56話 懐かしき残跡
見渡す限りの大海原。
どこ吹く風が潮の香りを連れて来る…
つい最近起きた襲撃の跡も生々しく残る港。だが目の前には、そんなことを気にしないかの如く沖合いへ出掛ける漁師や、それを見守るように復興作業をする街の人々で溢れている。
こういう力強い住民達に支えられながら、この街は成り立っていると言っても過言では無いな。
そう、ここはイグザ連合国最南端の港街
『カリキ』
俺はケアルランドからカリキへと戻ってきたのだった。
……
…
「ふうー。行きはよいよい、帰りは怖いってか……マジ俺に関しては逆だったな。
行きは木人族に襲撃され、帰りは何も起こらなかったんだし。」
「もう、木人族の襲撃に関してはアイリーンも謝ってたし、ネチネチ言わないの!」
俺の横で海を見ながら言うのはマナ。
「カレンが木人族の兵士さんを生かしておいたからアイリーン王も謝ってくれたんだよね?」
「おい、ネオンディアナ。
バ……マナは何かとケチ付けたいだけだから全部構っても疲れるだけだぞ?」
「ちょっとそこ!聞こえてるわよ!」
その横には海王ライナスとネオンが並ぶ。
ケアルランドでの定例会も終わり、のんびりと観光も兼ねてゆっくりしていたが、オルタナがカリキへと戻る頃合いだったので、ついでに俺達も南下する事にした。
今回マナの依頼により、封印の地へルビィを連れて行き、ネオクリスタルの解明と、ゲートシステムの復旧、更にはタカユキとは違ったアプローチ等、色々と試したいらしい…
んで、ルビィとネオンが一緒なのは当然として、それに付いて来たのがルビィ様親衛隊の皆さん、クラリス、カレン、オヤジ、スネ夫、またいつものメンバーでの旅だが、さすがに色んな経験を共にしてきただけあって、こいつらと一緒だと安心感がある。
マナには海王ライナスが付いて来た、ネオンの幼なじみだし問題ないかなー、と思ってたんだが、親衛隊の皆さん(カレン以外)はどうにも堅苦しく接している。
そんなこんなで、カリキに着いた俺達一同、封印の地へと旅立つ日取りはまだ決めていないが、もう少しここで滞在してから出掛ける予定だ。
その理由の1つにタカユキの居るネオシグマ帝国の警戒。これに尽きる。
マナや俺の居場所を「魔眼」により察知出来るタカユキ、その眼を盗み封印の地へと向かわなければならない為、俺とマナはケアルランドを出る際に、ルビィとオルタナに結界術を展開してもらった、掛けられた本人には何が変わったのか分からないが、マナ曰く俺のメモリーは視る事が出来ないらしい…
まぁ、とにかくこれで、タカユキの眼からは俺とマナが何処に居るのか分からないって事だ。一応念には念を入れて出発前に近くで異変が無いか様子見してからって事になった。
「さてさて、いつまでも海を眺めてても仕方ないし、そろそろ屋敷に戻るかー、と言いたいところだが、オススメの串焼き屋があってだな…そこに行こうと思うがネオンも行くか?」
「もちろん!ユウのオススメなら間違いないよねー!」
「ホント旨いぞ!まぁ、砂漠の旅が終わった直後に食ったから旨かっただけかもしれないがな…」
「あら?私達は除け者かしら?新婚さんの邪魔なら消えますけど?」
「なに分かり易いかまってちゃん言ってるんだよ、マナもライナスも一緒に行こうぜ。」
「悪いなユウ、このババァ素直じゃないんだよ……。」
「ライナス?口の利き方がなってないわね?もう少し裂いてあげましょうか?」
ニコニコとライナスの口の端に指を掛けようとするマナ…
「じょっ!冗談だよ!おいネオンディアナも見てないで助けてくれよ!」
「ふふふ、今のはライナスが悪いよ-。」
あたふたとマナから逃げるライナス…
これが海人族の王なんだから信じられないな…どれだけマナに躾られてるんだよ…。
「てか、下らない茶番は良いから早く行くぞー?」
サイ面の主人元気かな-?
この前の襲撃で店が潰れてなきゃ良いけど…
…
「ってなんじゃこりゃ!?」
「あら、凄いわね。」
ネオン達を連れて街の入り口付近まで来た俺は思わず驚きの声を上げる。
それもそのはず、先日カレンと俺の2人が立ち寄った串焼き屋の前に来てみると尋常じゃない数の人が並んでいる。
確かに旨かったけど、なんでこんな大行列が出来てるんだ??
潰れるは疎か、大繁盛じゃねぇか!
なんだか腑に落ちない俺は店の前に溢れる人族っぽい女性に話を聞いてみる。
「あのー?この店どうしたんですか?前来た時は、こんなに混んで無かった気がするんですけど…。」
「あら?その様子だと旅の人かしら?実はね、つい先日なんだけど、この街の港で、凄い事件があってね…街も港も大変な事になったの…でも、それを解決したのがオルタナ王率いるクラリス様御一行なの。その英雄が、この店に立ち寄ったって噂になってからこの行列なのよー。」
「へ、へぇー英雄っすか…」
う、ネオンやマナ達の視線が痛い…英雄って大袈裟過ぎだ、そして俺は何もしてないしな。
多分噂の根源は、間違いないあのサイだな…カレンの噂を聞き付け早速ネタにしやがった。
なかなか親切丁寧な言葉遣いだったが、さすが商売人、売れるモノは何でも利用しやがる。
「どうやら話題の店になってしまい、この列に並ばなきゃ串焼きは食えないらしいな…」
「そうなんだ、じゃぁ早く並ぼうよ!」
諦めモードの俺とは違い、目の前の行列に並ぶ事に抵抗の無いネオン…。
「ネオンディアナ正気かよ!あの人数だぞ!?」
「ライナス!男なんだからグタグタ言わないの、さぁ行きましょネオン。」
とマナはネオンを連れて列の後ろに並ぶ、ざっと見ただけでも20人は並んでるんだが、串焼きの焼き売りを店主1人でやってるんだから、この人数を消化するには相当な時間なんじゃねぇか?
「おい、ユウ俺達も並ぶのか?」
「まぁ女性陣が乗り気だしな…腹くくるしかねぇよ。」
あまり乗り気じゃないライナスを連れて、しぶしぶ俺も列に並ぶ事に…。
しかし前にも思ったが、食欲を刺激する匂いだな…焼き鳥屋の前を通るとする炭火の匂いに似てるな……あー腹減ってきた。
「マナは並ぶのとか苦手かと思ってたわ…」
「どういう偏見よ、並んでまで食べたいって思わせたのはユウでしょ?それにあんなに人が並んでるなら並ぶに決まってるでしょ!?」
これが群集心理ってやつか…さっぱり分からん。
「ネオンは並ぶの苦じゃないのか?」
「私はこういう風に並ぶ事無かったから、とっても楽しいよ。」
そうだよな、お姫様が下町の店に並んでたら驚きってもんだわ。
これに味を占めて、行列に並ぶ事を当たり前だと思わせないようにしなきゃな、今後が心配だぜ。
見事にテンションの違う男女…列が少し動く度に、期待に胸膨らませネオンとマナの瞳がキラキラと輝いているようだ。
少し動いた列が止まると、舌打ちするライナス、さっさとこんな列から抜け出したくて堪らないようだ。もちろん俺も同じ考えだけどな。
……
「あっ!ユウ!次だよ!」
「おっ!よーやく、有り付けるってもんか…。」
長い列の先頭にようやく辿り着いた、俺達4人…ネオンとマナは、今か今かとウズウズしてるが、ライナスに関しては完全に疲れ切った顔してるな…
まぁ普通に一種族の王が、串焼き屋に並び疲れるなんて誰が想像するんだよ。
「おい、ライナスもそろそろ正気に戻れ、味は本当に旨いから!並んだ甲斐あったから!」
「おいユウ…これで口に合わなかったら覚えてろよ…」
「いやいや、まぁ、そこは、個人差があるかもだけど、せっかくここまで我慢したんだからさ、旨いって。」
顔のウロコをポリポリと掻きながら、未だにテンションの上がらないライナス。
『大変お待たせ致しました、ようこそ当店へ。話題の串焼きはいかがでしょう?』
そうこうしてると、聞き覚えのある丁寧な言葉遣いで接客サービスを始める店主。
相変わらずの物腰だな、またあの顔でニコニコと接客してるんだろうな、顔を見なくても分かるのが残念だが…
カウンター越しにマナとネオンに対応している店主、俺も2人の近くまで歩み寄る。
「良い匂いね…とりあえず人数分…いえ、やっぱり1人2本くらい買っていきましょうか…」
「ルビィやカレンにもお土産で買っていこうよ!」
「ありがとうございます、当店自慢の串焼きは冷めても美味しいので安心ですよ。お土産用も合わせて100本程御用意致しますか?」
テンションの上がってる2人にサラッとふざけた数を提案する店主…
確かにルビィやカレンならメチャクチャ食うから100本なんて余裕かもしれないけど…それにしてもそんな本数普通持ち帰らないだろうが。
売れる時に売ろうって魂胆が見え見えだな、ったく。
「おいネオン…そんなに買う必要ないからな、食える分だけで良いぞ?」
そんな俺に気付いたのか、カウンターから身を乗り出しながら主人が声を上げる。
「おやおや?これはこれは!先日はどうもお世話様でした、まさかまた御来店頂けるとは!」
「どうも、、、なかなか盛ってるな。」
「ありがとうございます、まさかあのゲスな方が英雄の1人だったとは、この度は街を救って頂き有難う御座います。」
「げす?ねぇユウ、げすって何の事?」
「さ、さあ?何言ってるんだろうな?はははっ。」
「おやおや、またもや小さな娘を連れ出して隅に置けないですねぇー。」
「おい、誤解を招くような言い方は止めろ。」
カレンの次にネオンときたら、完全に俺はロリコン扱いだろうな…この主人の言いたい事は分からんでも無い…
「まぁ何はともあれ久しぶりにここの串焼き食えるのは嬉しいぜ、お土産用とか関係なく、とりあえず4本くれよ。」
「御冗談を、お客様。こちらも生活が掛かっておりますので代金を頂戴致したいのですが。」
「普通に払うよ!どういう解釈でタダでよこせって聞こえたんだよ!」
チラッとネオンとマナを見ると少し不信感を抱いた表情だ…
完全に誤解なんだがなぁ…
「ありがとうございます、先ずは4本お渡し致しますね。」
とボリューム満点の串焼きを手渡す主人、ネオンとマナも、ようやく有り付けた串焼きに俺の不信感など何処かへ吹っ飛んだみたいでなによりだ。
しかし串焼きを手渡した後の主人が、もう片方の手で金銭を要求する。
勿論商売だから当たり前だ、先程も言ったがタダで貰う気は無いからちゃんと代金を払うとしよう。
「ネオン…お金あるか?」
「あるよ、はい使って。」
ネオンからお金を受け取り主人に渡す。
そんな俺の行動は案の定彼を誤解させるには充分だったと言える。
「Oh…またしても…なんという…」
片手で顔を覆いながら天を見上げる主人…
何が「Oh…」だよ、俺もネオンも家計は一緒だっつーの!
コイツの中で俺って、完全にダメ男じゃねぇか…。
「おい、何か勘違いしてるみたいだけど、違うからな。」
「先日の『首斬りカレン』さんでは足らず、こんな小さな娘にまで既に手を…貴方はクズですよ…」
「だから誤解だって!この娘は俺の嫁なの!」
「ッッ!??」
目を丸くして固まるサイ面の主人…
なんだろう、なかなか面白い絵だな、、
「おいネオン、このサイ勘違いしてるみたいだから、ちゃんと説明してやってくれよ、俺から何言っても駄目だわ。」
「えっ?えっ?説明って、どういうこと?」
「うーん、まぁ俺の嫁って事をネオンの口から教えてやってくれよ、そうでもしないとコイツの脳内で俺は完全に悪人扱いだ。」
なんだかよく分からない、という顔で首を傾げるネオン…(可愛い)
未だに固まってる主人に声を掛ける。
「あのー、えっと、ユウのお嫁さんになりました。……で良いのかな?」
「大丈夫だ、ありがとうネオン。
おい、聞いただろ!いつまでも固まってないで仕事しろよ。」
「……ハッ、私としたことが、あまりの出来事に一瞬時を忘れてしまいました。そうですか、御結婚なされてしまったのですね…」
「おいやめろ、人の嫁を哀れみの眼でみるな…。」
「因みに、奥様の御実家は裕福でしょうか?」
「うーん??お城だし、一応裕福だったと…」
「お、お城育ち!? ……恐ろしい…財産目当てでそこまで攻めるとは、完全に貴方を誤解していましたよ…」
「いや、更に変な誤解を上乗せしたようにしか聞こえないんだが…しかも財産目当てって言ったか今。」
これ以上何も言わない方が良いな。
俺の評価はともかく、ネオンやカレンまで悪く思われそうだ…
「さ、さて、少々話が脱線してしまいましたね、お土産用はお幾つ御用意致しますか?」
「お前が勝手に脱線させただけだろ…ったく、おーい、マナどうする?とりあえず20くらいで大丈夫そうか?」
マナの方を見ると既に渡された串焼きを頬張ってる最中だった…。
「んぐっ…はふっ…んはぁ。
っと、ごめんなさい、、、でも本当に美味しいわね、コレだけの味ならカリキのこんな端の場所じゃなくても通用するのに…」
確かに…って、まてよ?
そうだよ、わざわざ持って帰らなくても良い方法があるじゃねぇか!
「なぁ!今日って何時まで店やってるんだ?」
「どうしたのですか急に…後ろに見える分が無くなったら本日は店終いですけども…」
主人の後ろに積まれた大量の串焼き、アレを全部焼くつもりだったのか…
相当儲かってるのが一目で分かる。先週来たときはカレンと俺が呼ぶまで店の奥に引っ込んでたくらい暇そうだったのになぁ…
「結構な量だけど、夕方過ぎには無くなりそうだな…。」
「素晴らしい着眼点ですね、この量なら確かに夕方くらいでしょう。」
「んじゃ、終わったらマナミ屋敷に出張してくれないか?」
「なるほどね、そうすればお土産用なんて必要ないわね。」
勝手に主人をデリバリーしようとする俺に慌てて応えるのはエプロン姿のサイ男。
「なっ!何を言ってるのか分からないのですが!?」
「だから、設備と食材は揃えておくから屋敷で皆にここの串焼きを焼いてほしいんだよ。勿論金はちゃんと払うし、出張料金も色付けてやるからさ…」
「いえいえ!売れるものなら例え中央大陸でも飛んで行きますとも!それよりも、マナミ屋敷とは、あのお偉い方々が集まり、王様あり、国軍あり、牢獄ありの、御屋敷ですよね?」
「そんな所には来られないか?」
「少々お待ち下さい…。」
そう言うなりカウンターから姿を消す主人…
少しすると店の裏から回って来たのかスッと俺達の後ろのお客さんに、なにやら話をしている。
「さすがマナだな、お土産買うより目の前で焼きたてを振る舞うってのはナイスアイデアだ。」
「ここのマスターが納得してくれての事だったんだけど、どうやら上手くいきそうね。」
「ルビィ達も喜ぶだろうね。」
そんなこんなで他のお客さんに話を付けてきた主人が戻ってくる。
というか、流れからして後ろのお客さんを帰したな…
「お待たせ致しました。さぁ向かいましょう!」
「おい、他のお客さん帰して大丈夫だったのかよ…」
「ふふふ心配には及びません、5王様への謁見を仄めかせば皆様納得してくれましたよ…。」
とニヤニヤしながら店からガサガサと荷物を持ち出す主人。
確かに普通の人達からしてみたら、オルタナとかクラリスみたいなお偉いさん方には、滅多に会えないんだよな…そういう意味では主人にとっても良い話だったのかな…
でもお客様は神様だろ、本当に大丈夫だったのか…。
「それにしても!量多いな、そこの食材全部持ってくのか!?」
素早い身のこなしで、店先に荷物を纏めていく、その量は封印の地でルビィが受け取っていた物資と同じくらいの量、、、
コレ全部この後焼く気なのか??
期待に胸膨らませる主人…
俺は多少引き気味だが、ネオンやマナはこの後の展開に眼をキラキラさせている。
そして、先程から完全に空気と化してしまった、海人族の王様は熱々の串焼きをフーッフーッと冷やしていた、、、海の王には熱かったみたいだな、はたまたただの猫舌か…。
……
…
道中、串焼き屋の主人(名前はチボルと言うらしい)にグイグイ詰められる俺、その理由は単に俺の幼女趣味を突き詰めたかったらしい…確かにカレンとネオンを立て続けに見てしまったら完全にアウトだよな…ネオンには年齢聞いてないけど、カレンに関しては年上なんだけどな…。
「なるほど、最初見た時は、とんでもないクズだと思っていましたが、あの時一緒に居た方がカレン様とは考えもしなかったですよ。」
「サラッと人をディスるの止めてくれ、あの時は本当に金銭感覚が無くてよ、、まぁ金も無かったけど…。」
「して、この度はアチラの美少女に支払いを任せていましたが、やはり財産目当ての……?」
「お前、マジでぶん殴るぞ?」
このチボル主人は、どうしても俺を悪人に仕立て上げたいらしい…。
「おや?暴力は何も生み出しませんよ?落ち着いて下さい、美味しいモノを食べたらイライラも無くなりますよ?もう少しの辛抱です、私の自慢の逸品を召し上がって頂きましょう!」
「俺をイラつかせてるのも、宥めるのも、お前なんだな…本当によく出来たサイクルだ、悪徳商法みたいだな。」
「何を仰有いますか、この様な人畜無害のか弱い民を捕まえて…」
か弱い民って、身長2メートルの体格で言われても説得力ねぇよ、、、
っと、差別的発言は控えよう、獸人族は元より体つきが大きいかもしれないしな。
「はいはい、俺が言い過ぎましたよ…それにしてもチボルさんよ、本当に店閉めて来て大丈夫だったのか?」
「まぁ、これが元でお客様が離れてしまうのなら、そこまでだったということですよ…」
「ほぅ、なかなか潔いな。意外だったぜ。」
なるほど、自業自得ってやつか、裸一貫で商売を続けて来た男の言う事はかっこいいねぇ…
「無いとは思いますが、万が一経営が傾いてきましたら、オルタナ王に直訴しますね。」
「ね。じゃねぇよ!結局打算的だな!感動した俺の心返せよ!」
どこまでギャグで、どこまでが本気か分からんなこの男は…
「ずいぶんと仲良さげね?」
「お?マナも交ざるか?」
チボルと話し込んでいるところにマナが入ってくる、ネオンとライナスは2人で楽しそうに後ろを歩いているので気を利かせてこっちに来たのかな?
「マガミさん、まさか此方の女性にも…!?」
「おい、お前の中で俺は、どんだけ見境無い男なんだよ。」
「ふふっ、安心してマスター、ユウにそんな甲斐性は無いわよ。」
「おい、それはそれで酷いと思うぞ?」
「マガミさんは幼女が好みですからねぇ、貴女の様な素敵な女性の良さが分からないとは何とも残念な方です…」
「誰が幼女趣味だ!!取り消せ!おい!」
「口が上手いわね、流石商売人。ねぇ、そんな事よりあの味付けって昔からあるの?私凄い気に入っちゃった。」
「あれ?俺の発言スルーの方向ですかね?」
「当店の味付けは代々受け継がれてきたもので、製法は秘密ですが、他と違うのは下味ですかね…焼く前に肉を漬け込むのがポイントですよ。」
「へぇー、下味にこだわりね…塩コショウであそこまでの仕上がりなんだもの、何かあるとは思っていたけど、なるほどね…。」
から揚げみたいなもんなのかね?
そういや、封印の地でも、砂漠で野宿してた時もそうだったけど、こっちの世界の人達の食文化って意外と進んでないんだよな…。
「しかし、由緒正しきマナミ屋敷に招待して頂けるとは、御先祖様も喜ばれます。」
「ふふっ大袈裟ね。」
本当に大袈裟だぜ、ただのデカい屋敷じゃねぇかよ、、
まぁ、オルタナとかお偉いさんが在中してるし、一般の民は入れないのかもな…
それにしてもチボルの御先祖様って、どう考えてもサイだろ。
「代々秘伝の味を守り続け、今日まで商売を続けていたのが報われる時が遂に…我が家系…ようやくここまで…」
なにやら眼を擦りながら、感極まってきたチボル、、、この様子を見る限り大袈裟では無いらしい…。
「お、おい、泣くなよ、まだ屋敷にすら着いてないぜ、この後お前の自慢の逸品を振る舞ってくれるんだろ!?それが終わるまで涙は取っておけよ。」
「ふっ、マガミさんに慰められるとは私もまだまだですね…分かりました、このチボル・トダ全身全霊を持って振る舞う事を誓いましょう!!」
「おい、なんで俺が慰めるとダメみたいな流れなんだよ、、、俺が皆を店まで連れてきたんだからな!」
「ねぇ…ちょっと良いかしら?」
チボル主人と、やいのやいのしているとマナが真剣な声で入ってくる。
「どうしたんですか?カイバラさん、そんなに怖い顔をして……私、何か変な事を言ったでしょうか?」
「貴方……の名前が気になって…。その、『トダ』ってもしかして昔から引き継いできてる名前なのかしら?」
ん?『トダ』?
「え…えぇ、私自身も眉唾物なんですが我が家系は、なんでも始まりの御先祖様の名前をずっと引き継いできてるみたいですね…。」
「……ふふっ、そう…。良い名前ね、大事に伝えていって欲しいわ。」
「え?あの…はい、ありがとうございます。」
首を傾げながら、先へ歩いて行くチボル主人…
意味深な発言をした、マナの横へ並び表情を見ると、どこか懐かしさを感じる様な穏やかな顔つきでチボルの背中を眺めていた。
「なぁマナ…トダってもしかして…。」
「ショウヘイの名前ね、、、まさか未だに引き継がれてたなんて…少し驚いたわ。」
「なんか聞いたことあると思ったら、やっぱりか…にしても凄いな…それこそ何年前かは分からないけど、ずーっとだもんな。」
「そうね、なんだかショウヘイが近くに居る様な感覚になってしまったわ…。」
「あ、あれか!親戚だと分かったら親近感湧くみたいなヤツな!」
「そうね、そんな感じ…。」
とても穏やかな顔つきのマナ…
初めて見るマナの表情。
マナも昔はこんな顔で過ごしていたんだな…本当に長い間ショウヘイとキョウコを探して…
「なによ、人の顔ジロジロと見て…。」
「あ、いや、マナもそんな顔で過ごしてたんだなーって思ってさ。」
「あら?顔に出ちゃってた?でも仕方ないわよ…。」
「だな。でも良かったじゃねぇかよ、ショウヘイの残したモノが未だに続いてて、それにショウヘイの創った種族も分かったしな。」
獣人族
トダショウヘイが創った種族か…
元の世界の人達が残したモノ。
それが未だにこの世界で残ってるのは本当に驚きだ。
もしかしたら、この世界のどこかには、『カイバラ』とか『ナガイ』とか残ってるのかもな…。
そんな事を考えながら、ゆっくりと屋敷へと向かって歩いた。




