58話 失われし里の記憶
ヒタヒタと薄暗い石造りの廊下を歩く…
普段から人の出入りが少ないこの場所では足音もよく響く…。
ここに来るのも3回目か、相変わらず空気が澱んでるな…
「マガミ様、そしてカイバラ様、そう簡単には手出し出来ないようにはなっていますが、あまり牢に近付かない様に注意して下さい。」
「ありがとう、気を付けるわ。」
そう言いながら俺と共に、薄暗い廊下を歩く兵士…それに連れられる俺とマナ。
今俺とマナは、カリキのマナミ屋敷地下、連合国最大の牢獄へやってきた。
……
「なんだか静かなものね…牢獄っていうから、もう少しガヤガヤしてると思ったのに…。」
辺りを見渡しながらマナが口を開く…
「ここら辺の内部はどうなってるか分からないけど、奥にはまだまだ収容出来るスペースはあるぜ?俺も一度経験済みだしな。」
と左右共に鉄格子に挟まれた通路を歩く。
確かに言われてみりゃ、檻から手を出したり野次を飛ばす様な輩の姿すら見えないしな…
奥にもう一部屋あるから、そっちは賑やかなんだろうけど…
前回来た時も、そんなに注意深く観察してなかったしな、、、
「で?ライデンは?まだ先に居るのかしら?」
「ん?あぁ…もう少し行ったら独房ってか、小部屋のゾーンになるから、、そこに居るぜ。」
「??」
俺とマナの会話を不思議そうに聞きながら先導してくれる兵士…
まぁ、前回に続いてまたしても俺がここに来たんだから、不思議な顔になるのも無理ないわな…
「おっと、そろそろだな。」
ある程度歩いて行くと、格子の牢から扉付きの小部屋が並ぶ場所へ着く。
そして目的の部屋…分厚い扉に閉ざされた部屋の前に立ち、兵士に鍵を開けてもらう。
「マガミ様、、この部屋にはいったい何が…」
「ん?まぁな、ちょっとした調べ物だよ、何度も悪いな。」
「こちらこそ出過ぎた事を…では私は近くを見回っておりますので、何かあればお呼び下さい。」
ガチャガチャと鍵を開け己の仕事へと戻って行く兵士を見送り、目の前の扉に手を掛ける。
ギィ…と重苦しい木の扉が開く音…
もう何度も聞いているから慣れたけど、なんで未だにこんな古めかしい扉なんて付けて残してるんだ?
「マナ、準備は良いか?入るぞ…」
「どうぞ?でも本当にこんな所に?」
半信半疑のマナを連れながら、薄暗い部屋へと足を踏み入れる、、、相変わらずこの部屋は入り口の監視穴から差し込む光以外は暗くてよく見えないな…
「おーい、ライデン!いるのかー?」
部屋内に響く声でライデンを呼ぶ…
端から見たら、無人の部屋で人を呼んでいる頭のおかしい奴だと思われるような行動だな。
『やれやれ、随分と早い呼び出しだな、ユウ。』
光の届かない所から、聞き慣れた声が聞こえてくる。
「ちょっと、ホントに居るのね…」
「な?マナにも聞こえたろ?」
扉の監視穴から差し込む光、その奥の暗闇の中からゆっくりと姿を現すライデン。
ボロボロの汚らしい格好、長い黒髪を後ろで一括り、長いこと剃っていない髭が年齢不詳を物語る…。
「よぉ、今日は女連れか?」
「あぁ、一応紹介したくてな…。こいつはマナ、キョウコの知人だ。」
「キョウさんの!?じゃぁユウと同様に俺の事も視えてるのか?」
そんなライデンにすかさずマナが口を開く。
「初めましてライデン、私はカイバラマナ、本当に聞いた通りね…姿も声も生きてるままのよう…」
「本当に視えてるみたいだな…こちらこそよろしくだマナ。それよりもキョウさんの知人ってのは…」
「えぇ…貴方とどういう仲だったかは分からないけど、私はキョウコと親しくしていたわ…。」
「そうかい、ようやくあの人の情報が舞い込んできたって訳か…。ユウに頼んで正解だったみたいだな。それで…キョウさんは今どこに…」
「キョウコに関しては、私も探してる最中よ、それこそ長い間ね…」
「そ、そうか、出来れば逢いたかったんだが、、、」
嬉しさが声色に出ているライデン…
ナガイキョウコの情報がようやく…だけどキョウコはもう…
「ねぇ、ライデン…貴方には先に言っておくけど、キョウコは多分もう…」
「ッ…!?」
察しが良すぎるライデン…
マナのその一言で気付いてしまったんだろうな、表情が一気に変わった…。
「ごめんなさい、急に言われても混乱するわよね…。でも確定的事実じゃないのが救いよ。」
「キョウさん…が、生きてる可能性はあるって事なのか…」
「ゼロじゃないわ。その程度よ。
ねぇ…貴方のその姿って…キョウコの力によって形成されてるのかしら?」
「……詳しくは知らないが、間違いなくキョウさんの力だろうな…特定の人間にしか視えない存在、、、訳の分からない力だぜ…」
「ありがとうライデン…もう一つ質問よ、貴方は自身の意志によって、この地に留まっているのかしら?それとも縛られてるのかしら?」
その質問に似たような事を前回聞いた気がするけど、多分ライデンは自身の意志と縛りと半々くらいだろうな…
「縛り…か…もしかしたら俺自身そうなのかも…って思った事は何度もあるさ…だけどな、マナ、俺はキョウさんの伝言を預かってる、そいつを伝えるまで、ここから出る気はねぇ、、、あわよくばユウにキョウさんの情報収集を頼んでいたんだが…そうか…そりゃぁ見つからない訳だぜ、、、、」
「その様子だと、キョウコから預かってる伝言は、私宛って事でもなさそうね…」
「あぁ…悪いがマナ、アンタ宛じゃねぇ。」
「因みに内容は聞かせてもらえるのかしら?」
「…それは、出来ねぇ。」
「そう…あの子の伝言…か…私でもないなら誰に…」
長寿人族ライデンが預かった、ナガイキョウコの伝言。
俺にもマナにも教えられない内容…
なにか凄い秘密でもあるのか?それとも、キョウコがどうしても伝えたかった言葉なのか…
てっきりマナかショウヘイ宛だと思ったんだが、よくよく考えたら、それこそ顔見知りなら、手紙で良いもんな…。
「なぁ、マナ。キョウさんからの伝言…いや、これは俺の憶測なんだが…多分お前も関係してくるかもしれないぜ…。」
「それ…詳しく聞かせて貰えるかしら?」
ん?どういう事だ、何か教えてくれるのか?
「全部は言えねぇ、、、けど、今回の働きに対して俺からの礼だと思って聞いてくれ…
キョウさんは『ある人』宛に伝言を残した、そしてその内容には、キョウさんの他にも同じ仲間とか家族とかそういう信頼関係にある人達も関わってくると、俺は思ってる。
まぁ、ここまでが俺の言えるギリギリってやつだ。」
…。
なんだ?マナ達が関わってくる?
そいつは最初に想像していた伝言の内容だから、特に驚きもしないが…
「ありがとうライデン、私宛の伝言じゃないにしても、私や他の皆が関わってくるなら、何としても、その本人に伝えたいわね…。」
「にしてもよ、マナ相手じゃないなら、ショウヘイ宛の伝言なのか?」
「さぁ、ライデンは誰宛か分かってるみたいだけど、私達2人じゃないって事は確実のようね。」
目の前のライデンは伝言に対してこれ以上一切触れようとしないだろう。
むしろ、少しヒントをくれただけでも御の字ってやつだな。
「なにジロジロ見てんだよ。」
「ん?いや別に…ただ、ライデンが思いのほか話してくれて良かったってとこだ。」
「けっ、何言ってやがる。キョウさんの伝言以外なら何でも話してやるよ、ってこの前言っただろ?…まぁ、今回のは特別だ。」
「へいへい、まぁ伝言の事はとりあえず置いとくからよ、マナとキョウコの話でもしていてくれよ。それなりにお互い積もる話もあるんじゃねぇのか?」
マナも、ライデンも多分キョウコとの思い出話が出来るのは嬉しいはずだろうしな…
「けっ、ありがたくそうさせて貰うぜ。」
「じゃぁライデン…私から質問よ、答えられる範囲で良いから教えてもらえる?」
「ん?なんだい?」
「あの日…長寿人種の里が滅びた時、貴方は何処に居たのかしら?あの日の出来事で純血種は勿論、キョウコの由縁ある大元の長寿人種は殆ど数を減らしたはずよ?」
「あぁ…あの日か…俺は里に居たさ、、、俗に言う生き残りってやつだ。」
「里に!ですって?だって、あの里は…。」
「忘れもしねぇよ…そしてマナはあの日の事でキョウさんがどうにかなったと思ってんなら、そいつは間違いだぜ…」
「ど、どういう事…なの?だって、里は疎か森だって…」
前にタカユキとマナが話してたやつだな…
詳しくは知らないが、流れ的にはタカユキが長寿人種を滅ぼして、その時にキョウコも一緒に居たんじゃ無かったか?
でも、ライデンはその時の生き残りって言ってるし、キョウコの安否も確信している…
「ね、ねぇライデン教えて、あの日何があったの?」
「俺も気になるところだな…それにその時の話からまた何か分かるかもしれない…」
「そう…だな、分かった話してやるよ…。あの日何が起きたのかを…」
そう言ってライデンは語る。
タカユキによって滅ぼされた長寿人種。
その最後の時を…。
…
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
…
中央大陸西部、東聖大陸から遥か離れた場所に広大なる森林がある。
青々と新緑茂る森の中…
樹齢など数えるのも無為に思える程の巨大な幹が立ち並ぶその地は、とある種族が集落として利用していた。
そんな森に住んでいる種族に因んで、人々はこう呼んでいた。
『長寿の森』
…
あの日…俺はいつものように里に居た。
いつも通りの普通な朝だった気がする。
「ふぁぁ…よく寝たぜ、、、」
「ちょっと!ライデン!今日は朝から物資の運搬があるって言ってたでしょ!何でこんな時間に起きて来てるのよ!」
そう言って俺に詰め寄る女は、幼なじみの『リン』コイツとは何かとウマが合うので昔から何をするにも一緒だった。
「おう、リンおはよう、悪いな昨夜勉強し過ぎてよ、軽く寝坊しちまったぜ。」
「何をバレバレの嘘言ってるのよ、早く広場まで行くわよ!皆集まってるんだから…」
「ありゃ?そんなに寝てたのか?」
てっきり走れば間に合うくらいの感覚だったのだが、意外にも本当に寝坊してしまっていたみたいだな、リンの表情が物語ってる。
「馬鹿ライデン!早く行くわよ!」
「馬鹿は余計だよ…ったく、、、、んじゃ広場まで競争でもするか?」
「へぇー?久しぶりに勝負するの?寝惚け頭で私の速さを忘れたのかしら?」
と自信満々に自らの駿足を語るリン。
多分というか、今までリンに速さでの競争で勝った試しは無い…。
というか、今回に限り勝つつもりが無いのでリンが乗ってきたのは好都合だ。
「はっ!今までと一緒だと思うなよ?俺には秘策がある!」
「えっ!?まさか!?いつの間に!?」
「そうだな…ハンデとして先に行って良いぜ?」
「ちょっ!?本当に秘策があるの??…でも、私が先に行かせても問題無いって事は本当に…」
ブツブツと俺の言った事を受け止め真面目に捉えてるリン…
コイツの弱点は真面目過ぎるんだよな。
まぁ、それが良いところでもあるんだがな。
「どうするよ?それとも俺が先に行こうか?いつも通りならリンに抜かれて終了だ。」
「ちょっと!待って!待ってよ!」
「どうした?負けるのが嫌なのか?」
「ちっ!違うわよ!ライデンが何か企んでるんじゃないかと思ってたから少し考え込んでただけよ!」
ちっ、勘の鋭いやつめ。
「んじゃぁ、久しぶりに賭けでもしようぜ?」
「ほ、ほんとに、自信が有るみたいね…いいわよ、賭けでも何でも受けて立つわ!」
「よし!二言は無ぇぞ!」
「で?何を賭けるのよ。」
「負けたら何でもいうことを聞くってのはどうだ?」
リンに負けても大した事は言わないだろうし、これは俺的にかなり美味しい勝負だ。
「い、いいわよ、そこまで言うって事は本当に自信有りのようね…私もなんだかワクワクしてきたわ。」
「さて、久しぶりにリンの本気が見られるのか…んじゃいつでも良いぜ、それとも先に行くか?」
「もちろん同時で良いわよ!どうせ直ぐに突き放すわ!」
そう言いながら2人で家から出る…
外は程良い風が吹き木々を揺らしている。
軽く身体を伸ばしながら準備運動を始めるリン…
どうやら本気で勝負するみたいだな。
「じゃぁ広場まで競争よ、約束忘れないでよね!」
「はいはい、そのまま返すぜ…」
「行くわよ-。」
「おう!」
自身の両足に万力を込めながら、初めの1歩を踏み出す、初速ではリンと同等だが、奴はここからが速い…なんせエナの使い方が里で1位2位を争う程の腕前だ、普通の徒競走なら断然リンが勝つだろう。
「じゃぁねライデン…また後で…」
そう捨て台詞を吐きながら、あっと言う間に姿が見えなくなるリン…
相変わらずのスピードだな…
さて…と…
ゆっくりと走るのを止め、脇道へと入りながら、のんびりと歩く…
「へっ、誰が広場まで競争なんてするかよ、今日の運搬はヤメだ、俺一人行かなくても問題ないしな…」
端から勝負する気の無かった俺は里に流れる小川へと、のんびり歩いて行った。
ゆったりと流れる小川を眺めていると、どこか心が落ち着く…
今日は風も気持ち良いし、木々の揺れる音も丁度良い音量だ…
「さてと、物資の運搬が終わるまでどうするかね…もう一度昼寝ってのも有りだな…」
木洩れ日に腰を下ろし、一息つく。
しかし、こんなに穏やかなのも変な感じだな…
確かにこの里は平和だけど、今日は何だか空気が違うような…
言い得ぬ違和感というか何というか…
いつもと違う空気に俺は何かを感じていた…
そして、その違和感の正体とも言える人物が、俺の背後から声をかける。
「あれ?そこに居るのはライデン…かな?」
身体全体に広がる優しい声。
何度も聞いてきた優しい声。
そう、俺が物心付いた時からずっと変わらないその人物、久しく見ていなかったが、まさか今日逢えるなんて…
「キョウさん?」
振り向くとそこには昔から変わらぬ姿の女性が立っていた。
ここらでは見ないと言われる、俺と同じ色の黒髪。里の少女と見間違える程の幼さを、少しだけ残した姿は俺の記憶に焼き付いている、ナガイキョウコそのものだ。
「ふふっ、やっぱりライデンだった。こんな所でなにしてるのー?皆広場に集まってるんじゃないの?」
「いや、俺はその、ってか!なんでキョウさんが!?」
「おっ?質問で返すとはライデンも生意気になったねー、アタシはねー…んと、そうだな…使命感ってやつかな…。」
相変わらず何を言ってるのか分からないが、キョウさんの寂しそうな顔は珍しかった。
そして、その顔はどこか緊張感が漏れるような、いつもニコニコしているキョウさんらしくない顔だったのは覚えている。
「いつもながら、キョウさんは突然過ぎるんだよ…風の噂すら無いのに急に現れるんだから、里の皆だって驚いてたんじゃないか?」
「ん?アタシは丁度今来たところ。里の皆にはまだ会ってないよ。ライデンが一番最初。」
里の皆には会ってない…
でも広場での集合の件は知ってる……
やっぱり不思議な人だな、まるで全て見透してるかのようだ、誰かが言ってたけど、キョウさんは何でも知ってる…か…今まで何度も感じたけど、あながち間違いないよな…
「ライデン?どうしたの?」
「ん、いやいや、何でも無いさ、急にキョウさんが現れたんだから俺だって戸惑ってんだよ。」
「そっか。」
ポツリと呟き、何気に空を見上げる彼女の周りには、いつの間にか森の小動物が寄り付いて来ていた。
そんな不思議な光景を目の当たりにしながらも、俺は何故か『キョウさんだから当たり前』という感覚だった。
正直昔から彼女は不思議だった…里のお偉いさんや、大人達は皆慕っていたし、俺達長寿人種よりも長生きしてるのもある。
それ以上に何もかもを予見しているような言動や行動、どれを取っても不思議の一言で収まらないくらいのキョウさん。
そんなキョウさんが現れた。
『使命感』とか言ってたけど、いったい何の事だ?それに里の皆に会わず、こんな所に一人でいるなんて…。
「おっ?ライデン…アタシの事ジロジロ見て、どうしたのかなー?もしや、そういう年頃かなー
」
「ち、違ぇよ!ったく、久しぶりに逢ったのに何言ってるんだよ!」
「ふふふ、冗談よ。ーーーーさて、と、そろそろアタシもふざけてる場合じゃないし、真面目に話でもしますか。」
「???」
突然とも言えるキョウさんの発言に諸々驚いたが、この人の一挙一動に付き合っていたら日が暮れる。
どうせいつもの戯言かと思ったが、この日のキョウさんは違った…まぁ、それも今となってはってところも在るけどな。
「ライデン…貴方がここに一人で居るのは予想してなかった、、けど、それが丁度良いって事があるものね。」
「さっきから何を言ってるんだよ!俺にはサッパリ分からねぇ!」
「もうすぐね、よくない事が起こるの…。アタシはそれを止める為にここに来た。」
「よくない…事?」
「そう…よくない事。こんなにもステキな里なのにね…。」
よくない事を止めに来た。
キョウさんが里に突然現れた理由がそうだってんなら、なんでこんなに穏やかなんだよ…
「里に何かあるのか?」
「ちょっとね…もしかしたらアタシ一人でなんとか出来ないかもしれないけど、必死で頑張るから応援しててよね。」
「じゃぁ!こんな所で話なんてしてないで、皆にも…」
「今余計な事を言って、里が混乱状態になっても大変よ、それに向こうは待ってくれない。」
「…敵…か?」
「そう…言われると違うんだ、でもこの里が危険な事には変わりないかな。」
敵じゃない、だけどキョウさんはここに一人で来た…これから何が起こる?里の危機なんて急に言われても実感湧かないけど…。
「キョウさん!俺もーーーー」
「駄目よ!」
俺も一緒に、と言おうとする前にキョウさんはバッサリ切るように釘を刺す。
「なっ!」
「気持ちは嬉しいけど、アタシ一人で大丈夫。」
「何バカな事言ってんだよ!俺も手伝うさ、そうだよ!キョウさんに教えてもらった『滅剣』だって上手く使えるようになってきたんだぜ!」
「滅剣か…。ねぇライデン、前にも言ったけど、その技は自身の寿命を大きく削るの…いくら長寿人種だからといって多用するのは良くないわ。」
そう…俺がキョウさんから教えてもらった技、この技で色んな修羅場を潜り抜けた事もある。
唯一自身の寿命を削るというのが欠点だ。
けど、寿命を削るくらいで里が助かるなら!
「構わねえ!里に危機が迫ってるなら俺の寿命くらい使ってやらぁ!」
「もう、言い出したら聞かないのは相変わらずね。リンも苦労しそう…。」
「な、なんでリンの話になるんだよ!それよりキョウさん、俺も手伝うぜ。分かってんだろ、俺の性格…。」
暫しの沈黙。
ジッと俺の目を見つめたまま、何かを探ってる様な不思議な瞳だ。
そして、何か感じ取ったのかキョウさんは眼を伏せながら口を開く。
「ライデン…1つ約束して。」
「なんだよ、1つなんて言わずに幾つでも言ってくれよ。」
「ライデン…たった1つ、それだけで良いから、お願い…聞いて。」
なんだ?いつものキョウさんらしくない…。
元気で笑顔のキョウさんからはかけ離れた、そんな声で懇願している。
「わかった…何か事情があるんだろ。
聞くよ…その、お願いってやつ…。」
その俺の一言を聞いたあと、
ふー…っと一息吐き、また真剣な眼で俺を見据える。
そして…
「今からライデンには様々な事が起こる…でも全部は掬えない…。何かを手にするには何かを手放さ無きゃ駄目。そういう選択がライデンに襲いかかるわ、、、覚えておいて。
そして、アタシが言いたいのはコレとは別のお願い…いつかは分からないけど、どこかに居るアタシ達を探して。」
「は?」
今から里の危機だって言うから、俺も参戦するはず…その流れから逸脱した回答がキョウさんから返ってきて俺は思わず声が漏れる。
「これだけを守ってくれるのなら、アタシに悔いはない…かな。」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよキョウさん、言ってる事がサッパリ分からねえよ、とりあえずは現状の迫り来る危機ってやつに対抗しなきゃなんだろ?それを、いつか分からないけど探せって、混乱しちまう!もっと分かり易く頼むぜ。」
「ごめんねライデン…でも、これだけ。今から何が起こっても、アタシが言ったこと忘れないで…」
訳が分からねえ…。
何を言ってるんだ?俺が特別理解力の無い人間なのか?
いや、俺の反応は一般的に間違っていないはず、キョウさんみたいな特別な人には、俺とは違うモノが見えてるんだろう…それ故の応えが、『アタシ達を探して』か…。
「理解も納得もしてねぇけど、キョウさんとの約束は守るぜ、俺はキョウさんを探す。それで良いんだよな!」
「ありがとうライデン…それだけで良い、それだけを忘れないでくれたらアタシは満足だよ。」
「けっ、勝手に満足されちゃ困るけどな、とりあえず、この後来るっていう里の危機について少しだけでも良いから教えてくれよ。俺的には、そっちのが気になって仕方ないぜ。」
このまま時が過ぎるのを待ってたら、何かが起こるのは間違いない…その前に少しでも何が起こるのかキョウさんから聞いておかなきゃ…
「そう…だね、何も言わずになんてライデンも混乱しちゃうよね…えっと、何から話そうかな…」
『あぁ…説明はいらないよ、時間の無駄さ。』
そう…キョウさんが俺に説明をしようとしたその時だった…
突如背後から男の声が聞こえた。
直ぐさま振り向き、その声の主を視認する。
どこにでもいる様なボロボロの服を纏い、ニコニコと不適な笑みを浮かべる男が一人。
俺やキョウさんと同じ、ここいらでは珍しい黒色の髪の毛が特徴的な男は、まるで古い友人に話し掛けるかのようにキョウさんへと問いかける。
「久しぶりね、タカユキ…。」
そんな不気味な男に対して、そう言い放つキョウさん。
知り合い…なのか?
だけど、この男の雰囲気…なにか嫌な予感がする。
「やぁ、久しぶり、元気だったかい?それにしても予想はしていたけど、ここに居るなんてね…」
「タカユキの考えがどうあれ、アタシは長寿人種を見捨てる事はしない。それだけよ。」
「…本当にその考え方は『あの人』そっくりだね…いい加減考え直してくれないかな…何度も説明しただろう?」
「何を言われようと、アタシの考えは変わらない!あの時は皆と同じで分からなかった…けど、今なら分かる!間違っていたのはアタシ達だって!!だから、今ここにアタシが居る!タカユキ、考え直すのはアンタの方よ!!!」
キョウさんは何を言ってる?
長寿人種を?
そして、目の前の男はいったい何者なんだ?話の流れからすると古い知人のようにも聞こえるけど…。
「ははっ!あぁ…本当にどうしようもないな…。説得にも応じないし、考えも改めない…。どうして僕の言ってる事が分からないのかな…
でも、もう時間も無いし仕方ないよね…。」
「タカユキの懸念はアタシが何とかしてる!今までだって!これからだって!」
「駄目なんだよ、、、この先、亜人種として血が薄くなっていっても長寿人種の危険性は消えない…その数をどうにか出来る訳ないだろ?膨大に増える前に、そう手遅れになる前に誰かが手を打たなきゃ。」
捲し立てるように男はキョウさんに言い寄る、何故だかキョウさんが圧されてる感じがする。
信じられない、あのキョウさんが…
「未来は…変えられる…。」
「変わらないさ、『未来』と言う『結果』が決まっているから、『現在』と言う『経過』を過ごしているんだろ?それともまだ、経過次第で結果が変わると信じている訳でもないだろ?」
「アタシは信じているよ。皆が否定しても…いや、全世界が否定してもアタシ一人は最後まで信じている、それがアタシの出来る贖罪。」
真剣なキョウさんの発言に、一瞬森の空気が止まったように感じる。
正直何を話しているのか理解は出来なかったが、キョウさんの一言が今までに無い程の想いが詰め込まれているのは何故だか分かった。
そんな張り詰めた空気の中、目の前の男は俯きながら沈黙している。
何か考えているのか、下を向いたまま動かない。
「下らない…下らない…下らない…下らない…」
突如呟くように同じ言葉を連呼しだす、不気味な男。
「やめてくれ、もう沢山だ。下らない…下らない…下らない…なんて不毛なんだ、何度も言ったのに、そうさ何度も何度も何度も何度も言った!だけど分かってくれない、分かろうともしない、いや、分かっていたのに否定するんだ、なんなんだよ!なんなんだよ!なんなんだよぉっ!!!!!!」
ゴォゥッ!
と森全体を揺るがす様な衝撃が目の前の男から発せられる。
「ぐぉっ!?」
その場に立っているのが難しい程の衝撃に、思わず膝を付く…
顔を庇うように腕を上げながら現状を確認するが、目に映る光景は先ほどと変わらぬ、いつもの里の風景だ…
しかし男から発せられる衝撃は、キョウさんや俺を容赦なく対象としているみたいだ…
目の前のキョウさんは衣服や髪が乱れるくらいの衝撃を前に立ったまま前を見据えている。
正直何故平気なのか分からないけど、無事を確認出来て内心ホッとしている自分が居た…
「参ったなぁ…これじゃ話も出来ないじゃない…」
少し疲れたような口調で、目の前の逆上した男を見ながら呟くキョウさん。
俺達が暮らしていた長寿の森。
後に起こる悲劇をもたらした、あの男を俺は忘れもしない。




