。






「まいったなぁ…」



 スッと俺の前に立ちながら、ボソッと呟くキョウさん…



「な、なんなんだよ!まだ今の闘いが続くのか!?」

「ごめんねライデン、巻き込むつもりは無かったんだけど、、、」


 こちらを振り返りながらニコリと笑いかけるキョウさん…まだまだ余裕あるその笑顔に、これから襲い掛かるであろう恐怖が和らぐ…。




 が…







 ズズゥゥゥンン…






 と、一瞬全ての時が止まったかのような錯覚…そしてその直後訪れるのは、今までの闘いが茶番だったかの様に、激しい音と衝撃波…

 腹の内部に激しく振動するその衝撃の発信源、男が居るであろう場所では、巨大な木々が、まるで枯草の様に舞っている。




「あ…ありえねぇだろ…なんだよ、ありゃ…」



 我が目を疑う光景に思わず声が漏れる…




 宙に舞っている大木は、まるで辺りの空気に包まれるかの如く上空へと浮かび上がり、巨大な球体となる。


 その球体は速さこそ無いが、徐々に俺達との距離を詰める様に向かってくる…







「ライデン…なんとか躱してね…」



「当たり前だろ!?ってキョウさんも避けろよっ!!」



 躱せない距離でも無い…

 だがキョウさんは避けようともせず、目を閉じながら集中しているように見える。





 っ!!


 そうか!!



 そう…キョウさんの背後には、現在里の皆が集まっているであろう広場があるのだ。

 今キョウさんが、あのどでかい球を避けたら里への被害は確実、いや、誰かの命を奪う事にまでなる…。


 だけど、あんなの避けずにどうするんだよ…



 目の前には轟々と鈍い音を立てながら此方へ向かってくる巨大な脅威…。

 近付くにつれ、バキバキッと激しい音を立てながら辺りの大木を巻き込み更なる破壊力を増す空気の球…。




「ライデンには使うなって言ってたけど、今回は緊急事態ってことで、、、、」


 そう言いながら両手を前に出しながら、キョウさんは一言だけ呟く…







「滅拳…」








 パッと、一瞬目の前の空間が光りに包まれる。

 音や色など無く、ただ一瞬目が眩むような光…


 俺が教えてもらった技『滅剣』だ。


 全てを消滅させる危険な術…

 使い方次第では物や人にも被害が出る、そして使用者の寿命を削る諸刃の術…


 だけど、さすがキョウさんだな。





 俺の目に映る景色は、バラバラと大木が地に落ちる光景…

 先ほどまで唸りを上げていた巨大な空気の球は姿を消し、巻き込まれていた飛散物だけが行き場を失い地に落ちる。


 見事に男の放った術のみを消滅させた…







「やれやれ、お得意の消失系か…厄介だね…」



 そう言いながら此方へ向かってくる男。

 自らの放った術を破られたのにも関わらず、男からは落胆を感じさせない、まだまだ余裕のある声だ…




「タカユキがどんな術を使おうと全部消滅させるよ、アタシにはそれが出来る…」


「そうだねぇ…確かに術を消されちゃ手の打ちようが無いのは事実だね。」




 なんだ?

 あの余裕は…何か策でもあるのか?






 俺の嫌な直感に応えるように男はユラリと片手を此方へ向ける…


 ヒィィィィン…


 と甲高い音が響き、俺の肉眼でも視る事が出来る光に男の片手が包まれる…


 そして…

 俺が光を認識したと同時に放たれる一筋の光線は瞬く間に俺の元へと到達する…



 そう思った瞬間…

 風を切る音と共に俺の目の前にキョウさんが現れ、男の方へと拳を構える。



 パッと目の前が光り、男の放った術がキョウさんの滅拳によって消失される。


 術の余波が俺とキョウさん、そして辺りの草木をバタバタと揺らす…



「大丈夫?ライデン…」

「す、すまねぇ、キョウさん…」



 自身の無力さを嘆こうにも、目の前の攻防が常軌を逸するものだと実感してからは、ただただ意識が追い付いていけるように頭をフル回転させるしかない…

 恐ろしい術を次々と放つ男…

 それを全て無効化するキョウさん…


 言ってたように、この2人の間に決着なんて存在しないんじゃないか…







「うーん…これならどうかなぁ?」




 まるで子供が思いついた様な口ぶりで、見当違いの方向へ両手を広げる男…


 ん?なにを?


 俺の素朴な疑問も次の瞬間には、見事に吹き飛ぶ。




 パッと視界を白く染める閃光が、男の両手から放たれる…


 男から放たれた光の一閃は、森の一端に眩い光のクレーターを爆音と共に出現させる…

 大地が揺れ、衝撃が大気を伝わり身体に響く…


 男を正面に見据えて右側から凄まじい衝撃が襲いかかり、思わず顔を顰めながらなんとかその場に耐える。


 そして、両手から放たれたその左側…


 俺の目に映るのは、男の閃光を止めたキョウさんの姿…。




「なに考えてるの!タカユキ!」

「うん?なに?一直接的な攻撃なら無効化されちゃうだろ?だから2方向に分けて放ってみたのさ…案の定片方は止められたけどね…」



 そう言いながら、両手に光を帯びると、またもや見当違いの方向へ掌を向ける男…



「こうやって、両方に撃ち分ければ同時には防げないだろ?」


「っく…!!!こうする事も出来るのよっ!!」




 良からぬ謀略を企てる男、そんな男目掛け宙に浮かびながらも、キョウさんは体当たりのような格好で男の方へ物凄い速さで飛び込む…


 突然の突進に男は身を躱すように、空中で身体を捻る、、


 が、キョウさんの広げた片方の手が、かろうじて男に触れる…。


 その瞬間、、、


男の両腕は先程までの眩い光を失い、まるで使い物にならなくなったかのようにダランと力を失いぶら下がるだけの四肢となる。




「くっ…ははっ…。なる…ほど…ね、相変わらず様々な応用を思い付く…。そんな陳腐な術で僕の動きを封じるなんて考えもしなかったよ…。」


 ニヤリと口角を少し上げながら、関心にもにた声を上げる男…

 完全に両腕を封じられているその姿から、未だに余裕が見えるのが何とも不気味な光景だ…。




「狙うのは…アタシだけにしたら?」



 肩を落としながら、ゆっくり降下を始める男を見下ろしながらキョウさんは男に向かって言葉を投げかける。



「そうだね…こんな守護者が森を守ってたんじゃ、事は上手く行かないかな…ちょっと色々と試してみたかったけど、そんな時間も無いし…残念だけどそろそろ終わらせなきゃかな…」

「諦めて退いてくれる気になった…って訳でもなさそうね…。」


「退かないさ…退かないよ僕は…このまま長寿人種を放置なんて出来ないんだ…気付いているんだろう?」


「タカユキの言いたい事は分かる…ううん!やっぱり出来ない!アタシ達の都合で関係ない人達を巻き込むなんて!!」

「根本的に意見のすれ違いってヤツだね…じゃぁこのままで良いさ、続けようよ、、それこそお互いが納得するまでね!!」




ドンッ!!




と地響きの様な音が聞こえた。


発信源でもある男の足下が陥没する様にひび割れる…

両手をぶら下げ、俯いたままの姿…



あんな状態からいったい何をする気なんだ…




「行くよ…」




ボソリと呟くと男はその場から姿を消す…


高速移動や、結界の類では無く、まるで霧のようにユラリと自身の姿を辺りの風景に霧散させる…






『さて…と……。これなら、どういう行動に出るのかな…』






どこからともなく男の声が響き渡る。


俺は勿論、キョウさんも男の姿を追えていないみたいだ…


「キョウさん…だ、大丈夫なのかよ…」



思わずキョウさんに弱気な声を掛けてしまうが、そんな俺の発言もキョウさんは笑顔で返してくれる。


「安心して、、アタシが居るんだから、何も心配ないわ…」


これと言った理由は無くとも、キョウさんが言い捨てる一言…それだけでどんな言葉よりも安心感が広がる…



そうだ…

相手が幾ら常軌を逸していても、キョウさんが居るんだ…落ち着け…俺…

今までにない状況だけど、キョウさんが居る。

それだけで大丈夫だって思える。





『相変わらず自信満々だね…。ん?』





突如、男が何かに気付いたように会話を止める。


そう…俺も気付いてしまう。

先程までとは違う状況になってきた事に…







「おい!こっちだ!」

「なんだ!?この有様は!?」

「凄い音が聞こえたから来てみりゃ…これは…」



ザワザワと、森の奥から人の話し声が聞こえてくる…


まずい!今までのドンパチで皆集まって来てしまった!このままじゃ皆巻き込まれるかもしれねぇ!何とかしてこの場から離さないと…!




「ん!?あそこに居るのはライデン…か?」

「隣にはキョウコ様も居るぞ!?」




俺の心配を余所に、キョウさんと、俺を発見してしまう人々…。

今は目に見えないが、危険な男が其処らに居るのを早く教えなきゃ!!




「皆ッ!!ここは危険だ!!来るんじゃねぇ!!!」


ありったけの大声で皆に注意を促す…




が…





「ぇ…」






小さく声を上げた先頭集団の若い男がその場に倒れる。


俺も皆も何が起こったのか理解出来ずに、倒れる男を目で追うことしか出来ない。


倒れた身体からはジンワリと血が滲み、地面をゆっくりと鮮血に染め上げて行く…。



「なっ!?どうした!?」

「おい!しっかりしろ!!」


急に先頭の一人が傷付き倒れ、辺りは混乱状態に陥る…。





くそっ!

あの野郎!見えないけど何かしやがったな…




「皆!聞こえたろっ!ここから離れろっ!!!」





「ライデン、何がどうなってるんだ!?ここでいったい何が起きている!!」


「説明してる暇なんて無い!早くここから離れてくれぇっ!!!!!」



祈りにも似た叫び声を上げながら、里の人達の方へと走り出す…


何かしらの攻撃を受けてしまった男、改めて近くで確認するが、外傷は一切無い…

うつ伏せに倒れているのを起こし意識の確認をするが、口からゴボゴボと赤い血を垂れ流しながら、男は気を失ったままだ…。


何をしやがった…

くそっ!血が止まらねぇ!


「皆!早くっ……」



この場に残って居るのは危険過ぎる…と皆に喚起しようも、森の奥からゾロゾロと後列の人達の姿も見えてくる…


その中には、幼馴染みのリンの姿…





「あーっ!ライデン見つけたよっ!!まったく、こんな所でサボってたのね…」



「リ、リン、どうしてお前までここに…」

「どうして?って言われても、皆で広場で作業してたら凄い音が響いて、それで少し様子を見に行こうか…って。ていうかどうしたの?」


「ここはヤバい!早く離れろっ!!!」



くそっ!よりによって皆がこの場所に集まってくるなんて!早くっ…早く皆をこの場から離さなきゃ!


バクバクと心音が高鳴る…

焦りと緊張で頭の中がグルグル回る、とうすれば、どうすれば良い…




『ははっ…丁度良く集まってきたみたいだね…』




どこからともなく聞こえてくる絶望的な笑い声…

話の流れからヤツの目的は、この里を滅ぼす事…勿論里の皆の安否なんて考えるはずも無い。


姿すら見えない、その声の主は、里の皆にその牙を向ける…



自身に何が起こったのかわからぬまま、その場にバタバタと倒れて行く住民達…



最近結婚した夫婦も、近所の店の女将も、里の纏め役のオッチャンも、いつも作りすぎたオカズを持ってきてくれるオバチャンも、泣き虫なチビ達も、みんな、みんな…








「やめろぉぉぉっっ!!!!!」







そんな信じられないような光景を前に、己の無力さを嘆くように俺は叫んだ。




叫ぶ事しか出来なかった。

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