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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第四章 異世界 ~聖地~
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57話 望む未来

 



 キラキラと煌めく星空…。


 少し火照った身体に吹く心地よい夜風…。


 街灯を必要としない程、夜空を照らす月が俺のグラスの水面でユラユラ揺れる…。





「はぁー、平和だ。」





 カリキのマナミ屋敷、俺は今バルコニーで独り黄昏ながら酒を嗜む…。

 眼下の中庭では、朦々と上がる煙にまみれて、カリキ新名物『英雄の串焼き』が皆に振る舞われている。


 オルタナやクラリスは勿論、軍の関係者や兵士、屋敷の給仕人など、たくさんの人達が中庭に来ては串焼きを片手に持って出入りする光景が見える。


 かれこれ何時間焼いてるんだろうか?設備的なのもあると思うけど、屋敷の中まで匂いが流れてるんだから、下手したら地下牢までも届くんじゃねぇのか?

 そうだとしたら、罪人達には最上級に辛い拷問だな…




「いやいやいや、どんだけ人が来るんだよ…。」

「おー、スネ夫か、なんか久しぶりだな。」



 そう言いながら、ちゃっかり片手には食べかけの串焼きを持っているスネ夫が俺の方へと歩いて来る。



「よう、ボンズ。なかなか良い場所でキメてるじゃねぇかよ。」

「まぁな、、下でワイワイしてても良かったんだけど、なんせ暑くてよ。」

「分かる、分かる、やっぱり料理人は凄えな…ってつくづく思ったわ、ヒャハ。」

「砂漠も結構暑かったけどな…なんにせよ俺は暑いのだけは駄目だ…」



 下らないやりとりをしながら、2人で中庭を見下ろしながらチビチビと酒を舐める。

 カリキ名物を1口囓りながらの夜酒は最高に旨い。



「そういや、ゴーダ副長来てたぜ?」

「え?マルティアから帰って来てたのか?」

「まぁ、光の襲撃の正体も分かったし、ルビィ様に物資も届けなくて良いなら、マルティアに軍が留まる必要も無いしな、今彼処に残ってるのは復興組くらいだろうよ。」

「光の襲撃な、まったくルビィには困ったもんだぜ。」





「私がどうかしたのか?」



 と、背後から声が聞こえる。

 俺にとっては、安心感のある声なんだが、隣のスネ夫は声が聞こえた瞬間背筋がピーンと伸びる。



「おう、ルビィ、丁度お前の話してたんだよ。」



 振り返り声の主を確認、何度見ても、その姿に一瞬止まってしまうような美しさ。


 麗しき自慢の嫁、そしてその横のカレンがルビィの腕に絡みついている。



「私の話で盛り上がるのは構わないが、光の襲撃に関しては私にとっても予想外だったのだ。あまり掘り返すな。」

「失礼致しました!ルビィ様!」


 と膝を付くスネ夫。


「いやスネ夫、ルビィ別に怒って無いし、そんな堅苦しくすんなよ。こっちまで意識しちまうわ。」

「おまっ、ボンズは良いけど俺等みたいな下っ端は軽々しく口を利ける相手じゃねぇんだよっ!」


 チラッと顔を上げながら俺に熱弁するスネ夫…なんだか軍の上下関係も面倒くさいな。



「よい、楽にしろ、仮にも私の親衛隊なのだろ?膝を付いたままでは主君を守れないぞ?それに夫の友人に膝を付かせるのもあまり気分の良いものではないのでな…。」

「はっ!勿体なき御言葉!」


「いつからスネ夫と友人関係になったのかはスルーしといて、とりあえず堅苦しいの抜きでマッタリしようぜ…。」

「あはは…ユウちゃんらしいね、ファル良かったね。」


 と、笑いながら俺の横にやってくるカレン。

 勿論片手には食べかけの串焼きを持っている。


「カレンのオススメの串焼きがこんな有名になるなんてな、驚いたぜ。」

「あのお店壊れてなくて良かったね。」


 中庭を見下ろしながら串焼きを必死で焼いているチボルを見る。


「にしても、ルビィとカレンは食い過ぎだろ、最初の方なんて後ろの列に回ってなかったからな、串焼き無くなるんじゃねえかと思ったわ…。」

「そんなに食べてはいないはずなんだがな、まぁあれ程の味だ久しぶりに堪能させてもらったぞ。」

「カレンもそんなに食べてないよー?」


 こいつらの感覚は少しおかしいからな、まともにツッコミ入れても疲れるだけだ止めておこう。



「お前ら、封印の地では俺とネオンの料理はバリエーションに限界あるんだから、今の内に堪能しとけよ。」

「ボンズの魔大陸の味付けはネオンディアナ様直伝だったのか、料理くらいなら俺もオッサンも手伝うから安心しな。」

「カレンも-!」

「ふふっ私も忘れては困るぞ?」


「ありがたいぜスネ夫ホント期待してるぞ!そして、そこの女2人は黙ってろよ、食材が丸焦げになるからな、お前達2人は仕込み担当だ!いいか、絶対に火を使うなよ!」


「えー?カレンも手伝うよ?」

「おいおいカレンは砂漠で俺に焦がした鍋渡したじゃねぇかよ!……てかボンズよ、ルビィ様も料理出来ないのか?」



 ヒソヒソとスネ夫が俺に聞いてくる。



「ルビィもカレンも不器用なんだよ、因みに俺がこの世界で初めて食ったのはルビィお手製の丸焦げ料理だぞ?」


「ユウ!聞こえてるぞ!」

「へへへ、ゴメンゴメン。」



 懐かしいな、って言っても半年とちょっと前なんだよな…。




「それで?ユウ、出発はいつ頃にするのだ?そのシグマの警戒為べき人物の事もあるから、なかなか聞けなかったのだが…。」

「ん?そうだな、マナ曰く3日以内には向かうとは言ってたけど、俺的にはもう少しルビィとネオンに外界を楽しんで欲しいんだけどな…」

「ふふふ、まぁ私はともかく、ネオンには堪能してもらいたいものだな…また彼処に戻るとは…」

「ま、まぁ、今回に関しては大人数だし退屈はしないだろ。それに無期限って訳でも無いしな。」


 あの大草原に断崖絶壁と危険な猛獣がウヨウヨしてる所に無期限で居られたのが正直信じられないんだがな…。

 てか、大人数だと寝床とかも困るよな…そこら辺も詰めていかないとな。



「そうだな、ネオンには転移クリスタルもあるしな。それにユウが言うとおりカレンやスネ夫…?だったか?魔族も居るし安心だ。」

「ルビィちゃん、ファルはスネ夫じゃなくてファルコだよ?」

「どっちでもいいよ、俺は一生スネ夫って呼ぶけど。」

「ふむ、まぁ呼び名など確かにどうでも良いか…。」


 と本人無視の会話に中々意見を出せないスネ夫が少し不憫に思えてくる。


 いつもなら「ボンズふざけんな!」とか言いそうなもんなんだけど、さすがルビィ様だ、効果半端ねえな。



「こ、この際呼び名など気にしません、、、ネオンディアナ様の相手など務まるとは思えませんが、精一杯努力したいと思います!」

「ふふっ、期待してるぞ。」



 やっぱり堅苦しいな、まぁコレばっかりは仕方ないのか…迂闊にルビィ相手に舐めた口の利き方してたらクラリス辺りがブチ切れるしな。








 ……






「さてと、そろそろ皆にも串焼きが行き渡ったし、チボルの所に戻るかな…オルタナを紹介してやんなきゃ。」

「それなら心配あるまい、先ほどオルタナと主人がなにやら話し込んでいたようだしな。」

「え?いつの間に?アイツちゃんと話せたのかな…」

「まぁ、オルタナと随分と盛り上がっていたので、良い話でも出来たのではないか?」


 さすがだ…売り込み方が天性のモノだな。





「それよりもユウ…先日話していた牢屋に居るライデンの事だが…」

「あぁ、明日辺りマナを連れて話に行こうと思ってる。ルビィはライデンに逢った事があるんだよな…。」

「あぁ、世界大戦中に共に戦ったな…奴の使う『滅剣』あれが無ければ、きわどい場面も幾つもあったな…。」

「んじゃ、なんでそんな立役者が処刑される事になっちまったんだ?」


 よくよく考えたらライデンが処刑される経緯を聞いてないんだよな…。



「奴の処刑か、、、味方への攻撃が主な理由だな。」

「味方って、連合国になる前のイグザ軍か…。まぁ反乱者扱いなら処刑されるのも分からんでも無いけど、なんでまた味方に攻撃なんて…。」

「さぁな…生憎私は当時東聖大陸を離れていたからな…カレンやスネ夫の方が詳しいのではないか?」


 そう言いながらカレンを見るルビィ、だが当の本人は関与してないのか、覚えてないのか、我関せずの表情だ。



「ライデンかー、懐かしいーなー。ホントに牢屋に居るのー?」

「あぁ、、、まぁ生きてる状態じゃないけど、この屋敷の地下には居るぜ?」

「ふーん、また一緒に戦いたいな。」


 やはりカレンからは、まともな回答は返って来なかったな…


 そう思っているとスネ夫が口を開く。


「ボンズ、相変わらずの世間知らずだな。『滅剣のライデン』だろ?まだ田舎に居た俺でも知ってる事件だったぜ、ライデンは同族を護るために当時のイグザ軍へ単身乗り込んだんだよ。」

「当時って、ライデンの同族『長寿人族』は殆ど居ないんじゃなかったのか?」

「だから、その数少ない同族を護ったって言われてるけどな…ま、まぁ俺的意見は軍と何かしらのいざこざでも、あったと思うがな。」


 チラチラっとルビィの様子を見ながら言葉を選ぶスネ夫…


「ん?まてよ?そういや、なんでライデンとイグザ軍が戦ってるんだ?長寿人種を護るためにって言ってたけど、イグザ軍が長寿人種を攻めたって事なのか?」

「そ、それは、だな、、えっと。」


 何やら言葉を濁すスネ夫…

 そんなスネ夫を見かねたルビィが口を開く。


「すまないなスネ夫、私やカレンに気を使わせたようだ。ユウ…当時長寿人族は連合国入りを拒んでいたのだ。」

「えっ!?マジかよ?」

「と言っても、長寿人族は勢力など皆無、ただ他と干渉せずに静かに暮らしていきたいと、そういう類のものだ…特別イグザと揉めるような話では無かったのだがな…」

「だけど、ライデンとイグザ軍が対立するような事態になったって事か…いったい何が?」


「当時の特隊の一人が長寿の里を制圧しようとしてな、それが引き金という訳だ。」

「そうか、なんか切ねえな…皆仲良暮らせる世界を創るために頑張ってたのに、仲間内で揉めちまうなんてな…。」

「皆が同じ考えなら、大戦など起こらなかったさ…。」


 優しい声で俺を諭すルビィ…

 世界大戦に関してはルビィ本人にしか分からない様々な想いがあるんだろうな…



「まぁ細かい事情はライデンに直接聞いてみるよ。」

「しかし、不思議な術だな、、、死者を留めておくとは…。」

「マナ曰く、魔眼の力らしいからルビィが知らなくても仕方ないさ…。」

「ふむ、なかなか奥が深いものだな…最初ユウの眼の力を知った時は感じなかったが、今となっては興味が湧いてきたぞ。」


「おい、軽くディスってんじゃねぇよ、俺だってもしかしたら他にも眼の使い方覚えるかもなんだからな。」

「ふふふ、すまないユウの眼も素晴らしい能力だぞ。」


 完全に同情からの発言だな…こういう下手なところもルビィの魅力だと思うようにしよう。




「なぁボンズ…。」

「ん?どうしたよ?」


 完全に空気になりかけてたスネ夫が口を開く。


「今後またシグマの連中が無茶してくるとするじゃねぇか…その時俺はシグマと連んでる同族と戦わなければならねぇ…過激派とは言っても同じ魔族だ、俺もそうだし、ネオンディアナ様だってそうだ。例え俺やネオンディアナ様が戦わなくとも目の前で同族が斬られるってのは結構しんどいんだ…」

「あぁ…それは俺も分かる気がする。」


 人が斬られるとこは何度見ても慣れない、いやそこは人に限らずだな。



「ボンズ、カレン、そしてルビィ様!…無理を承知で事聞いて欲しい…!魔族相手に無益な殺生をしないで頂きたい!この通りです!」


 膝を付きながら深く頭を下げるスネ夫。

 今までに見たこと無いスネ夫の真剣な表情に少し驚く。


「ふむ、スネ夫…貴様の言いたい事は分かった…。」

「カレンも分かった-。」


「でっ!では!」




「でもね?ファル、カレンは皆の敵は斬るよ?」

「すまないが、私もカレンと同じ意見だ…私達身内に害があるようなら迷わず斬り捨てる。

 ただスネ夫よ…これだけは約束しよう、無闇に所構わずの殺生はしない…それで良いか?」



「充分です…ありがとうございます。」


 深く頭を下げるスネ夫…


「そもそもだな!私はカレンと違って、誰かれ構わず斬ったりはしないのだぞっ!向かって来る敵にしか剣を振るわないのだ!」

「むー!最近はカレンもあまり殺さないんだよー。」



 プンプンと怒った素振りを見せるルビィ…

 俺にとってはパフォーマンスなんだが、スネ夫にとっては脅し以外の何ものでも無いな。


 ははぁー!

 っと、頭を下げたまま地面と同化しそうなスネ夫…そろそろ助けてやらないと地面の一部になりそうだぜ。


 しかし、カレンは本当に変わった気がするな。

 ルビィに関しては俺のイメージ通りっていうか、なんというか、自分から攻め込むタイプじゃないもんな、、、




「な、なにをジロジロ見ているのだ!ユウまで私を誤解してるのではあるまいな!」

「大丈夫だよ、ルビィが優しいのは俺が知ってる。」

「そ、そうか…?」


 ニヤニヤしながら腰に帯刀している柄部分を指でトントンと、落ち着きのない様子のルビィ。

 恐怖の対象とか本当に謎だぜ…


「カレンも!変わったの!」

「はいはい、カレンちゃんも良い子ですよー。」

「むむっ!その言い方はムカつくんだけど!」


 ゆらゆらっと紫色のエナを身体から滲ませるカレン。



「おい!冗談だよ!冗談!」

「ふん!ルビィちゃんが居て良かったねー!」

「おっかねぇ事言ってんじゃねぇよ!んでも、最初逢った時に比べたらカレンも丸くなったな…」


「ほぅ?あの『首斬りカレン』がな…私には信じられんぞ?」

「もー!ルビィちゃんまでー!」

「ははは、許せカレン私も冗談だ。」

「ふん!皆してカレンの事子供扱いしてさっ!」


 というか、どう見ても子供だから、そこは仕方ないんだが口が裂けても言えないな。




 下らない会話を続けながらも、カリキの夜は刻一刻と深まって行くのだった。









 ……











 ……











 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※














 ……



















 見渡す限りの雪景色…



 人工物など視界に入らない程の一面銀世界。




 ここは東聖大陸最北端『始まりの地』と呼ばれ地図にも細かく載っておらず、人が立ち入る事のない閉ざされた地。




 地表に降り積もっていた雪は、風に乗り吹雪となって視界を塞ぐ…外気温もさることながら極寒の環境に対応している生物も少ない。

 そんな、いとも簡単に全てを凍り付かせる大地に複数の人影があった。






「いやー、相変わらず凄いねここは。」

「タカユキ様それ以上進まれては危険です。」

「心配性だな…アクアは、もし何かあったら頼むね。」

「この私が居る限りタカユキ様のお身体に何人足りとも触れる事は許しませんわ…。」



 ただの普段着のまま猛吹雪の中を進む男を女剣士が後を追う、そのすぐ後ろ3人の男達が雑談を交わす。


「ぉぉぉ…、本当に凄い所だな…グレン、そんな鎧1つで寒くないのか?」

「ふん…この程度のものなら問題ない。貴様等は結界のクリスタルを使って身体が固まるのを防いでおくと良い。」

「さ、さすがグレンさん、私はクリスタル無しでは動けないですよ…しかしイーグさん。タカユキ様は、この様な場所で何を…」


「さぁな?だが、先日の連合国偵察と関係有るかもな…なにやら機嫌良く帰ってきたし。」

「ですが、アクアさんは物凄く不機嫌でしたね…」

「レイス、イーグ、無駄口を叩く暇があるなら歩みを進めろ、寒さを感じないからといって、自身の足が凍り付いても知らんぞ…」




 そんな彼等の会話も前を歩く男と女剣士には届かない。

 距離的な問題では無く、猛吹雪による轟音と視界不良のせいでもある。



「タカユキ様…なにも四聖将全員がこの様な場所に来る必要は無かったのでは?護衛でしたら、いつものように私1人でも…」

「ん?あぁ…一応念には念をって事かな…まぁ君達が闘う事態にならない事が、1番助かるんだけどね…」

「闘い…ですか…?

 お言葉ですがタカユキ様、、東聖大陸は連合国以外はネオシグマ帝国が管轄しております。最北端とはいえ我がシグマ国内、反乱分子でも潜んでいると申すのですか?」


 女剣士は考える、目の前の主が警戒為べき敵を…

 国内では四聖将と呼ばれる程の腕前、主を警護するには自分一人でも充分である。

 しかし今回は四聖将全員での出向、自らの帝国の守備も気になるが、この地に全員が揃って来なければならない理由…。


 考える…。

 様々な予測を立てるが、答えは簡単だ。


 自身の実力故に認めたくは無いが、四聖将全員で当たらねばならぬ者が、ネオシグマ帝国最北端の地に居るということ。






「まぁ、そんなに警戒しないで行こう。一応顔見知りでもあるし、アクアも今から気負ってちゃ、いざという時動けなくなるかもよ?」


 全てを見透したかのように女剣士へと言葉を投げ掛ける男、そんな男を見ていると、この先の危険性など皆無だと勘違いしてしまう。



「この剣聖アクア!二度とタカユキ様の手を患わせる事は在りませぬ!」


「ははっ、頼もしいねアクアは……っと、、」



 ふと、目の前の主が足を止める。

 女剣士は直ぐさま辺りを警戒するが、相変わらず目の前は猛吹雪、気配など何も感じられない…。


「タカユキ様?いったい…」





 と主に口を開いた時、嫌な予感が背筋を走る。



 非凡な女剣士だからこそ気付けたであろう、その予感の正体ともいえる影が霞む視界の奥に見えてくる。


 全身にエナを巡らせ、いつでも主を護るための準備をし、目の前の影に構える。








『我に何の用だ?』









 その声は猛吹雪の中でも響く低い声で、女剣士の身体の芯まで届いた。

 その声だけで、硬直してしまいそうな威圧感と重圧感、このような存在が同じ国内に潜んでいた事に素直に驚きを隠せない。


 主と共に足を止め、目の前の影の動きを凝視していると、後ろを歩いていた術士と戦士、それに魔族の3人が追い付き、同じように足を止める。



「なんか、洒落にならない気配じゃねぇか?」

「帝国内に…このような存在が……信じられん…」

「イーグさん…一応念の為に結界の準備をお願いします。私は皆さんの防御を強めておきましょう。」





 後続の3人が合流し、猛吹雪の中ただ立ち止まったまま相手の出方を覗う…。






『聞こえておるのか?ここに何の用だ?』







 ビリビリと身体が震えるその声に、国内最高精鋭の4人は固まってしまう。

 それ程までの重圧感を声に乗せる謎の男…。


 しかし、唯一重圧感など感じていない男が口を開く。





「ははは、相変わらずだねレッドルビー…。

 アポ無しで来たのは悪かったよ、少し話がしたくてさ…。」






「「……ッ!?」」






 視界をも遮る猛吹雪の中、主が口にした『レッドルビー』という名に四聖将全員が驚く。


 それもそのはず…


 世界大戦時以前より、その悪名は知れ渡っていた…



『竜人族歴代最強にして最凶レッドルビー』




 彼の男が腕を振るえば、草木諸共その地は氷と化す。


 彼の男が歩いた道には、老若男女問わず生きてる者は居ない。


 彼の男が現れし場所には、絶望と恐怖が蔓延し続ける。




 年齢的にまだ若い四聖将には伝説的な御伽話とも噂されていたが、そんな人物が同じ国内に潜んでいた事、そして今まで何故大人しくしていたのか、様々な疑問はある。…が、四聖将全員は主とレッドルビーとの遣り取りを、ただ黙って傍観するしかない。






「久しぶりに人が現れたと思ったが、貴様だったかタカユキ…」



 吹き付ける雪によって見えなかった姿も、此方へ近付くにつれ、彼の男の全容を露わにする。





 身長…と呼ぶには巨体過ぎる身体は3メートルを超え、全身を鱗のような模様で覆い尽くす水色の肌…。

 まるで氷の彫刻が動いていると勘違いしそうな程の身体…。

 人の血液と表現すれば、しっくりとくる色の瞳が一際存在感を放つ。







「こんな辺鄙な所で籠もってないでさ、たまには僕と遊ばないかい?」


「貴様…わざわざ我をからかいに来たのか?……生きてるうちに要件を言え…」




 ブワッと全身が逆立つような感覚が四聖将全員を襲う…

 目の前の男が放つ得体の知れないオーラに充てられたのか…身体の自由を奪われる感覚に陥る。




「おっと…怒らせるつもりは無かったんだけどね…。まぁ急に大人数で押し掛けたのは悪かったよ、けど見ての通り僕は君と争いに来たわけじゃないんだ。」



 そう言いながら両手を広げ、敵意の無いことをアピールする主。

 しかし相手は一向に警戒を解いていない様にも見える…




「ふん…この地を選び独り身体を休めていたのだが、貴様には我の居所など容易く視えるという訳か…相変わらずその魔眼だけは、厄介なものよ……」

「まぁ僕の能力なんて、それくらいのものだよ、、そんなことよりさ、そろそろ警戒態勢を解いて、僕の話でも聞いてくれないか?」


「貴様のような輩が話しだけで済む訳あるまい…なにが狙いだ…。」




 極寒の中なのにジリジリと焼け付くような空気…レッドルビーの放つオーラに思わず息が止まりそうになる四聖将とは正反対に主は目の前の最凶と親しげに話をしている…。



「信用ないなぁ…正直世間話をしにきたって訳じゃ無いのは本当だけどね。」

「そうやって、真意を隠しながら話す態度は昔から変わらんな…応えよ、こんな所まで来ておいて我に何をさせるつもりか?」

「僕の理想でもある『新世界の創造』その手伝いをお願いしたいんだ。」



「ふん、前にも言ったが断る、、下世の未来などに興味は無い…頼む相手を間違えたようだな…。」

「へぇ?君には『獣神』や『水聖』それに『竜王』の相手をお願いしたかったんだけど、それも駄目かい?」





 その瞬間、レッドルビーと5人を包む空間が歪む様な感覚に全員が陥る…


 否、空間は歪むのだ。

 そして、その元凶とも言える男が口角をゆっくり上げながら高笑いをする…





「ふぁっはっはっは!!!それは面白い!!三英傑が相手とは、貴様の理想郷とは中々前途多難のようだな!!!!」



 咆哮にも聞こえる高笑いは、先程までの吹き荒れる雪や風すらも吹き飛ばす…

 主に付いてきた4人が辺りを見渡すと、そこは別世界とも言える程の静寂空間へと様変わりしていた…。







「ね?悪い話じゃ無いだろ?君と三英傑は何かと因縁があるみたいだし、、、、あ、でも機嫌良いとこ悪いけど…レッドルビーさ、君も『新世界の創造』には要らないんだよね…それに、この『始まりの地』に居ることだって許してないんだけど?そこのところはどうなの?」





 !?


 目の前の最凶に対して挑発にも似た態度をとる主…

 極寒の地で冷や汗すらも流れ落ちないが、4人の従者は内心ただ事では無い…




「ほぅ…?我に頼っておいて、矛盾論を述べるとはな…三英傑の前に貴様含めそこの四聖将共々氷付けにしてやろうか?」


 再び訪れる冷気をも焦がす殺気…


 そんなレッドルビーの発言にネオシグマ帝国最強の四聖将も動けずにいた…




 だが、、、



 その男は己の恐怖心を払拭するかの如く、自らの足を一歩前へ出す…

 ネオシグマ帝国四聖将『戦聖グレン』


 戦士が一歩前に出る…

 そんな同僚に触発されてか、女剣士も自身にエナを纏わせる。

 少し後ろでは術士と魔族がレッドルビー以外に防御術を展開する。



 レッドルビーの一言こそ、4人を奮い立たせたのだった…




「ふん、凡俗共の集まりだと思っていたが、中々忠義心はあると見える…僅かではあるが我を楽しませてくれそうではないか……どれ?」


 ニヤリと笑いながら、目の前の恐怖は素人でも分かるくらいのエナを自らから放出する…




一瞬にして吹き抜ける、最凶のエナ…

まるで今まで立っていた場所が別次元だと錯覚してしまう。





「カッ……ハッ!」


 そんなレッドルビーのエナに充てられたのは、最後尾にて防御を担当していた術士…。

 少し前に立っていた2人も、瞬時に足が止まる…




「イーグ!?」


「ハァッ……大丈夫だ、少し驚いただけさ…やっぱり本物だな…。気を抜いたら気絶しそうだ…」


 自身の頭を抑えながら、その場になんとか耐える術士…戦士や剣士のように身体が丈夫では無い故に、真っ先に影響を受けてしまった…。


 しかしそんなピリピリと緊張感張り詰める空間に、四聖将の主は両手を頭の上でパンパンと叩きながら口を開く。







「はいはいはい!お終い!お終い!」





「タカユキ…様?」




「まったく、、、挑発したのは悪かったけど、僕の計画には四聖将全員必要なんだから、それ以上は止めてくれないかな?」

「ふん!相変わらず喰えぬ男よ…我の軽い余興ぞ。」


 先程までの恐ろしい殺気を瞬時に消すレッドルビー。

 それに伴い四聖将の厳戒態勢も徐々に解かれて行く…。




「もう一度聞くよ?レッドルビー、君には三英傑の相手をお願いしたいんだ、もちろん彼等の居場所は教える。」

「そして疲弊した後の我を叩こうと…?」


「そこまで言ってないじゃないか、本当に信用無いんだね……まぁ三英傑全員をなんとかしてくれるなら多少なり壌土する余地はあるからさ、先ずは僕達じゃなくて因縁の相手にその殺気をぶつけてきてよ…。」


「答えは変わらぬ、、、貴様の言うことなど何一つ信用出来んからな。」




いったい主と最凶はどういう仲なのか…。

疑問点は他にも細々と在するが、今は2人の遣り取りを見守る事しか出来ない四聖将…。







「そっか…残念だけど、これ以上は言っても無駄かな?皆こんな所まで連れてきて申し訳無いけど無駄足だったみたい…さて、帰ろうか?」




「なっ!?タカユキ様!」


 突然の主の発言に思わず女剣士が口を開く…


 それもそのはず…目的も告げられず、ただ付いてきた4人、極寒の地にて遭遇した最凶レッドルビー…


 4人は知っている、主ならばレッドルビーだろうと問題なく相手に出来る事を…。

 しかし戦闘の意思すらみせず、そして主の目的すらも達成せず撤退するのだ。




「ほう?やけに素直だな…。

まぁ良い…次に来た時は覚悟しておけ…我も今日ほど優しくは接せぬぞ…」



「おー怖い怖い。

 それじゃぁ帰るよ皆。」


 仕方なく主の元へと歩みを進めるが今一つ納得のいかない面々。


 そんな中、捨て台詞とも呼べる声をレッドルビー相手に投げかける主。






「あぁ、そうそう…言い忘れてたけど…レッドルビー、君の探してるーーーーーー。」










「ッ!?タカユキよ…それは誠か…?

ならば我は貴様の策略に乗らざるを得ないと云う事か…」


「さぁて…そこは君次第だろ?」





目の前の2人がいったい何を話しているのか皆目見当も付かない四聖将は、その場に留まり成り行きを見守る…。






「ふ、ふふっ我次第、か、、、ふはははは!

 よかろうっ!貴様の策に見事乗ってやろうではないかっ!だが!我が目的を果たした後には、そこの4人共々覚悟しておくがよいわっ!」



「それこそ、その時はこっちも抵抗させてもらうかもよ?」



「ふん…やはり喰えぬ男よ…。」












 ……









 遠く北の地にて、最強にして最凶の竜人族が動き始めたこの時…


 今後の世界全体を巻き込む大事件、その始まりであった。




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